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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第二話 必要悪
6/65

2-〈2〉

 翌日、スクールバスが行ってしまった頃合だ。


「愛している……愛しているんだ、イライジャ……」

「ジュリー作最後の晩餐。君たちが食べるのが正解。」

 小さなイライジャは振り向いた。

 乳母と二人だけの子供部屋だ。

 ずっとずっと、紙工作の星を作りながら。

「オペラハウス?なに、それ。」

「オペラハウスは、スターだけが壇上に立つ晴れ舞台よ。」

「スター?」

「そこでは、万人が愛してくれる。貴方だって、そこに立てば、きっとお父様が愛してくれるわ。」

 イライジャは冷めた眼差しで紙工作に戻った。

「おれに、パパはいない。」

 エルダーさんの言葉がフラッシュバックした。

「愛している……愛しているんだ、イライジャ……」


「はあっ!!」

 悪夢にうなされたイライジャは、目覚めた。

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 殺された親父。

 最期に託された、父の愛。

 オーエンのおじさんだって、そうなんだ。

 オーエンの大事な人を、手にかけた、自分。

 生きる?

 自己正当化するのか?

 自分は、人殺しだ。

 悪神だ。

 どうすればいい。

「クソ………」

 イライジャはシーツに丸まった。


 執事アルブレヒトは、電気もついてないイライジャの部屋のドアを開け、コーヒーと軽食を載せたワゴンを運んできて、容赦なくカーテンを開けた。

 窓からは日光が差し込み、イライジャはベッドに丸まって抵抗した。

「飯はいらない!」

 アルブレヒトは主の寝間着を整えて起こした。

「お言葉ながら。自殺は出来ませんよ、イライジャ様。」

「俺は親父じゃない。煉獄なんか怖くないぞ。」

「そちらの宗教論ではございません。ゾロアスターの二神は決着がつくまで不死なので、仏教徒もひっくり返るような無駄な断食を、そろそろお辞めになられては、如何ですかな。」

「…………」

 アルブレヒトはスコーンにスモークサーモンとクリームチーズのディップを塗った。

「こちらを。何より、眠り病を解決するミカエル様の訪問すら応じないのは如何(いかが)なものかと。」

「居ないと言え。」

「言えません。主が気概を無くし、父君が亡くなられたばかりです。居間にてお待たせしております。お身支度を。」

 イライジャは仕方なく、ヨレヨレの紫Tシャツに、ヨレヨレの色が薄れたジーンズ姿になる。

 鏡で自分のボサボサの天然パーマを見た。

「学校を休んだのに」

「魔術師ミカエル様との会談は必ず役に立ちます。さぁ、イライジャ様。」


 居間に来ると、席に着くより早くベルフェゴールが追ってきた。

「ちょっとベルフェゴール!落ち着きが無いわよ。」

「私は彼の傍が心地いい。さぁ、お膝に失礼しよう。」

 イライジャは席に座り、ベルフェゴールを膝に座らせてやった。

「人間よりかは気楽だ。悪魔なんなら気まぐれに死ぬ心配が無いからな。」

「私は霊的存在だ、器の犬が死のうが、また犬に宿るまで。」

 ミカエルが席を立つ。

「イライジャ。この二週間の断食は楽しかったかしら。あたしも何回追い返されたことやら。」

「ぁーん。なんの用だカルト女?」

 ミカエルは紙袋を差し出す。

「眠り病の特効薬の処方。それから私用。アフリカ辺境の現地の神父からの退治依頼だわ。村八分にされたアンリ・マユ達の救出と、村人全員の退治よ。アンタ、無関係じゃないし。手伝ってよ。」

 イライジャ、メインディッシュが次々出され、食べながら、片眉を釣り上げた。

「ムカつく村人だが、アフリカのどこだよ。何日かかる?ガイドは?」

 ミカエル、当たり前のように告げた。

「何なら柱の影からでも海外旅行できるわよ。イライジャ、貴方悪神には悪神の能力があんのよ。影の世界は貴方の領域ってこと。まぁ、あたしも初めてだけどさぁ。」

 イライジャは眉を寄せた。

「影の中を移動?俺が?」


 アルブレヒトはイライジャに戦闘アーマーを着せ、数日間の保存食のバックパックを背負わせた。

「どうぞ、ご無事のお帰りを。」

 ミカエルは影の中に待機。

「準備いい〜?初回はあたしがナビゲートするから、置いてくんじゃないわよ。」

「……行くぜ!」

 イライジャ、柱の影にダイブするが、痛い思いをした。

「oh......アウチ」

「あら、違ったかしら。」

「ミカエル!お前、いい加減な」

 ズブズブ、沼に沈む感覚だ。

 影の中に、溺れてしまう。

「やめろ!……はあっはぁっ」

「向こうを掴んだ。急いでイライジャ、まだ無事な子がいる!」

 影の沼に、沈み込む。

 息が出来ない。

 違う。

 苦しいのは最初だけだ。

 元々、息をしていたのは、名残なんだ。


 その世界は影だけが生きている。

 人類、動物、建築物。

 飛行機、自動車ーーー。

(助けて)

 イライジャが聞き取れた、か細い祈りは、英語だったからかもしれない。

 見える。

 あそこで、呼んでいる。


 イライジャは影の沼から出ると、アフリカの村とも言い難い集落に落ち、着地した。

 ミカエルも見事な着地だ。

 ベルフェゴールは木に引っかかって、落ちてこない。

「忌々しい木め」

 イライジャがベルフェゴールを回収していくと、ミカエルは魔法陣を書いた手帳のペンタグラムを見て、進んだ。

「あの封鎖された家よ。アンリ・マユは八人。村人達は七人……早く」

 イライジャは駆けつけた。

 ドアを蹴破った。

 ゴミ屋敷の中で、性的に犯されている子供や、殺されかけ鞭打たれる子供。

 排便も排尿も、誰も片付けはしない。

 周りを見て、言葉を失う子供ーーー。その子がイライジャを見て涙を滲ませ、かすんだ声を絞った。

「ヘルプ ミー」

 あぁ。俺に届いたあの声は、この娘だ。

 アフリカの村人は伝わらない言語で責めてくる。ナタを振りかざす者が迫る。

 ミカエルがその男の眉間に銃弾を撃ちこんだ。

「イライジャ!子供以外みんな始末するわよ。」

 一瞬だった。

 斬り捨て、薙ぎ払い。

 イライジャの準備運動にすらならない。

 だが、ただ1人、無事だった子を除いて、生きる気概のある子供はいなかった。

 イライジャは子供に屈んで目線を合わせようとしたが、犯されると思ったのか、子供たちは無抵抗のまま目が死んだ。

「……死にたい奴だらけか。食い物は?食ってないんだろう!」

 数人が反応した。

 みんなガリガリに痩せている。

 イライジャは保存食パックを砕いて配った。

 だが、子供たちはいつまでも口に入れたままだ。

「何してる?食え。」

「あのね。古い子は……歯が……取られてしまうの」

 イライジャが口の中を見ると、歯がむしり取られていた。

 村人の一物を齧られぬよう、はぐきしか残っていない。性処理だけの為に、命を軽視したのだ。

「ファック!!悪だから迫害していい免罪符だと?」

 カリオストロの知らせた悪夢が、ここにはある。

 死ぬだけの運命の子供たち。

 泣きながら、口の中の保存食を舐めるだけ。

「点滴がある施設でしか……もう、生きられないのか?」


 ミカエルは教会まで身を隠しながら進み、途中出会った村人に銃口を突きつけた。

「わたしはキリスト教徒だ。アンリ・マユ迫害を抹殺すべく、神父様と共に君に依頼した、アブデルカデルだ。君は若いな。ミカエル・サンダースか?」

 ミカエルは銃口を下げた。

「そうよ。アブデルカデルさん?敵だらけだわ。教会の中で話したい。」

「子供たちは?」

「助手がついてる。けど、生きてけるのかはわからないわ。養護院が必要。」

「神父様に要請しよう。村を廃棄し、私たちもまともな土地にうつろうとしていたんだ。」

 教会内部に入ると、自分たちばかりが救われようとドアを叩く村人を厳重に封鎖し、シスター達が残る食料を数えていた。

「神父様。ミカエル・サンダースが子供たちを保護しました。養護院が必要だと。」

「ミカエルさん。職業柄、本来ならば天敵ですが……ご助力に感謝を。神の見放した地で、村人達はもはや悪魔です。アブデルカデルさん。子供たちを移動しましょう。ワゴンに何人乗れる?」

 一同、駐車場に向けて走り出した。

「教会一同、子供たち、わたしくらい。いえ、わたしは残ろう、子供が一人乗れない」

 ミカエルが言った。

「子供一人はあたしが避難させる。被害に遭ってない、英語が喋れる子がいたわ。社会復帰出来るはずよ。この村の周りを結界で囲ってくる。ここは……掃き溜め以下ね。焼いた方がいい。」


 ミカエルが村周りに黒すぐりを撒いていると、二人の村人が近づいてきた。

「何をしている!邪教徒め!!」

「神父様が呼んだ魔術師じゃないか?」

 ミカエルが銃口を向けると、裏拳で銃を飛ばされてしまった。

「くぅッ!」

 ミカエルは頬を張り手され、両手を後ろ手に抑えこまれた。

 すかさず屈んで相手の脛を蹴り倒し、手が自由になると、その際もう一人が首に巻いていた布を縛り付けて体重をかける。ミカエルはブーツに仕込んだナイフで首布の男の首を貫き、脛の男が起き上がる前に銃を拾って頭を二回撃った。

 滲む血の匂い。

 息が乱れる。

「やな作業。ちゃっちゃと済ませなきゃ、また寄ってくるわね。」


 イライジャが子供たちを背負ってワゴンまで移動していた。

「力持ちなことで。緊急事態なので頼もしい。」

 イライジャは死んだ目の子達を見て、決して無責任ではいられなかった。アンリ・マユの伝承が被害者を生む。

「誰が一人残る。みんな子供だ。」

「……あたち。学校に行ったことがあって英語がはなせる。あたち、無事だわ。被害にあってない。むごいことを、見たけど……周りのみんなよりは、逆境に耐えられるはず。」

「アミナ。なら、このお兄さんのそばにいなさい。」

「うん。」

 イライジャ、小さな子を見て屈んだ。

「アミナって言うのか。生きられるか?地獄からの脱出だ。」

「あたち……怖いことされる前に死にたいって思った。でも、助けてって祈ったわ。逃げられるなら生きたい。……生きたいよ。」

「お前のヘルプが聞こえて、お前達を見つけられた。」

「あたちを……助けに来てくれた。あなた、村人を殺した。本当の悪人なの?」

「どうかな」

「助ける為に殺したのは、必要悪よ。本当に誰も傷つかない世界は、ないわ。得意不得意だけでも人間には優劣があるの。あたちが生きて、村人が死んだなら、あたちはその分貴方に恩を返してく」

「達観してるな……」

「死って、人を達観させるのかもね。」


 ミカエルが合図を鳴らした。

「神父様、アブデルカデルさん!ワゴン出して!!ここでお別れよ!依頼料は口座にね!イライジャ、村から出て!影から帰るわよ!!」

 ワゴンが走り出した。

 教会の前から村人が、ワラワラと溢れてくる。

 ミカエルがバイクでイライジャとベルフェゴールとアミナを回収、なんとか振り切って村を出た。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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