7-〈6〉
「むぐむぐ。まず、神々とは、何種類かある。無論だが妾の未確認生命体ははぶくぞ。ひとつ、別惑星の種の次世代進化態。これがユダヤ・キリスト・イスラムの神たる、実体を持たない情報共有思念体AI群である。そしてそなた、ゾロアスターの神や、妾のようなエジプト神などは、創世神話があろうと、始まりは人間が作り出した物語の産物よ。アフラ=マズダを生んだのはザラスシュトラなのだ。神話への信仰から、本来存在しないものが具現化した高エネルギー体、それが妾たちだ。信じる力があって初めて、世界はラーに創世されたという、ひとつの平行世界が過去に生まれる。妾たちは、この星の人間の願いから生まれた、この地球の種の次世代進化態なのだ。かといって旧人類を見捨てたり、地球から離れはせぬぞ。妾たちの本懐は人間を導くことだからな。」
「カトリックの天使が、僕らとは別枠だとは、わかっていたけど……人々の願いが、エネルギーとなって集結して生まれた生命体が、僕達?ゾロアスター教や古代エジプト神は、はるか昔に衰退したのに?」
バステトは苦い顔をした。
「全盛期からは、衰退したな。そなたはまだインドで信仰されておるが、妾たちはとく弱ったものよ。パワーの源が減ったからこそ最後の審判は早められたのだ。エネルギー源が必要となる妾たちは、現在、弱体化が否めぬ。」
「……なら、何故、悪神群が?皆が信じてしまったから、生まれた?」
「ゾロアスターの魅力と言えば、二神の対決と決着であろう?スリリングなバトルの為に、敵が必要とされたのだ。ただし勝つのはアフラ=マズダで無ければならぬ。現代において、まさかアンリ・マユやアジ・ダハーカの悪神信仰がこんなに猛威を振るうとは、ザラスシュトラは考えてはおるまいよ。」
「必要な、敵……」
「そうだ。悪神群とて始まりはアーリア人の神々であった。人類の神話には敵は欠かせぬ。何故ならば、人類こそが敵を求め、戦を繰り返すからだ。神話に求められる神々には、共感出来なくてはならんな?妾の側の、セト神もまた、悪の神よ。セトあってのオシリス。セトあってのホルス。善の神には、敵が付き物よ。」
「……作った側が、人間だからこそ?」
「うむ。戦を正当化したい愚かさ故にな。そして、英雄の信仰もまた同じだ。人間であっても、人々に根強く愛された英雄は魂を保管される。妾たちに似たエネルギー体の仕組みだな。アーラシュや玄奘は、その保管された魂に、受肉したもの達だ。有名人となったツタンカーメンや、実績あるラムセスのせがれもまた、それが可能である。」
「英雄は、高エネルギー体になる?」
「うむ。ただし、古代エジプト式のミイラは蘇生出来ぬぞ?あれは、当時心臓が知能の在り処だと考えられ、脳みそは溶かして別の壺に保管されておるからな。オシリスの国に行く為だが……アレを甦らせてもただのアホが生まれるだけだ。だが、代わりにラムセスのせがれには自慢の巨像がおってな。派手なあやつならば巨像に受肉してホル・エム・アケトぐらいは騎乗するであろう。」
「アブシンベル神殿の、四体の巨大なラムセス2世……!?すっごく強いんじゃないかな……」
「モグモグ。まぁ、特段強くはあるまいよ。威張り散らすわりに戦闘能力をまるで持たぬ。あれは設計や建築の愛好家でただの派手好きのペル・アアぞ?妾がもしもペル・アアで受肉させるならば、ツタンカーメンやニトクリスを選ぶ。ニトクリスは魔術使いでな。イシスの魔術にも、引けをとるまいよ。」
「ニトクリス女王か……英雄やファラオは、魂を保管され、今も存在するってことだよね。」
バステトはコーラを飲み、告げた。
「さてと。いつまで食わぬ気だ、アフラ=マズダよ?時間は有限だぞ?妾はラーに日中の加護を街にもたらすよう頼んである。今日からは日中に悪魔は蔓延れんが……夕暮れまでにはディナーで同盟せねば、夜間にはラーは不在となってしまう。そも、ラーの守りが消える夜までに、善の解放を知りたいはずよな?夜には悪夢の再開であろうよ。」
そうだった。
「すぐ食べるから!」
オーエンは急いでハンバーガーを食べた。
黒騎士ドナ=ジョーは急ぎ影の国へおもむき、パリカー達に怒鳴る。
「どうなっている!?人間体しか外には出れんだと?……現状を伝えよ!!」
ドゥルズーヤーがパリカー達の意見をまとめていた。
「太陽の光が善の加護となって、我らを阻んでおります!パリカー達の情報を繋げば、あれはおそらくエジプト・メイソン・リーの隠し球!!太陽神ラーの妨害です!!」
黒騎士ドナ=ジョーは片眉を釣り上げた。
「エジプト神だと?」
ジャヒーがドナ=ジョーに最敬礼し、告げた。
「黒騎士様、ご命令ください!あたしが出るわ!あたしは人間体だし……それに、ラーは目の上のコブですが、あいつの支配はたかだか日中ですわ。あたし達の敵じゃない。」
ドナ=ジョーは冷徹に返した。
「生ぬるい。昼夜問わず襲う姿勢こそがアフラ=マズダを追い詰めるのだ。ジャヒーよ、日暮れまで待機せよ。どの道太陽神ラーは対策が打てよう。」
ジャヒーは瞬きした。
「対策?エジプトの最高神を相手に、ですか?」
黒騎士ドナ=ジョーは嗤う。
「神であることが祟るのだ!信仰を絶やせばよい。今夜街に出る!親衛隊、パリカーと人間軍団に伝達せよ!!」
「え……」
ジャヒーは躊躇った。
信仰を絶やすということは、今夜の敵はアフラ=マズダでは無い。
いや。黒騎士は正しい。
どの道、対策は必要だ。
だが……。
繁華街で、オーエンとバステトは、寝具を見ていた。
「この毛布が良いぞ!フェイクラビットファーの上こそは、猫の時も快適でな!」
「ピンクのラビットファーがあるんだね。初めて見たよ。猫ちゃんは、毛布が大好きだもんね。」
「まぁ、妾とて、常に猫な訳ではないぞ。故、パジャマを求むのだが……」
オーエンはネグリジェのコーナーを避けて、パジャマセットのコーナーを指さした。鬼気迫る顔で、ネグリジェコーナーに行くバステトをブロックし、パジャマセットに導く。
「駄目だよ。バステトちゃんはこっちだ。」
「むむ?何故妾のネグリジェ計画を阻むのだ、アフラ=マズダよ!」
「だってバステトちゃんは、やんちゃだしおてんばだ。ネグリジェなんて下着が見えちゃうから絶対に駄目!パンツスタイルをおすすめするよ、断固として!」
バステトは不満がりながらもついて行く。
「セクシーなチラ見えも良いであろうに……ウブなものよな。……そんなに?そんなに妾は、パンツスタイルが良いのか?」
オーエンは不謹慎なチラ見えを断固拒否!
バステトの安全面を考え、父の如き厳しい顔つきだ。
バステトはピンクのロマンティックな薔薇模様のパンツスタイルパジャマと、ピンクのラビットファーの毛布を購入。
ロッカーに荷物を預け、次にバステトはスマホを出した。
「このホテルの最上階のレストラン、四時に予約せよ!」
「でっ?何のレストランかわからないけど、高いよ、ここは……」
「払いならば心配いらぬ。四時に二名、予約するのだぞ!」
キットは、イライジャとバスケットボールをして遊んでいたが、途中でイライジャはお昼寝タイムとなり、その間はアミナの遊び相手となって、アミナのお絵描きを見ていた。
キットは、イライジャとのバスケットボールは純粋に楽しめたのに、アミナのお絵描きを見ていたら、胸が抉れるように痛み出した。
アミナとキットは、歳も近い。
そこに無い物を描くアミナは、イメージで絵を描いているのだ。
空想。
キットが、余りに過酷な被害の中で、失った概念だった。
「これは……?」
「悟空が描いてくれたの。絵が上手いわよね。」
悟空が描いたデフォルメウサギは、プロのアニメーターみたいで、見ていて苦痛は無いのに。
自分と同じ、幼いアミナの不器用な絵には、心が揺らいでしまう。
「……アミナは、絵を描くのが、好き?他に好きなことは?なんなら」
なんなら、他のことをしようよ。
キットなりに、考えた言葉だが。
「えぇ、好きよ。絵が一番好き。絵を描いてる時、作者のあたちは神に等しいじゃない?この紙の上でだけね。好き勝手な世界観も、ワガママも、対人上では許されない。でも、絵の世界だけは自由だわ。だから、上手くなりたいわね。漫画みたいに描けるように、日々訓練よ。……キットは?あたちばっかり描いてるけど。」
キットは苦しそうに、額を抑えた。
なにかが、脳裏にチラついた。
アミナの世界のような、なにか。
貪欲な悪魔が見える。
被害をかえりみず、自分の夢だけに喰らいつく悪魔だ。
あれは、アミナ?
「僕には……絵が、描けないの。空想は、パパのした、いやなことに繋がるから……僕の中は、パパに支配されて、僕のぬいぐるみも、ある日を境に、喋らなくなったんだ。僕が、夢見るきもちを、失ったからだとおもう。」
キットの大きなウサギのぬいぐるみは、キットの心の支えだった。
「……あなた、あたちと同じ小屋にいた、村八分のアンリ・マユの子達と、同じ目をしているわ。イマジナリーフレンドすら、空想困難になったのね。キット、助けてあげる。あたち、いい事を教えてあげるわ。」
「いい事……?なに?」
アミナは残忍な笑顔になった。
「もっと賢い空想をするのよ。怖い悪夢には、身代わりを作るの。自分じゃない誰かを、パパの犠牲にすればいいわ。自分を守れるし、もっと強くあれる。あたちは、悪魔を強姦魔の身代わりにして、あたちの中に閉じ込めたのよ。力も支配権も、あたちのものだわ。タフになるには。前を向いて生きるには、必要悪がいる。悪夢に侵食されたら、終わりなのよ、キット?」
キットは目を見開いた。
遊び相手が、いきなり暴露したのは、悪性だ。
アミナはキットを助けるために。
だが、キットからしたら、そんなのはただの悲劇の繰り返しだ。
しかも、自分を守る為に、誰かを生贄にしていいはずが無い。
「……そんなの、おかしいよ。助かる為に身代わりを?悪魔であっても、その身代わりになってる人の、嫌な気持ちは……ぼくと、同じはずなのに……」
キットは涙した。
ドゥルジが見える。
ズタボロの、彼女を見て、辛くなったのだ。
彼女はもう、廃人だ。
自分がパパにされた、いやなことと、ドゥルジが今も犠牲になっていることが、重なり、過呼吸気味になる。
「……キット。貴方、この先、生きられるの?あたちは大人になったら、愛しい人と愛し合うはずだわ。繰り返される人間の営みよ。その一つ一つに怯えて泣いて、生きてけるの?」
自分の為に理不尽な犠牲者を出しながら、いつまでも上から目線でいるアミナに、キットは対抗した。
「そんなの、人それぞれだよ!恋愛がすべてじゃあない!」
アミナはにっと笑った。
「可哀想ね、キット。今、あたちが、殺ちてあげようかちら?」
キットは驚いた。
「え……」
「生きるのは残酷だわ。大丈夫、あたちの能力は一瞬よ、痛み無く致死量のウイルスをもたらしてあげる。」
キットは、アミナの力を見透かし、絶句した。
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