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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第六話 黎明の騎士
49/70

6-〈19〉

 アシャの聖なる火柱が上がり、オーエンの聖なる火の加勢もあり、オーエン達は優勢と言って良いだろう。

 だが、確実に疲弊していた。

 ジャヒーの方は余裕がある。影の国のゲートから地獄の猛獣を幾らでも出してくるが、本人はろくに動いてすらいないのだ。

 ミカエルは魔力探知に専念していた。

 エジプト・メイソン・リーも、ハリソンとコリンも、ローレンスパッパも、ヴィンテージ・ドミニオンズも。

 皆が疲弊している。

 まだまだタフなのはキングぐらいだ。

 それでも、暗示軍団は幾らでも追加されて、補充されている。

 ミカエルが特に気になったのは、アエーシュマが参加していない事実だ。

 ミカエルは既に赤珊瑚(クラリオン)を四隅に敷き、皮に書いた逆三角の魔法陣を敷いて、守護結界を張っていた。

「オーエン!アシャ!下がって話を聞いて!一時しのぎの結界魔術は出来てるから!」

「ミカエル?」

 オーエンとアシャは後退し、ミカエルの元に集った。

「どうにも、おかしいわ……悪神群の中でも、意見が二分されているってことはさ。この戦い自体が、時間稼ぎかもしれないわよ。」

「……どういうこと?」

 ミカエルは一点一点を話した。

「まず、戦いに敬意を払うアエーシュマが、乗り気じゃない。ジャヒー側は、無限に増援が出てくる。こっちは疲弊してくだけ。つまり、陽動かもしれないでしょ。本命は別に進めているとしたら?」

「なんだって……!?」

 聞いていたのか、ジャヒーが笑い出した。

「アッハッハッハッハッ!お利口さんね、お嬢ちゃん?でも、今更気づいたところで、抜け出せやしないわよ。アンタ達は実際にこの現場だけで手一杯。何が出来るっての?」

 ジャヒーが床に鞭を打つと、地獄の猛獣達は一時しのぎの結界魔術を破壊して、襲いかかった。

「ミカエル!下がって!!」

 伸びてきた棒が、地獄の猛獣達を足払いした。

「させねぇーよ!!」

 空から飛んで来たのは、善神群ウォフ・マナフが依代とした、孫悟空だ。

 空を飛ぶ金斗雲には玄奘も乗っている。

 金斗雲から飛び降りた悟空は、如意棒を使った棒術で、地獄の猛獣を片っ端からなぎ倒す。

「なに!?こいつ、おかしいわ!」

 ジャヒーが怯んだ。

「よぉ!オーエン!!久しぶりの合流だな!!俺ァつえーぞ!!善神群最強のアシャ・ワヒシュタを食い止めたぐれーにはな!!」

「悟空!!」

「ウォフ・マナフか!!」

 アシャは心強くなり、自身も負けずに、地獄の猛獣に剣を振るった。

 戦っていたエジプト・メイソン・リーやハリソン達も、悟空の大声を聞きつけた。

「なんだ?あの柄の悪そうな、マッスルゴリラみたいな奴。」

 コリンに対しカリオストロが告げた。

「ゴリラみたいな奴ではありませんよ。服を着ていますが、生態的には、人間に似た猿です。ですが類人猿でも無い。血肉を持った、妖精……ですかね?」

 ジャヒーもまた、見抜いた。

「なに?アンタ……ゴリラだわ。なんでエテ公の肉体に、善神群が?」

 悟空はかっこつけ所に気づいて、決めポーズを取った。

「ウォフ・マナフ宿りし斉天大聖(せいてんたいせい)、孫悟空、見参ッ!!!」

 ハリソンが歓声を上げた。

「斉天大聖かよーッ!!西遊記じゃねーか!!かっけぇーッ!!!」

 金斗雲に乗っていた玄奘が、背後から悟空の背中を容赦なく拳銃で撃った。

「いてっ!!」

 痛いで済む程、悟空は屈強な肉体だ。

「おやめなさい、駄ゴリラ。現状は、それどころではありませんよ。」

「おいっ!!玄奘!!無闇に発砲すんじゃねーよ!!」

 オーエンが二人に久しぶりに再会して表情を明るくした。

「玄奘さん!二人とも、来てくれたんですか!」

 悟空が振り向いた。

「こんなとこで戦ってる場合じゃねーぜ。この女、部下を使って悪を解放して回ってやがる。悪を解放された連中は、暗示にかけられるよりタチが悪い。俺と玄奘はそっちを回ってんだ!」

 アシャが息を飲んだ。

「待て、ウォフ・マナフよ!悪を解放された人間が、他にもいるのか!?」

 悟空は新たに沸いた地獄の猛獣を叩きのめしながら、言った。

「こちとら、馬鹿なもんでな!俺にゃわかんねーがよ!大体が悪を解放されたら、家庭内殺人に至るんだぜ!身近な人間が犠牲になって、周りからはわからねぇ!ニュースでも見な!家庭内殺人多発、模倣犯かって騒いでんぜ!暗示軍団は陽動で、悪の解放が本命だろ!暗示と違ってありゃあ、人間の意思で殺害してんだからな!!」

「人間の意思で、殺害……?」

 不安にかられたオーエンが、尋ねた。

「玄奘さん。悪の解放は、善の解放で戻せる?皆、助けられるんですよね?」

 玄奘はオーエンを思い、優しい彼には残酷だが、事実を教える為に、首を振った。

「オーエン・テイラー。彼らは、全てが助けられる範疇では、ありませんよ。助かる例はごく一部。例え善を解放しても、罪は消せません。そして、被害が子供にまで到ると、もう善など効きはしない。不遇な環境にいた者程、規則の無い悪の自由に晒されたら、狂気に到るのです。自らの意思で殺人を犯す者らは、被害が拡大する前に、我々が生を殺め、御仏の元に送り出すことでしか、止めることも報いることも出来ません。わたしもまた、お釈迦様の伝道者でありながら、救う為に人を殺めています。そして、アシャ・ワヒシュタよ。貴方の匿っている少女もまた、同じ運命(さだめ)なのですよ。」

 アシャは内心でグツグツと怒りが煮えたぎる。

 この男は、聖者でありながら、不遇にあった人間の心に寄り添う事無く。

 ただ、正義を語って、殺したというのか。

 アシャは玄奘に剣をかざし、否定して叫んだ。

「違う!!彼女には良心も後悔も、残されている!!あなた方の行いは、人間に寄り添う正義では無い!貴方はどんな聖者か知らないが、善を優先し過ぎて残忍になってはいないか?正義だけでは、善も悪も孕む人間は守れない!!」

 オーエンには、アシャの言葉は届かなかった。

 ドナ=ジョーの意思での殺人への、ショックが大き過ぎた。

「ドナ=ジョー自身が……家族を、殺した?」

 セオドアさんから、聞いてはいた。

 ドナ=ジョーは不遇の環境にいて。

 悪の解放は、助からないのか?

 愛する人。

 1番、助けたい人。

 だけど、オーエンが、自身の愛を犠牲にしなければ。

 市民の命に関わるだろう。

 街のみんなを、守る為に。

 自らの愛を、殺す……?

 ヴィンテージ・ドミニオンズが叫んだ。

「セオドアが、妹を助けに行ったわ!!兄貴の役目を果たすって!!セオドアはわかっていて、決着をつけに行ったんだわ!!」

「セオドアさんが!?」

 アシャが走り抜けた。

 真っ先に、ドナ=ジョーとセオドアを助けるべく、跳躍していく。

 このままでは、誤解からドナ=ジョーが断罪されてしまう。

 守らなくては。

 真の正道は、常に人間に寄り添わなくてはならない。

 善でも悪でもある、人なればこそ。

 真の正義を示さねばならない。

 オーエンが後を追おうとしたが、ジャヒーの従える地獄の猛獣に阻まれた。

「キリが無い。セオドアさんが危ないのに……!!」

 一方、キング達もアシャの後は追えなかった。

「チッ!幾らぶっ倒しても、次々に暗示にかかりやがる……!!」

 その時、キングの影からシルクハットが生えて来た。

「だから、わたしは忠告したと言うのに!」

「!……アエーシュマさんか?悪ぃが話してる暇はねぇぞ!」

 アエーシュマはキングの影から飛び出し、一回転して着地した。

「馬鹿な作戦に乗せられたものだ!しかし!この場面はいただけないッ!!キング君を倒すのはこのわたしであり、卑怯な時間稼ぎをわたしは良しとはしていないからだ!!さぁ、仲間達を連れて、ドナ=ジョー君の元に行きなさい、キング君!暗示軍団もジャヒーの猛獣も、わたし一人で充分ッ!!わたしのバリツは一騎当千なのだッ!!」

 アエーシュマのバリツに加え、アエーシュマは自慢のオペラで、暗示軍団の暗示を次々と解除していく。

 ジャヒーが怒鳴った。

「何やってんのよ、アエーシュマ!!不可侵条約を違反する気!?」

「アエーシュマさんよ……!わかった、行くぜ!アンタになら、任せられっからよ!」

 キングはエジプト・メイソン・リーやダイヤモンド・クルセイダースに声を張り上げた。

「アシャを追うぜ!行くぞ、てめぇら!!」

「おうッ!!」

 オーエンはミカエルに言った。

「僕らも行こう!」

「先行って!あたしはバイク乗ってく!」

 オーエン達が立ち去ると、怒り心頭のジャヒーはアエーシュマに怒鳴った。

「アエーシュマ。アンタ、自分が何をしたかわかってる訳!?この裏切り者ッ!!」

 ジャヒーの繰り出す地獄の猛獣を、アエーシュマは軽くいなして、投げ飛ばす。

「ジャヒーよ!アジ・ダハーカにすら礼節もあれば愛もあるッ!!それが、君という女は何かねッ!?悪には悪の作法がある!悪を抱く人間を愛するどころか、君は殺し回るだけの、アジ・ダハーカよりも陳腐な模倣犯ではないか!!」

「なんですって!?あたしはアジ・ダハーカを手本にして、悩める奴らを解放してやったのよ!!」

「ならば何故ドナ=ジョー君をパリカーに狙わせた。君の愚行が無ければ、地獄と天国の共存は不可能では無かったというのにッ!ジャヒーよ、今の君は、悪神群の面汚しだ。醜い、実に(けが)らわしい!!」

「アンタに、何がわかるのよ!!あたしはアフラ=マズダに顔を焼かれているのよ!!共存ですって?冗談じゃないわ!!どんな手を使ってでも、アフラ=マズダを殺してやるッ!!!」

 ジャヒーの地獄の猛獣達は、アエーシュマがバリツで次々倒してゆく。

 アエーシュマVSジャヒーの戦いもまた、開始されたのだ。


 ダイヤモンド・クルセイダースが走っていると、キングやコリン、ハリソンの元に、ヴィンテージ・ドミニオンズが走って来て、助手席のドアを開けた。

「仲間たち全員は運べないけど、あなた達一人ずつなら運べるわ。乗って!あなた達、ドナの友達なんでしょ?」

「……あぁ!ありがてぇ!乗らせてもらうぜ。」

 キング、コリン、ハリソンは各自の愛車の助手席に乗り込んだ。

 走り屋の愛車はファミリー向けではないから、シートは二つだけだ。

「善神群は悪のスキャンとか出来るらしいけど、わたし達はセオドアのGPSを追うわよ。」


 オーエンは走り込み、妙に敵の邪魔が来ない、とは、感じた。

 悪魔の残骸のような灰がのぼっていた。

「先に行った、アシャが倒したのか……?」

 正直、足取りは重い。

 行きたくない。

 だけど。

 オーエンが行かなければ、誰が市民を守れる?

 愛する人か、大勢の命か。

 天秤にかけるまでもなく、承知している。

 だが、苦悩はオーエンを蝕んだ。

「ドナ……!!」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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