6-〈21〉
オーエン達が呪縛から動き出し、アシャを探すべく、血を辿って、アパートまで追いついた頃には、魂の炎だけが残されていた。
「遺体が、消えている……?アシャさんはどこだ?」
コリンが辺りを見回してボヤいた。
「天使様よ。アシャ・ワヒシュタは、ここなのか……?」
キングがアールマティに入れ替わった。
「その……聖なる火は……!アシャのエネルギーの発信源は、それです……!あぁ……なんて無茶なことを、アシャよ!」
アールマティが涙をこぼした。
オーエンは、聖なる炎に手を伸ばした。
「アシャ……?」
聖なる炎はオーエンを探知すると、炎がオーエンを包み込んだ。
力が倍増していく。
だが、これは、アシャのものだ。
伝わってくる。
アシャの意思。
彼の、正道が。
「肉体も、魂も、燃やして……この力を、残す為だけに、彼は……」
アールマティは泣いて、何も答えられない。
アシャは、最期に全てのエネルギーを、オーエンに遺したのだ。
オーエンは、アシャを死なせた現実から、目を背けて来た。
だが、これ以上、自分に嘘はつけない。
アシャの死を理解したオーエンは、その気高い炎に包まれながら、心が崩壊するように。
泣きながら、叫んだ。
「アシャ・ワヒシュタアアアアアッ!!!!」
オーエンは失意で、崩れるように膝をついた。
ハリソンが手を組み、追悼のキリエを歌い出した。
つられて、ダイヤモンド・クルセイダースは、アシャの弔いの為に、キリエ・エレイソンを歌った。
「「Kyrie eleison; Christe eleison; Kyrie eleison.
(主よ 憐れみたまえ
キリスト 憐れみたまえ
主よ 憐れみたまえ)」」
憐れみたまえ。
救いたまえ。
もはや、魂すら消滅した、この騎士を。
弔いのキリエは、皆の祈りをのせて、天に響き渡った。
翌日、キングは学校を一日だけ休んで、パワー切れで倒れたお袋を休ませるために、寝室で説得した後、教会に来て、アシャの弔いを祈り続けた。
キングは打たれ弱くも無ければ、明日から学校には復帰するだろう。
だが、今日一日だけは。
アシャの死を弔い。
ドナ=ジョーの道に救いを。
神が祈って何をしてくれるのかは、関係ねぇ。
キングが背負う命が二つ、キングの背中からこぼれてしまったこと。
祈りとは、信念と繋がる。
だから、無意味なんかじゃねぇんだ。
アールマティは、ワイアットの気持ちに、余計な口出しはせず、彼女もまた、思う。
(異教の神よ。どうか、アシャに弔いを。そして、彷徨えるオーエンに、力を貸してくださらんことを。)
コリンはハリソンと一緒に、学校を抜け出して、予想通りに教会にいたキングの元に辿り着き、一緒に祈り始めた。
オーエンは、初めて学校を休み、部屋から出なかった。
誰をも拒絶して、自分を守るだけで、精一杯で。
自分は、アシャを殺害した。
後戻り出来る道は、見つからない。
気を紛らわす為に、勉強をしてみたが、ノートに筆記する手が度々、止まってしまう。
オーエンは自分を責め、ベッドに倒れ込んだ。
ミカエルとラジーは、オーエンの部屋を開けようとしたが、ドアノブで手が止まり、手を離した。
「……何が出来るわけ。あたしが入ったら、あの子を癒せるとでも思ってた?自意識過剰が過ぎるわね。やになっちゃう……。」
ラジーは、責任を感じて落ち込むミカエルから、肩の荷を降ろすように促した。
「ミシェ。オーエンの下り坂は、人間がやがて通る道なんだ。それはね、ミシェや、周りのせいじゃあ、無いんだよ。かわいそうに、オーエンの苦しみの時期は、まだ幼いうちに訪れてしまったけれども。何も出来ない歯痒さは、こんな感じなんだねェ。子供はいつか、自力で乗り越えなきゃならない道が訪れる。ジュリー……僕らのオーエンを守ってくれ。」
ミカエルはラジーの話に、深く頷いた。
「マジで、お節介が焼けるうちが花ね。こんなの、歯痒いし、見てるだけで、辛いもんだわ。」
ラジーは仕事のジャケットを脱ぎ、エプロンをつけた。
「僕らに唯一出来ることは、愛と日常の提供だよ。せめて美味しいラジー定食!ミシェも手伝ってくれるかい?トマト煮込みは得意だよね。僕が後から、茹でたファルファッレを投下するから、ミシェはナスとズッキーニとひき肉をお願いね。」
ミカエルは顔を明るくした。
「やるやるぅ!ナスとズッキーニとひき肉炒めて、トマトで煮込めばいい?それが唯一の励みになるなら、あたしはやるわよ。」
パトロールには、エジプト・メイソン・リーの他に、走り屋のヴィンテージ・ドミニオンズと、キングとコリンとハリソン、アーラシュだけが出向いた。
アーラシュはため息をついて、一応聞いた。
「オーエンはどうした?」
コリンが答えた。
「テイラーの奴は、堪えたんだろうな。学校にも、来てなかったよ。」
ハリソンが珍しく、しょぼくれた。
「ありゃあ、悲惨だが、事故だろ?でも、あいつ背負っちゃうんじゃね?なんとかならねぇのかな……テンション下がるぜ……。」
アーラシュは返した。
「そうだろうな……。ハリソン、心配はわかるが、元気を出せ。俺たちも命懸けだからな。ワイアット、しばらく俺達だけで繋ぐ。行けそうか?」
キングは責任強く請け負った。
「構わねぇよ、カマンガー兄貴。アシャの死やドナ=ジョーのことや、テイラーの事故は、元より、俺の心の迷いの責任だからよ。テイラーの分は俺が補うぜ。今のアイツは……ズタボロになってんだろうからよ。」
カリオストロが、ヴィンテージ・ドミニオンズのメンバーに尋ねた。
「おや。あの、荷台のついたロマンのある……夕暮れ色のような、素敵な車の方は、いずこへ?」
「セオドアね。あいつが聞いたら喜ぶわ。まぁ……今日は、激闘で破損した愛車のメンテナンスついでに、一人になりたいってさ。わたし達は、きっとセオドアは責任を感じてるだろうから、勝手に集まって、協力に来ただけ。」
カリオストロは感動した。
「自立した大人達の美しい絆が見えますね。実はわたくしも愛車を持ちたく……現在徒歩通勤です。ヴィンテージでレトロ、ロマンのあるものを……わたくし教員職でして、日曜日辺り空いていますが。」
ヴィンテージ・ドミニオンズは好意的に返した。
「日曜日ね。良い店を紹介するわ。ただし、レトロな車ほどチューンナップしてトルクを上げないと、使い物にならないから、そっちも手配しとく?」
「是非ともにッ!!!」
悟空と玄奘が合流すると、キングは玄奘に苦い顔をした。それは、コリンとハリソンもだ。
オーエンが、ドナ=ジョーに決着をつけようとしたのは、玄奘の発言が原因だからだ。
「おい。そんなに嫌がんな。確かに玄奘は善人失格だがよ、こいつがいねぇと善の解放が出来ねぇんだわ。」
キングが代表して告げた。
「共闘はすんぜ。だが、利害が一致しねぇ場合は、俺が阻むからな。」
頷き、悟空が告げた。
「構わねぇよ。今んとこは、お前が善神群のリーダーだろ?Mr.ダイヤモンドさんよ。まだ幼い奴らもいんだし、暗示組と悪解放組に分けてから、出ようぜ。ちなみに、悪解放組は、時には殺しに手を染めることんなる。玄奘でなけりゃ、尚更だ。善の解放が出来ないなら、な。よく考えて決めな。」
キングは眉をしかめた。
カリオストロが告げた。
「わたくしは事後処理暗示組を担当しますよ。警察や軍を誤魔化して参ります。軍隊なんか派遣されては、悪神群に軍隊が殺されるだけですからね。」
アーラシュが名乗り出た。
「ワイアット。俺は悪解放組につくから、ダイヤモンド・クルセイダースの残りは手を汚させずに守ってやれ。俺は元々弓兵だ、戦で人を殺している。」
「カマンガー兄貴……!」
ヴィンテージ・ドミニオンズも告げた。
「わたし達は貴方たちを支援する大人のチームだわ。そもそも、走り屋にはギャング紛いの奴らもいて、自己防衛の手段も取ってきた。わたし達も悪解放組につく。」
エジプト・メイソン・リーは、申し訳無さそうに告げた。
「我々エジプト・メイソン・リーは、神に従い、戒め深く……錬金術を追求する者です。殺人は教義に禁じられていますし、戦いよりも現場の負傷者の治療を得意としています。」
ツナやポテト達、ゴーレム組は、少々不安げに話した。
「わたし達は、生き方によっては、善にも悪にもなってしまいます。マスターのように、殺しを請け負っても強い理性を保てるホムンクルスもいれば、アブサロム様のように、闇に落ちないまま、敵を殲滅し、守護を続けられるゴーレムもいますが……わたし達は生まれたてで、精神的にはまだ軟弱です。」
皆の意見が出揃って、キングは強い責任感から司令を下した。
「残忍な役割だが、決めるぜ。エジプト・メイソン・リー及びゴーレム組は、暗示組。ダイヤモンド・クルセイダースはカマンガー兄貴以外は暗示組。ただし、俺はどちらにも参加することとするぜ。悟空に玄奘、カマンガー兄貴とヴィンテージ・ドミニオンズには、汚ぇ役目だが、悪解放組に回ってもらう。さぁ、役割分担が済んだところで、行くぞ!!」
「「おうッ!!!」」
学校では、カリオストロは歴史のハワード先生に捕まって、問いただされた。
「わたしにも話して欲しい、バールサモ先生。テイラーの正体は、粗方だが知っているつもりだ。彼が心配なのだ。テイラーに、あの戦いで何があった?もう三日は学校に来ていない。食事よりも勉学に勤しむような生徒だぞ。余程の苦しみが、あったのではないかね……?」
カリオストロはハワード先生に向かい、しっかり肩を掴んで、告げた。
「ハワード先生。わたくし達に出来ることは、彼を信じて待つことぐらいですよ。生徒もヒーローも、自分自身でしか再起出来ない壁があります。信じましょう。傷が癒えて、彼が再起する日を。」
ハワード先生は返した。
「いつか、人間には自分自身でしか乗り越えられない壁が来ることは、百も承知している。だが、適度な支えは必要だろう。彼は大勢の命を背負ってきた。ならば、わたしくらいは、彼を背負ってやるべきだ。」
カリオストロは逆に納得し、讃えた。
「いやはや。わたくしが未熟でしたね。貴方は教師の鏡だ。」
「すまないがバールサモ君、プリント作業の続行を。わたしも支障をきたさぬように、速く終えるから。」
ハワード先生はもうデスクで手紙を書いていた。
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