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くるわ、くるら

作者: 花總チトセ
掲載日:2026/11/06

舞台化した思い出のある作品です。今回は双子のいととそよの話ですが、アナザーエピソードなども書いていきたいので投稿させていただきました。いつかまた、彼女たちの人生が舞台の上で見れますように。

舞台『くるわ、くるら』



■登場人物

【三浦屋】


   ・いと

   ・そよ


   ・高尾・・・三浦屋一の太夫

   ・まつ・・・高尾の禿。元は宵闇の禿

   ・小紫・・・太夫。実在する

   ・みつ・・・小紫の禿。

   ・八重・・・花魁。高尾に追い抜かれたことを気にしている

   ・しの・・・八重の禿。頭が少し弱いが、たまに的を得ている

   ・宵闇・・・行燈部屋で死を待つ。梅毒を患っている

   ・おかみ・・・三浦屋のおかみ



【その他】

   ・サンシ・・・吉原一の楼主

   ・ひのえ・・・豪商の息子。いとが初恋相手

   ・きょう・・・みつに恋をする



   ・鬼蝶・・・その人のみたいものを見せる鏡の鬼

   ・紬喜・・・つむぎ。人間の喜びを見せる

   ・怒田・・・ぬた。人間の怒りを見せる

   ・哀螺・・・あいら。人間の悲しみを見せる

   ・一楽・・・いちらく。人間の楽しみを見せる




■プロローグ


 ▼ SE:雑踏や賑わう街の音。『とおりゃんせ』がうっすらと聴こえている。


   舞台上は段々と暗くなり、吉原の明かりへ次第となっていく。

   その間に花魁たちのシルエット数名が現れ、手招きしている。

   黒い狐の仮面をつけた人々が一人、二人と次々と群がり始める。

   客席からも参列者のように現れ、少し空いた障子の中へと入っていく。

   客席からいとが、誰かを必死で探している様子で現れる。


   舞台上に白い狐の仮面、青い髪飾りをつけたそよの姿。

   そよ、白い仮面を脱ぐ。


いと「お姉ちゃん・・・」


   そよは振り向き、いとに気づくも、そよは障子の中へと吸い込まれていく。

   いと、舞台上へ走る。


そよ「お姉ちゃん!!」


   障子の向こうに全員いなくなる。

   不気味な障子の前で立ち止まり、入るか戸惑っている。

   すると、


  ▼SE:ドンっ!と大きな音。(壁をうつ音)

   大きな音は段々と早くなり、大きくなっていく。同時に床が軋む音。


   いと、恐怖に竦み、つまづいて尻餅をついてしまう。


  ▼SE:止まる(いとの前で止まったように)


   一瞬の静寂。


いと「?」


   束の間に大きな音を立てて、たくさんの手のひらのシルエット浮かび、障子を叩く。

   キャスト、本編中のセリフを声を荒げて叫ぶ。(遊郭での苦しみや悲しみの怨念。)


いと「きゃあああああああああああああ」


   いと、頭を抱える。

   シルエットが消え、障子からスッと、一本の手が伸びてくる。(鬼蝶の手。)

   手招きし、そのまま指切りのサインへ。そよの声が聞こえる。


そよ「・・・・約束・・・・」


  ▼SE:『とおりゃんせ』の続きが流れ始める。


   スッとその手は障子の中へ。

   いとは導かれるように、入ってゆく。

   障子は、コトンと音を立てて閉まる。




■三浦屋(昼)

   ●花魁はオープニング前まで、障子の向こうで芝居をする。(シルエットのみ表現)

   表に人々が通ったり、行き交う。障子の向こうは、部屋のように区切られいるが、

   八重の部屋は複数人部屋。

   

   八重しの・小紫みつ・高尾まつが、それぞれの部屋で忙しなく化粧をしている。

   八重の部屋に鬼蝶も座っている。(普通の花魁のように紛れている。)

   紬喜・怒田・哀螺・一楽が登場し、鬼蝶を迎えにくる。

   鬼蝶は哀螺・一楽と共にはけるが、紬喜と怒田は残り、他の花魁たちを観察している

   そんな中、イライラを募らせた八重の小言が響き渡る。


八重「もうううう!嫌んなっちゃう。あの旦那、泊まりたいなんて駄々こねるもんだからあまり寝られなかったよ。とんだ塩次郎!」

しの「でも姉さん。あれでもおゆかりさまじゃないですか・・バチが当たりますよ?」

八重「何言ってんだい!おしの!ここでは長居をする旦那は嫌われるなんて当たり前の話じゃないか!それなのに、あの野郎はわかっててわざとやってんだ!どうやら、あっちの嫌がる顔を見て楽しんでんだい!とんだ変態だ!しかもしまいにゃあ八重たん八重たんなんて甘えてきやがって!、全く好かんのお、あんな男!!」

しの「ほーそんなことがあるんですかい・・・・なんだか・・・ややこみたいですな」

八重「いいかい!おしの!男はどーせみんな母の面影を求めて、女を好きになるんだ!でもねえ、おしの!覚えときな!そんな男に貢がれた時にゃあ、女としておしまいだよ!!」

しの「でも姉さん、あん人は姉さんのおゆかりさまじゃないですか」

八重「うるさいよっ!!!!!」


   ●このやりとりの間にサンシが表に登場し、おかみさんに案内をされる

   そこに小紫が八重の部屋へと入る。

   ●箱をもった男が店の前を通る。


小紫「なあに騒いでんだい。八重?またおしのに変なこと教えてんじゃないのかい。」

八重「小紫姉さん・・・いいんです、男に期待して傷つくのは女。」

小紫「あんまり悪くいわんといて。私たちはあん人たちによって借金を返せていけるんよ?」

八重「姉さんはいい顔ばっか。評判ですよ、小紫太夫は和歌がうまく優雅で優しい。ほんにご苦労様でありんす。」

みつ「そんな好かん言い方して言い過ぎです。」

八重「おみつ、禿のあんたが楯突くんじゃないよ。とっとと姉さんの手伝いしてな」

みつ「この通り、もう終わりました。それに早く準備しなきゃなのは八重姉さんでしょ。さっきから同じとこばっか塗って」

八重「あ?え?もうううあんたらが話しかけるからさ・・・ところで宵闇はどこいったんだい。あいつがいないとどうにも調子狂うねえ」

しの「調子が狂う?いつもと変わらないような・・・」

八重「全く!あんたは!さっきから!うるさいよ!」

しの「痛ったあ!いった!痛いですって姉さああん」

小紫「確か昨晩、おかみさんに呼ばれてどっか行ったときいたよ」

八重「へえええええ。ついに宵闇にも身請け話かね」

小紫「だと、ええんやけどね・・・」


  おかみシルエットの方に登場し、八重の部屋にいる小紫を見つける。


おかみ「小紫、ほら、あんたにだよ」


   小紫箱を開ける


小紫「え・・・簪!」

おかみ「へえ。いい簪じゃないか。お呼びだよ。」

小紫「昼からかい?!」

おかみ「ああ、いっといで」

小紫「はい!行ってまいりやす」


   小紫嬉しそうにさる。紬喜はついていく。


おかみ「あんたたちもしっかり、働いて、稼ぐんだよ。」


   おかみはける。


八重「ふん」

しの「またあの旦那ですかね」

八重「昼から顔出せるんなんて、いったいどこのお偉いさんだい」

しの「簪なんて、あの旦那さんに身請けしてもらうんですかね」

八重「さあね・・・太夫は値が張るからねえ。あんたもあんま夢見るんじゃないよ」

しの「八重姉さん・・・厳しい・・・」

八重「なあにいってんだい!夢なんか見てたらとっとと腐っちまうよ!さ、あっち達もいくよ!」


   八重しの去る・怒田はついて去る。

   高尾シルエット優雅に準備し、化粧道具を閉じ、去る



■吉原への道


   走る双子


そよ「いと!!早く早く」

いと「待ってよお姉ちゃん!」


   いとこけてしまう。助けにいくそよ。


そよ「いとは、本当鈍臭いな!あたいがいなきゃなんもできんの」

いと「そよ姉が早いの」

そよ「だって、いと。憧れのはなまち?だよ!こっそり村から抜け出してきたんだから」

いと「おっかあにバレたら大変だ」

そよ「そうだよ!おっかあにばれたら、おしり叩かれて、三日間食事抜きだ!」

いと「やだなあ・・・大丈夫かなあ」

そよ「晩御飯の時間までに帰れば大丈夫!村の子供たちはほとんど、花街に言って帰ってこないし、いとが黙っておけば、絶対にバレない!」

いと「う、うん。わかった」

そよ「それに、花街で働いたら、お金が稼げるだけじゃなくて、美味しいご飯もたくさん食べれて、綺麗な着物もきれるっておとおがいとったよ」

いと「えっ綺麗な着物!きたい!」

そよ「きたああい!美味しいご飯も食べたああい!」

いと「食べたい!!」

2人「にししししし」

そよ「だからいつかあたいもはなまちのお姉さんになるんだあ!そしたらおとおとお母にもいっーーぱいご飯を食べてもらえる!」

いと「あたいもなる!」

そよ「一緒になろ!」

いと「うん!」

そよ「よおし!こんなとこで止まってる場合じゃない!いくぞ!よしはら!」

いと「いっくぞお!」

そよ「おー!!」


   二人はかけてゆく


  ○吉原・門前

   日が傾き、人々が次第に集まっていく

   おかみさんがサンシを連れてくる。おかみは一度はける

   二人は陰に隠れている


そよ「・・・とはいったものの・・・」

いと「入口が一つしかないなんて・・・」



   サンシが一瞬2人のいる方向をみる

   さっと隠れる2人

   


そよ「はっ見られたかな・・・」


   サンシは気づいていない

   ゆっくりと再び見る


そよ「・・・綺麗な人」

いと「ねえねえ!どっから入ろう・・・」

そよ「え?ああ・・・あそこ登れそう!」

いと「あの木?」

そよ「うん!登ってみよ!偵察だあ!」

いと「うん!」


   木にせっせと登るいと、とそよ

   おかみ戻ってくる


おかみ「お待たせしました!あの子たちも気合い十分みたいですよ」

サンシ「そうですか、いつもそうであってほしいものですが」

おかみ「え?」

サンシ「なんでもないです」

おかみ「でも珍しいですね!吉原一の楼主であるサンシさんが三浦屋にきてくれるなんて」

サンシ「まあ・・・女の子好きだし」

おかみ「はあ」

サンシ「でも気付いたんですよねえ。本当に欲しいものはそれじゃないって」

おかみ「ああ、探し物ですか?」

サンシ「まあ・・・そんなとこです」


  ○花魁たちが登場する。シルエット。

   歓声が上がる。着物を着た鬼蝶がサンシとすれ違い、去る。


おかみ「どうかしましたか?」

サンシ「あ、いえ」


   そよ、木から顔をひょっこり出す


そよ「いと!こっちこっち!」


   いと遅れて顔を出す

   ワクワクしている二人。

   鈴が鳴る。(夜見世の合図)

  

高尾「旦那様」

花魁全員「おいでなんし」


    障子が遊郭の格子のようにもみえる。

    そこから飛び出すように障子が開く。

    桜の花びらが舞う。


   ○オープニング







■三浦屋


   おかみさんが客びきしている


おかみさん「さあさ、ここは三浦屋だよ!そこの旦那さん、よかったらよっていておくれよ。あんたはどうだい?さあさ」


   おかみ客びきしつつ、はける


いと「ねえ・・そよ姉」

そよ「なに・・・いと」

いと「・・・・すっごく・・・綺麗だったね!!」

そよ「本当に!!!すっごく綺麗だった!!」

いと「着物もあんなに何枚も着て!」

そよ「髪飾りもいっぱい!」

2人「いいなあああああ!」

いと「あたいもなりたい・・・!!」

そよ「帰っておかあにいってみよう!!」

いと「そうしよ!」


   

   帰ろうとするが

   木から足を滑らせてしまういと。


いと「きゃあ」

そよ「いと!!!」


   いとは、中に入ってしまう。

   そよ、いとを助けようと、自分から飛び込む。


そよ「大丈夫?」

いと「うん。怪我は大丈夫だけど・・・・・入っちゃたね吉原・・・だ、大丈夫かな」

そよ「んー、塀は高くて登れないから、あの門を抜けてみよっか」

いと「ごめんねそよ姉、鈍臭くて」

そよ「なにいってんの!いとにはあたいがいるでしょ!大丈夫だよなんとかなる!いや、して見せる!」

いと「えへへへ・・・うん!ありがとう!」

そよ「さ、いこ!見つからないようにね!」


   そよ、しっーと仕草をする。いと、それを見て真似する。二人は笑い、

   キョロキョロと当たりを見回し、そよは門はあっちだと合図する。

   手を繋ぎ、ダッシュする。

   しかし、戻ってきたおかみに止められる。


おかみ「ちょいと、あんたたち」

いと「・・・・」

そよ「・・・・」


   その体制で止まる二人。


おかみ「見ない顔だね。何屋の子だい?」

いと「・・・・」

そよ「・・・・」


   二人顔を見合わせて、もう一度ダッシュしようとするが、

   いと、おかみに掴まる


いと「あああああ、離して!離して」

おかみ「暴れるんじゃないよ!全く」


そよ「あ・・・あたいらは違う!村から来たんだ!」

おかみ「村?ああ稼ぎに来たのかい?」


   いとを離すおかみ

   いと、そよの後ろに隠れる


そよ「そ、そうじゃ、働きたい!でも」

おかみ「ん?」

そよ「そこを通っておかあに働きたいと言いにいくんじゃ!」

おかみ「?」


   不審がって二人を見るおかみ。

   いとは怪我している様子。


おかみ「・・・もしかして・・・・」


   木の方を見る。枝が少し折れて、落ちている。


おかみ「はあああ。あんたらで二人めか・・・双子だね。双子はうまくいけばいい値がつく。」

いと「いいね?いいねって・・・いいねかな?」


   そよに、ぐっとサインをして見せるいと


おかみ「それじゃないよ!まだ働くとこ決まってないだろ?」

そよ「まだじゃ!」

おかみ「あたしがあんたらのお母に話をつけとく。あんたら、うちにきな」

いと「え」

そよ「いいのか!?」

おかみ「ああ。あの門は一度通ったら、抜けられない。」

そよ「ええ、抜けられそうだけどお・・・」

おかみ「抜けられそうに見えて門番がいるんだ。抜けたとわかれば、雇われている店でそれなりの体罰を受けることになる。覚えておきな。」

いと「体罰・・・」

そよ「それなら、おかあと一緒じゃな!」

おかみ「・・・あんたらなんでここにきた?」

いと「え?なんでって」

そよ「おかあがそー言ってたからじゃ!いい子は、花街に行くのが当たり前だそうじゃ!だから今日は下見に・・・」

おかみ「間違ってるよそれ」

いと「?」

おかみ「まあいいや。もう仕方がない。変なとこに行くよりはいいだろ。あんたら器量よしだし。うちで面倒見てやる。」

そよ「やったあ!」

おかみ「あの木いつか、へし折ってやりたいねえ・・・・」

いと「え?」

おかみ「なんでもないよ。ほらついてきな」


   おかみはける


そよ「よかったね!いと!」

いと「なんだか・・・いいのかな?」

そよ「いいんだよ!それに、嫌になったら、また内緒でこっそり抜ければいいし!」

いと「抜けれないって言ってたよ?」

そよ「そんなの大人がつく嘘に決まってるよ!おかあも嘘よくついてたでしょ?子供はこの時間に遊ぶと鬼に食われるって。」

いと「うん・・・でも実際は、おかあがお隣の家に遊びに行ってるだけで、あたいたちには何も起きなかった」

そよ「そう!あれと同じだよ!大人はみんな、嘘をつく!だから本当はきっと抜け道はいっぱいあるのに、どこかに行かれると困るからそういってるんじゃ」

いと「なるほど。大人ってずるいね」

そよ「今は、あたいらも花街のお姉さんになりたいから、大人しくしてよっ。大人になるし」

いと「にしししし」

そよ「出たくなったら、合図を送ろう」

いと「合図?」

そよ「んー自分の頭をぽんぽんって叩くっていうのは?」

いと「こう?」


  いと頭を叩く


そよ「そう!」

いと「馬鹿みたいだね」

そよ「それがいんだよ!大人にはバレない!」

二人「にしししし」

いと「なんだか楽しいね」

そよ「大人を欺く作戦だ!少ししたら、おかあにいい着物も持って帰ってあげよ!」

いと「うん!」

   

   自分の頭を二人は叩きあって、楽しんでいると


おかみ「何馬鹿みたいなことしてんだい、店ではやめとくれよ」


   二人は見つめあって、笑い


二人「はーい」


   笑顔で歩き出す


■八重の座敷


   しのが駆け込んでくる


しの「八重姉さん!八重姉さん!」

八重「なんだい、忙しないね」

しの「なんと・・・・びっっっくり話ですぅ」

八重「またかい」

しの「またってなんですかあ!」

八重「だって、あんたの話はあ、全然驚かないのよ」

しの「なんでですかぁ」

八重「そりゃ、最初にびっくりする話だなんて言われちゃったら、期待値が一気に上がるからねえ。」

しの「期待値・・」

八重「なんだなんだときいてみたら、大した話じゃなかった時にはあ・・・ガッくしだよ」

しの「蛙がひっくり返って飛んだのは、びっくり話じゃないんですか!?」

八重「まず蛙がひっくり返って飛ぶっていう想像が・・・・ってくだらないね、なんだいこれは。それ以外なら聞くよ」

しの「それ以外・・・?!」

八重「・・・ってないのかい!」

しの「ああ、ちょっとびっくりした話があるんだった。おかみさんがね、新しい禿連れてきたんで。」

八重「おかみが禿・・・・って引き抜きかい!?」

しの「そうなんです。しかも双子」

八重「そりゃあ・・・びっくりだ・・おかみが引き抜きなんて何年ぶりだい」

しの「なんだあ、八重姉さんのびっくりは、敷居が低いですねえ」

八重「いやいやこっちのが高いだろ!おかみが引き抜いた禿といえば、」

しの「高尾姉さん?」

八重「ああ、あっちが先に禿になったのに、あっという間に今は、三浦屋一さ。」

しの「抜かれてしまいましたねえ」

八重「うるさいよ!いつか姉さんに勝つのが、あっちの楽しみなのさ。隙を狙ってつく!」

しの「性格悪いですね!」

八重「悪くないよ!こうして口に出して言ってんだから。本当に悪いやつは、笑って人を蹴落とすさ」

しの「ほお。双子の禿、高尾姉さんのとこかな?」

八重「引っこみ禿なら、あり得るな・・・三浦屋一の高尾太夫・・・なんだい、ますます遠くなっちまうなあ・・・」



   お座敷・おかみさんの部屋

   3人張り詰めた空気で見つめ合い



おかみ「それで?何ができるんだい」

そよ「ご飯を食べれます」

いと「息ができます」

おかみ「そーじゃない!」

そよ「?」

いと「?」

おかみ「これは厄介なの連れ込んだかねえ・・・芸事だよ!芸事は何ができるんだい」

二人「芸事?」

いと「あ!うた?」

おかみ「そー!うた、あとは踊りとか」

そよ「やればできます!」

おかみ「うん、いい志だ。ってそーゆーことじゃ・・・」


   高尾太夫登場


高尾「ふふ、元気な子たちでござりんすねえ」

おかみ「高尾・・」

高尾「おかみさんが、引き抜いた禿かい」

おかみ「そうなんだが・・・面白いと思ったんだがねえ」

高尾「良いでござりんせんか。あちきは、元気な子は好きでありんす」

おかみ「おまつは少しおとなしいからなあ」

高尾「おまつも同じくらいの子がいたら喜ぶよ」

いと「おまつ?」

おかみ「おまつは高尾の禿。今日から一緒に3人で働きな」

そよ「高尾?」

高尾「ふふ、そうだい。あちきが三浦屋高尾太夫ありんす。そして・・・何かくれてんだい」


   まつが覗き込んで登場する


高尾「この子が。おまつだ。挨拶しな」

まつ「おまつです。よろしくお願いします。」


   まつは丁寧に座ってお辞儀をする。


いと「!」

そよ「!」


   二人は見つめ合い、悔しがってお辞儀をし返す

   おかみはニヤリと笑い


おかみ「いいねえ。おまつは礼儀に関しては三浦屋一の禿だからね。お前たち、負けないように精進しな!」

二人「はい!」

おかみ「ああそうだ!あんたら双子は区別するのも難しい。今日からおそよはこれを、おいとはこれをつけな」

いと「赤い髪飾り・・」

そよ「青い髪飾りじゃ!」


   始めてもらった飾りに、声を出して感動する二人


おかみ「いいね?!」

二人「いい!!!」

高尾「あはははは、こりゃあ愉快!!」

まつ「・・・・」


   全員はける


■

   遊郭での1日

   朝。


おかみ「お前たち!働きな!」(※曲終わり20分くらいかな)


   ○音楽に合わせて遊郭での1日を表現する

    台所や雑用から次第に学んでいく。

   (茶道、華道、香道、書道、書画(墨絵)、和歌、漢詩、囲碁、将棋など

    琴や三味線、唄、舞踊のほか胡弓、鼓などがある)時間経過。

 

2人「はあはあはあ」

まつ「・・・・・」

2人「うえええええ」


   ぐでーんと転がり落ちる二人

   その姿を見ておかみさんが影から声のみ


おかみ「サボってんじゃないよ!」

2人「はーーーーーい!!!!」

  

   体制を整え、掃除を始める二人

   まつも作業をしている


そよ「ちぇえええだ!おかみさんの髪なんてぐちゃぐちゃにして、引きちぎって、村にばら撒いてやるうう!」

いと「そよ姉、そんな大きい声出したら聞こえるよ!」

そよ「聞こえないって、あっちに行った・・・」



   おかみさんでてくる


おかみ「聞こえてるよ!」

二人「ひいいいいいいい、地獄耳だ・・・・」

おかみ「しっかり働きな!」

二人「はーい・・・」


   おかみがさるのを確認して


いと「そよ姉、花魁になるのって大変だねえ」

そよ「まさか、こんなにお仕事があるなんてね。」

いと「ねー。おかみさんも言ってたけど、いっぱい働いたり、芸事が上手くならないと、高尾姉さんみたいな太夫にはなれないって・・・」

そよ「でも私たちは引っこみ禿だから」

いと「引っこみ禿?」

そよ「他の花魁たちがヒソヒソしてるの聞いちゃったんだ〜」

いと「盗み聞きは良くないよお」

そよ「でも聞こえちゃんだんだもん」

いと「んーどういう意味なの?」

そよ「それはねええ・・・選ばれた特別な禿って意味!」

いと「と、特別!!」

そよ「村にいたから知らんかったけど、美人なんだって、あたいたち!だから将来有望な禿を引っ込みというそうじゃ!」

いと「び、美人って、そよ姉は綺麗だけどあたいは・・・」

そよ「何言ってんの!いとだって可愛いよ!自信がないから暗く見えるだけ!自信持って!」

いと「そ・・・そうかなあ」

そよ「いとは村で一番の人気者だったじゃん!おかあだって、いとのことはかわいいって言って、あまりお仕置きしなかったでしょ?」

いと「それは、そよ姉が庇ってくれるからで」

そよ「違うよ!いとは気付いてないだけ!」

いと「で、でも高尾姉さんに比べたら・・・」

そよ「あ」

2人「ほど遠いなあああ」


   二人は笑い合う

   

いと「おかあは・・・心配しとらんかなあ」

そよ「おかみさんが、おかあに話たっていってたし大丈夫やろ、それに、前に村で一緒に暮らしてたやよい姉ちゃんおるやろ?」

いと「うん」

そよ「やよい姉が街を出るってなった時、おかあがあたいらも街にいけんか聞いとるのをみたんよ」

いと「え?そうなの?」

そよ「うん!その時は年齢がまだ幼なすぎてダメだったみたいだけど!」

まつ「・・・・」

そよ「だから、おかあもここであたいらが働いているのは大賛成だと思う!今頃きっと、あたいらの稼ぎで美味しいご飯も食べてるよ」

いと「そっか!それならもうちょっとだけ頑張ろうかな。」

そよ「うん。高尾姉さんみたいになれば、おかあももっと喜んでくれるはずじゃ。2人で一緒に高尾姉にも負けないくらいの一番の太夫になって、おかあの元に帰ろ!約束じゃ!」

いと「うん!!約束!」

そよ「はい」

いと「指切り?」

そよ「ここの大人はよくやっとるじゃろ?大切な人とする約束らしい!」

いと「大切な人!」

そよ「いととあたいは、生まれた時から一つじゃ!」

いと「うん!」

二人「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った!」


   指切りをする


2人「にしししし」

まつ「・・・ねえ」


   いと、そよびっくりして黙る


そよ「びっくりした・・・いたの」

まつ「ずっといたよ」

いと「お、おまつちゃんがお仕事以外で話しかけるなんて珍しいね」

そよ「何?」

まつ「あんたたちは売られてきたんじゃないってこと?」

いと「売られて?」

まつ「そう。」

いと「なあにそれ」

まつ「違うの?」

そよ「私たちは、村のみんなが花街で出稼ぎに行ってるから、興味があって下見にきたんじゃ」

いと「あそこに大きな木があるでしょ?あそこから眺めていたら、私が足を滑らせちゃって。それをみた、おかみさんが三浦屋に入れてくれたの。だから・・・売られる?とかじゃないよ?なんのこと?」

まつ「なにしてんの」

いと「え?だから・・・木から・・・」

まつ「ここはあんたらがくるとこじゃない・・・!」


   まつ去る


いと「怒ってた?・・なんだか・・・変わった子だね」

そよ「私たちが引っこみ禿だからきっと嫉妬してるんだよ。さ!働こ!!」

いと「・・・・うん」


   そよ先にはけ、いと少し違和感を感じてはける。




■お座敷・おかみの部屋


   サンシが座っている

   高尾もいる


おかみ「はああああああ!」

高尾「落ち着いてくんなまし!」

おかみ「わかってるけど、あんた、だって!!ええええええ?」


   サンシはニコニコと笑っている


おかみ「あんた、いや、あなた様、いや、旦那様。おいとを新造にしたらどうかって本気ですかええ!?」

サンシ「はい」

おかみ「あの子は、まだ禿になってから、ひと月も経ってないんですよ!?いくらなんでも早すぎないかい?ねえ?」

高尾「まあまあ」

サンシ「ひと月も経っていないし、私は遠くで見た程度です。」

おかみ「そうでしょ?そうでしょ?あの子は確かに、見た目は可愛げがあっていいですが・・・芸事がテンでダメなんですよ。もう少し、身につけさせないと流石にねえ・・・せめて、姉のおそよはどうですかい?あの子は、賢くて、芸事も仕事も早い。とっても器用だから、このはやさなら、うまく溶け込めそうだと思いますよ」

サンシ「おそよか・・・」

おかみ「そもそも遠くから見ただけで、なんでおいとだってわかったんですかい?おそよの間違いじゃないのかい?絶対おそよだ、そうに決まっている」

サンシ「いや・・・わかる。私は楼主です。何人女を見てきたと思ってるんですか。双子といえど、あれは真逆の性格です。顔はどちらも美しいが、いとには奥ゆかしさがある。」

おかみ「奥ゆかしさねえ」

高尾「明らか嫌そうな顔しないの」

サンシ「不器用な女の子ほど、守りたくなるものです。吉原の女は、強い女が多い、でしょ?それも嫌いではないですけど、たまには自分が男であると思い出させてくれる存在が欲しいものなのですよ。」

おかみ「・・・」

高尾「明らか嫌そうな顔しないの」

サンシ「私の見立てです。売れる売れないは、一目でわかる。」

おかみ「・・・」

サンシ「聞くところ、三浦屋は今財政難らしいじゃないですか?吉原一の楼主のいうことを信用しない理由はないはずですけど・・・それとも何か別の理由が」

おかみ「いや、ない」

サンシ「・・・では、楽しみにしています。」


   サンシ帰ろうとする


サンシ「あーもしお困りだったら、私に・・・」

おかみ「うるさい。とっとと消えな」


   サンシ笑って障子の外に出る


高尾「どうしたんだい。そんなに意地はって」

おかみ「私はたくさんの子を見送ってきた。楼主の見立てだかなんだか、知らんが、おかみとしてはわかるんだよ。おいとには早すぎるって。早すぎた子は、受け入れる体制が整っていない場合も多い。賭けみたいなもんさ。おいとはどちらかというと・・・知らなすぎる」

高尾「じゃあ」

おかみ「いや、あいつもそれをわかって言ってるんだ。それがわかるから、腹がたった。切り盛りすることしか考えてないのさ、あいつは。吉原一の楼主か・・・なんて冷たいやつなんだ」


   サンシが歩き出す

   ガラスが反射している

   鬼蝶とすれ違う

   サンシ、振り向き、何かを言いかけるが


サンシ「・・・」


   サンシ去る


鬼蝶「ふーん、面白いねえ。あんたにはそう視えんのかい」


   紬喜・怒田・哀螺・一楽が鬼蝶を迎えにくる


紬喜「ドシタノ、ドシタノ」

一楽「なあにがミエた」

哀螺「哀シイ話?」

怒田「ツラいこと?」

紬喜「嬉しいことに」

一楽「楽しいこと?」

鬼蝶「さあ」

怒田「そんなの見て見ぬふりすりゃいい」

一楽「見て見ぬふりすりゃバチ当たり!」

哀螺「一度落ちたら抜け出せない!」

紬喜「笑って誤魔化しゃあ」

一楽「コワイ、コワイ」


   紬喜、怒田、哀螺、一楽、笑う


鬼蝶「紬喜、怒田、哀螺、一楽。そうさ、これが吉原さ」


   鬼蝶、ニヤリとしてはける




■行燈部屋


  ○シルエット、月明かり

   まつが食事をもって、キョロキョロと辺りを見回す。

  


まつ「宵闇姉さん。宵闇姉さん。」


   少しすると


宵闇「また・・・あんたかい?」

まつ「はい。食事をもってきました。」

宵闇「馬鹿だねえ・・おかみはなんて?」

まつ「言ってません」

宵闇「わかってんのかい?」

まつ「でも・・・・」

宵闇「全く、仕置きがあるよ」

まつ「・・・・わかっています」

宵闇「あたいはもうここに、はいちまったんだ。こんな落ちぶれのために、自分を犠牲にすんじゃないよ。」

まつ「でも宵闇姉さんは、私の命の恩人です」

宵闇「いつの話してんだい。」

まつ「餓死寸前の私を拾ってくれたじゃないですか、姉さんのおかげで」

宵闇「辛気臭い場所でしけた話するんじゃないよ。」

まつ「私が床に倒れて、行燈部屋で隔離されそうになった時も、姉さんはお座敷で看病してくれました。治るなら、私も恩返しがしたいんです」

宵闇「返してもらいたくてやったんじゃないよ。過去の世間話がしたいなら、他を当たりな」

まつ「・・・・」


   沈黙

   まつの様子を見て、ため息をつき


宵闇「最近やたらと花魁たちが騒がしいんだが、なんなんだい?」

まつ「・・・引き抜きがあって」

宵闇「高尾が入った時以来じゃな。そりゃ皆、大騒ぎだ。」

まつ「あいつら、全然ここのこと知らなくて。気に食わない。」

宵闇「おまつ、あんたもそれで拗ねてたのかい?そんなの、あんたが教えてやりい」

まつ「・・・いやです」

宵闇「おまつ?」

まつ「あいつら、売られてないのにここにきたんです。」

宵闇「?」

まつ「売られたくなくて来た子を何人と知っている。生まれがここの子だってたくさんいる。そんなことさえ知らない奴らと仲良くなんてできるわけがない。・・・辛くて死んでいく子もたくさん見た。あいつらはそれさえ知らないで、ニコニコ笑っているんだ!」

宵闇「おまつ!」

まつ「・・・」

宵闇「いい子だから、ね」

まつ「ごめんなさい・・・」

宵闇「ごめんの」

まつ「え」

宵闇「あのまま暮らしていた方がおまつは楽だったのかもしれんな」

まつ「いや、そんなことは。ご飯も食べれるし、宵闇姉さんのためなら」

宵闇「私には時間がないんだ。病気はたくさんしてきたし、心は蝕ばまれても、生きようと精一杯やってきた。でもねえ、もう疲れちまったんだよ。私のためなら、逝かせてほしい。ただ一つ心配なのは、あんたのことだけさ」

まつ「え」

宵闇「私がいなくなちまったら、あんたは何を見て生きるのかねえ」

まつ「それは・・・」

宵闇「人はみな必ず死ぬ。わかるだろ」


   死を悟るまつ


宵闇「あんたは優しい子だ。だから他人のために怒れるんだ。誰かのために生きるのがあんたの生き甲斐なら、死に急ぐものなんて構うな。生を全うするものに手をかしてやりい。」

まつ「・・・」


   宵闇、咳をする


まつ「姉さん・・!!」

宵闇「もう来るんじゃないよ!」

まつ「・・・」

宵闇「お願いだ」


   宵闇は、不器用にニッコリ笑う


まつ「・・・はい」


   まつ、ご飯を置いて去る

   ご飯のお盆の上に折り鶴が置いてある

   宵闇、手に取り、光の漏れる天井にかざす


宵闇「・・・全く、あんたって子は・・・」


■庭


   まつを探すいと(別日)

   そこに、みつが登場


みつ「何してるの?」

いと「あ・・えっと・・」

みつ「誰か探してる?」

いと「おまつちゃんが、またどこかにいちゃって。」

みつ「ああ!おまつちゃんは宵闇姉さんのとこじゃないかな」

いと「宵闇?」

みつ「うん!病状が悪化しちゃったみたいで。行燈部屋に連れて行かれたの」

いと「あんどん?」

みつ「まだ知らないの?行燈部屋は病気の人や、罰を受けたりするときに行く部屋だよ」

いと「そうなんだ・・」

みつ「ご飯抜きにされることもある」

いと「え・・・」

みつ「あ!私、みつ!ちゃんと挨拶してなかったよね」

いと「うん!えっと、小紫太夫の禿だよね」

みつ「そうそう!」

いと「すごいなあ」

みつ「おいとちゃんも、高尾姉さんでしょ!綺麗だし、小紫姉さんと違って、真を誰にも渡さんところはカッコええの」

いと「真を渡す?」

みつ「んー嘘ってことかな」

いと「嘘」

みつ「お慕いしてますなんて、お仕事上のお芝居ってこと」

いと「そうなんだ。小紫姉さんは違うの?」

みつ「小紫姉さんはいい人がおんの。いつも文をもろてニヤニヤしとるわ」

いと「へえ!でも、本当に思える人がいるならいいね」

みつ「そうやねえ。うまく行ったらええけど、うちらが外に出れるのは年季が明けるか、身請けされるかのどちらかやろ?だからいい人が身請けしてくれたらええけど、あん人に小紫姉さんを身請けできるほどのお金あるかなあ。あるとええけどなあ。」

いと「外出るのにお金がいるの?」

みつ「え?聞いとらんかった?」

いと「何も・・・」

みつ「おいとちゃん、ちゃんと学んどるの?」

いと「一応聞いてはいるんだけど、なんだか難しくて。それに芸事とかついていくのにやっとで座学は眠くなっちゃうんだ」

みつ「慣れるのに時間かかるのは仕方ないけど、座学は大切だよ!」

いと「う、うん。気をつけるね」

みつ「うちらはね、借金を返すために働いとるんじゃ。その借金を返さなきゃ外には出れん」

いと「・・・借金?お金なんて借りてないよ?」

みつ「何言っとんの?今、おいとが着てる服や髪飾り、ご飯もぜええんぶ、三浦屋からお金を借りて、賄っとるんだよ。だからいい着物を着れば着るほど、うちらは働かなきゃいけんの。」

いと「で・・・でもそれって一生・・・」

みつ「そうだよ!一度門をくぐったら、遊郭からは出られん。おかみさんいってなかった?」

いと「あれは・・・嘘だって」

みつ「嘘?おかみさんはそんなことで嘘はつかん。そもそも、おいとちゃんは知ってて、働きにきたんやなかったん?」

いと「それは・・・!」


   小紫登場。

小紫「あんたが、噂の禿かい?」

みつ「小紫姉さん!」


   いと、反射的にお辞儀をする


いと「いとです。」

小紫「騒がしい双子って聞いてたけど、なんだい、礼儀正しいねえ」

みつ「おまつが近くにいるからですかねえ?」

小紫「あの子はほんに、厳しい子やもんね」

みつ「また行燈部屋に行ってたみたいですよ」

小紫「そうかい。あの子は宵闇の禿やったからねえ」

みつ「治るといいんですけどね」

小紫「そうだね。あたいも宵闇は好きだったよ。おいと。高尾とは仲がいいんだ。慣れないことも多いと思うけど、おみつは禿の先輩だ。仲良くしてやっとくれ」

いと「は、はい」

小紫「ほな。また」

みつ「またね!!」


   小紫、みつ去る


いと「大変だ!そよ姉に知らせなきゃ!!」


■八重の座敷


   しのせっせと蛙を折り紙で追っている



八重「・・・・」


八重「なあ、おしの」

しの「はい?」

八重「あんたさっきから働かないで何やってんだい」

しの「何って、昼見世の準備はもう終わってますし、姉さんのために蛙を作っております!」

八重「蛙?」

しの「はい!おまじないです!作った蛙の背中にお慕いしている方の名前を書いて針で刺すとその方がやってくるとか?でも、姉さんにはそんな方はおらんし、もとよりあまりおゆかり様がいないようなので、男、と書かせていただきました!」

八重「やかましいんじゃ!!」


   八重、しのの頭をチョップする


しの「痛ったああああ!何するんですかあ。うちは八重姉さんのために作ったのにい」

八重「余計なお世話だい!全く・・・小紫にはもうすぐ新造になるおみつ、高尾には引っこみ禿に、礼儀正しいおまつがいるのに・・・私にはなんであんたなんだろうねえ」

しの「しようがないじゃないですかあ」

八重「高尾には3人もいるんだ。1人くらいあたいのとこにきてもいいのになあ・・・・」


   形相を変えて走っていくいとが見える

   何かを思いつく八重


八重「そうだ、おしの。あんたまだちゃんと二人に挨拶してないだろ」

しの「え?ああまあ。そうではありますけど、蛙がまだ完成してなくて・・」

八重「蛙はいいんだよ!おしの、あの二人を時間がある時に見張っておくれ。何か変わったことがあったらすぐ知らせるんだよ。いいね」

しの「でも。一体なんのためですか」

八重「そりゃあ、私の野心のためさ」

しの「そりゃあ、大事ですね・・」



■高尾の座敷


   おいと形相を変えて、障子を開ける


いと「そよ姉!!」


   そこにはおかみの姿


おかみ「あんたっどうしたんだい、そんな血相変えて」

いと「あ・・・いえ・・・」

おかみ「なんだい?調子でも悪いのかい?」

いと「・・・別に」

おかみ「そうだおいと、あんた新造になる準備を始めな」

いと「え?」

おかみ「あんたは礼儀もある方やし、芸事も身につけるのが早い。もう始めてもいいじゃないかと思ってねえ」

いと「で・でも・・まだ禿になったばっかやし・・そよ姉は?そよ姉の方が唄がうまいし、しっかりしとる!」

おかみ「おそよは、少し硬いところがあるのが気になるねえ。仕事をしっかりこなすのはいいことだが、この仕事が仕事なだけに、もう少し柔らかくなってもらわんと。その代わり、あんたは可愛いらしくて、可憐な感じがええ」

いと「・・・」

おかみ「最近病に倒れてる子も多くてねえ。早くも新しい子を育てたいのさ。今日から、高尾にみっちり稽古をつけてもらうよ。いいね!?」

いと「は・・・・はい」


   いとはしょんぼりとして、出ていく。

   おかみ、ため息をつく

   そよ、こっそり聞いている.。そよさる。

   しのもひょっこり出てきて、その様子を見て八重の部屋へ帰る


■廊下


   そよ廊下を1人歩き、そそくさと荷物を運んでいる。

   部屋の姿鏡が反射している

   哀螺が庭でまりをついている

   まりが転がりそよの元へ。そよ、まりを拾う。


そよ「はい」

哀螺「アリガトウ」

そよ「あれ?あなた三浦屋では見ない顔だね!どこの子?」

哀螺「ワカンナイ。カナシイ」

そよ「哀しいの?誰かとはぐれたの?」

哀螺「ワカンナイ。クルシイ」

そよ「そうなんだ、見つかるといいね」


   まりを哀螺に返し、頭を撫でる。


一楽「ワタシも、ワタシも〜」


  一楽、いつの間にか、そよの背後にいて袖を引っ張る

  怒田、紬喜もいて囲まれている


そよ「えっと」

怒田「ミエルノ?」

紬喜「ミエル」

一楽「なあにがミエル?」

哀螺「悲しいこと?」

怒田「ツラいこと?」

紬喜「嬉しいことに」

一楽「楽しいこと?」

そよ「あなたたちは・・・?」




   鬼蝶が登場する。


鬼蝶「へえ、ミえるの?」

そよ「え?」

鬼蝶「ふーん、でもまだ浅い」

そよ「あ、あなたは?あなたも・・・み、見ない顔ですね」

鬼蝶「私はずっといたよ。あなたが見ようとしていなかっただけ」

そよ「そう・・・もう行かなきゃ。まだ掃除の途中で」

鬼蝶「あなた、私の姿、何に見える?」

そよ「え?」

鬼蝶「何にミえる?」

そよ「何って・・・」

鬼蝶「それが今、あなたの欲しいもの」

そよ「え?」

鬼蝶「でもそうだなあ、この姿でやっていくには少しだけ、足りないと思うんだ。だってこれじゃあ、ここには似合わなすぎるもん。」

そよ「何を言って」

鬼蝶「人間って元々、動物だったって知ってる?」

そよ「え?」

鬼蝶「人間は元々何かの動物だったんだよ。空を飛んでいたかもしれないし、海を泳いでいたかもしれないねえ」

そよ「どういう意味ですか」

鬼蝶「このままだったら、息は吸えないから、息の吸い方をあなたに教えてあげたいなあって」

そよ「なんで」

鬼蝶「その方が面白いから」

そよ「あなた、誰なの!!」


   そよ、鬼蝶に思わず飛びかかろうとする


  ▼SE:まりのつく音


   現実に戻る

   鬼蝶はいない

   まりだけが残っている

   そよは再び拾おうとすると、


そよ「・・・・」


   ▼SE:障子の向こうから声がする

   女と男の話し声。


   障子が少しあいている。

   そよはゆっくりと近づき、障子を除く。

   その瞬間、別世界のような感じで、障子があき、鮮やかな世界が飛び出す。


   ○音楽(ダンス)

   花魁たちが艶やかに踊り、そよはそれに包まれ、そよが誘惑されているイメージ。

   そよはその世界に魅惑され、思わず荷物をばら撒いてしまう。




そよ「はあはあはあはあはあ」

鬼蝶「これがあなたの、知りたいセカイ」

  

   耳元で鬼蝶が囁く


八重「ちょいとあんた。」

   

   鬼蝶は消えている。

   そよ、あたりを見回すが誰もいない。


そよ「は、はい?」

八重「青い髪飾りは・・おそよ、だねえ」

そよ「・・あ・・えっと・・・あれ、いない」

八重「いないって、誰が?」

そよ「あ、いや」

八重「挨拶がまだだったねえ。私は八重さ。」

そよ「はあ。あ、すみません」


   障子の世界をふいに思い出し、動揺しながら荷物を拾う。

   不思議がる八重。


八重「高尾姉さんは最近どうだい?」

そよ「今は、道中の準備中です・・・えっと、なぜですか」

八重「あっちも高尾姉さんにはよくお世話になっていてねえ、繁盛話が嬉しいのさ。」

そよ「はあ」

八重「でも風呂屋の出身だろ?変なこと教えられてないかい?」

そよ「風呂屋?」

八重「地位なんて関係ない、どんな男でも抱いちまうようないかがわしい所さ」

そよ「いかがわしい・・・・」


   そよ障子の向こうを横目で見る

   八重はその視線で座敷を見る


八重「あははは。あんた、見ていたんだね。やらしっ」


   恥ずかしくなって顔を背けるそよ


八重「気にすることないよ。あっちも幼い頃よくやったもんだ。ここは敷居の高い吉原。この門を跨げるものは上等なお偉いさんばかり。風呂屋と違って、高貴なお遊びってことさ。まあ、男なんて脱いじまえば、みんな変わりんせんけど、太夫にまで上がれば、あっちたちは自由を手に入れるんだ」

そよ「自由?」

八重「そうさ、いつも外では偉そうに虐げるような男どもに、おかえりくださいと言えるんだ。ここは女社会。自由になりたきゃ上を目指しな。おそよちゃん。」

そよ「・・」

八重「あんた私に似てるよ。高尾姉さんはあえて教えないことも多い。上に生きたきゃ、私のとこにおいで。いろんなこと、簡単に教えてやるさ。」

そよ「は、はあ」

八重「お返事待ってるよ、おそよちゃん」


   八重去る


そよ「・・・・」


   そよはもう一度、障子を覗こうと手をかけようとし、音楽が再び流れだすが、

   すぐに閉じる。そよ、はける。





■小紫の座敷


   小紫、文を読んでニヤニヤしている。


みつ「小紫姉さん。またあん人ですか?」

小紫「ふふ・・おみつには教えなーい」

みつ「教えなくても、溢れてますよ、顔に」

小紫「あら。やだ」

みつ「全く・・・。禿の私がいうのはなんですが、程々にした方がいいんじゃないですか?」

小紫「あんたまでそんなこと言って。高尾の入れ知恵かい?」

みつ「おみつは真を渡して辛くなる姉さんを見たくないんです。」

小紫「辛くなるなんて誰が決めたのさ。おみつ、恋する気持ちは誰にも止められやしない。それに、こういう気持ちこそ大切にしたいんじゃ」


   ○小紫、歌っちゃう?

   紬喜が途中で入ってきて、楽しそうに座って見ている


みつ「・・・・」

小紫「思い出せるのだよ。あっちにも心の臓があったのだと。この気持ちだけは、あっちのものだと言わせてほしい。」

みつ「後悔しても知りませんよ」

小紫「ふふ、後悔などしないさ」

みつ「・・・・」

小紫「そうだ!今日は高尾の道中だったな!」

みつ「はい!」

小紫「少しみにゆくか!」


   一楽が迎えに来て、二人で去る

   みつ、小紫去る。


■遊郭、門前


   きょうが、誰かを探している

   遅れてひのえがやってくる


きょう「遅いよ!待ち合わせすぎてるぞ」

ひのえ「わ、悪い、きょう」

きょう「何、緊張してんのか、ひのえ」

ひのえ「してねえよ」

きょう「ったく、お前って豪商の息子のくせに本当うぶだな」

ひのえ「そんなんじゃねえよ!」

きょう「しかも初の吉原ってお前人生何してたんだよ!豪商のくせに!」

ひのえ「あんま大きい声で言うなって・・てかお前もだろ!」

きょう「俺はああ、別のとこでもう・・・体験済みだって」

ひのえ「別のとこって・・・」


   ひのえ溜息をつく


ひのえ「お前もっとまともな金の使い方しろよ」

きょう「いいんだよお!!人生の楽しみなんて何もないんだから!村にいる女なんてみんなよぼよぼの婆ちゃんだぞ?こっちの気持ちにもなってみろよー」

ひのえ「わかった、わかったから!」

きょう「いいや、声を大にしていいたいね!お前の家なら一生遊んで暮らせるぞ!」

ひのえ「そんなことねえよ、その分、責任とか色々あるんだから」

きょう「固いこと言うなってーな?今日は初めてだしパーっとやってそのお固い鎖を外そうぜ!」

ひのえ「なんかお前が一番、俺の金を頼りにしてないか?」

きょう「そーだけど?」

ひのえ「えうるさ!まあいいけど・・・一度だけだぞ?こういうとこの女は、男を金だとしか思ってないからな・・・」

きょう「ちぇ。お前に女の何がわかるんだ!」

ひのえ「は?」

きょう「お前がよくする女の話って、村で出会った女の子の話じゃないかよ。いつの話なんだ!いい加減あそべ!」

ひのえ「余計なお世話だ」

きょう「お前はきょう、やっと大人としての一歩を踏み出すんだ。おめでとう」

ひのえ「うるせーな」

きょう「一生に、きょう、ひのえを浴びようじゃないか。」

ひのえ「日の目な?」

きょう「さあさあさ、行きますかあ」


   きょうは、ひのえを無理やり、押して門の中に入っていく




■高尾の座敷


   高尾、障子は半分空いているが、お客様から見て高尾の姿は見えない

   そよは高尾の支度を手伝っているが、なんとなく落ち着きのない。


高尾「おそよ、どうしたんだい。」

そよ「いや・・あの・・・」

高尾「ん?」

そよ「ふ・・風呂屋って」

高尾「ん?」

そよ「どんなとこですか」

高尾「あははは、やっとこの世界に興味を持ったのかい」

そよ「興味・・・と言うか知りたいと言うか・・・」

高尾「そうだね。前から二人には改めて話そうと思っていたんだ。芸事で頭いっぱいのおいとには、まだあんま伝えきれてないことも多いけど。いつかはきちんと向き合わないとね。誰かから聞いたのかい?」

そよ「八重姉さん」

高尾「八重か。食えないやつだね」


   高尾、ケラケラと笑っている


高尾「薄々気づいていただろうけど、吉原は綺麗な着物を着て、道中を歩くだけじゃない。知らない子供はみんなその美しさに、羨望の眼差しを向けるのさ。でも実際、その着物の重さは、計り知れないほど重く、体は毎晩、親が誰かも知らない男に汚されていく。心が蝕まれていく女は数知れないほど見てきたさ。さらに風呂屋なんかもっと酷い所でね。ここより身分の低い男とそりゃあ数知れないほどやりあうのさ。それを尻軽だと毛嫌いするやつは多くてね。」

そよ「・・・」

高尾「おそよ、美しさとはなんだと思う?」

そよ「え?」

高尾「あちきはね、生きるそのものが美しいと思ってんだ。汚れだかなんだか知らないけど、あちきは自分らしくあり続ける。体は預けても、己の心は誰にも預けられやしないのさ。あちきは、人になんと言われようが生きるためにその時正しいと思ったことをやる。それだけさ」

そよ「・・・」


   そよの頭を撫でる

   いとがくる


いと「そよ姉!よかった!」

そよ「おいと!」

いと「話したいことが・・・ってわああ、高尾姉さん・・・綺麗・・・」

高尾「おいと、見惚れるのはまだ早いよ。」


   高尾さろうとし


高尾「おそよ、その目にしっかり焼き付けな!これがあちきの生き様だ。付いてきな!」

二人「は、はい!!」



   ○高尾太夫、花魁道中


   拍子木が鳴り、道中が始まる

   そよ、いと、高尾を中心に、参列できる人は参列。

   小紫、八重、ひのえ、きょう、サンシは見ている

   小紫は幸せそう途中でにはける。そよは高尾の美しさに圧倒される。

   ひのえがいとの姿に気づく。


ひのえ「あれ・・・いと?」


    ひのえ意外がスローモーションになりながら、ゆっくりとはけていく

    黒い狐の仮面をつけた鬼蝶が、でてくる。


鬼蝶「さあさ、そこの旦那さん、よかったら覗いていかないかい?ここで、逢うたも何かのご縁。遊んでいっておくんなまし」


   鬼蝶は、ひのえの周りをぐるりと回る

   行燈の明かりが一つ、また一つと点灯し始める。

   チカチカと点滅し始めて、暗転


  



■三浦屋(夜)座敷

   ここから夜のイメージの吉原に変わっていく。


   街全体は夜の雰囲気。賑やかな音。手拍子や歌なども聴こえる

   サンシ、ひのえ、きょうを囲んで、高尾、小紫、八重。

   みつとまつがせっっせとお手伝いしている。


八重「さあさっ、飲んでおくんなまし。」


   八重、無理やりサンシにお酒をつぐ


小紫「八重。ほんにごめんなんしっ」

サンシ「いえ、三浦屋のこんな麗しい方々に囲まれて、光栄ですよ」

小紫「全くお上手でありんすね」

高尾「サンシ様。いつもご贔屓、ありがとうござりんす。ところで、こちらの旦那様方は・・?」

サンシ「そうだ、改めてご紹介させていただこう。こちらは」

ひのえ「あ、ひのえです」

高尾「ひのえ様?」

サンシ「彼は街一番の豪商の跡取り息子でね」

八重「ごうしょっ!」


   八重飲んでいたお酒をすぐにおき、ひのえの隣に酒瓶を持ってそそくさと入ろうとする。


サンシ「有名な呉服屋を営んでいるんですよ。」

八重「それはそれは、今日はたくさん、飲んでおくんなまし!」

ひのえ「いえ・・・」

サンシ「高尾太夫の道中後、三浦屋の前を何回も往復していたご様子だったので。」

高尾「あらまあ」

サンシ「あまり、このような場所に来られる噂はなかったですが・・・誰か気になるおなごでも、おりましたかな?」


   サンシ揶揄う。


ひのえ「い、いえ」

きょう「そーなんですよ。こいつ遊ばないんです!だから、俺が誘って連れてきたんですお!」

ひのえ「おい、きょう!」


   きょうは酒に酔っている様子


小紫「それで、こちらの旦那様は?」

サンシ「知らないです」

小紫「あ」

きょう「そりゃないですって、サンシの旦那よお〜」

ひのえ「お前飲み過ぎだって。やめろよ。」

きょう「だってよお・・・」

ひのえ「えと、こいつはきょうです。俺のまぶ・・みたいなものです。」

八重「ああそうなんですね。じゃ、旦那様も跡取りか何かで?」


   八重態度を変えて、きょうにつこうとする


きょう「ちげーよ」

八重「じゃお武家さま?」

きょう「ちげーよ。ただの農民」

八重「帰りな」


   八重戻る


きょう「わかりやす!何あいつ。俺あいつ嫌いだわ」

ひのえ「昔、幾つかの村でお世話になったことがあって・・・その時からの親友です」


   堂々と紹介するひのえに皆が圧倒される 


小紫「あらまっ」

  

    小紫微笑む


いと「失礼します」


   いとが障子を開けて、座敷に入ってくる

高尾「ああそうだった。おいと、おいで」

いと「はい」


   いとは高尾の隣につく


高尾「あちきの禿の、おいとだ。こちらは楼主のサンシさま、呉服屋のひのえ様・・・そして・・・」

きょう「きょうだよ!」

高尾「・・・挨拶しな」

いと「いとです。おたのん申しんす」

高尾「おいとはもうすぐ新造になるのでねえ、ご一緒させても良うござりんすか?」

サンシ「もちろんです。僕の望みですから。」

いと「え」

高尾「こちらにいるサンシ様が、あんたのことおしてくださったんよ」

いと「そ、そうなんで、ありんすね。あ、ありがとうござりんす」


   ひのえはいとを見つめる

   いとはそらす


   いとはサンシと話している、それを見守る高尾

   八重はひのえにべったり、途中から入ってくるしのに怒ったりもしている

   みつときょうは仲良くなっている

   まつはせっせと働いている


▼さらに深い夜になっていく座敷


   面々は解散していく様子になり

   いととサンシ以外が、きょうとひのえをお見送る。

   ひのえは名残惜しそうにはける

   

高尾「サンシ様、今宵はどうされて行きんすか」

サンシ「・・・あなたみたいな方は、私には抱かれたくないでしょう」


   高尾、鼻で笑い


高尾「毎度お気遣い、どうもありがとうござりんす。おいと、お暇するよ」


   高尾さる。いとはサンシにお辞儀をして、はけようとするが

   サンシに阻まれ、下げていた顔をあげさせられる


サンシ「あなたは、少し逃したくないな」

いと「え」


   数秒見つめ合い


サンシ「なんてね。蛹が蝶になる日が待ち遠しいな。ではまた」


   いとは恥ずかしくなってその場をさる



■高尾の座敷


   そよは一人で暗い部屋で高尾の着物を縫っている。

   その綺麗な着物を愛らしそうに撫で、立ち上がり、

   鏡に向かって、高尾の花魁道中の動きを真似てみる


そよ「・・・違う、違うな」


   鏡に縋るように鏡にペタペたと触る


怒田「違う」

哀螺「チガウネ」


   紬喜・怒田・哀螺・一楽が座敷を遊びわまり、散らかしている。


紬喜「違うの?」

哀螺「チガウ」

怒田「何がチガウ?」

一楽「つると亀が滑った〜」

4人「うしろの正面、だああれ?」


   すると鏡の向かい側から、黒い装束で顔の見えない誰かが、座敷に入ってくる。

   ゆっくりと足から奇妙に入ってくる。鏡ごしからその姿に気づき、呼吸が早くなり

   そよは怯える


そよ「あなたは・・・だれ」




■行燈部屋


   いと思わず、行燈部屋のある道にかけこんでしまう。


いと「ここって・・・・行燈部屋?」


   宵闇咳こむ


宵闇「誰かいるのかい?」


いと「あ、はい。あの迷ってしまって!すみません!」

宵闇「どこか聞き覚えある声だね・・・」



   宵闇は隙間から、除き目を見開く



宵闇「あんた・・・・いとじゃないのかい?」

いと「え?」


   隙間を少し覗くいと

   月明かりで姿が少し見える


いと「やよい姉・・・?!」

宵闇「いと!なんであんたここに!!」

いと「やよい姉ええ」


   思いきり近づこうとするいと

宵闇「よしな!近づくんじゃないよ。病が移る・・・」

いと「・・・・!そんな・・・」

宵闇「おまつに新しい禿の話は聞いていたが、まさか、いとだったのか・・・」

いよ「やよい姉・・・」

宵闇「そよはどうしてるんだい」

いと「そよ姉もいる」

宵闇「そうか、おそよが一緒ならまだよかったな」

いと「あ・・そよ姉!そよ姉に伝えなきゃいけないんだった、ここは、そよ姉の思っている場所じゃないって」

宵闇「・・・」

いと「早く・・・でなきゃ!!」

宵闇「でられないよ!」

いと「!」

宵闇「でられない。」

いと「・・・」


   いとは薄々感じていたことを悟って、涙が溢れ出す。



宵闇「いと、この世界は、地獄さ。女として産み落とされた時から決まっていたのさ。神様ってやつはあ、なんて残酷なんだろうねえ。あたしらを檻の中に入れて楽しんでんのさ。昔、好いてた男が西洋の書物が好きでさ。興味もないくせにあたしも一緒に読んぢまったのさ。それに書かれていたのは、あたしらを救いにきた神の子の存在だった・・・でもねえ、あたしはその書物の挿絵を見て思っちまったんだよ。ああ、神も男かって。」

いと「・・・」

宵闇「おいと、この世界を受け入れな。さもないと・・・あんた死ぬよ」

 


   ○三味線の音・唄

   廊下を歩くいと


いと「・・・・」


   ▼SE:まりのつく音

   うっすらと通りゃんせが流れ始める


紬喜「ヒトツノヨロコビハ」

哀螺「カナシミに」

一楽「ヒトツノキタイハ」

怒田「ウラギリに」


   紬喜、怒田、哀螺、一楽が順々に顔をだし、いとを導く


紬喜「ムスンデハヒライテ」

怒田「ムスンデハヒラク」

一楽「結ベバ結ブホド」

哀螺「カナシミノラセンジョウ」


   いとはそれに気づかず、歩いている 


   ▼SE:障子の向こうから声がする

   女と男の話し声。  


いと「え?」


   障子が少しあいている

   音楽が止まり、静寂


  ▼SE:ドンっ!と大きな音。(壁をうつ音)

   大きな音は段々と早くなり、大きくなっていく。同時に床が軋む音。


   いと、恐怖に竦み、つまづいて尻餅をついてしまう。


  ▼SE:止まる(いとの前で止まったように)


   一瞬の静寂。


いと「?」


   束の間、障子が真っ赤に染め上がる。


いと「きゃあああああああああああああ」


   障子からスッと、手が伸びてくる。鬼蝶の手。


鬼蝶「・・・・おいで・・・・」


   手がおいでと動く

   頭を抱え、首を振るいと


鬼蝶「おいで・・・私は蝶・・・」


   いとは吸い込まれるように、中に入る




■吉原門前


  きょうがソワソワしている

  ひのえが現れる


きょう「おい!!おせぇぞ」

ひのえ「遅くないだろ別に」

きょう「うるせえ、持ってきたのか」

ひのえ「お前なあ・・人を巾着にしやがって」

きょう「頼む!これで最後にするから!」

ひのえ「そう言って、これで何度目だよ。吉原来るの」

きょう「5度目です」

ひのえ「そうだろ?」

きょう「でも見なきゃいけないだろ。なんてたっておみつの晴れ姿だぞ!見ないなんてありえないだろ!てかお前は・・話せてるのかよ」

ひのえ「・・・」

きょう「あの子なんだろ?よく話してた村の女の子」

ひのえ「たぶん。確信はない・・・というか、なくなった。」

きょう「なんだよそれ」

ひのえ「出会った時は、あの子だって思ったけど。どんどん雰囲気が変わってきていて、違うようにも、見える」

きょう「まあ、女っていうのは成長が早いからな」

ひのえ「なんか、お前に言われると、ムカつくな」

きょう「・・・きょうだろ、おいとの新造出しも」



■庭


おかみ「おいと、おみつ、なんて綺麗なんじゃのう。なあ、おまつ?」


   綺麗な着物を着ている二人

   

まつ「別に」

おかみ「おまつも早く綺麗な着物着てるとこ見たいのに、最近やたらとあんたは文字を綴っているじゃないか?なんなんだい、あれは」

まつ「日記を書いてます」

高尾「へえ」

おかみ「相変わらずあんたも、おかしな子だねえ」  

みつ「小紫姉さん、この簪、本当にいいんですか?姉さんのお気に入りですよね」

小紫「いいんよ。おみつにつけておいてほしいんや。それに、あちきには、別のがある。」


   嬉しそうに簪に手を添える小紫


おかみ「とにはともかく!これはこれから、忙しくなるねえ」


  おかみ嬉しそうに、はけようとする


おかみ「おみつ!あんた新造になるんだから、最近顔出しては冷やかししていく旦那には値をはっておきな!」

みつ「は、はい」


   おかみはける

   みつ、トボトボとはける

   いと、お辞儀をしてさる


高尾「小紫、ちょっといいかい」

小紫「?」

高尾「あんた、まさか、それ」


   小紫ニコッと笑い


小紫「ついにここをでていくのさ」

高尾「・・・!!あの旦那かい?」

小紫「次の晩、約束をする!」

高尾「それはほんに愉楽やなあ」

小紫「高尾、花には咲きどきというもんがあるやろ?」

高尾「?」

小紫「あちきはこの遊郭で一度も咲いたことがなかった。高尾のように派手でもなければ、男に、はいということしかできない。でもあん人と出会って、今やと、体の芯が迸り、初めて自分の血液の流れを感じたのさ・・・・高尾、これが生きるということなんやね」

高尾「・・・ああ」



■廊下


   みつを追って、きょうがくる


きょう「あ!あの!」

みつ「あ」

きょう「か・・・かわいい」

みつ「え、あ。ありがとうござりんす・・・」


   きょうが笑う

   みつも笑う


きょう「新造になったの?」

みつ「うん。だから・・・もうあんまり会えないや・・・」

きょう「え、なんで」

みつ「だって・・会うのにお金がいるようになる」

きょう「ああ、そう・・・だよね・・・」

みつ「・・・・」


   みつが落ち込む


きょう「俺!頑張るよ!」

みつ「え?」

きょう「今は金ないけど、ひのえに言って、呉服屋の仕事手伝えないかとか、色々聞いてみるよ。あいつには迷惑かけっぱなしだけど、その分も恩返して、人一倍働いてさ!」

みつ「そんな働くの大変だよ」

きょう「でも、おみつちゃんはずっとそれを成し遂げてる!それにこれからもっと、働くんだろ?」

みつ「うん」

きょう「じゃあ、俺も頑張んないとな!」

みつ「でもうちの仕事は・・・・・・嫌じゃないの?」

きょう「嫌だよ。」

みつ「・・・・・・・・・」

きょう「嫌だけど・・・迎えにくるよ。」

みつ「できない約束はしないで」

きょう「できる約束だから、する」


   きょうはみつの小指に自分の小指を絡める

   二人は微笑み合う


きょう「約束」



■庭


   ひのえはキョロキョロと当たりを見回している

   いとが歩いてくる

   いとはひのえに気づくが、無視をする


ひのえ「もう会わないから!」


   いと止まる


ひのえ「もう会わないから、教えて欲しいんだ」

いと「・・・」

ひのえ「君は、その、あの時の、いとでいいんだよね」

いと「・・・・」


   ゆっくりと振り向かず、うなづく


ひのえ「ずっと言えなったから、後悔していたんだ。その、君は・・・僕の初恋です」

いと「・・・・」



いと「私もあなたが初恋でした」


  いと、振り向かずいい、はける。

  ひのえは取り残される

  その様子を見ていたそよ、はける。

  そこに、それとなく合流するきょう。幸せそう。

  ひのえ、それをみて、きょうを叩く。

  二人、喧嘩しながらはける。




■八重の座敷


しのが額をずっと叩いている

八重「・・・・・なあ、おしの」

しの「はい、ねえさん」

八重「あんた、ついに頭がおかしくなったんかい。」

しの「違いますよ!姉さんがやらないから、おしのがこうやって体を張っているんじゃありませんか」

八重「何のことだい!」

しの「おそよもこうして叩いていたのに、やらないのは八重姉さんだけですよ?」

八重「私はあんま呪いが好きじゃないんだよ」

しの「ええええええええ?初耳です。」

八重「そんな驚くかい。何度も言ってると思うんだがねえ」

しの「しのが、姉さんに代わってやるんです」


   額を叩きまくる


八重「ああああああ、やめなさいって」

しの「・・・痛い」

八重「あんた、もしかして、その呪い、額を叩くと、気になる人が来るっておまじないかい?」

しの「そうです!!」

八重「はあ・・・そりゃ3回でいいんだよ」

しの「3回?」

八重「そうだ・・・こうして3回叩いて念じるんだよ」

しの「なるほどお・・・・やりすぎましたね」

八重「そだろ?」


   そよが入ってくる。後ろには怒田が、除いている

   雷の音


そよ「八重姉さん・・お話が・・」

八重「・・・おっと・・こりゃあ・・呪いが聞いたねえ」

しの「え?」


  


■行燈部屋


宵闇「・・・・嫌な感じだねえ」


   咳き込む。血を吐く。


宵闇「なんのために生まれちまったんだろうねえ」


   月明かりを眺め、


鬼蝶「遊びやせんとは生まれけん、戯れせんとや生まれけん」

宵闇「あれ、あんた、ここにもいんのかえ」

鬼蝶「そうだねえ。あんたみたいなとこまで行くと、心の奥底まで染み付いてんのさ」

宵闇「ああそうかい。でも、あんた、前とは違うねえ」


   鬼蝶は笑う


鬼蝶「今のあんたには何にミえる?」

宵闇「・・・死だよ・・」



■小紫の部屋


   荒れた部屋。物を倒したのか、散らかっている。

   みつが部屋に入ってくる。


みつ「・・姉さん?」

小紫「おみつ・・・あん人処刑されてしもたわ。あちきに会うために、盗人や人を斬ってお金を集めていたんだと・・・全く次の夜がいつまで経っても来ないから、待ちくたびれたわ。しまいにゃ、あちきをおいていって。ほんに・・・ほんに、とんでもない金茶金十郎やねえ・・・」


   寂しく笑う小紫に、そっとおみつは寄り添い

   落ちていた簪を拾う


みつ「高尾姉さんが真を渡せる相手がいる小紫は幸せじゃのうと羨ましがってましたよ。」

小紫「高尾が?」

みつ「はい。あの芯の揺らがない高尾姉さんが、小紫姉さんの嬉しそうな姿を見る時だけは芯が揺らぐと、こっそり夜な夜な嘆いていると、おいとが。」

小紫「そうか・・・」

みつ「みつもそうです。小紫姉さんの咲いた顔。それはとってもとっても美しゅうございます。この江戸で一番だと言われるほどに」

小紫「・・・・」

みつ「最後まで、頑張っていたということじゃないですか。」

小紫「え?」

みつ「小紫姉さんのために、その時出せる全ての力を注いで、戦ったんじゃないですか。それが悪でも、姉さんへの想いは真だったのだと、それだけじゃないですか。」

小紫「・・・・」

みつ「姉さんも。信じて待ち続けた。」


   みつ、小紫を抱きしめる


みつ「みつも姉さんのように、信じ続けとうございます」

小紫「・・・・」



   雨はさらに強くなる


■


   身支度したいとの姿。障子に声をかける様子

   障子を開けると、サンシがいる

   障子がしまる



■

  そよは高尾の座敷を出ていく

  お辞儀をする


そよ「ありがとうござりんした」


   雨は降り続ける




■八重の屋敷


しの「うわああああああああああんわんわんわん。うわああああわんわんわん」

八重「全くなんなんだい!」


   しのが倒れて、鏡が割れる

   哀螺は遊んでいる


しの「八重姉さあああん。そよがああああ」

八重「おそよ、おしのはうるさいんだから、いじめるんじゃないよ!」


   割れた鏡を拾って片付けているそよ


そよ「だって姉さん、おしのが指切りげんまんをやってみようなんて馬鹿なこと言うんですよ。」

八重「おしの、そうなのかい」

しの「しのはずっと一人だったから、おそよが増えて二人になったから、やってみたかったんです。そしたら、嘘ついたら、針千本のますって・・・本当に飲ませるんですかあ?」

八重「ありゃあ、そう言う唄なんだよ・・・おしの、それをするのは真の愛の証を伝えるためなのさ。遊びでやるもんじゃないんだよ」

しの「し、真の愛の証っ!」


   しのはそよをみる


そよ「あんたとは、遊びだよ!」

しの「うわああああああ。騙されたあ!あ!でも嘘なら針千本飲まなくていいんだ」

そよ「それはどうかな:

しの「うわあああ」

八重「おそよ、もうやめな。」

そよ「はい。」

八重「全く、その根性は嫌いじゃないけどね」

そよ「八重姉さん。」

八重「なんだい急に」

そよ「八重姉さんは、高尾姉さんのこと嫌いなんですか」

八重「あ?いやあ、好きでも、嫌いでもなねえ、なんでだい?」

そよ「いや」

八重「高尾姉さんとは昔仲が良かったんだよ。ここでは私の方が先に禿だったけど、圧倒間に抜かれちまって。最初は面白くなかったからあ悪戯もよくしたもんさ。」

そよ「悪戯?」

八重「着物に針を仕込んだりとか」

しの「ええ」

八重「食べるものに鏡の破片入れたりとか」

しの「えええ」

八重「まあそんなことはザラだね」

そよ「・・・」

しの「姉さん、怖すぎますって。」

八重「高尾は私がやっているのを知っていたけど、気にせず、いつもの態度さ。それがまたムカつくんだよねえ。無駄な足掻きをし続けて、気づいちまったのさ、敵わないんだよ。あいつには。ま、今は暇潰しかな。」


  八重はにやりと笑う


そよ「・・・・」


   割れた鏡の最後の破片を拾う

   まるで誰かに渡されたかのように。


■遊郭・門前

   ひのえが門前で待っている。遊郭を覗いたり、ソワソワしている。

   そこに、きょうがくる。


きょう「完全に不審者」

ひのえ「うるせええよ!」

きょう「ナンテ、アワレナンダ」

ひのえ「ああ?」

きょう「わかった、落ち着けって!もうこないって言ったんだろ?」

ひのえ「・・・」

きょう「後悔するなら言わなきゃよかったのに。」

ひのえ「・・・なあ、きょう。遊郭ってどんなとこなんだろうな」

きょう「俺たちには一生わからない底なしの沼、だろうな。」

ひのえ「・・・・」

きょう「考えたって仕方ねええ。女には、男に見せねえ顔がある。化粧をするのはそれを隠して、笑顔を繕うためだってな。俺はでも・・・その笑顔を守りたい。それだけでいいんだ」


   ひのえ、きょうをじっと見る


きょう「なんだよ」

ひのえ「お前・・・どんどん成長するな」

きょう「ええ!まああなああ!恋は人を成長させる!!お前もフラれたからって・・・」


  ひのえ手が先に出て


ひのえ「それだけはいうな」

きょう「へい」



■廊下

   そよが洗濯物を持って廊下を歩いている

   反対方向からいとがサンシと歩いてくる

   目が合う。そよは、避けて通り抜けようとする


いと「おそよ」

そよ「・・・」


   おいとと同じ方角から、黒装束の女も向かって歩いてきている

   紬喜、怒田、哀螺、一楽も段々と舞台上に点在していく



いと「サンシ様。少しの間、お待たせしてもよろしゅうござりんすか」

サンシ「いいよ、行っておいで」

いと「ありがとうござりんす」



   サンシ座敷に入る

   そよは去ろうとする


いと「そよ姉!話そ?」

そよ「・・・」

いと「ずっと話したかったんだけど、高尾姉さんの花魁道中が終わってから、自分のことで頭がいっぱいで・・・私、不器用だから、本当にごめんね。」

そよ「・・・」



   そよは黒装束の女がこちらに向かってくるのが怖くなり

   後づさり、怯えている


いと「そよ姉?あの私・・・そんなにそよ姉に何かしたのかな?なんだかいつの間にか気まずくなっちゃって、それで」



   いとも後退されているのが自分だと思い、説得しようと前のめりになる

   紬喜、怒田、哀螺、一楽はそよといとの周りを舞い始める

   いとが逃げるそよの手を掴む。黒装束の女といとが重なる。

   そよは、どちらがいとで、黒装束の女かもう分からなくなっている。錯乱状態。


そよ「いやあああああ」

いと「え」

そよ「なんなの?ほんとになんなの?付き纏わないで!ああああああああああ」


   そよが自分の頭をポンポンと叩き始める


いと「え、付き纏ってなんかないよ!」

そよ「出ってくんない。ここからいなくなって!」

いと「どうしたの。ごめんねそよ姉、ごめんて」

そよ「出ってて、でてって出てって」

いと「落ち着いてよそよ姉」

そよ「出っててよおおおー!!」


   そよが鏡を取り出し、いとを刺す


いと「え」

そよ「出てって出てって出てって出てって出てって出てってあんた誰なのよおおおお」


   そよはそのまま、いとを滅多刺しにする。青い髪飾りが落ちる。(そよの曖昧な記憶)

   おかみ、サンシ・高尾・まつ・みつなど大きな声に駆けつけてみんな止めに入る

   そよは最後に大きく、鏡を振り翳し



   SEナイフの音【ザシュッ】

   



■

   小紫倒れる。小刀で自害。

   小紫の死体を見つけるみつ

   小紫をゆする。ひとしきり泣く大勢の男がみつを見ている。

   みつは男たちに呑まれていく。ストロボのような感じで、見えづらく





■高尾の座敷(そよの空想・歪んだ世界)


   座敷の障子は鏡になっている。鏡の間みたいな。物が散らかっている部屋。

   そよ、目覚める。鏡に映ったおかみの姿。


おかみ「よかった、目が覚めて。あんた・・・大丈夫かい?」

そよ「はい・・・あの、いとは?・・・・いとは無事ですか?」

おかみ「いとは・・・」


   いとが座っていて、ぼーっとしている。顔は見えない。(哀螺が演じている)


そよ「いと・・・?」

いと「・・・・・」

そよ「いと?」


   体をゆする


おかみ「一命を取り留めたが、精神的なショックで・・いとは、もうだめかもしれない・・」

そよ「そんな」

いと「・・・・」

そよ「いと!いと!」


   揺らされて、少しガクッとおちるいと。

   そよは泣いて、いとを抱きしめる


そよ「いと・・・・ごめんね・・・・ごめんねえ」


   いとは大きな声で頭を抱えて、うめき騒ぎだす

   赤い髪飾りが堕ちる



    いとの落ちた髪飾りをひろう


そよ「おかみさん私・・・いとを演じます」

おかみ「は?何いってんだい。あんた」

そよ「いとが戻ってくる間、何かしたいんです!!」

おかみ「戻ってくるって・・・ここまできちまったら、そう簡単には戻りゃしないよ!」

そよ「でも、私は信じたい!少しでいいんです。もう少しだけ時間をください。それまで、いとの分も、八重姉さんのお世話も全部全部やって見せます!だからお願いします!」

おかみ「・・・わかったよ。あんたたちを連れてきた責任もある。少しの間だけだ。やってみな」

そよ「・・!!」

おかみ「ただし、店に悪い噂が出たら二人とも行燈部屋に放り込むよ。いいね?」

そよ「はい!よろしくお頼みもうしんす」


   おかみ消える

   そよ去る



おかみ声「おいと、お客だよ!!」


○音楽・そよの日常。いととして慌てて出てくる。髪飾りをつけかえる。

いととして踊ったり、八重のところで働いたり。(八重を演じる鬼蝶)いとの看病もするそよ。くるくると変わる日常を表現。




■


そよ「はあはあはあはあは」

そよ「うえええええええ」


   ぐでーんと倒れるそよ

   おかみの声


おかみ「おいと!すごいじゃないか!」


   そよ、ひっそり笑う


おかみ「明日も、頼んだよ!」

そよ「は、はい!・・・・。」

   


まつ「何してんの?さっきから」


   そよ、青い髪飾りを素早くつけて、振り返る。

   そこには、まつがいる


そよ「え、いたんだ」

まつ「ずっといたよ。」

そよ「見てた?」

まつ「何を」

そよ「えーと」

まつ「何だか、くるくる忙しないね」

そよ「あー」

まつ「いいよ。興味いし」

そよ「そ、そっか」

まつ「そんなことより、どっちだと思う?」

そよ「え?」

まつ「これ」


   死んでるような人の絵を見せる


そよ「な、何これ」

まつ「何にミえる?」

そよ「え、えっと、し、倒れてる人?」

まつ「違うよ」

そよ「え、じゃああ」

まつ「生きてる人、これは、生きてる人なの」

そよ「わ、私には倒れているように見える」

まつ「なんで?ボロボロだから?倒れて死んだとでも思ったの?」

そよ「う、うん」

まつ「あんたやっぱ好かんわ。」

そよ「え」

まつ「でも宵闇姉さんに言われたから、最後に伝えにきたよ。あんたもボロボロだって。」

そよ「?」


   そよは、いとの綺麗な着物を着たままである。


そよ「綺麗だけど・・・おまつはやっぱ変だね」

まつ「あんたほどじゃない。私は、ずっと考えてたの」

そよ「何を?」

まつ「生を全うする人に手をかせってやつ。宵闇姉さんに言われてからずっと。こんな世界で誰が生きたいのか考えて、観察することにしたんだ。生を全うする人をね。」


   まつの日記を渡される


そよ「これ・・・私たち」

まつ「あんたら二人は、本当にちゃんと生きてるよね。馬鹿みたい」


  そよは日記をペラペラとめくっていく。

  そこに書かれているのは、吉原で生き抜く人たちの姿。そこには、おそよの姿も。


まつ「そんな人たちを助けたらなんて、宵闇姉さんも、馬鹿だよね」



   そよは最後の一ページを開くと、驚く

   そこには、ボロボロのそよの姿


そよ「でもおまつ、最後のこれは本当に・・・」


   おまつはいなくなっている


そよ「あれ?どうゆうことなの・・・?」


   そこに、おみつが通りすぎる


そよ「あれ、おみつ・・?」


   そよはおみつのそばに駆け寄る


そよ「おみつ!」

みつ「いと。私・・・私・・・ごめんね。もういくね」

そよ「おみつ?」


   おかみさんの声


おかみ「おそよ!お客さんだよ!」

そよ「あ、はーい」

おかみ「おそよ、あんたすごいよ!ゆくゆくは道中を飾るかもしれないねえ!」

そよ「道中!?」

おかみ「おいととしてね!がんばっとくれ!」

そよ「はい!」


   

   そよはかけていく


  紬喜、怒田、哀螺、一楽が次々と集まってきて、鬼蝶の元へ

  鬼蝶はその様子を見ている




■座敷


   高尾と八重、おかみが話し合っている。

   日記を持っている


おかみ「まさかこんなことになるなんて」

高尾「あちきがちゃんと見ておけば・・・宵闇には伝えるのかい」

おかみ「そうだね、伝えるべきだと思っている」


   八重は日記を高尾からとり


八重「その役割、あたいにやらせておくれよ」

高尾「・・・八重」

八重「あんたに謝りはせんけど・・・あたいが変な気を起こさせちまったからかもしれない」

高尾「変な気って」

八重「昔、あんたにしたことをおそよに話たのさ。」

高尾「ああ。別にあちきの件であんたを憎んだことはさらさらないよ。まあ今回の件は別だけどねえ。さっさと、てめえで始末付けてきな」

八重「・・・」


   八重さる


高尾「いとの様子はどうだい」

おかみ「いとは・・・ずっと部屋から出ずにいるさ」



   きょうが急いで吉原をかけてくる

   三浦屋の戸を必死に叩く


きょう「すみません!すみません!」


  高尾とおかみは目を合わせ


おかみ「こっちも荒れるねえ」


   二人ははける




■行燈部屋


   お酒を持った八重。あたりを見回し、声をかける


八重「宵闇・・・死んじまったかい?」


   宵闇はゆっくりと答える


宵闇「・・あんたか・・」

八重「・・・まだいたのか。」


   八重ほっとする


八重「最近死に急ぐものが多くて・・」

宵闇「私も早く行きたいさ。でも神ってやつは望むもんは与えてくんないのさ」


   八重が隙間からそっと日記を投げる


宵闇「なんだいこれは・・・」

八重「おまつが、死んだ」

宵闇「は?!」

八重「・・・・すまない」

宵闇「すまないって・・・・」

八重「・・・」


   八重の気まずそうな雰囲気を見て察する


宵闇「・・・・先にいっちまったか・・・」

八重「・・・ああ」

宵闇「・・・どんなだった」

八重「人を・・・助けたんだ。刺されそうになったところを」

宵闇「そうか・・・最後まで誰かを助けたんだねえ・・・」


   宵闇は泣きそうなところを啜る


宵闇「八重、あるんだろ」

八重「ああ」


   八重は無言で酒をつぎ、隙間から渡す


宵闇「今宵は月が、綺麗だなあ」


   宵闇は、月に向かって乾杯をする

   八重はゆっくりと酒を飲む



■座敷


   高尾・おかみ・ひのえ・サンシ・しの

   みつの死体を囲んでいる


きょう「え、なんで。」

サンシ「自害した」

きょう「自害?するわけないだろ・・・!だって、こないだまでこんなに元気な文が届いたんだ・・・!ほら!見ろよ!!」


   きょうは取り乱して、全員に手紙を読ませようと縋る


きょう「ほらここ・・・!な?日差しが暖かくて、花が綺麗で楽しいですって・・・・・」

ひのえ「元気じゃなかったんだ」

きょう「そんなことねえよ!!そしたら、書くだろ普通!元気じゃないって・・・でも書いてないから・・・書いて・・・」

ひのえ「きょう!」


   きょうはみつの死体を見て消沈する


サンシ「彼女の慕っていた小紫太夫が自害した」

きょう「は?」

サンシ「墓参りにと出かけたまま小紫太夫は帰らず。それを心配した彼女は探しに出かけんだ。その時に・・・残念ながら大勢の剥ぎ取りに襲われた。それで精神的に・・・」

きょう「・・・・・・遊郭で外に出るには何人かついていくんじゃねーのかよ・・・・襲われた?」

サンシ「一瞬見失った隙に・・」

きょう「見失うってなんだよ!」

サンシ「すまない」

きょう「すまないですむと思ってんのかよ!」


   きょうは叫びながらサンシに飛びかかる。

   ひのえは抑える。



ひのえ「きょう・・・!!」

きょう「おみつはなあ、ここにこれてよかったって何度も言っていたよ!親に売られて孤独だったけど、おかみさんが親切に厳しく教えてくれて、悲しい気持ちを小紫姉さんが癒してくれて。遊郭にもこんな人たちがいるんだって。どうしようもなく何もなかった人生に、ここで希望をもてたんだって笑ってたよ。あの笑顔は、あの笑顔は間違いなく本物だった!だから・・・俺はそれを守りたいって思ったんだ・・・なのに・・・見失うってお前らにとっては、そんなもんなのかよ!」


   サンシはそれを見て鼻で笑う


きょう「てんめええええええええええ」


   きょうは殴りかかろうとする

しの「おみつが!」


   みんな止まる


しの「おみつが・・・泣いてる」

きょう「・・・」


   みつは涙を流したように見える

   今日はその様子を見て、涙が溢れ、気が抜ける


きょう「・・・・・なんだよ・・・これじゃあ迎えに行けねえじゃん・・・・」


   サンシは座敷から抜ける

   おかみ追いかけて


おかみ「行かれるんですか」

サンシ「ええまあ、僕がいたら気まずいでしょ」

おかみ「まあ・・・」   

サンシ「吉原では毎日、何十人、何百人と亡くなる命がある。足抜けを疑われた禿の心配をするほど暇ではない・・・一人を守っても、この連鎖はなくならない・・・」

おかみ「・・・・よく、わかります」


   サンシ笑う


サンシ「そうでした。そうでした。あなたもこちら側の人間でしたね」

おかみ「はっ。同じにしないでください。私はもう少し人間ですよ」

サンシ「はは、僕は人間をやめたってか」

おかみ「・・・これから三浦屋はどうなると思いますか」

サンシ「さあ」


   サンシはけようとしているところを、おかみ止める


おかみ「母上様、三浦屋の太夫だったのですね」

サンシ「あー調べたのですか。あなたも人がいいですね。」

おかみ「経済難だと聞いて、きてくれたのでしょうここに。お母様のいた・・・」

サンシ「やめてもらえますか」


   サンシにっこりと笑う


サンシ「根拠のない憶測は苦手でして。」



おかみ「・・・」


   サンシはけようとするが、今度は自ら立ち止まる。


サンシ「僕は何かが見つかる時、いつも母の面影が見えるんです。会ったこともないのに。僕のことをこの吉原で捨てた母が、憐れんでくれた唯一の贈り物だと思ってます。だから僕の予測は外れないんです」



   サンシお辞儀をしてはける


おかみ「あんたも一生、籠の中か・・・」



■座敷


   床に伏せるそよを見つめているいと。少し散らかっている部屋。

   

いと「そよ姉」


   青い髪飾りを握りしめている。いとはそよの頭を撫でる。

   ぽんぽんと叩くように。

   そよの目が虚になっていき、意識が次第にはっきりしていく


いと「そよ姉・・・?そよ姉!」


   体をゆする


いと「おかみさん!高尾姉さん!そよ姉が!!そよ姉・・・!」

そよ「そ・・・よ?」

いと「そうだよ!そよ姉!戻ったんだね!!おかみさん!早く!」

そよ「そ・・よ」

いと「わかる?」


  そよ、次第に意識がはっきりとしていく


そよ「・・・なんで・・・刺したのに・・・」


   そよ、怖いものを見るかのようにいとから距離をとる


いと「私は大丈夫だよ・・ただ、おまつちゃんが私の代わりに・・・」

そよ「おまつ・・・で、でもおまつとはさっき話して・・・うっ」

いと「無理しないでっ!」



   いとは、再度そよに寄り添う


いと「おしのが言ってたんだけど、これ、そよ姉はずっとしていたんだね」


   いとは頭を叩いてみせた


そよ「こ、レ」  

いと「二人で決めたでしょ?でたい時の合図。もしかして、そよ姉も、ここが嫌だったのかなって?それとも、何か違うものにでも囚われていたの?」


   いとは冗談ぽく笑っていう

   いとは看病を続ける


そよ「え・・・私・・・私・・・・」


   いつの間にか鬼蝶が現れ、こちらを見ている

   鬼蝶がそよに近づき、床に侵入してくる

   そよは逃げたくても、体が動かず首を絞められている


そよ「うっ・・・・う・うわあああああああああああああああ」

いと「そよ姉?そよ姉?」


   

   そよ、ふっと我に返る

   そこには鬼蝶の姿はない


そよ「いとの代わりをしなキャ・・・・」

いと「え?私の代わり?なあにそれ?」

そよ「おかみさんがね、いとの代わりなら道中させてくれるって」

いと「どうゆうこと?私じゃなくて、そよ姉として道中に立つんでしょ!ほら、約束もしたでしょ?一緒に、高尾姉にも負けない一番の太夫になるって」

そよ「うーうん。私じゃきっとダメ。いとがいい。いとじゃないとダメなの。私だとみんな見てくれないの」

いと「そよ姉・・・そんなことな」

そよ「お願い、ね?少しでいいから、もう少しだけここにいて欲しいの」


  そよがいとを詰める


いと「そよ姉?どうしたの?怖いよ?」

そよ「一生のお願い。なんでもするから。私、いとがサンシ様やひのえ様から好かれたみたいに、私も一度だけ好かれてみたいのね?」

  

   そよがいとの腕を掴む


いと「痛い!そよ姉痛いよ!!」

そよ「お願い、お願いだから。お願いだって言ってるでしょ!」


   いとは抵抗しているが、押されてしまう。


そよ「ね?私いとの代わりにお母さんのお仕置きだって受けたんだよ。痛い思いして、鈍臭いいとを守ったんだよ?吉原に連れてきたのも、失敗ばかりしてお母さんを怒らせるいとを早くあの家から出さなきゃって思ったんだよ。全部全部いとのためにやってきたんだからね。少しくらい私にいい思いさせてくれたっていいでしょ!!!!!」


   そよは、いとの首を絞めようとする

   いとの手元には針山がある

   いとはそよの手を針でさす


そよ「痛い!!なんでそんなことするの!ひどい・・・ひどいひどいよお」


   そよは泣いている。二人は取っ組みあいの末

   いとがそよの上に乗る


   いとは危険を感じ、針山を高く掲げて




   暗転



■エピローグ 三浦屋

   


おかみさん「さあさ、ここは三浦屋だよ!そこの旦那さん、よかったらよっていておくれよ。あんたはどうだい?さあさ」


   おかみはける

   座敷では八重がせっせと化粧をしている。



八重「嫌んなっちゃう。あの旦那、まーた長いしやがって」

しの「八重姉さん、あれでもおゆかりさまじゃないですかあ?」


  そこに高尾が八重の部屋へ


高尾「八重、文句言ってないであんたは当分、倍働く約束だろ」

八重「へいへい」

高尾「全く・・・」


   紬喜と哀螺が後にいる


八重「姉さん、新しい禿かい?」

高尾「え?ああまあ新しい禿もそのうちゃ一人や二人はつくだろう。」

八重「?」



   おかみ座敷の方から


おかみ「あんたたち今日は道中だからね!しっかり見送るよ!」

高尾「はいはい」



   高尾さる


しの「八重姉さん!八重姉さん道中見たいです!」

八重「何言ってんだい!あんたも参加するんだよ!・あんたはほんとおバカだねえ」

しの「えー!!そうなんですか!!楽しみだなあ!!」


   しの、八重はける

   おかみと、いと。準備している。障子で見えない。

   (声をいとで、扮したそよ)


おかみ「そよのことは・・残念だったねえ」

そよ「一時は意識を取り戻したんですが」

おかみ「全く・・・正気を失って枕元の針を飲もうとするなんて。なんて馬鹿なんだい」

そよ「本当鈍臭いですよねえ」

おかみ「またすぐに意識が戻るといいね」

そよ「はい。あ、でも、この先のことを考えるとこれでよかったのかもしれないです。きっとあの子には耐えきれない」

おかみ「?」

そよ「そろそろ行かキャ」

おかみ「あ、ああ」


   襖を開けてそよの部屋から出てくるおかみ

   鬼蝶がその様子を見ている


鬼蝶「なんとも、愉快だ。」

紬喜「ネエネエ、モウスグハジマルヨ」

鬼蝶「そうだねえ」

怒田「ナニガミエルノナニヲミルノ」

鬼蝶「それはこれからのお楽しみ」

哀螺「モウオワリ」

鬼蝶「始まるのさ」

一楽「タノシカッタタノシカッタ」

鬼蝶「そうだねえ。欲が蠢く吉原遊郭。好きも嫌いもあんたの好きさ。また遊びたかったら、ここまでおいで。」


   鏡の中に消える鬼蝶たち



 ○花魁道中

   夜・行燈がともる夜の道・上手と下手で世界の色が違う


しの「ほらほら、姉さん、こっちですよ」

   八重を引っ張るしの

   紬喜、怒田、哀螺、一楽、鬼蝶

   八重、サンシ、みつは黒っぽい着物になっている

   ひのえ、きょう、高尾、しの、まつ、小紫、

   が格子を見つめ、二人を迎える


   青と黒がベースの着物。いとが出てくる。黒い狐の仮面

   赤と白がベースの着物。そよが出てくる。白い狐の仮面


   全員が華やかに並び


   そよ・いと「旦那様おいでなんし」

   二人が仮面を外す(サンシは驚き、静かに笑う)

 

   桜が散る


   行燈部屋の小さな灯りが静かに消える


                        終   

  


女性らしくあり続けるーそれは美しくも、辛くて重たい作業になることがあります。顔に白粉を何重にも重ね、派手な色で顔を飾り、笑顔を繕う。女として、男として、性を受けた瞬間から、誰しもが誰かの理想像を自分の頭で造り込み、それがしがみついて離れない。


この作品は、そんな理想の自分と闘い、どう生き抜くかを選択していくそよと、現実に投げ出され、自分自身のあり方を見つめ直すいと、そして生き方を幼い頃から定められ、その籠の中で自分らしさを探し続ける遊郭の者たち、その背中を追いかけて成長していく禿たちの物語です。籠がなくても日々何かに囚われ続ける私たちは、彼女たちを見て何を思うのか、私はぜひその答えを知りたい。好きも嫌いも、あなたの自由。

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