7-〈15〉
「ツタンカーメン王がそのように低姿勢であられましては……わ、吾など、どうなるのでございましょうか?吾は王位継承権を持つ長女ですが、王ですらございませんよ?」
美しい声の人だ。まるで木の葉の囁きのように、耳に心地よい。
この人は、アフリカ人では無く、白人に見えるが。
「ええと……アレクサンドロス大王の侵攻以降の、プトレマイオス朝の人……?」
オーエンの、誰だろうという顔に、ますます彼女は恐縮した。
「まずはアフラ=マズダ様に謝罪を。ゾロアスター教国アルメニアのアルタヴァズド一世を家族諸共処刑したのは、この吾なのです。」
オーエンは瞬き。そんな過激な人には見えないのだ。
「アルメニアの王家には申し訳ないけど……昔のアフラ=マズダを知らないから、僕には歴史としか感じられない、かな。後できちんと弔おうか?……ところで、今のは最大のヒントだよね?アルタヴァズド一世はローマサイドの人で、役に立てなくて、ローマ皇帝に連行されたはずだ。」
「如何なる罰も受けますが、出来ましたら、寛大な処置を下さいまし……」
オーエンは答えに辿り着いて、彼女を見てまた考え直した。
「何にも罰なんか考えてないから、怖がらないで。貴方は……アントニウスの……いや?でも……」
彼女はいたたまれなくなって正体を明かした。
「実は……お恥ずかしながら、吾は、世界三大美女のクレオパトラなのです。実際には美女ではございませんし、この声と話術だけが取り柄の外交官のようなもの。王なのは吾と結婚した弟ですし、吾の役割はローマとの和平。結果的に、吾はローマから国を守れずに死んだ女。知名度によるパワーアップすら、殴りが強くなったかぐらいで……口惜しながら美しさアップなど、吾にはありませんよ。」
クレオパトラ!!
オーエンはすかさずフォローした。
「いや、貴方は英雄だよ!古代エジプト末期を何とか長らえさせたじゃないか!別に顔が悪い訳でも無いんだし、すごく綺麗な声だし、何故そんなに萎縮を?外交は素晴らしい功績じゃないか、ローマのトップを二人も魅了してるし!」
ツタンカーメン王がぽつり。
「身に余る噂が1人歩きした御身の苦しみ、不佞は理解致しますよ。世界三大美女とは……背負っている重たさが桁外れでございましょう。貴方様は、泣き崩れずに、よく耐えられた。クレオパトラ様は、過酷な思いをなされたのですね……。」
ツタンカーメンの深き理解に、クレオパトラは顔を覆った。
「はい!はい……!御理解に感謝致します、ツタンカーメン王よ!正直、当世にあってクレオパトラだなどと名乗りたくも無く!吾は話術で外交を乗り切った次第で、しかも歴代彼氏が二人ともローマのトップだっただけで!何故世界三大美女などと?誰が嘯いた呪いですか?やはり影響が大きいのはシェイクスピア?絞め殺してやる!!吾に美しさなど求められても困ります!だいたい、最終的にはアントニウスとやりたい放題して、古代エジプトを滅ぼした女ですよ!?ニトクリス陛下、吾にもマスクを作っていただけたら!せめて顔を隠していたら、乗り切れる気も致します故!」
困りきったニトクリス女王。
「そのように気になさらずとも、良かろうかと思いますが……確かに、こなたもクレオパトラ様と察して、華やかな印象がありましたから、ドレスを着せてしまいましたが。思い詰めさせてしまったのでしょうか……マスクは、はい。これで、持ち直せましょうか?」
マスク組、ツタンカーメン王とクレオパトラは、どんよりと落ち込んだ。
「不佞は、民を助けたい次第にて参りましたが……正直、今は後悔でしか無く……肉体を授かりましたが、もう死んでよろしいか?」
「吾もそうです、ツタンカーメン陛下!いっそ都合よくコブラに噛まれたい……!」
ニトクリス女王も、ついに弱り始めた。
「こなたより実力確かなあなた方が死ぬぐらいならば、マイナーなこなたはどうなるのでしょう。こなたの伝承など、弟を殺され、復讐の為にペル・アアの権威を使い、殺しまくって自害した者なれば。ただの噂なれど、この身は信仰の結晶にて。うっすら、記憶すらある気が致します。魔術王だのホルス神の化身だなどと、ただの意地にございますよ?」
バステトが眉を寄せた。
「何故、妾がチョイスした王達は、自害の方向性で団結を?」
デカい音声が割り込んできた。
「そこなバステト!見よ!!アメンの化身たるこの朕様の超アメン的な素晴らしい超アメン合体を!重要だから二度言ったぞ!超アメン!!ぬわーっはっはっは!!」
薄型ホログラムには、アブ・シンベル神殿の四体の巨像だったラムセス二世が、立ち上がって飛んだり跳ねたりしている映像が。一人は上半身が無いから、間違いない。
オーエンは釘付けになった。
「えっ!?どういうこと、ひとつの魂で四体とも動いてる!」
カリオストロが告げた。
「バステト様!エジプトから回線開きました、ラムセス二世です!」
「うるさいのが目覚めたか。あやつが静まるまで回線を切れ。」
「ただちに!」
回線をシャットアウトすると、再び回線が繋がった時、ラムセス二世はさっきよりもっと巨大なメカになっていた。
ジャパニメーションに近い太いボディの、超近代的な巨大ロボットである。
観光客が皆スマホをラムセス二世メカに向け、ラクダのガイドが新たな名物として、その場で思いついた逸話で売り込みを始めている。
「ファッ!??」
「すごいや!!四体のラムセス二世が、合体したんだ!!ラムセス二世陛下、どうやって!?」
困惑するバステトと、盛り上がるオーエン。
「ぬわーははははは!!愚か者めバステトよ!回線を切って後悔したな!太陽のアメンと聖なる火、やはりアフラ=マズダにはわかるよなぁ!?この朕様に魅了されたよなぁ!?これぞ超アメン合体、四体の朕様が合体し超アメンメカ・ラムセウスが爆誕したのよ!!設計、朕様!パイロットも朕様!!ちなみに一部は神殿と墓!一体上半身が欠損したからな!そして!!来たれ、ホル・エム・アケトよ!!」
超アメンメカ、ラムセウスの元に走って来るのは、大スフィンクス、地平線のホルスだ!
走りながら変形!
各遺跡と合体し、巨大化!
バステト憤慨!
「馬鹿たれめ!!神々を祀った神殿を、なんと馬鹿な使い道にしておるッ!?」
「神の化身たる朕様に不可能はなぁいッ!!」
巨大化ホル・エム・アケトは決めポーズで咆哮!
「これぞ!朕様の騎乗メカ、真・ホル・エム・アケトの爆誕であるッ!!!」
オーエンは大興奮で早口になった。
「これを古代エジプトの時点で!?ラムセス二世が設計、開発してたの!?超アメン合体も、真・ホル・エム・アケトも、貴方の作品だよね、ラムセス二世陛下!!ロストテクノロジーだ!古代科学だよッ!!」
ラムセス二世は理解者を得て嬉しげ。
「ふぅむ、わかるか?わかるよなぁ!この魅惑のスタイリッシュデザイン!あえてボディラインの太めな巨大ラムセウスの浪漫がッ!!古代では不敬なデザインとか罵倒されたものの、朕様の設計は超未来的アメンだったという訳だな!ぬわーははははは!!」
ツタンカーメン王とクレオパトラが察し、素早くラムセス二世に土下座した。
「天才的建築王、アメン神の化身、ラムセス二世陛下!なにとぞ、そのパワフルさを持ってして、不佞たちを導いていただきたく!」
「吾共にご指示をば!ちなみにツタンカーメン陛下には素顔の即死スキルや全体随一の魔力が!吾には話術と多少の外交術がございますれば!!」
ニトクリス女王、頭を抱えた。
「仮にも実力随一のツタンカーメン王が、後世のラムセス二世に丸投げなど……逃げてはなりませぬよ!!」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!で、ですが、戦力は戦力、外交は外交、リーダーシップは持ち合わせのある方にこそ、正しい役割分担ではございませぬかッ?不佞は戦いからは逃げませぬ!名だたるペル・アア達と並ぶことから、逃げております故ッ!!」
「吾も!吾もツタンカーメン陛下と意見は同じくにてッ!!」
ラムセス二世はコックピットの中で超フサフサ睫毛を瞬きしながら、謎がり、やがてハッキリ告げた。
「そなたらは確かに生前の功績は未熟なりし王……墓作りも神殿作りも朕様には遠く及びはしなかろう。あのモーセの海割りすら、見た事もなかろうよ。だが!ツタンカーメンよ!朕様達の栄華ある古代エジプトを当世の世界に知らしめた死後の偉業、あれ程のミイラ泥棒が横行した中、大御所の朕様にはなせる技では無いぞ!!あえて補佐はしてやるし、弱音や言い分は理解する!確かにアメンたる朕様には生まれつきのリーダーシップありき、指示や助言くらいならばいくらでも出来よう!しかしッ!!あくまで宰相的アメンでしか役割は受けぬぞ!!この叱咤を受けよ、ツタンカーメンよ!力ある者の責務から逃れることは、断じて許さぬ!!王ならば誰しも心得ていよう使命ぞ!!そも、バステトとて言うだろうが、朕様はあくまで建築王で設計の天才!このアメン合体とて、仕組みは完璧でも強度など当世にはろくに及ばぬ!そこなアフラ=マズダよ、そなたは科学にも強かろう!朕様のラムセウスに強化資材を作れ!郵送で構わぬぞ!」
オーエンは俄然やる気だ。
「いえ!強化資材は開発して、僕が現地に運びます!!超アメン合体を見たいしロストテクノロジーの仕組みを学びたい!イライジャ、いいよね?」
イライジャは瞬きしながら親友に呆れた。
「いーけどさぁ。影の国でも自家用ジェットでも。でもマジ、お前……いや。いいわ。とりま、善悪合体とかすんなよ?」
ツタンカーメン王はラムセス二世のお叱りに意を決し、応じた。
「御意にございます!不佞の決意に必要な叱咤なれば!不佞とニトクリス陛下が戦い、クレオパトラ様は外交、それらの助言とまとめ役はラムセス二世陛下が!そしてラムセス二世陛下は宰相的アメンであり、皆様のすべての責任は、僭越ながら不佞負います!!」
「ぬわははははは!それで良い!幼くも責務あるそなたの支えとして、神々しき朕様の御身を見せてくれよう!!」
コックピットが開いていく。コックピットの位置はなんと左胸だ。古代エジプトらしくも、心臓部ということか。
現れたのは、細身のアフリカ人の繊細なイケメンモテ男!
全身スーツはブラックで、何故かあらゆる場所にぶつかりそうに尖った肩パッドに金装飾、股間にはアメン神のマークが!!
「スタイリッシュだ!!イケてるッ!!!」
「「え??」」
感動するオーエンに一同が困惑。
「朕様の見姿を拝謁し、さぞ涙腺崩壊であろう?このバトルスーツはこのような事態を見越した朕様が、オシリスの元、魂の頃より編んでいた超未来式アメン!!朕様こそが、未来ペル・アア、アメン神の化身、ラムセス二世であるぞッ!!」
「はは〜ッ!!」
「光栄です!!」
オーエンとツタンカーメンがひれ伏した。
ペル・アア達も、土下座しているのはツタンカーメン王のみだ。
まともなニトクリス女王のみならず、クレオパトラが眉をしかめた。
「え?これが、ラムセス二世陛下……?服装ヤバくない……?イケメンなのに、服装!!」
「クレオパトラ。口に出さずに。ああいう王だからこそ、独自のカリスマで、民に愛された……のでしょう……。」
バステトはドン引きだ。
「最悪だな!下半身を隠せ!アメンは確かに後から生まれた神ではあるが、そなたに今のアメンの気持ちはわかるまいよ!この恥知らずの大うつけ者めが!!」
ミカエルは保護者視点で仲裁に入った。
「まあまあ。バステトちゃんとニトクリス女王、クレオパトラは目を逸らしていいんだから。ちょっとラムセス二世?やんちゃなのはわかるけどね、そこを主張すんのは当世的にはタブーなのよ。」
「ダメか?朕様の最高のファッションに、まだ時代が追いついてはおらぬのか……。なかなか文明が進まぬものよな。」
「そうかな?パリコレのモデルさんみたいで、すごく素敵な王様だよ。僕の憧れのファラオが、想像以上にかっこよくて嬉しいな。」
オーエンの褒め言葉に、ラムセス二世は双眼が煌めいた。
二人はあたかも双子のように惹かれあっていた!
太陽のアメン、そして聖なる火のアフラ=マズダだからか?
「フッフーン!!朕様はオシリスの国で粗方学んだぞ!アフラ=マズダよ、季節はハイスクールも冬季休暇!!モーセ縁の異教のクリスマス行事は、家族で集まるのであろう?その日を終えたら、そなたらは朕様の元に来るが良い!!神々とペル・アア達のエジプトにおける強化合宿とする!!そなたらの国とて、カリオストロ一人では医療班は回らぬ!加えて、エジプト・メイソン・リーの民らの遺体を運ぶのであろう?オシリスの元に導いてやらねばならぬし、王墓こそが安置に相応しかろう!!旅支度をして待つが良いッ!!!そして、良いクリスマスを!!幸せならばモーセは不服無かろうからな!!ぬわーっはっはっは!!!」
通信が切れた。
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