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第11話:屈強な騎士団が『美容男子』に!? 怒涛の福利厚生で熱狂的信者を量産する

「たのもーう! 負傷した患者の皆様、いらっしゃいますかー!」


私は大量のクリスタル・ボタニカル・セラムと薬用ピーリング石鹸を台車に積み込み、城の敷地内にある騎士団の兵舎へと乗り込んだ。


「な、なんだ!?」

「だ、誰だあの美しいご婦人は……!」


男くさい汗と血の匂いが立ち込める薄暗い兵舎の談話室。

そこに、絶世の美貌(自社製品のエビデンスね?)を輝かせた私が突撃したことで、包帯だらけの屈強な騎士たちは、痛みも忘れてポカンと口を開けた。


「ごきげんよう、皆様! 私はシャルロッテ・フォン・ローゼンベルク。公爵様の名目上の妻にして、この辺境リゾートの総支配人、CEOです! 今日は皆様の火傷を完治させるために、極上の福利厚生をお持ちしました!」


私が名乗ると、騎士たちの間にどよめきが走った。


「あの方が、王都から追放されてきたという……」

「しかし、なんと美しい……女神のようだ」

「いや待て! 騙されるな、王都の貴族は底意地が悪いと相場が決まっている!俺たちを治すなどと言って何か怪しげな人体実験をする気に違いない!」


むぅ……?なんだろう。王都とこの領地の確執は深いのかな?

なにがあったかは知らないけど、私に対する不信感もまだまだ根強いらしい。別に私は王都の回し者じゃないんだけど……。

だが、優秀な営業マンにとって疑い深い顧客ほど、効果を実感した時の反動が大きいことを私は知っている。


「人体実験だなんて人聞きが悪いですね。これは立派なクリスタル・スライム由来の高純度EGF導入エステです! さあ、スライムの酸を浴びてしまった方は前へ!」


私が台車からきらきらと輝く美容液の瓶を取り出すと、騎士たちは怯えて後ずさった。

だが、そんな彼らを後目に一人の若い騎士が進み出た。

彼の右腕は真っ赤に焼け爛れ、痛々しい包帯が巻かれている。


「……っ、俺がやります! 痛くて夜も眠れねぇんです、どうせ治らねぇなら、いっそその怪しげな薬で腕ごと切り落としてもらった方がマシだ!」

「いやだから切り落としたりなんかしないって……。でも、 素晴らしい度胸です! では、さっそく施術を始めましょう!」


私は彼の腕の包帯を解き、お湯で泡立てたピーリング石鹸で優しく患部を洗い流した。


「痛っ……! いや、痛くない? なんだこの泡、すげぇフワフワしてて……いい匂いが……」

「古い角質とスライムの酸を中和しました! そしてここからが本番!」


私はボタニカル・セラムを手に取り、彼の焼け爛れた右腕にたっぷりと塗り込んだ。

スライムの持つ驚異的な自己再生能力が、ハーブの消炎作用と共に細胞の奥深くまで浸透していく。


「〜〜〜〜っ!?」


若い騎士が目を見開いた。

彼の腕を覆っていた赤黒い火傷が、みるみるうちに薄れ、新しい皮膚が猛烈なスピードで再生されていく。

たった数分後には、傷跡一つない……どころか、以前よりもツルンと輝く健康的な肌がそこにあった。


「な……治った……? 嘘だろ、あの痛みが完全に消えて……!」

「治るだけじゃありませんよ! 触ってみてください、保湿力もバッチリです!」

「す、すげぇ! 俺の腕が、赤ん坊のほっぺたみたいにモッチモチだ! すげぇぞ皆!!」


若い騎士が感極まって叫ぶと、遠巻きに見ていた他の騎士たちの目の色が一瞬で変わった。


「お、俺もお願いします!」

「俺も! 顔をやられて、これじゃあ一生嫁のもらい手がねぇと絶望してたんです!」

「俺は傷はないですが、最近冬の乾燥で粉を吹いてまして! スキンケアをお願いします!」

「はいはい、順番に並んで! お客様同士で押し合わないでください! 美容液はたっぷりありますからね~!」


かくして血と汗の匂いが染み付いたむさ苦しい兵舎は、ラベンダーとカモミールの香りに包まれた特設エステ・サロンへと変貌を遂げたのだった。


 * * *


翌朝。 城の中庭を視察に訪れた公爵アレクセイは、そこで信じられない光景を目の当たりにした。


「イチ、ニ! サン、シ! 肌のハリ!」

「「ヨシ!!」」

「ゴ、ロク! シチ、ハチ! 水分量!」

「「ヨシ!!」」


一番前で誰よりもツヤツヤの顔で号令をかけているのは、昨晩遅れて兵舎に戻り、部下たちから事情を聞いて自らも『えすて』を実践したらしい騎士団長だ。

その後ろで掛け声を上げながら素振り訓練を行っている数十名の騎士団員たち。昨日までスライムの酸で瀕死の重傷を負い、暗い顔で寝込んでいたはずの彼らが、信じられないほどの活気に満ち溢れていた。


何より異様なのは――屈強でむさ苦しい彼らの顔が、全員もれなくゆで卵のようにツルツルでピカピカに輝き、見事な水光肌を手に入れていたことだ。


「おい……。お前たち、その顔のツヤはなんだ。傷はどうした」


アレクセイが呆然と尋ねると、騎士たちは一斉に剣を収め、キラキラとした笑顔で振り返った。


「公爵様! 見てください、この弾力を! シャルロッテ様にいただいた『せらむ』とやらのおかげで、傷が完治したどころか、長年の肌荒れまで一掃されました!」

「髭剃り負けの赤みも消えたんですよ! シャルロッテ様は我ら辺境の民を救う女神です! シャルロッテ様、バンザーイ!!」

「「「シャルロッテ様、バンザーイ!! 究極のインナービューティー!!」」」


野太い声で響き渡る、王都から来た令嬢への熱狂的なコール。

昨日まで「王家の犬」と警戒していたはずの彼らは、たった一晩のスキンケア指導と圧倒的な福利厚生によって、完全にシャルロッテの熱狂的信者へと洗脳……もとい、ロイヤリティを高められていた。


「……あいつ、俺だけじゃなく、むさ苦しい連中の顔まで直接触って回ったのか……?」


アレクセイはピカピカに輝く部下たちの笑顔を見ながら、胸の奥を焼くようなドス黒い不快感を覚えた。


(白く柔らかい手で、俺以外の男の肌に触れたのか? 俺にだけ向けられるはずの極上の笑顔と甘い香りを、こんな泥臭い部下たちにタダでばら撒いたというのか?)


自分が一番の上客として、彼女の特別な手当えすてと関心を完全に独占していると思っていたのに。

まさか、自分の足元にこんな伏兵がいたとは。


「……騎士団長」

「はっ! 素晴らしい保湿力であります!」

「今日の訓練は、いつもの三倍だ。その無駄にツヤツヤした顔を、汗と泥で真っ黒にしてこい。……あと、あいつに安易に触れようとする奴がいたら、俺が直々に叩き斬る」


氷の公爵から放たれた、明らかに理不尽で大人げない、独占欲ダダ漏れの殺気にピカピカの騎士たちは「ひっ!?」と悲鳴を上げて一斉に走り出した。


「まったく、あの女は……目を離すとすぐにこれだ」


ため息をつきながらも、アレクセイの視線は、城の窓辺で「売上グラフ」のようなものを書きながらウキウキと笑っている妻の姿を、熱っぽく追いかけていた。


辺境リゾートの福利厚生は完璧だ。

過労死マーケターは、最強のスポンサー(夫)と、最強の労働力(美容男子化した騎士団)を手に入れ、次なる大規模リノベーションへと駒を進める……。



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