6-〈8〉
夜八時にアシャは自宅を出て、パトロールに走って行く。
結局、夕飯時以外はずっと、鎧を着込んだままだ。汗で錆びぬように、寝る前に手入れをしなくては。
アシャが三人目の殺人鬼を倒して、聖なる火で暗示を解くと、危険信号が過ぎる。
背後から急接近する殺人鬼。
狙いは暗示が解けた三人目だ。
「死ねーーーッ!!!」
アシャは三人目を庇って、背中から剣を抜き、咄嗟に背後の殺人鬼のナイフを受け止めた。
「知ってるぜ。情報は更新されている!ジャスティス・ナイト、お前は両手剣だッ!!なら、こいつは防げまいッ!!」
殺人鬼のもう片手のナイフが、アシャの鎧の継ぎ目にある、鎖帷子を貫いた。
「くうっ……!!」
この男はおそらく、神秘主義者ではない。
純粋に、格闘慣れしていて、腕力もかなり強い。鎖帷子を片手のナイフで貫く剛力なのだ。
アシャがナイフを剣で受け止め、片方の手からナイフで腕を刺されているところへ、エジプト・メイソン・リーのメンバーが駆け付けた。
「助太刀致しますッ!!」
エジプト・メイソン・リーの二人が、殺人鬼を背後からバットで、ボコボコに叩きのめす。
そこに、過労でふらついたカリオストロが来て、自慢の糸で天使を繰り出した。
「はぁ、はぁ……さぁ、暗示を解いていただきますよ!」
天使達はクルクルと回り込み、殺人鬼の暗示を解除した。
アシャは腕を抑え、自分のハンカチで止血した。
「ジャスティス・ナイトですね?貴方は人間ですか?」
エジプト・メイソン・リーに、アシャは返した。
「答える前に知りたい。あなた方は善意だが、あちらの暗示を解除した男は強い悪意を持っている。貴方達は誰だ?」
「我々はナイルより来たりし神秘。我らの神の同盟の為、アフラ=マズダ様に組みした、エジプト・メイソン・リーです。あちらはロココの時代から記憶を維持するカリオストロ、腹黒いですし悪癖はありますが、根はまともな仲間です。貴方は人間ですか?我々は錬金術師、貴方を治療出来ます。」
アシャは探知した。嘘はついていない、善人だ。
「俺は善神群アシャ・ワヒシュタ。仲間に自然治癒を高めるアールマティがいる。だから、まだ戦える。」
「ですが、貴方自体は治癒能力を持ってはいない。今日無理をしては、明日から持ちませんよ。我々が治療します。」
「俺は、急ぎアフラ=マズダ様に、会わなくては……!!」
アシャの焦りに理解を示し、エジプト・メイソン・リーのメンバーは答えた。
「訳がおありなのですね?協力しましょう。」
「……我らの神秘、ラーの目よ!」
例の毛がない猫が、振り向き、耳を立てた。
「貴方様であれば、アフラ=マズダ様の居場所がおわかりであられる!どうか、そのお力をお貸しくださいますよう!」
猫はしばし無視し、耳の後ろを脚でかいた。
「ラーの目よ!」
猫は仕方なさそうに立ち上がり、走り出した。
「ふぅ」
「アシャ・ワヒシュタ殿。アフラ=マズダ様とは、我らのロッジで会えることでしょう。さあ、肩を貸しますから。カリオストロ!貴方も力を貸してくださいよ!」
カリオストロは疲れ過ぎて病んでいた。
「死に疲れです。ミズーリ州ではもう三人目ですよ?わたくしは生徒たちと遊びたいのに!!だいたい、今はハイスクールも忙しいのですよ。イスラームが終わって中世ヨーロッパ、歴史のハワード先生から信頼を得たわたくしは、テスト作りにプリント作り。あぁ、貴方はさては善神群最強格ですね?ちょっとだけ、解剖させてくださいませんかね?麻酔無しで。わたくしの過労が癒される気が致しまして。」
エジプト・メイソン・リーが、バットでカリオストロをボコボコに叩きのめした。
「馬鹿を言わずに、行きますよカリオストロ。」
カリオストロは頭から血を流し、顔は殴られてパンパンに腫れ上がりながらも、なんとか起き上がった。
「どなたか!わたくしにも、肩を貸してはくださいませんか!?」
エジプト・メイソン・リーはガン無視して置き去りだ。
そこに、走って来たキングが現れて、既に背負っているハリソンとコリンに加え、カリオストロを抱えあげた。
「また悪癖か、バールサモのセンコーよぉ。仕方ねぇ、運んではやるがな……少しは、運命に抗ったらどうなんだ?」
カリオストロは感激。
「あぁ!教え子に拾われるとは、なんという幸せでしょう!優しいキング君に免じて、少しは反省しますかね。」
一方で、オーエン達は順調に救助活動をこなしていた。
「ツナは次の地点に先行してくれ!ポテトは被害者を護衛しながら救急車を!エッグは僕についてきて!」
オーエンはゴーレム達に指示を出し、被害者に告げた。
「傷が深い。どうか安静にして救急車を待ってください。貴方のことは、ポテトが守ります。」
「ありがとう……マーズマン……ポテトさん……。わたしにはポテトさんがいるわ……マーズマンは、次の人を、助けてあげて……。」
オーエンは頷いた。
「はい!!行こう、エッグ!!」
「イエッサーオーエン!」
オーエン達が次の地点に向かうと、ツナが苦戦していた。
なんと、殺人鬼は二人組。コンビネーションでツナを翻弄していたのだ。
「情報は更新されているッ!」
「コンビネーションにはかなうまいよッ!!」
オーエンが叫ぶ。
「エッグ!ツナに加勢してくれ!!」
「了解しました、オーエン!」
ツナとエッグでタッグバトルだ。
アールマティから思念が届く。
(オーエン!コリンとハリソンが負傷し、ワイアットは二人の治療の為、離脱します!ワイアットの担当していたB地点を頼みますよ!)
「コリンとハリソンが……!?大丈夫なの!?暗示にかかった殺人鬼達は、情報は更新されたと言っていた。僕らの、弱点をついてきているのか……!?」
(そうかもしれません。やや、ハリソンの秘密兵器の刺激が強過ぎて……殺人鬼も命の危機を感じたのでしょう。前の決戦で、コリンが使った下段攻撃を、真似されて……転んだコリンとハリソンが、危うく死ぬところでした。咄嗟にわたくしが二人のダメージ部位を硬くし、ワイアットが戦いに勝ちましたが……暗示軍団は、いいえ。暗示をかける悪神群は、学習しているようですね。)
ツナとエッグは勝利し、二人組殺人鬼の暗示解除魔術を行使した。
「オーエン。酷く顔色が悪いです。何かありましたか?」
オーエンは、不安を隠せなかった。ハリソンとコリンは一般人で、強いけれど、普通の人間だ。
「友達が、怪我をした……代わりに、僕がB地点に行かなくちゃ。」
ツナが、オーエンを制した。
「わたしがB地点に行きます。オーエン、貴方は友達のところへ。」
「だけど、ツナ!君だって裏をかかれたはずだ、悪神群は暗示に学習能力を加えてきてるんだ!」
そこに、ゴーレムのペンネとシュガーが加わる。
ツナが言った。
「大丈夫。わたし達は増援要請していました。マスターミカエルの担当地区は、戦いが収まったようですので。」
「オーエン。わたしがツナについて行きます。」
ペンネが告げた。
「わたしはエッグにつき、このエリアを続行します。」
シュガーが告げた。
「オーエンは友達のところへ。この場はわたし達に任せてください!」
オーエンは頷いた。
「ありがとう……!君たちを信用して任せるよ。すぐ戻るから!!」
走りながら、オーエンは尋ねた。
「アールマティ!キング達は?病院?」
アールマティから、返事が来ない。
そういえば、アールマティは自然治癒を高める力がある。今はそっちに力を割いているのかもしれない。
「ミャア」
オーエンが振り向くと、路地裏から、例のエジプト・メイソン・リーの中でめちゃめちゃ偉い猫が歩いて来た。
「君は、あの時の……めちゃめちゃ地位の高い猫ちゃん。こんなところ、来て大丈夫なのかい?」
猫は、オーエンのマスクが破けて、ちょっと素顔が見えるのに驚いたのか、耳を立てて硬直し、やがて本人確認なのか、オーエンの匂いを嗅ぎ回った。
「そっか。マスクの中が人間だって、今知ったんだね。ちょっと新手の殺人鬼に車でグリグリ轢かれて、破けちゃって……再生したし、マスクの予備があるからいいけどさ……」
猫は納得し、オーエンに着いてこいというのか、にゃあ〜ん、と、振り向きざまに鳴いた。何故か若干愛想が良くなった気もするが。
「……ハリソンとコリンがいるかもしれないし、僕じゃここからロッジまでの近道はわからない。頼むよ、猫ちゃん!」
Copyright(C)2026 燎 空綺羅




