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第21話:城の顔はリゾートの命! 氷の公爵も圧倒される極上エントランスと空飛ぶ滝!?


「ルカ、このエントランスホール、滞在時間は最悪ね。お客様が到着して最初に目にするファーストインプレッションで、これでは強烈な離脱が発生するわ」

「同意します、ボス。現在の薄暗さと底冷えは、顧客体験を著しく損ないます。早急なリノベーションによるROIは極めて高いかと」

「ええ。客室の居心地がどれほど良くても、入り口で辺境のボロ城というレッテルを貼られれば、その後のブランド価値に致命的なペインを残すことになるわ」


城にルカを専属秘書として迎え入れてから数日。

私たちはヴォルフガング城のエントランスホールの内側に立ち、今後の導線設計について深刻なミーティングを行っていた。

カビ臭さと埃っぽさが混じり、足元から這い上がるような中世特有の冷気。これをリゾートの顔にするなど、マーケターの誇りにかけて絶対に許されない。

ちなみにルカもなんか普通にビジネス用語を使いこなしてるけど、彼は本当に優秀だ。

私の言葉からすぐに用語を学習し、使いこなせるようになった。これは素晴らしい逸材を見つけたわね。


ピキッ……ピキピキピキッ……!


私たちが改善案のブレストを深めていたその時だ。

尋常ではない冷気が漂ってきた。石造りの床が瞬く間に白く凍りつき始める。


「……シャルロッテ。城の入り口で、その男と何をごちゃごちゃと話しているんだ」


振り返ると私の最大スポンサー・アレクセイが絶対零度の吹雪を背負って立っていた。

その瞳は、私の隣で図面を広げるルカを真っ直ぐに射殺さんばかりの勢いで睨みつけている。


(あれ?なんか怒ってる?もしかして新規採用した外部人材に対する警戒心……組織内のハレーションかしら? でも安心してちょうだい、彼のROIは私が保証するから!)


「お疲れ様です、公爵閣下。ボスの指示を受け、施設エントランスの導線設計を再評価しておりました」

「俺にはずいぶんと距離が近く見えたが。 シャルロッテの拾い犬とはいえ、分を弁えろ」

「お言葉ですが。図面を共有し、ミリ単位の施工指示を正確に受容するための適正距離です。私情は一切挟んでおりませんので、ご安心を」


アレクセイの重圧を正面から浴びながら、ルカは涼しい顔でうそぶき一歩も退かずに淡々と答えた。

さすがはスラムを生き抜いてきた男。冷徹なまでのメンタルの強さと合理主義、私の見込んだ優秀な秘書だわ。


バチバチと視線で氷柱を散らす二人の間に割って入り、私はパンッと手を叩いて営業スマイル全開で意識を切り替えた。


「タイムです! 公爵様、ちょうど良かったです! 今からこの城の顔……エントランスを大改修しますので、少し下がっていてください!」

「顔、だと……? 確かにここは無骨だが……」

「安心と信頼のラグジュアリー空間をお約束しますよ! ――ルカ、資材の調達は不要よ。既存のリソースをすべて流用して再構築するから」

「了解です。では、俺は魔力流の安定化のための測量に回ります」


私はエントランスホールの中央に立ち、深く息を吐いた。


「まずは、お客様を暖かくお迎えする足元のUI/UX改善からよ……!」


私は両手を冷たい石畳に這わせた。

大地のはるか奥深くに眠る魔脈へと意識を潜らせ、熱エネルギーを引き上げる。


「熱を通すだけじゃないわ。石の内部にミリ単位で魔力回路を編み込み、温度を常に一定に保つためのサーモスタット式アルゴリズムを構築する……!」


額に汗が滲む。魔力の編み込みは、繊細で泥臭いコーディング作業そのものだ。

均等に、かつ魔力消費を最適化するように回路の調整を繰り返し、術式を固定する。


「『魔力ロードヒーティング』、実装完了!」


シュゥゥゥッ……!


その瞬間、ホール内を満たしていた底冷えのする空気が反転し、靴底からポカポカとした心地よい熱が空間全体に広がっていった。


「この足元からの温もりは……」

「見事です、ボス。これで冬場のスリップ事故などの根本的解決も同時に達成されましたね」


驚愕するアレクセイと、冷静にメリットを分析するルカ。

しかし、本番はここからだ。


「次はこの重苦しい内壁の採光よ! 石の強度を維持したまま、石英成分を抽出して分子構造を再配列させるわ……!」


土魔法と光魔法の並列処理。 不純物を削ぎ落とし、透過率を限界まで引き上げるよう魔力で原子レベルの調整を行う。


ゴゴゴゴ……


重低音と共に、重厚な石壁の一部が透明度抜群の巨大な強化ガラスへと変換され、冬の柔らかな日差しがエントランス全体を明るく照らし出した。


「か、壁が……!?」

「仕上げは、ロビーの主役よ!」


私は天井に向かって両手を掲げた。

空間の魔力座標を固定し、今度は水と光のデュアル処理を起動。水飛沫が周囲の設備を劣化させないよう、水分の揮発率と落下速度を徹底的に制御する。


「空間固定完了! 空中ウォーターフォール、展開!」


ザザァァァァッ……!!


ロビーの中央、何もない空中の虚空から清らかな水がとめどなく湧き出し、美しい滝となって魔法で創った大理石のプールへと降り注ぐ。

光魔法に照らされた水飛沫がキラキラと乱反射し、ダイヤモンドが降っているかのようだ。


「空中に……滝が浮かんでいる……!?」

「マイナスイオンたっぷりよ。さらに、長旅で冷えたお客様の身体を温め、滞在時間を限界まで引き延ばす極上のリラックススペースを構築するわ……!」


私は滝の横のスペースに意識を集中させた。 まずは空間の核となる暖炉。

単に火を点けるだけでは三流だ。一酸化炭素中毒を防ぐための完全排煙ダクトを土魔法で壁の内部に穿ち、炎の揺らぎが人間の副交感神経を刺激する1/fゆらぎのアルゴリズムになるよう、風魔法と炎魔法を精緻に同期させる。


「続いてファニチャー群! 空中の水分と植物の繊維を分子レベルで結合させて……!」


座る者の骨格に合わせ、人間工学に基づいた体圧分散機能を持つスプリング構造を内部に編み込む。

表面のファブリックは極上のベルベット調になるよう、ミリ単位で起毛処理を施す。

さらに、裏山の倒木から最も美しい木目の部分だけを抽出・再構成し、分厚い一枚板のバーカウンターを錬成。

表面には防汚・防水のための強固な魔法コーティングを幾重にも施していく。


そして──


「——ウェルカムラウンジ、実装完了よ!」


完成した空間を見渡し、私は思わず満足げな笑みを浮かべた。

中世のボロ城特有の陰惨なエントランスは、たった数分で王都の最高級ホテルすら凌駕する極上のVIPラウンジへと変貌を遂げていた。

強化ガラス越しに見える猛吹雪の白銀世界とは対照的に、室内は暖炉のオレンジ色の炎が優しく揺らめき、空中に浮かぶ滝の水飛沫が天然のシャンデリアのように煌めいている。

計算し尽くされた光魔法の間接照明が深紅のソファの滑らかな起毛と、一枚板カウンターの艶やかな木目を美しく、そして高級感たっぷりに浮かび上がらせていた。


視覚、聴覚、触覚……あらゆる感覚から圧倒的な居心地の良さを脳に直接叩き込む、完璧な空間プロデュースだ。


私がふぅと息を吐いて額の汗を拭った、その時だ。


外の猛吹雪の風圧と共に、ギギギィッ……と重厚なエントランスの扉が重々しく開かれた。


「ふぅぅ……とんでもない吹雪だったな……って、えっ!?」

「な、なんだここは!? 俺たちは寒さで幻覚を見ているのか……?」


猛吹雪の巡回任務から帰還した騎士たちが、雪まみれの姿で入り口に立ち尽くしている。 暖かな空気と、光り輝く滝、そして燃える暖炉を前に、彼らは完全に言葉を失っていた。


「おかえりなさい皆様!到着のウェルカムドリンクはいかがですか? あらかじめ厨房で仕込み、アイテムボックスに入れておいた、自家製ハーブとスパイスをたっぷり効かせた特製ホットワインですよー!」


私がカウンターから声をかけると、スパイスの甘くスパイシーな香りに誘われるように騎士たちがフラフラとラウンジへ吸い寄せられてきた。

ホットワインを喉に流し込み、ふかふかのソファに深々と沈み込む。


「……ああっ……生き返る……」

「外の吹雪が嘘のようだ……ここは天国か……?」


幸せそうに蕩けた顔になる騎士たちを見て、私は小さくガッツポーズをした。


「見事です、ボス。このウェルカムラウンジだけで、王都の貴族から入場料として銀貨50枚は取れますね」


ルカが手元のメモ帳に猛スピードで収益予測を書き込んでいる。完璧な顧客満足度の獲得だわ。


「どうですか、公爵様! これで顧客のLTVもさらに跳ね上がりますよ!」


私が最大のスポンサーに向けて誇らしげに振り返った瞬間。 ぐいっ、と強い力で腕を引かれた。


「わっ!?」


バランスを崩した私の背中が、アレクセイの広くて硬い胸板にすっぽりと収まる。


「こ、公爵様……?」

「俺の城を、ここまで骨抜きにされる空間に作り変えておいて」


耳元で、甘く低い声が鼓膜を震わせた。

アレクセイの長い腕が私の腰に回され、逃げ場を塞ぐように、深く、熱く抱きすくめられる。


「お前がいなければ、俺もこの城も機能しない……。責任は、存分に取ってもらうぞ、シャルロッテ」


瞳が先ほどの冷気が嘘のような、とろけるほどの熱を帯びて私を見下ろしている。


(えっ、なにこの至近距離!? 何が起こったの!?)


彼は私を抱きすくめたまま、ルカの方を見てめちゃくちゃ所有欲丸出しのドヤ顔をしている。


ウェルカムラウンジの暖炉のせいだけではない。 背中から伝わる最大スポンサーの圧倒的な熱量と少しだけドキッとしてしまうほどの重たい執着に、私の冷静なビジネス脳は完全にフリーズしてしまった。



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