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第12話:金貨1000枚を全ブッパ! 魔法で作る『極上サウナ』で氷の公爵と辺境騎士団が完全にととのう

「金貨1000枚。これだけの潤沢な初期投資と裁量権……。ふふっ、ついに本格的な事業拡大の時ね!」


私は執務机にいっぱいに広げた城の図面を見下ろし、悪代官のようにニヤリと笑った。

これまでは私の自室のスマート・スパや厨房の改善など、局地的な環境整備に留まっていた。

しかし、これからは違う。この凍てつく辺境のボロ城全体を帝国中からセレブが押し寄せる『究極の美容リゾート』へと作り変えるのだ。


「まずは、コア・ファシリティ……中核施設の建設よ!」


私は図面を丸めて小脇に抱え、意気揚々と城の裏庭へと向かった。

そこには既に、昨日スキンケアの洗礼を受け、すっかり私の熱狂的信者にして優秀な労働力となった美容男子騎士団(私より肌きれいじゃね?雪国だから……?)がずらりと整列していた。


「皆様! 本日は当リゾートの目玉となる大浴場およびサウナ施設の建設を行います! まずは周辺の瓦礫と雪の撤去をお願いします!」

「「「はっ! シャルロッテ様のために!!」」」


むさ苦しい掛け声と共に、肌つやピカピカの騎士たちが、恐ろしいほどのモチベーションで雪と瓦礫を片付けていく。

王都の騎士団が見たら、あまりの統率力と顔のツヤに腰を抜かすだろう。

更地になった裏庭の中央に立ち、私は両手を地面に突き立てた。


「さあ、いくわよ……! 『土魔法・超域錬成!!」


ズゴゴゴゴォォォッ!!


大地が唸りを上げ、地殻変動のごとく地形が書き換わっていく。

黒御影石のように滑らかに磨き上げられた巨大な岩盤が隆起し、数十人が一度に入れるほどの巨大な露天大浴場が一瞬にして形成された。

お湯は地下水脈から『水魔法』で引き上げ、『炎魔法』の魔力陣で常に適温を保つ源泉掛け流しシステムだ。


「そして、ウェルネス・リゾートに絶対に欠かせないのがこれよ!」


大浴場の隣に、密閉された木造風……保温・調湿性の高い特殊な土壁の頑丈な小屋を錬成する。

中央には熱したサウナストーンを山盛りにした魔力ストーブ。そこへ地下水を自動で滴下し、蒸気……ロウリュを発生させる機構を組み込んだ、本場フィンランドも青ざめる超高温・魔法サウナだ。


「サウナのすぐ横には、動線を意識してキンキンに冷えた『水風呂』を配置! さらにその奥には、外気浴のためのインフィニティ・チェアも完備! 温冷交代浴による究極のリラクゼーション……ととのう体験の完成よ!!」


立ち上る湯気と完璧に計算されたサウナ施設を見て、手伝っていた騎士たちが「おおおっ……!」と感嘆の声を漏らした。


「さあ、完成の暁には、労働してくれた皆様と、我が最大のスポンサーである公爵様に、VIP待遇での一番風呂(無料テストプレイ♡)をご提供いたしますわ!」


 * * *


数時間後。


「……おい。なんで俺が、こんな熱気と息苦しさで満ちた密室に閉じ込められているんだ」


魔法サウナの最上段。 腰にタオル一枚を巻いた姿の公爵アレクセイが滝のような汗を流しながら低く唸った。


「これも極上のリラクゼーションの一環ですよ! さあ、毛穴から老廃物を出し切るのです!」


私はサウナ室の小窓から顔を覗かせ、メガホン代わりの筒を使って中へ呼びかけた。

サウナ室の中にはアレクセイだけでなく、騎士団長をはじめとする数十名の屈強な騎士たちが、ムキムキの肉体を並べてひたすら熱波に耐えている。


「くっ……公爵様! この熱気、もはや拷問に近いですが……我ら辺境の騎士、この程度の熱には屈しませぬぞ!」

「……よくわからんが……勝負ということか?いいだろう、どちらが長く耐えられるか勝負だ、騎士団長。俺が先に根を上げることはない。」


なぜかサウナ室の中で、アレクセイと騎士団長がバチバチと火花を散らし、意地を張って謎の我慢比べを始めてしまった。

男というのは、どうしてこういう時だけ無駄な闘争心を燃やすのだろうか。


「ちょっと! サウナは我慢比べの場所じゃありません! 脱水症状になる前に、限界が来たらすぐに出なさい!」


私が慌てて注意した直後、ついに騎士団長が「も、限界でありますーッ!」と叫んでサウナ室から飛び出してきた。それに続くように、アレクセイもフラフラとした足取りで外へ出てくる。


「ハァ……ハァ……。シャルロッテ、俺を殺す気か……」

「いや自分から我慢比べしてたでしょ……。とりあえず汗を流したら、迷わず横の『水風呂』へダイブしてください!」

「はぁ!?狂っているのか!? 極寒の辺境で、さらに冷水に浸かれだと!?」

「いいから! 信じて入る!!」


私の強烈な圧に押され、アレクセイと騎士たちは悲鳴を上げながら、キンキンに冷えた水風呂へと飛び込んだ。


「ひぃぃぃっ!」

「冷たいッ! 心臓が止まる!」

「大丈夫、耐えて! 水の羽衣ができたら、すぐに出てあっちのインフィニティ・チェアへ!」


言われるがままに水風呂から上がり、フラフラと外気浴スペースの石の椅子に倒れ込む男たち。 その瞬間だった。


「……あ」


アレクセイの口から、間抜けな声が漏れた。 サウナの極限の熱と、水風呂の極限の冷たさ。

交感神経と副交感神経が急激に切り替わることで、全身の血流が爆発的に巡り、脳内に大量の快楽物質が溢れ出す。 俗に言うサウナトランス――ととのう状態だ。


「……あ、あぁぁ……」


常に冷徹で隙のなかった氷の公爵が。

ガウンを羽織るのも忘れ、だらしなく手足を投げ出し、空を見上げたまま口を半開きにして、完全に昇天していた。

周囲の騎士たちも同様に「あばばばば……」「宇宙が見える……」と謎のうわ言を呟きながら、魂が抜けたような顔で椅子と一体化している。


「ふふっ……決まったわね」


完全にサウナの虜となり、極限のリラックス状態で腑抜けになっている彼らを見て、私は顧客の心を完全に掌握したとニヤリと笑った。

やがて、ゆっくりと現実世界に意識が戻ってきたのか、アレクセイがトロンとした熱を帯びた瞳で私を見上げた。


「……シャルロッテ」

「はい、公爵様。いかがでしたか?」

「お前の作るものは、いつも俺の想像を超えてくるな。……悪くない、いや……最高だ」


少しだけ頬を染め、蕩けるような表情で褒め言葉を紡ぐ彼を見て私の心臓が不覚にもトクンと跳ねた。


(ちょっ……ギャップ萌えにも程があるでしょ……!)


だが、私は優秀なマーケターだ。この圧倒的な顧客満足度を、次のビジネスチャンスへと繋げなければならない。


「お、お気に召して何よりです! ……でも公爵様。サウナで極限まで汗を流してととのった後って、無性にお腹が空きませんか?」

「……確かに。塩気のある、美味いものが食いたくなってきた」

「ですよね! サウナ上がりには、新鮮な野菜とスパイスを使ったパンチのあるサウナ飯が絶対に必要です!今、持ってきますよー!」


過労死マーケターの快進撃は止まらない。 極上のサウナ体験で辺境の男たちの心と肉体を完全に掌握した私は、次なる野望に向けて、勢いよく駆け出した。



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