5-〈16〉
「ワイアット!!ワイアット!?無事なの!?」
「ワイアットー!!俺がワイアットを守……あれ?」
人混みをかき分けて、キングの元に、仕事中のはずのマッマとパッパが駆けつけた。
マッマは二つの拳にナックルダスターを装備。パッパは両手にバットを握りしめ、息子を助るべく、戦う気満々だ。
「お袋に親父よ。いや、特にお袋、ナックルダスターはやべぇだろ……」
ベンチに座っていたキングは、満身創痍だが、アールマティの余力で自然治癒を済ませていた。
(骨折は自然治癒出来ませんからね。肋骨はきちんと、病院で治すのですよ?)
(ありがとうよ、天使様。……病院は明日じゃ、ダメか?)
アールマティは笑った。
(貴方が痛みに耐えられるのであれば。打ち上げパーティーぐらいは、よろしいでしょう。ただし、安静に過ごすのですよ?)
(はい……!)
「戦いは終わった……?ワイアット!ボロボロじゃないの!!」
「でも、生きててくれて良かった!」
「親父、お袋。仕事はどうしたんだ。」
「同僚がニュースにワイアットが出てたって。戦ってるって教えてくれて。わたしは無許可で飛び出したけど、同僚が上に話してくれたみたいで。仕事を上がらせてもらえたわ。」
「俺は上司とニュース画面を見て、おったまげたよ。上司もすぐ行けって、上がらせてくれてね。」
キングはイライジャ達やオーエン達を見て、両親に告げた。
「なら、丁度いい。打ち上げパーティーは、別んとこになるぜ。人数が増えそうだからよ。知らせる手間がはぶけたな……お袋と親父は、料理係を手伝ってくれねぇか?大人数が過ぎるしよ、よそんちにあんまり負担をかけられねぇだろ……?」
夫婦は目を輝かせた。
「お友達が増えたのね?任せて。美味しいご飯を作ってみせるわ。」
「俺も頑張るよ、任せてくれワイアット!」
そこへ、キングを囲んで遠巻きに見ていた市民達の中から、1人、やって来た。
「待って。行かないで。」
「ん……?」
「わたし達を助けてくれた、貴方。立ち去る前に、貴方の名前を教えて。悪魔はイギリス訛りが凄かったけど……貴方は、わたし達の恩人だから。」
キングは考え、やや時間をかけてから、名乗った。
「俺の名はダイヤモンド。Mr.ダイヤモンドだ。」
イライジャがオーエンの元に歩いて戻ると、既に手当を受けたミカエルが、松葉杖を使って歩いて来て、自分も手負いの癖に、オーエンを心配げに抱き起こしていた。
「馬鹿。だから、逃げなさいって言ったのに。ほんっとに馬鹿な子よ、オーエン。」
ミカエルは涙ぐんでいた。
オーエンは、ミカエルを安心させるべく、笑ってみせた。
「まぁね。君に心配をかけて、僕はほんとの大バカ野郎だ。イライジャが来なかったら、死んでたし……反論できないよ。」
イライジャはさっそく冷やかしてきた。
「よ、オーエン。俺はお邪魔か?」
「別にそんな。ありがとう、イライジャ……来てくれたんだね。」
イライジャはオーエンにニッと笑うと、笑顔のままカリオストロを背後から手刀で貫いて、返り血を浴びたままオーエンとの話に戻った。
「影の国からだいたい見てたぜ。特に夜間はな。あの作戦、俺が参加すると人間も殺しちまうからな。パトロール自体は見守るしかしなかったんだが……最終決戦だけは、加勢出来たな?」
カリオストロは倒れて動かないし、血溜まりが出来ている。
エジプト・メイソン・リーの人達がカリオストロを囲み、運んで行った。
「あー……助けてくれてありがとう、イライジャ。でも、その……」
「ん?あぁ、あいつは親父の仇だ。始末しといたぜ。気にすんな。」
笑顔のままイライジャは返した。
ミカエルがボヤいた。
「うーん。やっぱりこいつ、サイコよねぇ〜。」
オーエンはどこから話せばいいのか、考える。
「イライジャ。今の死んだカリオストロは、エルダーさんを殺したカリオストロじゃあなくてさ。仇のカリオストロは死んでて、今のカリオストロは別人のカリオストロなんだ。死んだけどさ……」
イライジャは顔に疑問符を浮かべた。
「はぁ?カリオストロは複数いんのか?キショッ!」
「イライジャ……迂闊に殺しちゃあ、ダメだよ……。」
キングの元に、イライジャに肩を借りたオーエン、オーエンを支えるミカエル、イライジャに着いて来たアミナとアルブレヒトさん、援護を終えたアーラシュ、ハリソン、コリンが集まった。
「よぉーし!全員いるな!?ダイヤモンド・クルセイダース!生・還!!イヤッハーーー!!」
「キングとテイラーは大丈夫なのか?ズタボロだぜ?」
オーエンは苦笑いだ。
「僕は敗北して、イライジャに助けられたよ。」
キングは言葉を濁した。
「俺はギリギリで勝ったけどよ。生かしちまった、アエーシュマさんをよ。アイツが、変われればいいが……変わんなかった場合は、また襲われるんだよな。悪ぃ。」
「何言ってんだキング!元々、解放の為の戦いだろ?」
「そうだよ。君は……アエーシュマの運命を、ぶっ壊したんだ。それで、いいんじゃないかな?」
イライジャはしかめっ面をした。
「あ?こいつ、キングじゃねーか。オーエン、俺こいつ嫌いなんだよ。」
「あぁん?イライジャ、てめぇ……」
オーエンが仲裁した。
「仲良くしようよ!イライジャ、キングは変わったんだ!いいひとだ、聖ワイアットだよ。聖ワイアット率いるダイヤモンド・クルセイダースだよ、僕は。」
イライジャは拗ねた。
「クルセイダース〜?なら俺、イスラームに改宗して、オスマン帝国に行くわ。キングじゃなくて知らねぇカリフに従うからよ。けど、まぁ、オーエンの仲間ってのは、マジなんだろうがな。アエーシュマがボコボコになったのは、ちょっと痛快だし?お前ら、打ち上げすんなら、俺んちに来んだろ?どうせこの人数じゃ、屋上のビアホールしか集まれねぇよ。オーエン以外のなんたらクルセイダースの奴らは、うちで暴れんじゃねーぞ。」
ハリソンがガッツポーズになる。
「富豪のビアホール!凱旋に相応しいぜッ!!」
イライジャに、恐る恐る、マッマが尋ねた。
「マイヤーズ財閥の、ご子息さん、ですよね。ワイアットの母のジルです。打ち上げのご飯を作らせていただいても、よろしいかしら……?」
「ん?いいよ?飯作れる奴は何人も必要だしな。……で、ワイアットって誰?」
マッマとパッパはキングの左右に来た。
「ワイアットこと、キングのマッマのジルです。」
「キングのパッパのローレンスです。俺も介護士時代に調理師免許を取ってるから、ご飯を作るよ。」
イライジャは怯み、唸った。
「うーん。キングが一家丸ごと来んのか……う〜ん……」
アミナがつついた。
「イライジャ。苦手意識は誰にでもあるけれど、もう仲間なんだから、慣れるのよ、慣れは大事だわ。それに、ジルさんからはお肉料理みたいな良い匂いがするし、お父さんは調理師免許よ。きっと、今夜のご飯は美味しいわね。」
「アミナ。さては、飯に釣られたな?」
そこに、タクシーが止まって、アブサロムとラジーが降りて、駆けつけた。
「オーエン!帰宅しても、いなかったから!騒動に気づかなくてごめんよ!」
「ラジー!?退院許可が出たの!?」
「あー、あたしが途中で繁華街に来て戦ってたから、伝え損ねたわね。退院おめでとう、ラジー!」
オーエンとミカエルに、ラジーは尋ねた。
「期末テストは?悪神群には、勝てたかい?オーエンもミシェも、ボロボロじゃあないか!」
「期末テストは1位をキープしたから、安心して、ラジー。傷は再生中、あえて言うなら、ご飯を食べたら治るから。」
「悪神群には、あたしとオーエンは敗北組。総合点では、勝てたんだけどね。ちなみにあたしもホムンクルスで魔術師、あえて言うとご飯を食べたら自分で治療出来るから。」
ラジーは気合いのエプロンをつけた。
「なら、打ち上げ、美味しいご飯で励まさなくっちゃあね。心配かけてきた分も、ラジー定食で安心安全。まずは買い出しだ!アルブレヒトさん、一緒に行くかい?」
ラジーに誘われて、アルブレヒトさんは困惑気味だ。自分では、そこまで手料理が美味しいという認識が無いのだ。
「お待ちを。イライジャ様、わたくしのポテトサラダは、いま必要性が?わたくしなどよりも、料理上手な方が揃っておりますが。」
イライジャとアミナは即答。
「ポテトサラダ作れよ、アルブレヒト。パンに挟むぞ俺は。」
「美味ちいわよ!ポテトサラダは必須だわ!!」
アルブレヒトさん、ため息混じりに告げた。
「……ラジー様に同行致しましょう。粒マスタードを切らしておりますから。」
マッマとパッパが入って来た。
「あの〜。ワイアットの友達のお父さん?私たち、ワイアット……キングの両親です。私たちも買い出しに同行していいかしら?」
「え、キング君の!?おったまげたな。オーエン、キング君と仲良くなったんだァ。勿論、いいよ。皆で買い出しに行こう!」
ラジー達がワイワイ、仲良くやっている中、イライジャが言った。
「残りの、怪我人以外は、ビアホールの清掃な!雨だって降ってたしな。」
ツナやポテト、ゴーレム組と、アブサロムが挙手した。
「清掃なら、俺たちにゴーレム組にお任せください。ダイヤモンド・クルセイダースwith悪神チームは勝利の凱旋なのです。雑用は俺たちがこなしますから、あなた方は食事まで休まれますよう。」
イライジャは眉を潜めた。
「あー。アンタがツナで、こっちがポテト。」
「はい。わたしがツナです。」
「はい。わたしがポテトです。」
「オーエン?お前、なんてひでぇ名前を……なんで?」
オーエンは生真面目に語った。
「愛だよ、イライジャ。本当の愛がこもった名前じゃあなきゃあね。」
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