6-〈10〉
オーエンが猫の案内で、エジプト・メイソン・リーのロッジに駆けつけると、各研究室のベッドに負傷した仲間たちが座っていた。
「キング!ハリソンとコリンは?」
キングは腕を組んでカリカリと怒っていた。
「うるせぇ!ハリソンの馬鹿が、やらかしたんだよ!!天使様がいなかったら、ハリソンごとコリンも死んでたぜ!!」
オーエンは困惑。
ハリソンとコリンは腹に負傷したらしく、服には血の跡があるが、アールマティとエジプト・メイソン・リーの治療で、既に傷は塞がっていた。
「マジで。テイラー、ハリソンの奴有り得ねぇよ。」
「ハリソン、何したの?」
ハリソンは反省した様子も無く、足元からドデカいチェーンソーを持ち上げて、かき鳴らした。
「うわわ!」
「特注の秘密兵器っつったろ?ダイヤモンド・クルセイダース最強の俺だかんな!」
キングが激おこだ。
「馬鹿野郎!暗示にかかった奴を殺してどうなる!?しかも敵がビビってお前らを転ばせて、奪われたその秘密兵器を、てめぇとコリンまで食らったんだぞ!!」
ハリソンは自信たっぷりに返した。
「いーや!死なないね!コイツは神父様の祈祷付きで、対悪魔チェーンソーなんだぜ?ほら、刃の部分に聖書の言葉がびっしりだろ?」
オーエンは神父様達エクソシストの仕組みを考えた。
「あのさ、ハリソン。言い難いんだけど……キリスト教では、神父様達の悪魔祓いって、人間ごと殺すからさ……多分、そのチェーンソー、人間も死んじゃうよ?」
ハリソン、眉をしかめた。
「ハア〜!?じゃあ神父、ぼったくりじゃん!!よぉし、神父で切れ味を試してやるかぁ!!」
キングが怒りのうめぼしをハリソンの頭にグリグリした。
「いてぇー!!」
「やめい。神父様を殺すな、お前んちの庭で木でも切ってやがれ。」
そこで、アールマティが入れ替わった。
「オーエン。アシャ・ワヒシュタが別室で治療中です。わたくしも治癒致しましたが……毒仕込みのナイフを受けたようで。エジプト・メイソン・リーの解毒を受けていますが、高熱です。」
「アシャ・ワヒシュタが?行くよ、心配だ。」
オーエンに頷き、アールマティが言った。
「わたくしとワイアットも行きます。オーエンに重要な話があると言っていましたから。」
オーエンとキングは、アシャの寝かされている研究室まで歩いてきた。
カリオストロが付きっきりで、薬剤調合しては、アシャに飲ませている。
カリオストロは集中作業で振り向かないが、アールマティに言った。
「キング君、アールマティ女神よ。わたくしの肉体ダメージの治癒に感謝します。おかげさまでアシャ・ワヒシュタ君は峠を越えました。」
アシャは慌てて身を起こし、ふらついた。
「アフラ=マズダ様」
オーエンは慌ててアシャを支えた。
「起きなくていいよ、アシャ!話したいことはなんとなく、わかってる。ドナ=ジョーのことだね?まずは、横になってからだ。」
アシャは横になり、言った。
「主君の前でこのような失態を。お許しください。」
オーエンは手をブンブンと振った。
「いや、全然許してるし!気にしないでアシャ。むしろ、僕が寝かせたんだし……君の正道を阻んで、ごめんね。」
「アフラ=マズダ様……実は、俺は不誠実を働きました。」
アシャの独白に、オーエンは聞き手に回ることにした。
「ドナ=ジョーだね?」
「はい。……キングよ。話していいか?」
キングは頷いた。
「好きにしな。」
「俺は、追われていたドナ=ジョーを庇い、キングと対立しました。しかし、彼は優しき男で、ドナ=ジョーの涙に思うところがあったのか、俺たちに情けをかけ、見逃してくれました。俺は、ドナ=ジョーを匿っています。」
オーエンは答えた。
「アシャと会って、なんとなくわかっていたし……キングには、善神群のリーダーを頼んである。未熟な僕より、彼が見逃す判断をしたんなら、きっと正しいよ。君らが迷う理由が、ドナ=ジョーには、あったんだね?」
アシャは、告げた。
「はい。アフラ=マズダ様とのお約束通りに、俺は彼女を試しました。ドナ=ジョーは言いました……彼女は一度死に、異文化的な王国のある天国にいたと。おそらくは、善神群たるクシャスラの建設した、貴方様の王国かと。そして、アフラ=マズダ様達の救助活動が善の投票となって、クシャスラに送り出され、魂が肉体に降りたことを。俺は彼女が、天国の前兆だと考えました。クシャスラによれば、俺たちが善の投票を続ければ、彼女は甦ることが可能だと。ドナ=ジョーは、助けられる命です。」
オーエンは、アシャに対して、感謝しか無かった。
「ありがとう、アシャ・ワヒシュタ……君がいなかったら、僕はドナ=ジョーと対立していた。彼女は、僕が守らなきゃならない人なんだ。僕らで善の投票を続行して、彼女を助けよう。」
「俺も、異論はねぇよ。ドナ=ジョーが助かるんならば、やってやろうぜ。」
「わたくしも異論はありません。クシャスラならば疑いようは無いのですし。アシャとワイアットを疑ったことを、謝罪します。オーエンよ。ドナ=ジョーを甦らせるには、善の投票による天国の到来は必須です。貴方の親友の悪神に、居場所を作るように言わなくてはなりませんよ。ドナ=ジョーを優先してイライジャが死んだ、では、話にならないでしょうから。」
アールマティにオーエンが頷く。
「うん!そっか、イライジャは悪神だから、天国が到来したら……溶けちゃうの?」
「わかりませんが、溶けるぐらいのダメージはあるでしょう。逃げ道を作るぐらいはすべきですよ。」
アシャは微笑み、身を起こした。
「アシャ!まだダメだよ!!」
「いえ……だいぶ熱が下がってきました。カリオストロ殿の解毒調合が当たりだったようです。」
カリオストロはドヤ顔だ。
「わたくしにかかれば薬剤調合もカリーのスパイス調合もお手の物ですよ。熱は……ええ、引きましたね。ドナ=ジョー君が悪夢を見ているかもしれませんから、此度は大目に見ましょう。帰ってもよろしいですよ。」
オーエン達も、アシャと共にエジプト・メイソン・リーのロッジを出た。
空は茜色に明るくなっていた。
「朝焼けだ、やばい。帰って仮眠しなきゃだ。」
オーエンは焦る。
「起きれんのか……?」
「俺は寝坊しそう。ゲイビ観て起きたまま学校行くかな。」
「ハリソン様は二日は完徹出来るね!ヒャッハー!徹夜のハイテンション来たー!!」
「アシャ・ワヒシュタを送ってから、帰るよ。」
オーエンはアシャを送ろうとしたが、アシャは丁重に断った。
「俺は大丈夫、お気になさらず。アフラ=マズダ様は帰宅して、一時間でも多く仮眠なさってください。」
「でも……」
キングがオーエンを諭した。
「わかってやれよ。てめぇの責任はてめぇで背負うのが男なんだよ。アシャさんを行かせてやれ、テイラー。」
「……うん。アシャ、気をつけて帰ってくれ。ドナ=ジョーを頼むよ。」
アシャは笑顔で返した。
「承ります!それでは、アシャ・ワヒシュタはこれにて!」
キングが寝るべきか起きているべきか、考えながら、コリンやハリソンと帰り道を歩いていると、キングの足元からシルクハットが生えた。
「!?」
キングの身体の影だ。影から、シルクハットが出たのだ。
「キング君、わたしだ。人払いを頼めるかね?」
そのシルクハットがアエーシュマだとわかり、キングはコリンとハリソンに告げた。
「寄り道がある。てめえらは、先に帰りな。」
「マジ?キングはコリンち、行かねぇの?」
「ハリソンはうちでゲイビ大会付き合うって。キングは来ないのか……キングの探してたユニークなゲイビ男優、見つけたんだけどな。」
キングは目を泳がせた。
「ユニーク系?マッチョか?褐色?」
「マッチョで褐色、楽しい性格のアフリカ系だよ。」
キングは黙り込み、悩む。
アールマティが出て来た。
「いけませんよ、コリン。ワイアットは多感な時期です。最近では自身がゲイではないかと悩むことも度々。あぁ、これでは暴露大会になってしまいますね……大事な用事なのです。誘惑しないように。」
コリンとハリソンは了承した。
「わかった、先に帰るよ。でもキングはドナ=ジョーの事があるからゲイじゃなくて、バイだよ!ゲイビはまたな!」
「ところで、ドラマ式?それともいきなり?」
「ハリソンは初心者だし、ドラマ式を観るか?」
二人が立ち去ったところで、キングの影からシルクハットが伸びてくる。
影の国から、アエーシュマが出てきたのだ。
「わたしが心配して駆けつけてみれば。君らはなんという会話をしているのだね?キング君、ゲイビなんかよしなさい、武道の方が余程健全だッ!」
キングは恥を偲びつつ、アエーシュマに尋ねた。
「アエーシュマさんよ。アンタ、まだ悪神群やってんのか?影から出てくるってこたぁ、そうだろう?」
アエーシュマは髭を直し、宣言した。
「わたしは既に君によって悪の運命から解放されているッ!今のわたしは善でも悪でも無い、一人の男たるのみッ!!ただし、キング君の宿敵というポジションは譲れないのでね。一応悪神群に所属している!悪神群でいれば、また君と戦えることだろうッ!!」
キングは微笑した。
「そうかい。今のアンタは、男たるのみ、か。」
アエーシュマは厳しい表情になって告げた。
「わたしの運命を破壊した男よ。君ともあろう者が、何故、ドナ=ジョー君を天に還してあげないのかね?わたしの理想郷は天では無いが……人間の願いは天だろうとも!」
「……ドナ=ジョーは、善の投票で甦るんだとさ。まぁ、確かに、生ぬるい情けはかけちまったがよ。」
アエーシュマは真剣に告げた。
「キング君。人間には善意もあれば、悪の側面もあるのだ。善の投票を長期間に渡って稼ぐ間、彼女は保てるのかね?今もアジ・ダハーカと向き合いながら、彼女は自身の悪性を知りつつある。取り返しがつかなくなるぞ。彼女の善意が残っているうちに、天に還してやることも、男の道では無いのかね?」
キングは納得したが、如何せん、ドナ=ジョーへの情けが邪魔をした。
「あぁ。多分、俺が間違ってんだぜ、アエーシュマさんよ。本当なら、早く死なせてやるべきだ。善ってモンは、完璧じゃねえんだな。人道やら情けを選べば、闇の穴蔵に真っ逆さまに落っこちまう。それがわかっていながらも、信じてぇのさ。救える道があるってことをな。」
アエーシュマはため息をつき、しかし納得したのか、深追いはしなかった。
「愚かしい善意だが、しかし、諦めが悪いのは、実に君らしい、君の強みだ。ならば幸運を祈るとしよう!わたしとしても、落ち込んで覇気が無い君など見たくはない!くれぐれも気をつけなさい、キング君!ドナ=ジョー君が暗闇に取り込まれぬように!それでは、わたしは失礼しよう!!」
アエーシュマはキングの影の中に消えて行った。
キングは深い溜息をつき、アエーシュマの言葉が身に染みた。
「アンタはもっともだよ、アエーシュマさん。俺は……情けで、取り返しがつかねぇ過ちを、しているのかもな……。」
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