6-〈23〉
影の国、空は闇で先が見えず、上空から紙工作の星々が吊るされ、小型のオペラハウスを模した舞台袖で、ドナ=ジョーはアジ・ダハーカに確認した。
「悪神群達は……パリカー達は、揃っている?」
(勢揃いよ。オペラハウスの外でも密集して、貴方を待っている。気ままな悪魔達がこんなに集まるのは、かつてない規模だわ。)
ドナ=ジョーは、首元から聖騎士の指輪を出して握り、覚悟を決めてから、身を翻した。
「……行くわ。」
アジ・ダハーカが咄嗟に止めた。
(待ちなさい、ドナ……!この先は、後戻りが出来ないわよ。わたくしは貴方を殺したけれど、貴方は戦場なんて似合わないわ。わたくしが貴方の悪を解放したのは自由を叶える為。貴方は、アシャとロブスターロールを食べて笑っていた時の方が、余程幸せなのよ。よく考えなさい、ドナ。オーエンの敵になっては、いけないわ……。)
「……オーエンを愛してる。しかし、わたしは愛よりも絆に生きる。」
オペラハウスの壇上に、漆黒の鎧のドナ=ジョーが現れた。
鎧の重さにしっかりと耐えた足取りだ。
女悪魔達、総称パリカーが客席を埋め、オペラハウスの外までもを埋めつくしていた。
中でも、壇上では黒い軍服のドゥルズーヤーが漆黒の三頭竜の御旗を掲げ、クナンサティーとムーシュは黒い軍服を着て、ドナ=ジョーの背後に控えている。
ドナ=ジョーはアシャの剣を舞台に立て、塚に手を置くと、雄々しく声を張り上げた。
「我が同士達、悪神群の悪魔達よ!私は悪神様の実子アジ・ダハーカに代わり、悪神群の統括、そして善神討伐を担う者、黒騎士ドナ=ジョー・オリンズである!私は仇討ちの為に善神に正しい報復を与え、それが諸君らを勝利へと導くだろう!此処に地獄の到来を約束する!その為にこそ、同胞の諸君の力を今一度集結し、絶対的な法を敷く!悪の投票を集めよ!今までの我らの戦略は手ぬるかった!暗示作戦を切り替え、我々は総員で人間の悪を解放する!私こそが悪の解放で、力と自由を得た者だからだ!我らはやがて人間と悪魔の総軍団となり、善神群を叩くだろう!!我らの悪神アンリ・マユ様に代わり、この私が貴卿らの指揮を執る!私こそが王太子、暴落した父の跡を継ぎ使命を果たす者である!私はあえて独裁体制を取り、此度からは真に統一された悪神群が善神群の首を取りに出る!我が支配の暁には、諸侯らを真の地獄へと導くだろう!!手始めに善神群に悪の投票をさせてやろうか!人の悪を解放し、自由を与えよ!人間の悪を愛し、手を取り合うのだ!さすれば、我らに敵は無い!!さぁ、黒き御旗を掲げよ!!剣を血に染め、善神群の死を私に捧げよ、パリカー達よ!!我々はこの戦乱に勝利し、悪の理想郷を齎すのだ!!我らの心臓、我らの悪意に誉れあれ!!復讐は尊く、憎しみは愛おしく、我らを突き動かす糧となるだろう!!人の世こそが、輪廻永劫修羅殺戮の世界なのだと知るがいい!!人々の真なる自由こそ、悪道にありき!!我らが導くべき地獄の民を、今こそ迎え入れようではないか!!罪人の王国の到来は近い!!以後、善神抹殺は我らの働きにかかっている!!今ここに宣言しよう!戦の火蓋は落とされた!!殺せェ!!殺戮の果てにこそ、我らの栄華は訪れるであろう!!!」
客席の女悪魔、パリカー達は立ち上がり、感動して拍手喝采を送った。
オペラハウスの外のパリカー達も、拍手して喜んだ。
そして、素早く最敬礼をする。
パリカー達はドナ=ジョーを自らの王者と認め、敬った。
客席にいたジャヒーもまた、敬礼した。
「素晴らしいわ……!真の支配者よ!彼女を選んだアジ・ダハーカは天才だわ!!」
客席にいたアエーシュマは眉をひそめ、敬礼しながら思った。
(ついに目覚めてしまったか!どうする、キング君!そして、わたしは……どうするッ!?)
黒騎士ドナ=ジョー・オリンズは剣を掲げた。
「血肉を捧げ、殺意の咆哮を上げよ!!全ては、地獄の到来の為に!!!」
続いて、客席の悪神群、女悪魔パリカー達は大勢で復唱した。
「「全ては、地獄の到来の為に!!!」」
影の国の上空からは、全てを観ていたイライジャが、拍手しながら笑っている。
「ハハハッ!楽しい連続ドラマだったな?名演だぜドナ=ジョー。まぁ、オーエンの方も自力で立ち直ってきてるし、まだ助太刀はいらねぇだろ。」
イライジャは空中に浮かんだまま、足を組み替えて、ボヤいた。
「オーエンの奴は助けてやらなくっちゃだが……地獄だか天国だかは、どっちでも構わねぇぜ。せいぜい、最後まで楽しいドラマを演じてくれよ?ブラック・ナイトさんよ。」
イライジャのクスクスとした笑い声を残し、舞台は闇に包まれた。
広大なる闇。
偉大なる暗黒。
全ては、悪神アンリ・マユの手の中の、堕ちゆく芝居のグランギニョルなのだ。
天国か地獄か。
その鍵は、悪神だけが、握っていたーーー。
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