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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第二話 必要悪
5/22

2-〈1〉

 イライジャが、日常から消えた。

 電話は、何度でも、執事のアルブレヒトさんがイライジャの方へ通してくれる。

 けれど、イライジャ側から切られてしまう。

 オーエンはその度、悲しくなり、受話器を置いた。

 イライジャの苦しみを、話して欲しい。

 でもそれは、もう僕の役割じゃなくて。

 僕は、被害者だから。


 ジュリーおじさんのいない朝が、もう二週間になる。

 オーエンは自分で起きて、支度し、下の階でオニオンスープを飲む。

「今朝はツナのグラタン、バジルソースのパスタ、おかずはチキンフィレオと明太子ソースのサラダのラジーバーガーだよ。」

 陽気な素振りで皿に盛り付けるラジーだが、オーエンはやつれた顔を気にした。

「おはようラジー。やつれたね。目の下のくまもだ。無理しないで、ずっと働き詰めだ……」

 ラジーは、苦笑いだ。

「優しいオーエンだもん、こりゃ気にするか。ジュリーの奴売れっ子ホストだったかんね。僕には僕が出来る仕事をするさ。オーエンが自立するまではね。それまでは任せな、夢の家庭を壊させはしないよ。」

 オーエンは焦っていた。

 学校だけ頑張ればいいのでは無い。

 このままでは、ラジーは倒れてしまう。

 日曜日だけなら……

 オーエンは短期バイトのフリー雑誌をポストから取って、スクールバスに乗った。

 日曜日だけ、学生OKは、ボランティアが多い。お金をもらうのは厳しいだろうか。

 そこに、介護院のプール清掃バイトを見つけた。

 日曜日限定!

「おはよう、オーエン」

 オーエンは慌てて雑誌を閉じた。

 学校はアルバイト禁止だ。

「やぁ、ドナ=ジョー。……よかったら、座る?」

「えぇ」

 オーエンとドナ=ジョーは座った。

「あの。最近、イライジャ来ないわね。お父さんが……ごめんなさい。貴方だって家族を失ったばかりなのに、こんな話題」

 ミカエルの暗示で、街中が、イライジャが殺人犯だとは誤魔化されている。

「……大丈夫。そうだ。ジュリーおじさんのお葬式に、イライジャの家のお葬式も代表してたから……日曜日、もう二回すっぽかしてる。ごめんドナ=ジョー。」

「いいのよ。課題を教えるより大任だわ。……それに、生きてたら日曜日はいつだってくるもの。」

「……うん。ありがとう。」

「もし、よかったらだけど、今週」

 オーエンは大変息苦しくなった。

 理解があるドナ=ジョーが、また誘ってくれたのに。

「……ごめん。しばらく日曜日は、内緒で働かなきゃ。亡くなったのが、稼ぎ頭のおじさんで……」

 ドナ=ジョーは、オーエンをみていた。

「そうよね。ごめんなさい、なんでわたし気づかなかったのかしら。わたしも一緒に働くわ。2人分のほうが、支えになるならだけど……」

 ドナ=ジョーの優しさに、オーエンは胸が熱くなる。

「なんて、お礼を言ったらいいのか」

「いいの。こんなことくらいしか、できないし。」

「僕は君に、何も出来てないのに。」


 歴史の講義中だ。

「ここで学習済のクシャーナ朝の文化に触れておこう。ガンダーラ美術とされる仏像達は、都プルシャプラにシルクロードが通っていたため、ガンダーラ地方と呼ばれ、その仏教美術の仏像の顔立ちはギリシア人に似ている。仏教の聖地である為、国はヒンドゥー教を通しながら仏教アカデミーも創立した。そうして、グプタ朝ではヒンドゥー教が定着し、これによってますますカースト制度は根強くなる。さて、ここで生まれたサンスクリット文学だが……」

 オーエンが挙手した。

「テイラー」

「グプタ朝に生まれたのはヒンドゥー教の二大文学、マハーバーラタとラーマーヤナです。インドのシェイクスピア、カーリダーサの戯曲シャクンタラーや、あの。それが……」

「ん。何か他に?」

「講義に関係ないかも」

「言いたまえ」

「図書館のマハーバーラタとラーマーヤナは貸出中から三年戻ってません。学習の為、両作品を図書館に置いていただけたら。」

「それは不届きな輩がいたものだな。わたしから職員に意見を通して検討しよう。現物を読んで学ぶのは感心だ。」

 オーエンは勉強しながら、頭の片隅で考えていた。不届きな輩なんだろうか?オーエンには、マハーバーラタとラーマーヤナを三年も返してない犯人は、余程、手離したくない程、二冊を好んでいるように思えてならなかった。


 コロンビアの街中を、散策している2人がいた。片割れ、厳しくマッチョで、黒のタンクトップに、首から金のチェーンを下げ、ゴリラのように毛深い男は、連れに告げた。

「な、あの店。チョコレート詰め放題、行こうぜ。」

 パーカーのフードを被った連れは告げた。

「欲望は程々に満たしてよい。ですが、悪食を認める訳ではありませんよ。悟空。チョコレート1枚なら買って差し上げます。」

玄奘(げんしょう)〜……やっぱさぁ、仏様よりヒンドゥー教のが面白いよ。天竺もそう言ってる。」

 悟空と呼ばれた男は、貸出中のマハーバーラタも、ラーマーヤナも、持ち歩いて読んでいた。このゴリラこそが盗難の犯人である。

「特にビーマ!ラーマ!なぁ、読めよ、面白ぇぜ?」

「半人前が悟りの道から逸脱なさいますか。ならばチョコレートは必要ありませんね。自分のお小遣いで暴飲暴食なさい。」

「あ、あ〜……漫画買っちゃったんだよ。」

「はい?」

「漫画買っちゃったんだよ!玄奘三蔵法師様!チョコレート1枚ください!!」


 放課後、オーエンが予習をしていると、ドナ=ジョーが駆けつけた。

「待たせた?」

「程よく予習が出来たよ。」

「日曜日の為の面接よね?ちょっとドキドキしてるの、放課後の寄り道は初めてだから。」

 意外だった。ドナ=ジョーなら友達に困らないだろうと思い込んでいたから。

「じゃあ、行こうか。学校からは遠いけど、自宅からはそうでも無いみたいだ。スマホのナビで」


 面接は上手くいった。面接官はオーエンが、ニュースで家族を失った高校生とわかり、危機に瀕した家計にも理解を向けてくれた。

 ドナ=ジョーも上手くいった。

 オーエンとドナ=ジョーは、帰り道にカフェラテを買い、慌ててドナ=ジョーが言った。

「つい買っちゃったけど、浪費は今日までね。」

 オーエンは歩きながらカフェラテを飲み、雨でも降っていたのか、水溜まりをドナ=ジョーが避けるのを手伝った。

 冬も近いが、ドナ=ジョーの靴は春の白いサンダルで、水溜まりなんか靴も足も汚れてしまう。

「夢みたいだ」

「どうして?」

「放課後に君とカフェラテを買って、帰り道についてるだなんて。……僕はそういうの、無縁だったからさ。」

 ドナ=ジョーははにかんだ。

「誤解してもおかしくない発言ね、オーエン。でも。わたしも、こうしたかったんだわ。」

「……ドナ=ジョー」

 ドナ=ジョーは、照れながら、向こうの道に行った。

「もう分かれ道ね。わたしの家こっちだから。また明日ね」

「あぁ、また明日」


 家に入ると、無人だ。

 ラジーが飛び出したのか、ラジーのバッグが玄関に放られていた。

「!!」

 オーエンは入っていく。ラジーが危ない。

「ラジー!?」

 いや、ラジーは家からは脱出したんだ。

 家の中に敵がいるなら。

「誰だ!!出てこい!!!」

 各ドアから、何人も現れた。

 武装はしていないが、魔術師や錬金術師の可能性もある。

「アンタ達、誰なんだ」

 一同は頭を下げて一礼した。

「お初にお目にかかります、アフラ=マズダ様。」

「我々は、エジプト・メイソン・リーです。あなたがたに、カリオストロを送った秘密結社です。怒りをお抑えになられよ、神よ。」

 オーエンは怒りに顔を歪めた。

「カリオストロの仲間が、僕の家に入り込むな!!」

 オーエンは何人も相手に、打ち倒しては窓から追い出す。が、数が数だ。

 オーエンの背後から2人、近づいてきた。

「わたし達は、アフラ=マズダ様側の味方です。」

 いきなり誰もいなかった台所から、ラジーが現れた。フライパンでどん、どん、と2人を打ち倒した。

「ラジー!」

「カリオストロの糸、役に立ってね。守護して貰って隠れてたよ。さぁ、こいつらを窓から追い出してっと。いつまでも夕飯が作れやしないよ。参った。」

「こいつら……エジプト・メイソン・リーは、カリオストロの仲間で、アフラ=マズダ側ってことか……だから、イライジャに酷いことを。」

「その代わりアフラ=マズダのオーエンには手出ししない。どうしたもんか。最終手段、使うしかないなぁ。」

「最終手段?」

 ラジーはテキパキとエプロンを巻いて、調理を始めた。

「こっちで電話しとく。オーエン、夕飯までにシャワー浴びてていいよ。ごゆっくり。」


 オーエンがシャワールームからパジャマに着替えてリビングにやって来たら、旅支度のミカエル・サンダースが椅子に座っていた。

「はーい。護衛のお姉さん、衣住食付きで依頼を受けました〜♥とりあえず結界で家宅には侵入出来なくしたから、安心して?」

「ミシェ、熱々のウインナーはいかが?冷えたビールをお供にね。」

 ミカエル、ウインナーをパリッと頬張りながらビールを飲んだ。

「最っ高。マジでラジーは気が利くわぁ〜。オーエン、アンタも夕飯食べなさい。なにぽかんと見てんのよ。」

 オーエン、心配げにラジーに尋ねる。

「依頼料は?ラジーの負担がデカすぎるよ。」

「依頼料の請求はオーエン自立後、月々払える分で長生きしなさいってさ。優しさが染みるね。アタシ泣いちゃうわ。」

「そうか……よろしく、ミカエル。ラジー、卵とポテトのキッシュを切って」

「あい〜。ジグザグジグザグ。」

「あ……そうだ。僕、ドナ=ジョーと日曜日働きに行くよ。介護院のプール清掃だから。汚してもいい服があったら、出しておいてくれるかな?」

「え。オーエン、いいのに」

「皆の生活なんだ。皆で家庭を守ろうよ。」

「参ったな。じゃあ、言葉に甘えて、家計に足させてもらう。それはそれとして、日曜日はドナ=ジョーと楽しんでおいで。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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