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第7話:恐怖の魔獣は極上コラーゲン!? 魔法の全自動ラインで『奇跡の美容液』を大量生産せよ


私が公爵へのマーケティングを成功させ、城の中庭を通りかかった時のことだ。


「……っ、急ぎ手当を! 止血帯とポーションを持ってこい!」


怒号と悲痛なうめき声が飛び交い、中庭は野戦病院のような凄惨な有様になっていた。

ボロボロに傷つき、血を流した騎士たちが次々と門から運び込まれてくる。

防具はひしゃげ、ひどい火傷のような傷を負っている者も多い。

その中心でアレクセイが氷のように冷たく、険しい顔で騎士団長からの報告を受けていた。


「申し訳ありません、公爵様! 森に出没するクリスタル・スライムの群れのせいで、薪の調達部隊が壊滅状態に……!」

「また奴らか。炎の魔法が効かず、物理攻撃も通らん厄介な魔獣め。……なぜここまで被害が拡大した?」


アレクセイが忌々しげに舌打ちをする。

物陰に隠れて様子を窺っていた私は、その報告内容にピクリと耳を動かした。


「奴らの体液は異常なほどの保湿性と自己再生能力があり、斬ってもすぐに傷が塞がってしまいます! 粘液は一度付着するとなかなか落ちず、皮膚を溶かしながらどこまでも絡みついてくるのです……!」


(……異常な保湿性? 自己再生能力?)


私の内なる美容部員センサーが、警報レベルで激しく反応した。


無色透明でプルプル……。


高い保湿力と、傷を瞬時に塞ぐ異常な再生能力……。


(それってつまり、天然の高純度コラーゲンとヒアルロン酸、おまけに上皮成長因子がたっぷり詰まった、奇跡の美容成分の塊ってことじゃないの!!?)


私の頭の中で恐ろしい魔獣の姿が、きらきらと輝く超高級美容液が入ったドラム缶へと鮮やかに変換された。

皮膚が溶けるというのは、おそらく強すぎるピーリング成分が混ざっているせいだろう。

中和して不純物を取り除けば、これ以上ない究極のスキンケア素材になる。


「……最高の原材料が森に手付かずで放置されてるなんて。しかも調達部隊を壊滅させるほど大量に発生してるの? なにそれ、機会損失にも程があるわ!」


冬の極度の乾燥と先ほどの粗悪なシーツのせいで、私の肌はすでにカサカサと粉を吹き始めている。

美容マーケターとして、このお宝を見逃す手はない。


私は即座に踵を返し、自室へと駆け戻った。

分厚いウールの防寒着を着込み、城の地下倉庫からくすねてきた大量の空き瓶をリュックに詰め込む。


「シャルロッテ様? そんな重装備でどちらへ……?」

「ちょっと裏庭の森までピクニックに行ってくるわ! マーサはお茶の用意でもしておいて!」

「えっ、森は今、魔獣が出て危険で――って、ああああっ! お待ちください!」


血相を変えて止めるマーサの制止を華麗にスルーし、私は怪我人の対応で手薄になっている城の裏門から真っ白な雪の森へと一人ダッシュで駆け出した。


 * * *


「ピギィィィィィィィッ!!」


雪深い森の奥で、それは巨大なゼリーのようにうごめいていた。

全長3メートルはあろうかという、無色透明の巨大なスライム。

それが周囲の雪を溶かし、立ち枯れた木々を酸で飲み込みながら、ずりずりと這い進んでいる。

近づくだけで、周囲の空気がしっとりと、いや、むせ返るほどに潤うのがわかる。


あれが精鋭の騎士団を退けたCランク魔獣クリスタル・スライムだ。

普通なら温室育ちの令嬢は絶望して逃げ出すか、腰を抜かす場面だろう。

だが、今の私の目には、あれが歩く宝の山……いや、巨大な美容液タンクにしか見えなかった。


「ふふっ、透明度も粘度も申し分ないわね。品質は最高よ。それじゃあ、さっそく収穫を始めさせてもらうわ!」


私はスライムの進行方向に先回りし、両手を雪に覆われた地面についた。

相手は物理攻撃も炎も効かないスライム。

ならば、倒すのではなく搾取すればいいのだ。


「『土魔法・錬成』!」


ズゴゴゴゴッ! スライムの足元の地面が大きく陥没し、巨大なすり鉢状の落とし穴が出現した。

「ピギッ!?」と間抜けな声を上げて、巨大なスライムがぬるりと穴の中へ滑り落ちていく。

ただの穴ではない。すり鉢の底には何層にも重なった土のメッシュを形成している。


「特製、多段式・物理フィルターよ! そのままそこでプレスされて、極上のプルプル成分だけを絞り出させてもらうわ!」


私は穴の壁面を操作し、強烈な圧力をかけてスライムをすり潰していく。


「ピ、ピギィィィィ!?」


魔獣が断末魔の悲鳴を上げるが一切の慈悲はない。

フィルターを通して不純物と危険な酸を取り除きながら、極上の体液だけを搾り取る。


同時に『水魔法』を発動し、抽出された体液の水分量を、肌に最も馴染む黄金比に調整・攪拌していく。

遠心分離機のような魔法の働きによって、純度100%の奇跡の美容液が、あらかじめ穴の底の出口にセットしておいたガラス瓶へと次々に注ぎ込まれていく。


「よーし、いいわよ! 不純物の歩留まり率ゼロ! このまま第2、第3生産ラインも稼働! どんどん出荷していくわよー!」


私は雪にまみれながら、ベルトコンベアのように流れてくる美容液の瓶に、次々とコルクで蓋をしていく。

完全なる全自動ボタニカルコスメ工場』の完成である。


 * * *


「シャルロッテが森に向かっただと!? なぜ誰も止めなかった!」


一方その頃。

マーサからの悲鳴に近い報告を受けた公爵アレクセイは、血相を変えて雪の森を駆け抜けていた。

手には抜き身の長剣が握られ、後ろには重傷を免れた騎士たちが数名、青ざめた顔で続いている。


(あの馬鹿女……! クリスタル・スライムは、近衛騎士団でも手こずる厄介な魔獣だぞ。丸腰の令嬢など、一瞬で酸に溶かされて骨も残らん!)


アレクセイの心臓は、これまでにないほど激しく早鐘を打っていた。

昨日の極上の風呂。今日の常識外れの朝食。

そして、あの図太さ。


理解不能な女だ。関わらないと決めたはずなのに、彼女がもたらした奇妙な安らぎと熱を、話刷られない。

不可解な焦燥感の正体もわからぬまま、アレクセイは雪を蹴り上げた。


「シャルロッテ!! どこにいる!?」


息を切らし、スライムの強烈な気配がする開けた場所へと飛び込んだアレクセイ。

凄惨な光景を覚悟し、彼が悲壮な決意で目撃したのは――。


「あ、公爵様。ちょうど良かったです! 予定より大量に採れちゃって瓶が重いので、納品のお手伝いお願いできますか?」


巨大なすり鉢の底で、恐ろしい魔獣が「ピ……ギィ……」と情けない音を立てて搾りカスになり果てている中。

腕を組み、大量に山積みされたきらきら輝く美容液の瓶の横で、満足げにドヤ顔を決めている逞しすぎるシャルロッテの姿だった。


「……は?」


駆けつけたはずの氷の公爵と騎士たちは、目前の全自動コスメ工場見学ツアーの状況が完全に理解できず、雪の中で彫像のように固まるしかなかった。



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