7-〈14〉
オーエンとイライジャは、日中、ロッジの血の清掃と、素早い死体の回収、バステトの荷物運びをした。
ミカエルがロッジに来ていて、カリオストロの再起動にかかりきりだった。
そのうちバステトが復帰し、カリオストロの部屋に顔を出した。
「哭いたら腹が減ったぞ……そこな娘!餅を作れ!!妾に貢ぐ事を許す。」
疲労困憊のミカエルが反抗した。
「はぁーッ!?モチどころじゃないでしょ!あたし今、最後の要のカリオストロにかかりきりなんですけどぉ!?」
カリオストロは目を開けて、素早く天使達に指示した。
「天使達よ!この状況をサタン君に……あれ?ハワード先生は何処に?」
バステトは驚いた。
「なんと、死の直前までのバックアップを保持しておる!いや、これは、娘の魔術か?」
ミカエルは自慢げに鼻の下をかいた。
「まーねー。錬金術も魔術も、あたしの特技だし。エジプト・メイソン・リーにはわからなかったみたいだけど、カリオストロの脳自体にオートバックアップが機能してて、それ利用しながら、損傷した肉体を治癒して。カリオストロにはイシス女神の恩恵があったから、あたしじゃなくてイシス女神の魔術が蘇生させたんだけど、イシスの媒介になったのはあたし。ホムンクルスの黄金律の御業ってヤツね。」
バステト大興奮。からの、急接近だ。
「褒めてつかわすぞ、娘!カリオストロのイシスの加護まで気づくとはな!自らの肉体にイシスを宿すなど、只者ではなかろう!?名を覚えてやろう!!名乗れ!!」
「あたしはミカエル・サンダース、当代No.1の魔術師よ!ちなみにあたしは娘じゃなくて両性具有だから!おねにいさんよ!!」
バステト、更に大興奮。
「何ィーッ!!ミカエルはおねにいさんとなッ!?許す!ラーに拝謁し、メンバーに加入するが良いッ!!」
「あぁ、お誘いは嬉しいけど、あたし魔術師であってあっちこっちの神様使役しなきゃならない身なのよ。恨み買うのはヘカテとイシス女神で充分だから。ちなみに、貴方も神様よね?どちら様かしら。」
カリオストロが咳払いした。
「女子会ノリは程々になさってくださいませ?これなる方こそが、わたくし達を率いておられたラーの目、ことッ!!」
バステト、仁王立ち。
「バステトちゃんであるッ!!……自称はウザイか?なんなら、通称にせよ。」
「バステト、ちゃん……?女神バステトってこんなフランクな伝承だったかしら?」
オーエンが駆けつけた。
「元気になってる!良かった……!!」
「うむ!酷い惨状ではあったが……妾が再起せねば、世界の各支部が守れぬのでな。カリオストロよ!聡いそなたはわかっておると思うが、ミズーリの仲間は全滅した。」
「……皆さんを、オシリス様の身元へ送らなければ。そして、バステト様。もしや、ペル・アア達を各支部へ?」
「うむ!皆、ついてこい!!そこな邪悪な神も、民の遺体を運んでくれた礼だ!秘技を見せてやろうぞ!!」
イライジャはニヤついた。
「へぇ?バステトちゃん、太っ腹〜!」
「……アフラ=マズダよ。そなたの親友、チャラいな?正反対の方が惹かれ合う、というヤツか?」
オーエンは苦笑した。
「まぁね。そんな感じ。」
バステトは皆を連れて、エジプト・メイソン・リーの地下、一際広く科学的な広間へ。
床には、イシス女神の加護である術式が描かれ、イスラムのムハンマドの御業と重ねて起動するという、一見ごちゃ混ぜで胡散臭い錬金術システムだ。カリオストロが率先して電源を入れて行くと、投影画像が表示された。
薄型ホログラムである。
遥かエジプトの、ギザにあるアブ・シンベル神殿の、ラムセス二世の四体の巨像や、大スフィンクスが表示されている。
ミカエルが感心してボヤいた。
「よく一般オカルト組織がイシスの術式を組めたわね〜。これもバステトちゃんの知恵かしら?ムハンマドのは、なんで?宗教違いでも利用しちゃう訳?確かに、可能だけどさぁ……」
バステトは苦い顔だ。
「妾は手を貸しておらぬ。イシスは苦手でな……アレは、ホルスの母親であろうに、ちょっと下ネタが隠しきれぬ女神ぞ。これは我が配下カリオストロの学術の成果である。たとえ苦手であろうと、イシスと魔術は切っても切れぬ縁なのでな!ムハンマドの御業の組み合わせは、カリオストロ式の錬金術だ。魔術師では無いからな、このシステムで魔力を供給するぞ。」
カリオストロが出力操作台に立った。
「バステト様、こちら、いつでも!!」
オーエンが眉を潜めた。
「何を始めるんだろう。黒騎士への報復?」
ミカエルが告げた。
「ううん。黒騎士からの、民の防護よ。英雄の受肉ってことね。エジプトでは、やっぱり英雄はファラオじゃないの?」
オーエンは高ぶった。
まさか、生きたファラオに対面出来るだなんて。
「イシスの加護をもってオシリスの支配領域を開門す!来たれ、保管されし王達よ!!今こそ我らの民を守る時ぞ!!!」
オシリス、とは、イシス女神の夫でホルス神の父、ラーの子であり、神話上では初代のファラオである。
訳あって死者の国の王となり、つまりオシリスの支配領域とは、死者の国だ。
ゲートが開かれる。
凄い勢いで飛び出した魂がいるが、バステトがテニスラケットでぶん殴った。
「そなたはこちらでは無いわ、エジプトぞ、馬鹿者が!!自慢の肉体があろう!!」
凄い勢いの魂は消えて、各、落ち着いた魂が並んだ。
オーエンは眉を寄せた。
魂、としか、言いようが無いが、これらは何なのか?
「これ、魂……?目に見えるものなの?」
カリオストロがふんぞり返った。
「それは、わたくしが!特別にィッ!霊子を視覚化した装置によります!!」
オーエンがバステトに振り向いた。
「じゃあ、なんで物理が当たるの?バステトちゃん、さっき魂を殴打しなかった?」
バステトはテニスラケットを構えた。
「このテニスラケット自体が、妾が霊子で編んだ物ぞ?テニスラケット自体、この部屋でしか見えぬ。」
イライジャは大喜びだ。
「へーーッ!!すげぇじゃん!悪神サイドでもこりゃあ見た事ねぇな!カリオストロは仇だが、魂を視覚化?ちなみに、ぶん殴られたヤツ誰よ?」
「アイツはラムセスのせがれよ。さあ、ペル・アア達よ!再び肉を与える!!大いに働き、今までの学びの成果を見せるが良いッ!!」
魂達が肉体に包まれていく。
肉体構造を編まれているのだ。
「ミイラに魂入れるんじゃねーんだ?」
「新しく人類の肉体を、リアタイで作っている?これは、バステトちゃんが?」
「何度も言うが……妾の特技はバトルでな。これは創世神ラーが、妾を媒介に、血肉を与えておるのよ。ラーのアクセスが行き渡る為の、イシスの術式でもあるのだぞ。」
オーエンは改めて、バステトを通さなければわからない、太陽神ラーの強大さを思い知った。
「そんな大御所と……僕が、同盟したのか……?」
肉体が完成したファラオ達は、気づいたら全裸だし、女の人がいるではないか。
オーエンは慌てて後ろを向いて、急かした。
「誰か!早く服をあげて!!」
「その必要はありません。こなたがおりますから、御安心召されよ!」
ファラオの女の人の一人が、自らの術式で各ファラオの衣服を編み出した。
「え……えぇ!??」
ミカエルが度肝を抜かれる。
「何それ!?詠唱も無く溜め込んだ魔力も無しに!?」
「はい。こなたにはホルス神の化身として、イシス女神から与えられた権能がございますから。魔術、では無いのです。仕掛けの無い、魔法の方が近いでしょうか。もっとも、バステト様は戦力としてこなたをお選びなのであり、王としては墓作りの功績もろくにはございませんが……」
ミカエルはしみじみと頭を抱え、ハッキリ思い出した。
「……そーだァ!貴方がニトクリス女王ね!?ホルス神の化身の魔術王!かなり古いファラオよね……貴方が一番偉いポジじゃないの?」
ニトクリス女王はきちんと現代の衣服を着て、微笑した。
「現世にこなたの名がわかる者がいたとは。まぁ、現代神話のクトゥルフなんかでも、こなたの名は出てきますが、現実ではマイナーな王ですし、言うほど偉いポジではありませんよ。こなたの力はイシス女神からの借り物ですし、死後の知名度でトップクラスの、この子の魔力には及びませんから。」
オーエンは服を着たことを察して振り向くと、異様な少年に気づいた。
いや。
そのマスクに、幼い身体は。
もう、1人しかいないのだが。
「断定するに、ツタンカーメン……王、だよね?なんでマスクを?さっきはつけて無かったよね?」
幼いツタンカーメン王は、オロオロしながら、いきなりの土下座。完璧なフォルムだ。
「ファッ?」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!!不佞が無能で敬られぬペル・アアだからこそ、不佞の小さな墓が未盗掘で発見されて……死後に偉大なペル・アア達の知名度を追い越してしまい!!ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
慌ててニトクリス女王が庇って言い聞かせる。
「ペル・アアたるもの、土下座はなりませぬ!ツタンカーメン王よ、よろしいではございませんか!貴方が見つかってこなた達の栄華が広まったのですし、貴方の知名度による膨大な魔力は、たくさんの民を救える力ゆえ!もはや無力な王にあらず、ですよ!」
ツタンカーメン王、恐縮。
「民は救いたいから来ましたが……こんなに偉大なペル・アアと並ぶなどと……アテンなる信仰強制は打ち消したものの、ただの傀儡だった不佞には、とても許されませぬ!ど、どなたか!ちょっと不佞を低いところへ置いて下さらぬか!?暗くてジメジメしていたら尚良!!不佞はキノコのような性分ですので!!」
イライジャがちょっと低い足場がある影の国のゲートを開いてやると、ツタンカーメン王はそこに正座して安住。
「助かりました……同じ大地など、頭が高過ぎてとても。」
イライジャは笑いながら返した。
「どーいたしまして?ただ、俺の国、邪悪らしいけど、お前こんなとこ入って大丈夫なの?」
「全然構いませぬよ!?不佞が偉大なペル・アア達と同じ床に立っている方が許されませぬよ!?……ちょっと帰りたくなってきました。オシリス神の国に。」
「そんな……何故そのように頭が低いのです。貴方はこなた達の中で、死後の実力はトップクラスでしょうに……。」
話がわからないオーエンは、恐縮しているツタンカーメン王に尋ねた。
「あの。王様、話せますか?」
ツタンカーメン王、再びの見事な土下座だ。
「ラーが同盟なされた善神様にお話するなど!恐れ多いぃぃぃぃぃぃぃ!!不佞のことは空気とお思い下され!気安く拝謁を許してはなりませぬよ!?」
自虐がすごいな。
オーエンは追い詰めてもかわいそうなので、ミカエルの方に尋ねた。
「……えーと。ミカエル?ツタンカーメン王は確かに、何か特殊なことは無い王様のはずだよね。とても幼い時に戴冠し、とても若く亡くなった。活躍が無いって訳じゃないけど、アテン神排除活動やアメン神信仰復活では……でも、この子が言うように、母やアメン神官タチの傀儡だった説もあるし。何故、ファラオ達の代表扱いなんだい?英雄の強さには、死後の知名度が、関係あるの?」
「んー。確かにツタンカーメン王はイレギュラーポジだから、疑問を抱くのは仕方ないわねぇ。バステトちゃん?英雄について、オーエンには何処まで話せばいいかしら。」
バステトはむくれた。
「妾は既に話したぞ。妾の教え方が下手だと言うことか?確か、魂の保管と、受肉までは話したな?」
ミカエルは察して、説明を足した。
「あー。えーとね、オーエン?オーエンの親しいアーラシュが、遥か昔の英雄なのに、馬鹿に強いわよね?あれは、現代でもアーラシュが英雄信仰されてるからだって話は、アールマティに聞いたでしょ?オーエン、貴方の力もよ。バステトちゃんの強さもそう。信仰が、英雄や神々の力の源だって話は、たぶんバステトちゃんがそれくらいは話した。だから、黒騎士が信者虐殺に出たのはわかるでしょ?……言うなれば、知名度も信仰と同じなのよ。小さな王墓だけど財宝と本人が未盗掘で発見されたツタンカーメン王は、古代エジプトの栄華を世界に知らしめた。ファラオと言ったらツタンカーメン、くらいは皆イメージがあるわよね。勉強してなくてもツタンカーメンは知ってる人だっていっぱいいんのよ。ホラー映画までバンバン出たわ。その知名度が、死後のツタンカーメン王を強くしたってことよ。まぁ、魂の保管はされてなかっただろうから、まさにオシリス神が後々死者の国から探し出して、急遽保管されたのかもしんないし。つまりね。生前と今じゃ全然違って、このツタンカーメン王は充分ファラオ代表の強さがあんの。……で、合ってるかしら、ニトクリス女王?」
ニトクリス女王は頷いた。
「仰る通りです。幸運とて、実力のうちのはず。イシス女神の力を借りたこなたと違い、彼は自らの魔力でパワーを補えるのですから。」
オーエンは、最大の疑問を尋ねた。
「ミカエル、ニトクリス女王、丁寧に説明をありがとう。聞いて、死後に強くなったのはわかったけど。マスクは?なんで古代エジプトのマスクつけてるの……?それに、そのマスクは、死んだ時つけるヤツのはずだ。」
イライジャがオーエンに突っ込んだ。
「おいおい。天才のオーエン君、お前、映画で歴史にハマったはずが、さてはホラーは観てねぇな?結構、常識欠けてんのな。ツタンカーメンと言ったら棺開けたヤツが死んだやらなんやら、デマだとしても有名だぜ?映画にもなってんの、ツタンカーメンの呪いのイメージがよ。」
「イライジャ、それ都市伝説でしょ?真に受けないよさすがに。」
ミカエルが告げた。
「だからさー。皆が信じたことが、本当の力になっちゃうんだってば。たぶん、ツタンカーメン王はあのマスク外すと、死人が出るのよ。」
影の国の低い段差に座ったツタンカーメン王は、頷きまくった。
「仰せの通り。不佞がマスクを外すと、敵も味方も、即死です……何だと思われているのか、不佞の顔……棺を開けた考古学者は、ミイラのウイルスから死んだと思われますが……とにかく不佞は王の代表などでは無く、悪神群に素顔で走り込むぐらいがせいぜいの、特攻要員でございますよ……?」
うーん。姿勢が低い。
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