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第18話:地下岩盤を削り出せ! 魔法と現代知識で造る全天候型インドア・スパ

極上スイートルームでのテスト宿泊から数日後。

アレクセイは、私と顔を合わせるたびに少し気まずそうに目を逸らすようになった。

だが、あの日のウォーターベッドと人をダメにするクッションの魔力は完全に彼と騎士団長の心と体を虜にしてしまっている。

夜になれば彼らは吸い寄せられるようにVIPルームへと向かい、翌朝は腑抜けた顔で出てくるのが日課となっていた。


「ふふっ、顧客のリピート率は100%。まさに計画通りね」


私は笑みを浮かべつつ、本日の大工事に向けて城の地下へと通じる薄暗い階段の前に立っていた。

背後には、スコップやツルハシを持った筋肉隆々の騎士団員たち(でも肌はツルツルだ……)と、なぜか自ら手伝いを志願してきたアレクセイが控えている。


「シャルロッテ。今日はこの場所を丸ごと改装する気なのか」

「はい、公爵様! ですが、現場はホコリも舞いますし力仕事です。わざわざ公爵様が自らお越しにならなくても……」

「……俺の領地の地下をいじるのだ。最高責任者として、監督する義務がある」


腕を組み、冷徹な声で言い放つ氷の公爵。

だが、視線を逸らす彼の耳の裏がほんのりと赤く染まっている……。

なにこれ?まぁいいや……。


「五つ星リゾートの格を決定づけるのは、天候に一切左右されない全天候型の巨大空間です!」


私は騎士たちを率いて、城の地下に広がる手つかずの巨大な岩盤空間へと足を踏み入れた。


「まずは基礎工事よ! 空間の拡張と床暖房の敷設を一気に行うわ!」


私はごつごつとした硬い岩盤の床に両手をついた。

地下深くを流れる魔脈にアクセスし、膨大な魔力を引き出す。


「いくわよ……『土魔法・広域切削──メガ・ボーリング』!」


ゴゴゴゴォォォッ!


轟音と共に、地下空間を覆っていた不要な岩盤が崩れ始める。

……が、すぐに私の両手に強烈な反発力が伝わってきた。


「くっ……なによこれ、この地層、異常に硬い……!」

「大丈夫か、シャルロッテ? 無理をするな」


額に汗を浮かべて魔力を練り上げる私を、アレクセイが心配そうに覗き込む。


「平気です!」と強がりつつ、私は限界まで魔力の出力を上げ、なんとか巨大な空間をくり抜くことに成功した。


「はぁ、はぁ……手強い岩盤だったわ。でも、ちょっと待って……これ!」


私は削り出されて山積みになった岩盤の残骸を見て、目を輝かせた。

ただの石の塊ではない。割れた断面が、黒くガラスのように艶やかに光っているのだ。


「これ、ただの岩じゃない! 保温効果抜群の辺境特産・黒曜大理石の原石だわ! まさか城の地下に鉱脈が眠っていたなんて!」

「なに? 」

「大当たりじゃない! これで浴槽を造れば、材料費ゼロで最高の保温性が確保できるわ! SDGstえていうかコストカットの極みね!」

「……おい、シャルロッテ。岩盤を抜いた穴の奥から、何か湧き出しているぞ」


アレクセイが指さす先を見ると、削り取った岩盤の奥から、濛々と湯気を立てる透明なお湯がこんこんと湧き出していた。


「うそ……硫黄の匂いはしない、無色透明で無臭……これ、地熱で温められた純度100%の天然温泉の湯脈?」

「湯脈? 確かに、この辺境の山奥には地熱が高い場所があると聞いたことはあるが……城の真下に湯脈があったとは」

「大理石に続いて、燃料費ゼロで極上の天然温泉まで掘り当てるなんて! W大当たりの神引きよ!!」


ゴミになるはずだった残骸を再利用でき、さらには天然温泉という最高のお湯の供給源まで確保できたことに歓喜し、私は次なる工程へと移った。


「次は空調……ベンチレーションね! 地下特有の息苦しさとカビを防ぐわよ!」


私は天井に向かって『風魔法』を放ち、外へと繋がる巨大な換気ダクトを錬成していく。


「一階の廊下や客室の床をぶち抜かないように……壁の裏のデッドスペースを縫うように通して……よし!」


ミリ単位の魔力制御で排気ルートを確保し、常に新鮮な空気が循環する完璧なシステムを構築した。

さらに床下全体に『炎魔法』の魔力回路を張り巡らせる。


「これでベースは完成! さあ皆様、ここからが本番のDIYですよ! 黒曜大理石を加工して、3つの次世代浴槽を造ります! 魔法だけじゃ削りきれないから、物理的な筋力も貸してください!」

「「「応ッ!!」」」


私の号令と共に、騎士団の男たちと、なぜか上着を脱ぎ捨てたアレクセイが、ツルハシや研磨用の石材を持って大理石の山に取り付いた。


「もう少し右! 角の処理が甘い!」

「そこ、表面をもっと滑らかに研磨して! 肌に直接触れる部分よ!」


上半身裸になり、汗だくで黒曜大理石を磨き上げる筋肉隆々の男たち。

私は現場監督として魔法でサポートしながら指示を飛ばす。 薄暗かった地下空間に、男たちの熱気と、一つの極上空間を全員で創り上げるという文化祭のような謎の一体感が満ちていった。


「よし、浴槽の形はできた……! 次はギミックの微調整よ! 一つ目の浴槽『魔力ジェットバス』のテスト稼働いくわよ!」


私は浴槽の壁面に繋いだ水魔法のポンプを起動した。


――ドバァァァァァァッ!!!


「うわぁぁぁぁっ!?」

「だ、団長ーーッ!?」


すさまじい轟音と共に壁面から極太の水流が噴き出し、そばにいた騎士団長が悲鳴を上げて天井近くまで勢いよく吹っ飛ばされた。


「ちょっと! 威力が強すぎるわ! 水圧で筋肉が千切れちゃう! 水魔法の出力バルブを15%ダウン、噴射口の角度を3度下げて再テストします!」


吹っ飛ぶ騎士たちでトライ&エラーを繰り返し、ようやく的確に腰痛と肩こりを撃ち抜く極上の水圧へとミリ単位の調整を完了させる。


「そして三つ目。一番大きなメイン浴槽にはシルク風呂を構築するわ! これは水流の制御が命よ!」


私は黒曜大理石の浴槽の底で『水魔法』と『風魔法』をミキサーのように超高速回転させる術式を編み出す。


「もっと微細に……目に見えないレベルのマイクロバブルを発生させるのよ……!」


冷や汗を流しながら魔力の波長を極限までチューニングし、ついに無色透明だったお湯が、無数の極小気泡によって絹のように真っ白に濁り始めた。


「成功……! 毛穴の奥の汚れを落とし、肌をなめらかにする最高の美容設備だわ!」


最後に、温室と地下の貯蔵庫からこの地下大浴場へと直結する専用の極細パイプを土魔法で通す。


「重力と水魔法のサイフォン効果を利用して、スライムの保湿液とハーブの抽出液が、最適な黄金比で自動ブレンドされる効能付与システムの完成よ!」


さらに間接照明や滝の打たせ湯……ヒーリングBGMを設置し、冷たいデトックスウォーターが飲めるラウンジを併設する。


「……はぁ、はぁ。完成、よ……!」


私は腰に手を当てて、広大な全天候型インドア・スパを見渡した。


黒く輝く大理石。

白く濁るシルクの湯。

神秘的な間接照明と、心地よく響く滝の音。汗だくの共同作業と、ミリ単位の妥協なき調整が生み出した、究極のテルマエ空間がそこにあった。


「さあ、公爵様、騎士の皆様! 汗だくになったところで、さっそくこのインドア・スパの人柱……じゃなくてテスト入浴人柱を――」


私が笑顔で振り返った、その瞬間。


「きゃっ!?」


私は思わず両手で顔を覆った。

そこには大理石磨きでドロドロになった服をすでに脱ぎ捨て、指定の湯着一枚……ていうかほぼ全裸になった男たちが、目を輝かせてズラリと並んでいたのだ。


「ど、どうぞ! 私はラウンジのほうを向いてますから!」


顔を覆ったまま背を向ける。

……が。私は優秀なマーケターである。市場調査と顧客の肉体美の観察を怠るわけにはいかない。

私は覆った両手の指の隙間をそっと開き、先頭を歩くアレクセイの姿をバッチリと視界に収めた。


(……うわぁ。無駄な脂肪が一切ないシックスパックに、分厚い胸筋。おまけにあの長身と美貌……。眼福ね。自社製品のパッケージモデルに起用したい)


内心でこっそりとプロの評価を下していると、背後から盛大な水音と、歓喜の呻き声が響き渡った。


「……っっ!!!」


真っ白なシルク風呂に肩まで浸かったアレクセイの口から、言葉にならない声が漏れる。

マイクロバブルが全身を優しく包み込み、大理石削りで酷使した筋肉を微細な振動で解きほぐしていく。

ハーブの香りと、完璧に調整された温度設定が、彼の理性を一瞬にして奪い去った。


「あ、あぁぁ……なんだ、このお湯は……。温かい絹の毛布に包まれているような……」

「寝湯も最高ですぞ! 背中だけが温かくて、体が……水に溶けていく……!」

「うおおおっ! 調整済みのジェットバスが、腰の疲労を的確に癒やしてくれる……! 極楽だ……!」


広い室内大浴場のあちこちから、屈強な男たちの絶頂の呻き声が響き渡る。

冬の厳しい寒さと猛吹雪を完全にシャットアウトし、ただひたすらに快楽だけを提供する全天候型のインドア・スパ。


「くそっ……俺をどこまで堕落させる気だ……」


シルク風呂の縁に頭を乗せ、完全に目を閉じて三途の川の向こう側を見つめている氷の公爵。

極上スイートルームに続き、彼らはまたしても私が作り上げたリゾート設備に、心地よい敗北感と共に完膚なきまでに叩き潰されたのだ……。



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