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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第六話 黎明の騎士
34/70

6-〈4〉

 ドナ=ジョーが安らかに眠ってから、アシャは周囲の探知を済ませ、一時間は安全だろうと判断し、椅子に座ったまま眠りに落ちた。


 アシャは、ザシャの頃の夢を見ていた。

 小等部に通っていた頃だ。

 内気なザシャには、友達が少ない。

 だが、ザシャには、人並みに初恋の人がいた。

 イルゼだ。美人じゃないけど。そばかすがある、元気な女の子だ。サブカル系で、専門分野なら何でも知っていて。日本に旅行したり、刀の銘を調べる趣味があって、刀なら持ち主や刀匠まで、全部知っている子だ。

 ザシャは彼女の個性に、魅了されたのだ。

「これが現存する和泉守兼定の、仲間よ!本来の和泉守兼定は、持ち主の土方歳三と箱館戦争で消えたから、これは後に同じ刀匠、之定こと関の二代、和泉守兼定の名を賜る鍛冶屋が打った作品でね。元の兼定は二尺八寸で、約85cmね。後から作られたこれは、長さが違うの。日本で撮った写真よ。」

 ザシャや、イルゼの友達は、ワクワクしながら写真を見ては、イルゼの知識で、サムライに夢を馳せた。そして、嬉しそうに語るイルゼの顔が、大好きだった。

 男子生徒達が、サムライごっこのチャンバラをしながら、通った。

「ヒマラヤ・サムライ・ソード!!」

「GO!コテツ!!」

 イルゼの友達が注目した。

「あっ。見てイルゼ、サムライごっこしてる!わたし達も参加する?」

 イルゼはため息だ。

「ヒマラヤにサムライはいないわ。あれはバッドマンビギンズの影響。だいたい虎徹はあんな扱いしない。あれは西洋剣じゃないと通用しない力押しの技よ。サムライの技術じゃあない。サムライの刀は、技量が無ければ日本人でも折れてしまうの。平たく薄く、斬り方にも心得がいるわ。刀は、骨を断つと、骨の脂で脆くなる。もしあれがサムライごっこなら、せいぜい三流ってとこ。岡田以蔵なら、見様見真似で学べる天才だけど。普通なら道場にでも通わない限り、ごっこにすらならないわ。」

 ザシャやイルゼの友達は、感心した。

「すごいや、イルゼは。」

「サムライの刀は、肉だけを斬る技がいるのね?」

「うん、そう。どんなに名刀でも、骨の脂で脆くなったら折れてしまって、脱落した刀は歴史には残らないの。まぁ、元々脆いっていう例外もあるわ。榎本武揚が造らせた隕鉄で出来た流星刀ね。鬼滅の刃と違って、隕鉄の刀は脆いのよ。でも、鬼滅は好きだわ。神がかってる。」

「おい、調子に乗りやがってイルゼ!俺にはコテツが扱えないとでも言うのか?」

 エッボ達男子生徒に、イルゼがiPadを突きつけた。

 虎徹の写真だ。多分、日本で撮影したやつだ。

「虎徹はこんなに薄いのよ。貴方のゴリ押しじゃあ折れてしまう。だいたい、虎徹の持ち主の近藤勇だって、凡才とはいえ道場主なの。大人しく引き下がって、西洋剣ごっこに変えたらいいのに。騎士だって楽しいじゃないの。」

「マジで?」

「こりゃあ、確かにエッボの力押しの型だと、折れちまいそう……」

「おもしれぇな、虎徹ってこうなんだ?」

 男子生徒達はイルゼのiPadに食いついたが、非難の眼差しでイルゼを睨む子らも複数いた。

 サムライの知識で負けたエッボ達複数人から、恨みを買ってしまったのだ。

 それが元になって、イルゼへのいじめが広がって。

「お前、なんで三つ編みなんだよ。サムライなら、ハゲに髷だろ?おい、てっぺんハゲにしてやろうぜ!」

「やめてよ!!」

 イルゼは羽交い締めにされ、頭のてっぺんをカミソリで剃られた。

 イルゼの友達や、ザシャは、真っ青になって、見ていた。

 身動きが取れ無かった。

「ギャハハ!!おい、立派なサムライにしてやったぞ!!!」

 イルゼがいじめられていて、暴力に晒されていても、ザシャは黙りこんで俯いていた。

 それは、ザシャだけじゃない。イルゼの友達も、皆、そうだ。

 それは、普通なんだ。

 だって、口を挟めば、自分も被害にあうから。

 小等部だ。皆が幼くて、皆が怖かったのだ。ザシャも、皆も、それが悪いことだとわからずに、いじめを見ないふり。

 翌日、イルゼは長かった三つ編みを無くし、ショートヘアにして、てっぺんのハゲを髪の毛で隠して来た。

 教師の許可を取り、ニット帽をかぶった。

 しかし、いじめは終わらない。

 エッボ達はある日、イルゼをトイレに丸一日閉じ込めた。

 イルゼの親が、イルゼが帰ってこないと教師に連絡するまで。

 ザシャ達は、見て見ぬふりをしたのだ。

 度重なるいじめに、教師がエッボ達とイルゼと、イルゼの友達やザシャを集めて、叱った。

「エッボ!いい加減にやめなさい!!聞けば、逆恨みだろう。イルゼも、これに懲りたら、個人の遊びに水を差すんじゃあない。イルゼの友達たちは……何故、助けてやらない?君たちのイルゼだぞ!!しっかりしなさい!!」

 教師に言われて収まるエッボ達ではなく、いじめは続いた。

 そして、ザシャ達も、教師に叱られても、我が身かわいさに、イルゼを助ける事が出来なかった。

 イルゼはどんどん弱っていき、明るさを失った。

 彼女は、やがて精神的に追い詰められた。

 小等部で、イルゼが精神科に通い出した、と、噂が走ると、今度はエッボ率いる男子生徒達は、イルゼをイカレ女と騒ぎ立てて、いじめはエスカレートした。

 イルゼは鞄の中に汚物を入れられたり、生理中にナプキンのついたパンツを奪われて、生理の血を晒し者にされたりした。

 もう、いじめが怖くて、イルゼの友達たちすら、イルゼから離れて行った。

 だから、ザシャは思い込んだ。

 孤独になったイルゼに、自分が好意を打ち明けたら、きっとイルゼは喜んでくれる。

 だって、イルゼは寂しいはずだから。

 ある日を境に。

 イルゼは小等部に来なくなった。

 何日も、何日も。

 ザシャは、小等部の噂で聞いた。

 いじめられることに限界がきたイルゼは、いじめの無い学校を目指し、引っ越すのだ、と。

 ザシャは、帰宅が歩きになろうが、なりふり構わず、イルゼの家に立ち寄った。

 イルゼは、父親と母親と一緒に、引越しの為の荷物を、トラックに運んでいた。

 数人の、友達だった子達が別れに来たが、イルゼは真っ青な顔で無視し、荷物を運び続けた。

「イルゼ!」

 ザシャが歩み寄ると、お母さんがイルゼに言い聞かせた。

「最後なんだから、きちんとお別れをしなさい。」

 イルゼは渋々ザシャの方に歩いてきた。

 ザシャは、安堵した。

 最後だけど、イルゼを喜ばせることが出来る。

 ザシャが好意を寄せていたと知ったら、イルゼは孤独じゃなくなるんだ、と。

 期待を胸に、ザシャは、想いを告げた。

「イルゼ。俺は君が好きだよ。引越しても、どうか忘れないで。」

 イルゼの表情に、驚くのは、ザシャの方だった。

 イルゼは睨んでいた。彼女の顔は、明らかな侮蔑の表情だった。

「何言ってんの。それを告げる資格が、あなたにある訳?わたしを好いていたのなら、どうしていじめを止めなかったの?わたしが怒鳴られるたび、皆俯いて黙り込んで。あなただって、そうだった。あなた、自分がいじめられるのが怖くて、わたしを生贄にして、黙ってたわ。」

 ザシャには、まだ理解が追いつかなかった。

 どうしてイルゼに拒絶されているのか、わからなかった。

「俺は、君がいじめられていても、君が好きだよ。」

「何、それ。なんで上から目線でわたしを見てるの?わたしからしたら、いじめを認知してたクセに、見て見ぬふりをしてきたあなただって、いじめっ子と同罪だわ。吐き気がする程、あなた達が嫌いよ。わたしは、あなたの心の弱さを、悲しく思うわ。今回できちんと懲りて欲しいし、学んで欲しい。今後は心を改めて、正義の人となって、弱い人を助ける立場の人間になって欲しいわ。それが、わたしからの答えよ。じゃあ、さよなら。」

 ザシャは、立ち尽くした。

 イルゼに直接的に言われて、嫌われたことを理解し、ようやく自らの行いの悪性に気づいた。

 黙って見ているのは、いじめっ子よりタチが悪い、悪だ。

 友達なのに、好きな人なのに。

 自分を守りたいから、生贄に捧げたことと、同意義なのだ。

 もう、やり直せはしない。

 ザシャは、イルゼを助けなかったことを、深く後悔した。

 歩いて帰り道についたが、荘園は遠過ぎて、夜になってしまう。

 それでも歩いていると、向こうから馬が走って来た。

 馬に跨った父、テオドールだ。

 父を見たら、ザシャは緊張感が解れ、泣き出した。

「うわあああああ」

「迎えに来てみりゃ。なんか、あったな?」

「俺は、好きな子を助けなかった。いじめを見て見ぬふりをした。だから、俺は嫌われて、イルゼは引っ越していく!俺は、俺は馬鹿だ!!」

「乗れ、ザシャ。」

 テオドールは自分の腹側に、ザシャを乗せ、馬を走らせた。

「そりゃ、イルゼって子は、正しい。俺は人間なんぞ芋だと思ってるから、俺にゃ嫌味ひとつ気にならんが。ザシャ。お前は、荘園で友達が出来なくて、いじめの真似事をされた。それだけでも、お前は俺に泣きついて、助けを求めたろう。それで俺は、人間は嫌いだが、周りの信頼を得る為に、荘園の人付き合いを積極的にした。そうしたら、自然と親御さんが、子供たちに言い聞かせて、いじめの真似事をやめたぜ。」

「……父さんは、みんなと仲良くして、信頼されたの?みんなに信頼されたら、いじめって無くなるの?」

「まぁな。少なくとも。皆から信頼されれば、いじめられっ子を助けたところで、いじめっ子に憎まれはしねぇ。ま、正義の為の根回しだな。内気なお前に、そいつが出来るのかは、分からねぇが。」

「俺もやる。イルゼと約束した。イルゼが俺を忘れても、俺はイルゼを忘れない。俺は、正義の人に、変わるんだ。」

 それからだ。

 ザシャが、正義に固執するようになったのは。


「アシャ!助けて!アシャ!!」

 ドナ=ジョーの声で、アシャはすぐに目覚めて立ち上がった。

「どうした?ドナ=ジョー。顔が真っ青だ。」

 ドナ=ジョーはぐしゃぐしゃに泣いて、アシャに告げた。

「夢を見たわ。わたしについてる悪魔が、何をしてたのか、わかったの。わたし……家族を、殺したわ……!父さんも母さんも、妹達もよ!兄さんだけは不在だった。あぁ、神様!!お願い、夢なら覚めて!!」

 何故、この少女にだけ、過酷な運命が課せられるのかは、アシャにもわからないし、納得が行かない。

 ただ、アシャに出来ることは、悲しむドナ=ジョーの背中をさすってやり、手を握っていることぐらいだった。

 善神よ。

 アフラ=マズダ様。

 どうか、この少女を運命からお救いください。

 アシャは、ひたすらに、祈った。

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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