5-〈17〉
打ち上げは夜の7時に、マイヤーズ邸の屋上のビアホールで始まった。
オーエンとイライジャの話を聞いたハリソンとコリンは、乾杯の時に宣言した。
「俺達は神話に反旗を翻すダイヤモンド・クルセイダースだ!聖ワイアットと神が二人ついてて、一人クルセイダースじゃねーけど!今夜はキングと、天使アールマティに、勝利の祝福をしようぜ!!乾杯!!!」
「「かんぱーい!!!」」
アップルジュースの乾杯だ。
イライジャは真っ先にジルマッマのミートボールパスタを食べた。見た事が無い、庶民のミートボールパスタも、こんな山盛りのミートボールもだ。
ミートボールはタバスコとガーリック風味で、手間暇かけて作られている。
「何だ?このうめぇ丸い肉。辛味が効いてていけるぜ?」
アミナもミートボールをひとつ味見。
「スパイシーで辛うま、だけど肉の甘みが効いててジューシー。やっぱりあたちの美味しい予感は的中だわ。」
ジルマッマは微笑んだ。
「なら、嬉しいわ。ワイアットはひき肉料理が大好きで、辛味も好きだから……ガーリックやタバスコを効かせて、トマトソース仕立てに作るの。どんどん食べてね。」
ミカエルはローレンスパッパのハーブ入り数種のキノコのオムレツに夢中だ。
「やば!これ、うまぁ!!貴方、たまごの革命家よ!!」
「嬉しいな〜!」
フライパン型の大きなオムレツに、ハリソンも食いついた。
「うっまぁ!!レヴォリューションうめーーッ!!」
ミカエルがアブサロムに言った。
「ねぇ、アブサロムも食べてみてよ。このオムレツ、キノコとハーブが入ってて、チーズ味でフワッフワよ!」
アブサロムは従った。
「マスターの願いであらば。むぐむぐ……フワッフワであられますね。俺は……もしかしたら、キノコが好きなのかもしれません。」
「マジで!?好物が出来たの!?」
パッパが笑った。
「アブサロム君がキノコ好きなら、キノコバリエを教えようか?君はイェルサレムに住んでるから、手っ取り早いのはマッシュルームやポルチーニかもしれないけど、東洋キノコも美味しいんだ。」
アブサロムは頷いた。
「ご教授いただければ、幸いです。」
「いや〜礼儀正しい子だな〜!」
キングとハリソンはラジー特製ドライカレーとツナサラダをガッツリ頬張って、大食いの2人によってドライカレーは品切れだ。
オーエンが出遅れて凹んだ。
「ラジーのカレーが、無くなっちゃった……美味しいライスも無い……」
「うめぇもんは早い者勝ちだ。鶏ひき肉と茄子とピーマンのドライカレーよぉ、甘めだがスパイシーでうめぇんだな。肉の味もさっぱりしてて砂糖に合うし、鶏ひき肉を見直したぜ。」
「お口にあって何よりだよ、キング君。」
キングに続きハリソンも言った。
「うめぇけど、少なくね?せっかくうめぇんだから、たくさん作りゃあいいのによ。」
「まさか、君たちが完食するとは思わなくてね。美味しかったなら光栄光栄。うちはオーエンが少食だし、友達のイライジャもあんまり食べる方じゃないからねぇ。毎日余り物は僕が食べて、そして肥えてく。足りなかったら、ミシェの好きなタマゴサラダのサンドイッチを作り足すから、ちょっと待ってねぇ〜。」
オーエンは涙ぐんだ。
「ツナサラダまで……ちょっとしかないよ……。」
「オーエン。ツナサラダは作り足すから、我慢しなさいよ。友達とはご飯を分け合わなきゃ。」
ハリソンはアルブレヒトさんのポテトサラダを山盛り漁っていた。
「うんめぇ〜!!これ、やべぇ〜!!」
対抗したアミナは、アルブレヒトさんのポテトサラダをパンに乗せまくり、パンも厚切りなので、イライジャに冷やかされた。
「欲張っても、そのボリュームが口に収まるのか、アミナ?」
アミナはでっかい口を開けて齧った。
「うぉ、アミナ、口開きすぎだろ。」
「今日は美味しいものは競走なのよ。食べなきゃ無くなるわ。」
涙ぐんでいるオーエンに、イライジャが告げた。
「泣くなよオーエン。ツナだけが飯じゃない。ミートボールパスタも辛くてうめぇぞ?」
「イライジャ、僕、タバスコ食べられないよ……」
マッマが急いでフライパンを回した。
「泣かないで、オーエン君。待ってね。ひき肉がまだあるから、甘めのミートソースを作るわ。デザートもあるから、泣かないでね。」
アーラシュが笑った。
「オーエンは甘党か?なら、デザートは楽しみにしとけよ。ワイアットのマッマは甘いものも上手いんだ。」
オーエンは泣くのを辞めて、マッマにお礼を言った。
「ありがとう、キングのお母さん。優しい人だね。」
マッマは苦笑した。
「わたしは、褒められた親じゃないのよ。頑張れてるのは、ワイアットの説得のおかげだわ。」
アーラシュが答えた。
「ワイアットは、確かに立派な人間です。でも、貴方の愛情を感じていたから、ワイアットは暴力癖に悩む事が出来たんじゃあないですか?アールマティ様がいたとしても、本人に悪癖の自覚がなけりゃ、そうそう変わりはしませんからね。」
「もし……そうだとしたら。わたしの天使様役は、ワイアットが務めたのよ。わたしも応えたいわ。」
オーエンは微笑んだ。
「応えられる、きっと。キングは、周りの悪い運命を破壊していく解放者だ。運命に逆らうことは、僕とイライジャには、すごく難しかったのに。」
イライジャがからかってきた。
「忘れないぜ。殺意の波動に目覚めたオーエン!」
「やめてよイライジャ。それ、僕、笑えないよ。」
打ち上げも終わりに近づいた頃。
ツナやポテト達は洗い物や後片付けを手伝い、アブサロムは自身の膝を枕に居眠り中のミカエルを起こさないように、額を撫でた。
テラスで甘いパイナップルジュースを飲むキングに、オーエンが歩み寄った。
「それ、パイナップル?好きなのかい?」
「まぁな。普段は身体をしぼってるから、糖質は取らないがよ。特別な日は、飲むんだ。」
「意外だけど、確かに特別な日だ。キングはアエーシュマに勝ったんだからさ。」
キングは、言うか言うまいか躊躇い、ややあって、聞いた。
「テイラーよ。おめェは、善の神様だったんだろ?アフラなんたらっていう……天使様の上司だ。」
「まぁ、そんな感じでは、あるかな。」
「……なら、ダイヤモンド・クルセイダースを率いるべきは、てめぇだったんじゃねぇのか?天使様の天使の仲間たちや……まだ従えてない善の奴らを、率いるべきは、お前だろう?」
オーエンはキングを真摯に見つめ、答えた。
「キング。僕は未熟な状態だ。精神的にも、善悪の判断さえ、まだ神ってレベルには至ってはいない。君はすごい。同い年なのに、倫理観に忠実だし、リーダーシップが取れている。この先、本当に聖ワイアットになるのかもしれないって思うよ。」
キングはそっぽを向いて腕を組んだ。
「褒め過ぎだ、やめろ。むず痒くて仕方ねぇ。」
「そんな君にだからこそ、僕は善神として、初めての頼み事をしたい。……キング。君がリーダーになって、善神群を率いてくれ。ダイヤモンド・クルセイダースも、善神群の天使達も。君が導くんだ。せめて、僕が神として少しでも成長するまでは、君に頼りたい。……引き受けて貰えるかい?」
キングはオーエンの目を見た。
オーエンの真剣さを理解したキングは、やや考えて、決意を固めると、応じてくれた。
「ややこしい役目ではあるがよ。お前の頼み、引き受けるぜ。俺だって、ドナ=ジョーが殺された時に何にも出来なかった自分を悔いているし……悪神群が今回みてぇな殺人を働くんならよ。俺が裁く。裁くし、ぶん殴って止めてやる。だが、リーダーやんのは、あくまでお前が成長するまでの話だからな。善神群は、俺が仕切ってちゃあ不満だろうよ。早く立派な神様になりやがれ、テイラー。皆が、お前を支えてんだからよ。」
「……ありがとう、キング。僕も成長出来るように、努力していくよ。」
オーエンとキングは、しばし、認め合うように見つめ合い、やがて握手をした。
結束の握手だ。
キングの手は筋肉質で、熱くて、汗ばんでいたけれど。
逞しく、大きな手が、オーエンにはとても、心強かったーーーーー。
帰り際になってから、夕飯時にもいなかったコリンが帰ってきて、叫んだ。
「キング!テイラー!イライジャもだ!!大変なことになったぞ!!」
キングは尋ねた。
「何処行ってた、コリン?」
「ゲイビサークルから連絡があって、偵察に出てた。皆は祝い事だったし、一宿一飯の恩義もあったしな。」
キングは意味を測りかねた。
「つまりお前は、俺んちのお泊まりへの恩返しで、新作ゲイビの偵察へ?」
「違うよ、誤解だ!サークルの仲間がニュースを見て、悪神群に関わる事件を知らせたから、俺は教会墓地へ偵察に。」
「……何があった?」
コリンは叫んだ。
「ドナ=ジョーの墓が荒らされた!ただの墓荒らしじゃあないぞ!ドナ=ジョーの遺体が消えた!ドナ=ジョーは、悪神群のアジ・ダハーカに支配されてたはずだ。テイラーを殺そうとして、敵対して死んだんだろ?……それに、キングもテイラーも、ドナ=ジョーのことは揺らいじまう。」
「ドナ=ジョーの遺体を……!悪神群は、遺体を冒涜しやがったのか……!!」
憤るキング。
オーエンはドナ=ジョーに対する想いが甦り、今までのイライジャとの戦いが様々に脳裏を過ぎった。
「またドナ=ジョーを利用するのか……!アイツだけは!!アジ・ダハーカは不味いぞ……!!」
オーエンは咄嗟に尋ねた。
「イライジャ!影の国は、見えるかい?」
イライジャは眉を潜めた。
「悪神群が増えてやがる。イキリすぎたな俺も。アイツらの悪の投票の、本当の狙いは、アジ・ダハーカの再生だったんだろうからな……!」
影の国。
小型のオペラハウスを模した劇場と、上空から糸で吊るされた紙細工の星々。
舞台で舞うのは、美しいブラック・スワンのチュチュをまとった漆黒のバレリーナだ。
演目はバレエ演劇。ジャヒーは美しい舞に感嘆の溜め息が出た。
とりわけ、美しい顔立ち。幼さが残る程に若く、しかし態度は淑やかな淑女である。
だが、彼女の肌はまるで血が通っていないかの如く白く。首には縫い目が見えていた。
それは、ドナ=ジョーの遺体であり、復活した悪神群、アジ・ダハーカである。
「アンリ・マユ様の実子たる、知略家、アジ・ダハーカよ。優美なバレエだわ……そして、なんて美しい依代なの?」
うっとりと見惚れるジャヒーに、アジ・ダハーカは優美な笑みを見せた。
「貴方の功績よ……この依代の死体を使い、墓場からわたくしが戻ってこられたのは。悪神群への悪の投票、優秀な働きだわ……なのに、哀れなこと……可愛いジャヒー、貴方の美しい顔は焼けただれてしまったわ……」
「アフラ=マズダには、いずれこの怨みを果たすわ。アジ・ダハーカよ。いまは強力で賢い貴方もいる、積極的に街を襲い、人間共に悪の投票をさせて行きましょう?」
観客席のアエーシュマは、1人離れて座っていた。
「アジ・ダハーカは依代が死んでいる。人間の善も悪も、心すら無い依代で、一体何が強力なものなのかね?我々悪神群が依代を求めることは、人間の悪との融合でパワーを増すからなのでは、無かったのか?」
ジャヒーが怒鳴った。
「アエーシュマ!!アンリ・マユ様の実子であられるアジ・ダハーカを、冒涜するつもり!?」
アジ・ダハーカはたおやかに答えた。
「いいわ、ジャヒー……アエーシュマ。この依代には価値がある。彼女は甦るわ……わたくしは、依代が死んでも、あえて乗りかえはしなかった……この人間は善神アフラ=マズダの愛する少女であり、強き理性と愛、憎悪に燃えているわ。善神と悪神様の繋がりのキーパーソンよ……。」
ジャヒーは讃えた。
「素晴らしい依代よ。あたし達で善神と悪神様を決着に導く……その為にも、悪の投票を続行するわよ。全ては、」
「「全ては、地獄の到来の為に。」」
場面はブラックアウトする。
漆黒の闇の中、悪神群の戦争が、その火蓋を切っていたーーーーー。
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