7-〈16〉
カリオストロが告げた。
「回線、一方的に拒絶されました!この方、有無を言わせませんねぇ……。」
「何ィ!?ラムセスのせがれめ、神を相手に何処までも傲慢な奴よ!!妾は行かぬぞ!?餅!タピオカ!ハンバーガー!愛い服に、ようやくありつけたというにッ!!」
ミカエルがため息をついて腕を組む。
「うーん。あたしのライフスタイル的には、新年にはこだわりがあんだけど……でもさ、正式な手順踏まないと、エジプト・メイソン・リーの人達、オシリスの冥界行けないのよね?冥界の裁判次第では、太陽の船に乗る……あたしは詳しくはないわよ?イシスの魔術習った時に死者の書、ちょっとかじっただけでさ。だから、あっちが招いてるなら、ある意味好都合だけど……悪の解放は今弱まってるし、ツナやポテト達がいて、日中はラーの守りがある。しばらくの間は、黒騎士も回復の為に動けない。行ったら行ったで、オーエンがいればラムセス二世の設計したメカの装甲は強くなるんだし、ラムセス二世の叱咤激励があればツタンカーメン王達は気持ち的に強くはなるかも。エジプト・メイソン・リーの守りを固められる。意外にクリスマスへの配慮もあるわ。どうする?行くんだったら、好機ではあるわよ。」
オーエンはイライジャの両手を取り、輝く眼差しだ。イライジャは嫌そうに眉をしかめた。
「え?マジ?オレを見てる?」
「行こうイライジャ!!仲間たちを弔う必要もあるし、ファラオ達の強化合宿だって助けなくちゃ!僕らが余裕が出来たのは、元はと言えば同盟したラーが日中を守ってくれたおかげだよ!」
「えー……マジで、オレも?」
「イライジャは影の国の支配者だし、万が一の時、影の国を通れば、即座にミズーリ州コロンビアの事件に対応出来るでしょ?」
「オレさあ。暑いのやだ。」
「イライジャ!こういうのはどうかな?あえて高級ホテルを避けて、市場の焼きたてのパンを買って、地元のアラブ料理を堪能する係。」
イライジャはいきなり気乗りして、天邪鬼にも笑いだした。
「へぇ?そっちなら興味あんな。スーク!アラブ料理!現地でアルブレヒトとダナイに学ばせようかな?アミナは食べる係。なぁ、連れてっていいか?」
「OK!僕もキットとラジーを誘うから。」
ミカエルがボヤいた。
「ラジーはそんなに毎回、お仕事休めないってば。オーエンが学者になるまで老衰してらんないって気張ってんだからね?」
バステトは、チラチラとオーエンを見ていた。
オーエンも気づいた。
「バステトちゃんは、残ってお餅食べてる?」
バステト急接近。
「妾もやっぱ行くー!!餅は茹でる前の硬い状態でエジプトまでモチ込む!モチだけにな!!フッ!!」
バステトの親父ジョークは、何だか韻が踏める感じだ。
「嫌じゃなかったの?里帰り」
「アフラ=マズダ。……いいや。そなたは第二のアフラ=マズダ、オーエン・テイラーだ。オーエンの涙で、死んだ民らは報われ、その魂は善性を保てたのだ。あの殺され方に、恨みも辛みもあっただろうに。そして、妾とて例外では無いぞ。殺戮兵器でしかない妾が、変わりつつあるのだと、妾自身がわかるのだ。年老いたラーとはまた違う穏やかさだ……そなたのあたたかさは、人を変えるのだ。まぁ、いくら聡いとはいえ、オーエンはなかなかの阿呆の子ぞ?ガイドに騙されぬよう、妾が真実の知識へ導いてやらぬでもない!!」
イライジャがからかった。
「ヒューーッ!!バステトちゃん、オーエンといたいんだってよー!」
「これ!!悪神!!冷やかしは許さぬぞッ!!」
その晩、雪が吹雪いていた。
荘園。
原初回帰主義者達の村だ。
影の国から、自らもまだ重傷の親衛隊、ドゥルズーヤー、クナンサティー、ムーシュが、自身の指揮官の身を案じ、テオドールの鍛冶屋を訪ねた。
「テオドール様」
「度重なる訪問をお許しください……」
「アンタ達か。吹雪いてちゃあ寒かろう?俺ァ無骨者でな。茶も出ねぇが、入るか?」
「いえ。貴方様の場所は不可侵の領域です。我らは違反は致しません。……黒騎士様は、いかがでしょう……?」
テオドールはぶっきらぼうだが、心配を取り払ってやった。
「昨夜、乗り越えてな。一命を取り留めたぜ?アンタ達も、ドナ=ジョーが無茶したら、そんときゃ、殴ってでも止めてみせな。後から自分が後悔するより、マシな生き方だぜ?」
ドゥルズーヤー、クナンサティー、ムーシュは、俯き、泣きながら頭を下げた。
「ありがとう、ございました……!」
「我らも胸に釘を刺しましょう。止めることもまた、使命ですね……帰って、黒騎士様の生存を皆に伝えます。」
「黒騎士様に代わって、今は我らがパリカー達を治療せねば……!」
テオドールは親衛隊のおデコをつついて回った。
「アンタらは、人の話は聞いてんのか?心配はお互い様だぜ。ボロボロの仲間をドナ=ジョーは望むまいよ。アンタらは、自分で自分の治療に務めながら、部下達にも自力で治療に専念するよう促しな。黒騎士が復帰するまでには、元気な面を拝ませてやれよ?」
親衛隊は、テオドールの言葉から、黒騎士の愛を感じ、顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら答えた。
「はい……!!はい……!!」
「黒騎士様を、お頼み致します……!!」
「お世話になりました……!」
テオドールは、親衛隊がゲートへ帰るのを見送ってから、寒い吹雪を遮るようにドアを厳重に閉めた。
室内に入り、ザシャ=アシャのベッドで休むドナ=ジョーの元に歩いて行く。
「お前さん、俺に二度も子の死を見させてぇのかい?馬鹿な真似しやがる。エジプトの猫の神なんて、危険信号は見えてるじゃねえか。そりゃあ殺戮の女神バステトだろうよ。」
「なるほど……学問が、及ばなかったが……確かに、とても勝てる領域では、無かっ……うっ……!」
テオドールはベッドサイドの椅子に座り、改めてため息を吐いた。
「悪魔であろうと自己再生は限界だったろう?人間のロケットランチャーと神の鉤爪じゃ比べ物にゃあならん。病院の手術が何秒か間に合わなければ、お前さん生きてはいなかったぜ。少なくとも、直腸は短くなっちまった。全く……俺の息子と同じ、胴体切断で死ぬなよな……さすがに参っちまうぞ、俺もよ。」
「案……ずるな。テオドールさん……わたしには治癒能力も……いいや。違うな。貴方を、苦しめてすまない……まだ、アシャの後は追わぬ……。」
テオドールは気づいた。
「聖騎士の指輪をどうした?」
「……相応しい者に託した。わたしは……アシャの正道に背く、虐殺を行ったのでな……わたしの手が、穢れる前に……手放した……。」
「アンタは、生きづらい人間だな。アンタの善性は、その行いに自らを苛むってぇのによ。」
ドナ=ジョーは自身の手を眺めた。
「わたしが、恨みで殺してしまった家族は、もういない……だが、この負傷は、いい時期に当たったものだ……クリスマスなど、二度と無いと考えていたが、治療の休暇だ。テオドールさんにサラダを作って、アシャの代わりに……母の代わりに、親孝行が出来るからな。」
テオドールさんは腕を組み、応じた。
「あのやたら旨いマヨネーズのサラダか?そりゃあいいが、ならばクリスマスまでにはもっと元気になりゃなけりゃあな?」
「ふふ……う、くぅっ……」
テオドールさんはドナ=ジョーの額に乗せていたタオルを取って、寒い中で氷で冷やしたバケツの水にタオルを突っ込み、冷たさで両手を真っ赤にしながらタオルを絞って、ドナ=ジョーの額に戻した。
痛みで、高熱を出しているのだ。
「……わたしが妬みで殺めた妹達は……クリスマスだけは、家族に孝行するんだ。……サプライズで買ってくれたワンピースや……安物だけど……自分達の小遣いを使わないのは、その日の為で……皮肉屋でワガママで、いじめっ子の、不器用な子達。わたしは、嬉しかったはずなんだ……完全悪など……なかなか、いなくてな。」
「そいつがわかりゃあ、アンタは成長したのさ。今は悩むな。楽なことを考えて眠りな。」
テオドールさんは、点滴が切れれば取り替えた。
ドナ=ジョーが眠っても、椅子に座って、定期的にタオルを冷やした。
こんなことは、バカですぐ知恵熱を出すザシャで慣れていた。
ザシャ=アシャの意思と、その役目は、テオドールさんが果たすと決めたことだ。
それだけが弔いならば。
魂すら消えた、我が子よ。
お前が守った人は、俺が死なせねぇ。
学校が再開してすぐ大量の宿題を抱えて帰ってきたキング達に、アエーシュマは瞬きした。
「ん!?んん!?日中の安全で、ハイスクールは再開では無かったのかね、キング君ッ!!」
「残念だがな。明日から冬季休暇だぜ、アエーシュマさんよ。自然と馬鹿が集まる俺ん家では、俺を筆頭に悩みの季節でな。悪の解放はテスト勉強どころじゃなかったしよ、赤点分みっちり宿題が増やされたぜ。笑ってられるのはクリスマスぐれぇだ。」
「有り得ねぇ……特に歴史の量が、休み分追加されてやがる……ハワードの野郎……!」
入院してる癖にハワード先生が根詰めて作った愛のムチである。
弱りきったコリンに、アーラシュが笑いながら告げた。
「コリンは一年逃げ続けたイタリア語の宿題もあるしな。まぁ、今はアエーシュマさんもいるし、大丈夫じゃないのか?」
アエーシュマは状況を把握するなり、ピシッと腕を組んで背筋を伸ばした。
「冬季休暇の宿題ッ!よろしいッ!!わたしが来たからには、コリン君のイタリア語はA+にッ!!そしてお母君のお手伝いに自慢のフレンチ料理を披露しようではないかッ!!」
キングはニヤリと笑いながら尋ねた。
「アンタ本当に悪魔か?つくづく、多才な……!!おいッ!?」
近くで、影の国のゲートを感じ、キングは身を翻し自宅を飛び出した。
アールマティが知らせた。
(見られています、ワイアット!!悪魔の観察対象は、貴方の家ですよ!至急わたくしと貴方で応戦しましょう、帰宅するマッマ達を危険に晒す訳には行きませんからね。)
「おうよ、天使様ッ!!」
ゲートの前の女悪魔は、パリカーでは無かった。
顔の火傷。黒いボンテージの女悪魔。
恨めしく睨んでいたのは、長く敵対してきた、あのジャヒーだ。
「……てめぇは……!」
アエーシュマが駆けつけると、ジャヒーは呪いのように呻いた。
「責務を放棄したアンタは、あたしが殺しに来るわよ……この裏切り者ッ!!アンタは、アンタの悪神群を見捨てたわッ!!」
アエーシュマは苦悩の表情に変わる。
「おお……ジャヒーよ……!!」
「アンタも、女を捨てる男達と同じよ……せいぜい暗闇を恐れなさい。あたしが闇からアンタの喉をかっさばくからね。」
呪い紛いの言葉を言うだけ言ったジャヒーは、影の国のゲートへと帰って行った。
残されたキングは、ジャヒーの言葉の引っかかりを、アエーシュマに尋ねた。
「アエーシュマさん。アンタ、あの女に何の責任があんだ?アンタの……悪神群、だと?何の話をしてやがる?」
アエーシュマはジャヒーを思い胸を痛めながらも、答えた。
「キング君。わたしは、わたしこそが、悪神群の開祖たる者。悪魔であり悪神、怒りと欲望のアエーシュマだッ!悪神群は大魔王アンリ・マユ様では無く、わたしが組織したもの!始まりに二つの魂あり……それが、善神と悪神。対決を避けられないと悟った二神は、各自、天地や砂漠、仲間を生み出した。わたしはアンリ・マユ様に創造され、自由奔放だった悪魔達を統括した。それが、悪神群なのだ。それ故、どんなに愚かな悪魔であろうが!わたしには、彼らの責任が伴うッ!!せめて初期のメンバーくらいは、わたしがこの手で助けてやらねばなるまいよッ!!タローマティもドゥルジももはや手の及ばぬ場にいるが、ジャヒーは違うッ!!彼女は、わたしが背負うべき責任なのだ!」
キングは真摯に聞き、頷いた。
「ならば、俺も手を貸すぜ。先にアンタの手を借りたのは俺だからな……ジャヒーの悪の運命は、俺達でぶっ壊すぞ!!」
いつの間にか聞いていたコリンとアーラシュが応じた。
「ほとほと難しい話ではあるが、ワイアット、お前とアエーシュマさんなら叶うだろうさ。無茶でしか無かった一人の、アエーシュマさんが、今こちらにいるんだからな。」
「俺だってダイヤモンド・クルセイダースだぜ!任せてくれよ!皆で、セクシージャヒーの凍った心を溶かしてやるんだ。よし、ハリソンにもメールした!」
アエーシュマは皆の支援を受けて、燃え盛る。
「キング君をはじめ、皆々方が力を与えてくれているッ!!わたしは苦しむのはやめよう!あるがまま、ジャヒーと向き合い、その運命を打ち砕くのみよッ!!」
ブブー、とコリンのスマホが鳴った。
「ハリソンのメール。はええな。」
コリンがメールを開いた。
〈あのダイナマイトボディの女悪魔だろ?抱きてぇー!!俄然やるぜオレは!!〉
「やべ。一人、私利私欲じゃん!」
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