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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第七話「hope」
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7-〈3〉

 ジリリリリリ!!

「マーズマン!起きて、マーズマン!」

 キットに揺さぶられながら、オーエンは夢現(ゆめうつつ)の中、目覚まし時計に手を伸ばした。

「むにゃむにゃ……ハンバーグ……」

 事件は起きた。

 オーエンはダブルベッドの半分で寝ていたことを忘れ、目覚まし時計を通り越した場所まで手を伸ばし、ベッドから落ちて、ベッドサイドテーブルに顎を打ちつけた。

「いたーっ!!あいたたたた……」

「大丈夫?マーズマン。怪我したの?」

 心配するキットに、恥ずかしいところを見せてしまい、オーエンは苦笑いしながら目覚まし時計を止めた。

「はは。気にしないで。」

 オーエンの部屋のドアを、ラジーの手のパペットが開けた。

「グッモーニン、二人とも〜。オニオンスープは、いかが〜?」

 キットがパペットに尋ねた。

「スープ?くれるの?」

 ラジーは頭にリスの被り物をして、パペットの手でオニオンスープを二つ運んできた。

「オーエンはコーヒーが飲めないの。だから、朝はオニオンスープなんだよ〜。」

 キットはオニオンスープを運ぶのを手伝い、リスなのかパペットなのか怪しいラジーに言った。

「マーズマンがねおきにアゴを怪我しちゃったの。なおるかな?」

 ラジーは、オーエンに屈んで、顎をヨシヨシした。

「いいよラジー、打っただけだから。」

 ラジーはオーバーアクションでキットに振り返った。

「ちょっと血がでてた!でも、マーズマンは再生するから、今は大丈夫!治ってた!」

「よかった。ブタさんは、汚れちゃった?」

「ぼくはオーブンミトンのブタだから、大丈夫だよぉ。仮に本業のパペットでも、中の人の主夫力で血を落とせるよ〜。」

 キットはようやく、少し笑った。

「ふふ。中の人って、子どもには内緒でしょ?」

「あ、うっかり〜。えへへ〜。」

 オーエンはオニオンスープを飲み、目が覚める。

「おいしい。」

「スープはおいしいけど、僕はミルクコーヒーなら飲めるよ?」

「ぼ、僕だってカフェラテなら、飲めるよ!」

 ラジーが冷やかした。

「大きい子と小さい子、オニオンスープを飲んだら下においで。朝ごはんが出来てるよ〜。」


「オーエン、今日は学校でしょ?日中のパトロールはあたしがやるから、登校日くらいは行きなさいよね。」

 朝ごはんの席で、ラジーの山盛り料理を囲みながら、ミカエルが言った。

「でも、街がそれどころじゃないし。それに今日は授業は無いんだ。先生達とレクリエーション、バスケの日だよ。」

「え、三時までバスケすんの?生徒はともかく、先生達には結構ハードじゃないの?」

「街が悪魔と殺人事件騒ぎだからさ。先生達も、生徒を励まそうと必死なんだよ。けど、ハワード先生が心配だな……腰も患ってるし、運動が苦手らしくてさ。」

 そこで、インターホンが鳴り、ラジーが出て行って、戻ってきた時には、見慣れたエジプト・メイソン・リーの、幹部の方を連れていた。

「で、御一緒に朝ごはんはいかが?」

「ご好意だけいただいておきます。」

「あ、エジプト・メイソン・リーの……えっと」

 これだけ長い付き合いなのに、名前すら知らなかった。

「名前は知らなくてよろしいです、アフラ=マズダ様。貴方様は、神なのですから。わたし自体が、神より言伝あって参りました。」

 オーエンは慌てた。

「全然!僕がポヤポヤしてただけだし、ずっと仲間なのに名前も知らないなんて変だよ。あの、お名前は?」

 エジプト・メイソン・リーの人は、一礼してから、名乗った。

「わたしは、ヤザン・ムスタファ・アイユーブ・シャルム・エル・シェイクです。ヤザンだけが、わたしの名前となります。親のつけたイスラム教の名であり、エジプト神を信仰するわたしには特に意味の無いもの。無論、気に入った箇所を呼んでいただくのは構いません。」

 初めて聞いたムスリムネームに、オーエンは知的好奇心で目を輝かせた。

「すごいや!アイユーブ朝の名前を持っているだなんて。」

「エジプトは、はるか昔からイスラム圏ですから。ですが、わたしの信仰はイスラムでは無く、古代エジプト神です。エジプト神の神秘に触れ、錬金術を学ぶもの。それが、カリオストロの創始したエジプト・メイソン・リーの在り方です。」

「そうだった。えーと、ヤザン・ムスタファ・アイユーブさん?」

「お忙しい朝に訪問した無礼をお許しください。実は、我々の神が……ようやくやる気を出しましたが……その条件が、午前十時にアフラ=マズダ様に迎えに来ていただきたいらしく……無茶を承知で参りました。アフラ=マズダ様は本日は登校日であられます。蹴っちゃってもよろしいです、三時までは我々が何とか繋ぎますから。」

 オーエンは眉を潜めた。

「……え?エジプト・メイソン・リーと一緒に、エジプト神が渡米していたってことかい?」

「はい。アフラ=マズダ様も面識がございます。怠けていらっしゃる時は、猫の姿であられますから。」

 オーエンはすぐにわかった。

「あの子が!ラーの目ちゃん?あのめちゃめちゃ地位の高い猫ちゃん、エジプト神だったの……?ちょ、ちょっと学校の先生に電話させてくれますか?」

「え?はい……構いませんが。」

 オーエンはスマホから真っ先に職員室に電話した。

「オーエン・テイラーです。歴史のハワード先生に繋いでくれますか?はい、はい。お願いします。」

 やがて、ハワード先生が電話に出た。

「オーエン・テイラー?緊急事態かね?」

「ハワード先生、大変です。古代エジプト神が一人、街に来てます。接触出来ます!知識の泉が……!!」

 ハワード先生は激しく食いついた。

「何っ!!?確かにこれだけ悪魔騒動があるのだ、神が来たとておかしくは無い……エジプト神話は読んでいるかね?どの神かわかるか、テイラー?」

「わからないけど、猫だった……多分隼頭系ではない神です。ラーの目がニックネームだから……破壊神セクメト?」

「ラーの目か。猫を仮の姿にしていたならば、バステト神の可能性が高い。セクメトをモデルに作られた同一存在に近い神だ、テイラー、君の判断は正しい。バステトはラーの妻だ。上手くすれば、ラーの権能で日中だけ街が安全になるやもしれん。ただし、セクメト同様、バステトも凶暴な神だと聞く。君が心配ではある。」

「先生がいれば、バステト神の通訳になるのでは?」

 揺れるハワード先生。彼とて、憧れてきた古代エジプトが、街に来ているのだから。

「確かに、わたしはシャンポリオンの学説に習い、ヒエログリフを読んだのだ……わたしでも、バステトに対面が?」

「出来ると思います!先生も来ませんか?街を守る行為ですし、学校だって今日はバスケです。」

 ハワード先生はかなり悩んだが、歯を食いしばって覚悟した。苦悩の末である。

「……テイラー。君には街を守る使命がある。そして教員のわたしには、生徒を励ます使命があるのだ。わたしは苦手なバスケに行こう。だが、学者としては、君とエジプト神の遭遇は血涙が出るほど知りたいことだ。」

「……わかりました。冬休みの宿題に、古代エジプトのレポートを書いて提出します!」

「感謝する。君は義理堅い生徒だ。健闘を祈るが、くれぐれも敵対しないように。相手は危険な神であることは忘れずにいて欲しい。」

 オーエンはハワード先生への電話を終えて、ヤザンさんに振り向いた。

「行きます!バステト神に会いに!ただ、エジプト・メイソン・リーのロッジは、あのバステト猫ちゃんがいないと、仕掛け扉がうろ覚えで、一緒に行っていただけますか?」

「え?学校を休まれるのですか?確かに神は我等の秘匿せし神秘ですが……かなりの我儘ですよ?酔っ払わせて寝かせて、誤魔化すという、神話から代々続く手段も、ありますが……。」

「古代エジプトの知識を身近に知れるチャンスだし、それに元々、エジプト・メイソン・リーとは、神同士の同盟の為の協力関係ですよね。その神がやる気を出したなら、街だって安全になるかもしれないんだ。」

「本気なのですね?アフラ=マズダ様。」

「学問としても!現状対策としても!会って話したいんだ!!」

 キットにつつかれて、オーエンは我に返る。

「はなしはきまったんだよね?なら、マーズマンはいそいで食べないと。美味しいご飯が、冷めちゃうから。」

「そうだね、キット。今食べるよ。」

 ヤザンさんはキットを見て、眉を顰めた。

「悪の解放の、被害者のお子さん、ですか?」

 オーエンは躊躇ったが、今までのエジプト・メイソン・リーを信じて、話した。

「この子は、不遇の環境で、悪を解放された子だ。でも、この子は被害者で……戦わなかったら、この子に救いは無かったと思う。僕が匿ってる……誰にも言わないで欲しい。」

 ヤザンさんは、ラジーのお手伝いをして、お皿を運ぶキットを、悲しげに見ていた。

「わたしからも意見が。今の、我々の戦いに、不服があります。玄奘様をどこまで信用すべきなのか。あの方のやり方は違うのでは無いか。これらの議題を、エジプト・メイソン・リーでは日々話しております。この子とて、こんなにも普通にお手伝いをしている。殺意など、感じられません。」

 オーエンはほっぺたにペンネを頬張りながら答えた。

「うん。人間は、善意と悪意を合わせ持つものだからさ。」

「オーエン。食べるか喋るか、どっちかにしなさいよねー。」

 オーエンはツナのペンネを食べ終わると、キットとヤザンさんを連れて二階に上がり、クローゼットを開けた。

「地味め……だね?」

「うん、普段はね。でも、本題はこっちの仕分け扉の中だよ。」

 仕分け扉の中には、なんと各国の歴史衣装がしまわれていた。

 中には、ファラオのお面まで。

「ハロウィンて感じじゃないね。」

「これは、趣味だよ。」

 浮かれたオーエンに、キットはズバッと切り出した。

「コスプレで街を歩くより、マーズマンのバトル衣装のほうが、まともだと思うけど……。」

「キットは嬉しくないの?古代エジプト神だよ?」

「そもそも、エジプトを習ってないし。」

「子供の頃のもあるよ!ほら、小さなマスケティアだ!キットのサイズだよ。」

「マスケティア……?三銃士の?映画の。」

「うーん。何着て行こう。とりあえず、下にはバトル用のタイツを着て……」

 ヤザンさんは控えめにだが、はっきり言った。

「アフラ=マズダ様の期待に添えるのか、正直、わたし達にはわかりませんが……とりあえず、ファラオのコスプレはお避けください。」

「何故?」

「その。神をあまり喜ばせると、神は貴方様を無理やり自らと結婚させる可能性も。アフラ=マズダ様には、……ドナ=ジョー様がおられます。」

 ヤザンさんは正直、オーエンの心の在り処はミカエルなのかドナ=ジョーなのか、判別がつかないが。

「そうなんだ。うーん。学問の徒らしく、地味な格好にしようかな……」

 ダサいケーブルニットに、ジーパンを履いたオーエンに、キットが小さな腕を組む。

「マーズマンて、勉強オタクでしょ。元はカッコイイのに、もさくてもったいないね。」

 キットの言う通り、オーエンは顔立ちが良く、身なりがもさいから地味に見えているだけだ。

「カッコイイのはヒーローだからで、イケメンでも何でもないよ僕は。キットも行く?お留守番は危なくないかな。」

「うん……神様の会合とやらは、むずかしそうだから行かないけど……みんな出かけるなら、お留守番はちょっと、こわい……」

 ヤザンさんが申し出た。

「我々がお世話をしましょうか?」

「でも、カリオストロに知られたくないなぁ。一番安全地帯がある、イライジャにキットを預けよう。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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