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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第一話 戻れない、朝焼け
4/22

〈4〉

 イライジャは、オーエンの自宅に来ていた。

 ジュリーおじさんがゴミを出しに来て、イライジャに気づいた。

「イライジャ、言うなよゴミ出しのこと。明日は遅くなる、今出さないとうちはゴミ屋敷だ。」

「言わないよ。そんなつまらないこと。」

 ジュリーおじさんは、イライジャが不機嫌な事に気づいた。

「なんかあったか。入れよイライジャ。オニオンスープ……じゃないな。コーヒー飲むか?」

 イライジャは椅子に座り、出されたコーヒーに口をつけた。

「オーエンが嫌なことしたのか?滅多に無いが、偶にあるんだよな。俺から言っとこうか?」

「いいや。いいんだ。よくわかった。」

「なにが?」

「アンタは、オーエンの理解者だよ。」

 ジュリーおじさんは不思議そうにイライジャを覗き込んだ。

 イライジャは、銃を撃った。

 ジュリーおじさんは胸を撃たれ、椅子から倒れ落ちた。

「オーエンの一番大事なものは、あんただ。オーエンはこれで俺と戦うね。」


 オーエンは出来たての特殊素材のタイツを、服の下に来て、今日は早々に帰った。

 ジュリーおじさんとラジーに、説明する約束だし。

 玄関が開いていて、救急車が自宅の前に集まって来た。

 嫌な予感がしたオーエンは、自宅に駆け込む。

 ラジーが泣いていた。ラジーの膝には、まだ若いジュリーおじさんが倒れている。

 床にはおびただしい程の血溜まりが出来ていた。

「……!!ジュリーおじさん!!ジュリーおじさん!!!」

 ジュリーおじさんは胸を血で滲ませ、もう長くない。

「誰が……!?犯人を許さない!!殺してやる!!」

 ラジーが言った。

「玄関で、イライジャとすれ違った……あいつ、銃を……捨ててった……。」

「イライジャ…………?そんな」

 ジュリーおじさんが、意識を僅かに取り戻した。

「……オーエン……説明、まで、持たなかったな……」

「ジュリーおじさん!まだ間に合う、救急車へ」

「エルダーさんが……電話で……悪神と善神……なんだろ……でも、運命なんか、変えられる。オーエン……優しさを、失うな……愛だ。お前は特別な子だ。俺やラジーから、愛を注がれてきた……イライジャは、敵じゃ、ないだろ。あいつを、取り戻すんだ。友情を信じろ……でも、不公平だよなぁ。俺だって、まだ、傍に…………」

 ジュリーおじさんは、ボヤいた。

「オーエン、俺の分まで……愛を……」

 ジュリーおじさんの腕は、力無く床に落ちた。

 それきり、ジュリーおじさんは動かなくなった。

 深い、眠りについたように。

 オーエンは叫んだ。

「おぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!」

 イライジャが彼を殺した。激しい怒りはおさまらない。

 だけれど、この人は言い残したのだ。

 友情を。

 愛を、信じろと。

 自分(ぼく)ではない、天の父よ。

 愛に生きたこの人を、どうか、安らかに眠らせてくださいーーー。


 コロンビア中のビルのモニターにニュースが写った。

「容疑者は、マイヤーズ財閥の一人息子、イライジャ・マイヤーズ。ハイスクール学生です。」

「財閥の社長エルダー・マイヤーズ氏は、財閥の新建設ビル屋上で記者会見に応じます。」


 新建設ビル。

 エルダーさんは、亡くなったジュリーおじさんに対し、神父を伴って祈った。

 イライジャは屈託なく笑った。

「何に祈った、親父?明日の我が身か?」

「大馬鹿者が!!」

 エルダーさんが意を決して屋上に出ると、記者達が一挙一動を待っていた。

「皆さん。お待たせ致しました。質問を、受け付けます。」

「息子さんを何故警察に引き渡さないのですか?」

「マイヤーズ財閥の今後を考えたら、息子さんを庇い切れるものではありませんよね?」

「殺人ですよ?」

 エルダーさんは深く祈祷した。

「息子から被害を受けた、ジュリアス・ビスコンティーノさんは、わたしにも男やもめの保護者同士、信頼の置ける方でした。お悔やみ申し上げます。」

「悔やんでも、死んだら生き返りはしません。」

「あぁ。わたしは、神に深い信仰がありながら……息子を愛しています。あの子が人を殺し、世界が敵に回っても……息子を、愛している。」

 ビルのニュースを見ていたラジーは、暗い眼差しで画面のエルダーさんを見た。

 ジュリーを失って、息子を裁く所か、愛してるだと。

 許せなかった。

 ラジーはナイフを購入してビルに入って行った。

 ジュリーと出会ったのは、親友のマクソンがジュリーの姉エレクトラと付き合い出してから。

 バンドマンで、ギタリストで、やんちゃなジュリーからは、今のような落ち着きはまるで無くて。

 きっと当時のジュリーだって思うまい。三人家族になって働いて家事して育児して。

 でも、きっとオーエンが自立するまでの、期間限定の夢のような家庭だ。

 幸せがあって、喜びがあって。

 ビルの屋上についたラジーは、ナイフを片手にエルダーさんに近づいて行った。

「きゃああああ!!」

 記者たちが逃げ出し、エルダーさんは覚悟したかのようにラジーを見ている。

 イライジャが軽量アーマーで飛び出した。

「親父!!」

 オーエンが飛び出した。服を脱ぎ、特殊素材タイツになる。

「イライジャ!!君の相手はこの僕だ!!」

 イライジャは、カリオストロの未来視による憎しみに取り憑かれ、オーエンに飛びかかった。

「オーエン!!この裏切り者!!」

 二人は激しい取っ組み合いになる。

「はぁ、はぁ!イライジャ、君相手じゃ、正直、時間稼ぎすらしんどいが……ラジー!やめてくれラジー!!」

 ラジーは憎しみに憑かれ、歩みを止めない。

 オーエンは泣きながら叫んだ。

「僕らだけはジュリーおじさんの味方だろ、ラジー!!復讐じゃない!!取るべきは、愛なんだって、言われたじゃないかッ!!僕らは、運命を変えるんだろ、ラジー!!」

 ジュリーの面影が過ぎる。

 優しくて、愛に溢れた彼は。

 こんなことは望まない。叱られてしまうだろう。

 ラジーは涙を一筋流し、ナイフを落とした。

 イライジャの鋭い刃が、オーエンを抉った。

「余所見してる場合かぁッ!!」

 ミカエルが駆けつけた時には、もうオーエンとイライジャの一大決戦になっていた。

「不味い!介入された!!ベルフェゴール、ビル周りに結界!落下死防止よ!サタン!敵は?」

 光の半導体たる、天使サタンは、辺りを飛び交い、情報を受信すると、告げた。

「ひゅう。天使を手品道具に使われてるな。来るぞ。」

 空中から糸が引けた。

 それは、光の半導体、情報共有思念体たる天使を繋いだ手品。

 いきなり現れ、ラジーの傍らから、ナイフを拾った男は、真っ直ぐ歩いてゆき、エルダーさんの胸を一突きに貫いた。

「あぁ……」

 エルダーさんは崩れる。

 イライジャが悲鳴を上げた。

「nooooooo...!!!」

 カリオストロは血の着いたナイフを抜くと、大笑いした。

「恐悦至極!!イライジャさん、騙すつもりは、アリアリでしたァ!わたくし生来からの詐欺師でしてっ!!!如何でしたか?カリオストロ監修のこの舞台、喝采のひとつもいただけますとッ!!!」

 イライジャが怒鳴って飛びかかった。

「カリオストローッ!!!」

 ミカエルが告げた。

「粗方こういうことかしら。イライジャは、エルダーさんが殺される未来を見せられて、オーエンとの決着を望んだんだわ。錬金術師アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。善神の過激派。雑魚の癖に事態を引っ掻き回す天才ね。」

「……許せない。あいつにとっては、ジュリーおじさんも劇の中だ!」

 オーエンは、イライジャを追ってカリオストロとの戦いに入るが、何度もビルの側面を駆けて跳び、肝心な一撃でカリオストロは消えてしまうのだ。

 そして、どこからか、強烈な爆発を浴びせられ、オーエンとイライジャは咳き込みながら倒れ込む。

「種がある、はずだ」

 空中から引く糸で、浮遊しては、出たり消えたりする。

「光の反物質、情報共有思念体を繋ぎ止める糸。アレを使って大勢の天使を駆使する。世紀の発明だけど、糸ってだけだわ。サタン。仲間を解放してやれば?」

「僕ひとりじゃ一体一体が関の山だ。ミカエル。ベルフェゴールの炎で、糸を焼くんだ。」

「手間はかかるけど、いいわ。オーエン、イライジャ!援護して!!」

 オーエンはミカエルの傍らに戻るが、イライジャは闇雲にカリオストロを襲撃する。

(イライジャ。カリオストロの手品、疲れたんじゃない?あいつの仕掛けを焼くわ。一撃当てさせてあげると約束する。手伝って。)

 イライジャは念話でミカエル側に戻ってきた。

「いい?あたしはホムンクルスとはいえ人間。敵は浮遊してて、こっちはビル屋上だから足場は限られてる。信じて跳ぶわ。必ず回収してよね!」

 ミカエル、走り出した。ベルフェゴールが先行する。

「おや、怖い怖い。偉大なる魔女の王には、わたくしでは敵いませんよ。」

 カリオストロ、自分より強い魔術師から退散しようと、空中から糸を引く。

 ミカエルが跳躍した。

「糸よ、ベルフェゴール!!」

「天の慈悲なき地獄の黒炎!!」

「!!」

 ベルフェゴールのブレスに糸を焼き払われ、カリオストロはもう片手の糸を引くが、ベルフェゴールがその腕を噛みちぎって持ち去った。

 ミカエルは跳躍から落ちていく。

 オーエンとイライジャがミカエルを抱え、ビルの側面を走って跳びながら、屋上に戻った。

 カリオストロは片腕を失い、まだ笑っていた。

「何かウケることある?アンタ、絶対絶命ですけどね。」

「我が手の中で踊るさま、実に愉快でした。イライジャ・マイヤーズ。実に!実に晴れやかな見世物でした!フランスのグランギニョルでもこうは行きますまい!!」

「イライジャ!」

「合わせていくぞ!!」

 オーエンとイライジャの合わせ技に、カリオストロは血を吹いて、焼かれてしまった糸から、無事な1本を手繰り寄せる。

 そして、バラバラと爆薬を撒いた。

「死んでしまいます!!死んでは目論見も何も無い、それではご機嫌麗しゅう、さらばです!!」

「爆薬が」

「逃がすな!!父の……仇だ……!!」

 カリオストロの糸が、切れた。

「え」

 ただのナイフ。

 いや、エルダーさんの血のついた、ナイフだった。

 展望台にしがみついたラジーが、ナイフでカリオストロの糸を切ったのだ。

「ラジー!!」

「オーエン、イライジャ!エルダーさんと、ジュリーの分もだ!!」

 爆発の中、逆らいながら、戦う。

 落下してくるカリオストロに、イライジャが斬撃を。オーエンが反対方向から殴り飛ばし、カリオストロはビルの外側に落下。

 血塗れで、物言わぬ死体になって着地した。

 頭を抱えてうずくまっていた記者達が、立ち竦むオーエンとイライジャを見つめた。

「彼らは……何なの……?」

 イライジャは父エルダーを抱き起こし、エルダーは息子を見つめた。

「悪い……父だった。妻が、お前を生んで死んで……お前を、憎んだよ。」

「親父」

「でも、愛している。愛しているんだ……イライジャ…………」

 エルダーさんは、片手がずるりと落ち、やがて何も言わなくなった。

 泣くイライジャに、オーエンが頑なに立ち尽くす。ラジーが、オーエンを小突いた。

「ジュリーとの約束違反か?」

「……酷い敵だった。戻らない。大事な人は、誰も。」

 オーエンはイライジャを支えながら泣いた。


 イライジャを連れて、オーエンとラジーは自宅に帰った。家族を失ったイライジャを、1人で帰す訳にも行かなかった。

 冷凍していた作り置きを温めた。

「親父が死んでるのに、飯はうまいんだな。」

 ラジーが答えた。

「それが生きるってこと。これは、ジュリー作、最後の晩餐。君たちが食べるのが正解。」

 オーエンもだが、イライジャは涙が溢れた。厳しい顔のまま、頬張った。自分が殺した人の、手料理を。


 オーエンは、寝る前に、イライジャと屋根の上に登った。

「俺は人殺しだ。泊まる訳にはいかない。実家に身を隠すよ。」

「でも、ミカエルが街中に暗示をかけたって。パトカーはこないよ。」

 イライジャは、オーエンを振り向き、言った。

「そういう問題じゃない。親父の葬式……執事のアルブレヒトに伝える。代役を頼むよ、オーエン。」

「うん……」

「俺は、人殺しだが、二度とまともな人間は殺したくない。だから。クソ外道が、また街を襲ったら……呼んでくれ。」

「うん。……僕の誕生日会だって、ただ暇な時だって、呼ぶよ。イライジャ。」

「……あぁ。俺とお前。ふたりでひとつか。例え悪神でも、悪を殺せるはずだ。」

「学校、来れなかった日は、ノートをプリントして届ける。……イライジャ。復讐に染まるなよ。その道は君を苛む。」

「オーエン。お前には俺はなれない。お前は確かに神なんだろう。俺は影だ。……もう行くぜ。」

 イライジャは屋根の上を跳躍して、去った。


 悲しい。

 夜がこんなに辛いものだと、オーエンは生まれて初めて思い知った。

 帰らない。

 愛する人達は帰らなくても。

 明日を告げる朝焼けは、巡ってきてしまうものだから。


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