5-〈15〉
一方、アエーシュマVSキングも、終盤に突入していた。
「うおおおおぉ!!」
ズタボロのキングは本当にずば抜けたタフガイで、もう、あちこち血塗れで、肋骨だってイカれてしまったのに、戦いのスピードは衰えることが無かった。
対戦しているアエーシュマは、もはやキングが人間であることを忘れ、思う存分に戦っていた。
「君ほどの男をわたしは知らないッ!!殺してしまうのがもはや惜しいッ!!悪神群の身でありながらも、君に我々の理想の地獄を見せてやりたいッ!!仲間になれ、キング君!!生きて何度も戦り合おうではないかッ!!」
キングは身体がダメージで揺らぎながら、手の平を眺め、拳を握りしめた。
「……手応え、あったぜ……ようやくな……!」
アエーシュマは不意に膝をついて、足や腕の異常に気づいた。
「何……これは……!わたしが依代にした人間の身体が……わたしに追いつけず、根負けしている、だと……!?」
キングはアエーシュマに指を突きつけた。
「鋼の信念岩をも砕く、だろ。消耗戦は完了だ。天使様!俺に力を貸してくれッ!!」
(ワイアット!待っていましたよ。わたくしは、何をすれば力になれますか?大地の権能は、石のように貴方を硬くすることしか、出来ませんが……)
「そいつだよ、天使様。俺をフルパワーで硬くしてくれ。特に、拳や脚をな。」
アールマティは理解した。
キングはこの時の為に、アエーシュマを消耗させて、アールマティの力を温存していたのだ。
(……任せなさい、ワイアット。それこそが、わたくしの権能に相応しい。貴方になら、わたくしの力を存分に武器に出来るでしょう。)
「あぁ。頼んだぜ、天使様!」
アールマティの大地の力の本流が、煌めきながら、キングの身体に流れ込んでいく。
拳や脚は、特にパワーを感じた。
(行きなさいワイアット。今こそ貴方の八連コンボを使う時です。わたくしの力をすべて、貴方に宿しました……今の貴方はダイヤモンドよりも硬く、地上で最も逞しい。)
キングは輝く拳を構え、アエーシュマに立ち向かう。
「行くぜ、俺の、俺達の協力技!!金剛八連撃!!」
キングのダイヤモンド八連コンボを、かわせずにガードしたアエーシュマは、ガードした腕が複雑骨折してしまう。受け流せない。そこからコンボは全ヒットだ。
改心の必殺技に、アエーシュマはしりを石畳につき、口から吐血しながら、敵を讃えた。
「両腕がやられていてね。拍手喝采とは行かないが、見事なり、キング君、アールマティ……君たちの組み合わせは、最強だ……!さぁ、決着をつけたまえ!勝敗は既に決した、君ならばわたしを殺す資格があるッ!!」
しかし、キングはアエーシュマを認めていた。
命懸けで戦ったからこそ、通じ合えた。
敗北したアエーシュマに背を向けるキング。
「……待ちたまえ!キング君、何故わたしにとどめを刺さないのだ!!わたしを、侮辱する気かね?」
キングは振り向きざまに告げた。
「アンタは分かり合えた男だ。……運命ってモンは皮肉に出来てやがる。俺も悪党になる運命だった。天使様に助けられるまでは、暴力癖や憎しみの運命に、抗えなかったからな。アンタも同じだよ、アエーシュマさんよ。悪神群に生まれついたアンタ達は運命の奴隷だ。勝敗は決した、なら、運命はぶっ壊せたはずだろ?生かされた意味を考えながら生きるんだな。アンタにも、心がある。だから俺は殺さねぇ。アンタは俺に対し、悪には振る舞わなかったぜ。」
アエーシュマは、戸惑いながら、復唱した。
「我々、悪神群が、運命の奴隷である、と……?」
キングは立ち去り、後ろ手を振る。
「そういうこった。あばよ、アエーシュマさんよ。アンタが変われることを願うぜ。」
残されたアエーシュマは、1人ごちた。
「運命を破壊した……ならば、わたしは、善でも悪でもなく、自由なのか……?ハッハッハ……大した男だよ、キング君!」
ジャヒーは火傷跡を抑えながら、倒れたオーエンにトドメを刺すために、歩み寄って行った。
「この火傷の代価はアンタの命よ、アフラ=マズダ。」
オーエンはびくともしない。
「あぁ。今こそ、地獄の到来を、成し遂げられる……この、あたしの手で!!」
しかし。
優勢だったジャヒーは、突如重圧で倒れた。
辺りを見回す。
「ミカエル・サンダース、もう回復を?魔術による重力など……えっ?」
ミカエルでも、重力の魔術でも、無かった。
それは、ジャヒーの足の異常だ。
「あたしの、脚……?」
片足が、真紫になり、腐って乾き、ポロポロと剥がれてゆき、灰になって風に流されていく。
片足から更に、身体へと伝染してゆく。病が、ジャヒーを侵食していた。
「これは……ドゥルジの疫病?……彼女なの!?」
小さなアミナが歩いて来た。
ドゥルジの力を使っているせいか、アミナの目は赤く輝いている。
「間に合って良かったわ。その疫病は貴方とアエーシュマさんにちか、感染ちないわよ。ふふふ。あたち、役に立てたかちら?」
アルブレヒトさんも、目が赤く輝いている。
タローマティが乗り気で力を貸しているのだ。
「失礼。主への謀反人は、わたくしめがお相手致します。一介の執事ながら、貴方様を排除させていただきますので、ご覚悟の程を。」
アルブレヒトさんの連続正拳突きが繰り出された。進軍しゆく鋼鉄の執事は、悪神郡ジャヒーをはね飛ばした。
ジャヒーはビルのガラスをぶち破って壁にめり込み、口から吐血する。ガラスで血塗れにもなっており、あまりの破壊力に倒れた。
自身の周りに血溜まりが出来ていくのを見て、ジャヒーは重傷に気づき、腹部を触った。
腹には、風穴が空いていた。
「ゴボッ……ゴボッゴホッ。……何なの?この……二人の、強さは……?」
アミナとアルブレヒトさんが歩いてくる。
「この強さの秘訣?全部、貴方のおかげでしょ?ジャヒーさん。こういうの、身から出た錆って言うんだわ。」
その後ろからは、イライジャが歩いてきた。
「よぉ、悪神群!元気してたか?」
イライジャの存在だけで、ジャヒーは圧倒された。恐ろしいまでのパワー、神気のオーラが見えるかのようだ。格が違う。そこにいるのは、今までの未熟なイライジャでは無かった。
ジャヒー達が降るべき、悪の王。
悪神、その力が、今のイライジャには充分にあった。
「なぁ。確か、お前、ジャヒーだったっけか?逃げるんなら……深追いはしねぇぜ。オーエンは依代を死なせたくはねぇんだし。だが俺に挑むんなら、はっきり言って別問題だね。殺すぜ?はは、なぁに、簡単な二択だろ。だって、勝てるのか?お前らのした悪の投票で、悪神の俺が一番パワーアップしてるんだぜ?」
挑めるはずが無い。
敵に回せば死ぬ。
ジャヒーは畏怖と憧れを、同時に抱いた。
「あぁ……!!悪神群の頂点……悪神、アンリ・マユ様……!!」
「まぁ……逃げないんなら殺しとくか。そんじゃあ、今から、追いかけっこの始まりだ。三で開始な、一、二」
イライジャが構え、ジャヒーは我に返った。
「え!?嫌、いやあああ!!!」
ジャヒーは影の中に入り込み、影の世界に逃げ込んだ。途中で影から戦場に出て来て、アエーシュマを回収。
悪神の姿には見惚れるものがあるものの、アフラ=マズダの抹殺と地獄の到来の、絶好の機会を逃してしまった。
ジャヒーは唇を噛み締め、オーエン・テイラーを恨んだ。
彼女は影の国でボヤいた。
「撤退は敗北では無いわ。オーエン・テイラー!タダでは、終わらせないわよ……!!」
聖ベネディクト病院。
ラジーの病室は既にカーテンを開けてある。
荷物をボストンバッグにしまい、ラジーは帰り支度だ。
アブサロムは荷物を抱えて手伝い、看護師を待っていた。
やがて、看護師が歩いて来た。
「ラジエルさん?退院手続きが完了致しましたよ。タクシーを呼びましょうか?」
ラジーが瞬きした。
「あれ?僕の入院の支払いは?」
「今朝、御家族のミカエルさんが済ませましたよ。」
アブサロムが微笑した。
「ミシェに世話かけちゃったかぁ……。これじゃあ、助けられっぱなしだ。」
「マスターは、余程好いた方の為で無ければ、お金を負担しません。金銭感覚には厳しい方です。ラジー殿はお気に召さるな。日頃のお世話への感謝なのでしょうから。」
「アブさん、ありがとー。アブさんにもお世話になったねぇ。」
看護師が繰り返した。
「傷は完治ではありません。痛むようなら、タクシーをお呼びしましょうか?」
「じゃあ、お願いしようかな?」
看護師が取り出して耳に当てていたのは、拳銃だ。
看護師は白目を向きながら、拳銃に話しかける。
「プルルルル。プルルルル。もしもし?タクシーを一台、お願いします……聖ベネディクト病院です。はい、はい……わかりました。殺しますね。」
看護師はラジーに拳銃を構え、射撃。
アブサロムがラジーに放たれた弾丸を掴み、流れるように看護師に当て身した。
看護師は気絶し、アブサロムが壁にもたれかかるように彼女を座らせた。
ラジーはしばし呆然とし、ようやっと理解してから、アブサロムの両手を握った。
「すごいやアブさん!弾丸を……掴んだのかい!?君は僕の命の恩人だ!!」
「守護が俺の任ですから。さぁ、ラジー殿。看護師殿の暗示を解かなくては。」
「そうだった!天使達、お願いだよ。」
こうして、ジャヒーの恩讐はアブサロムによって防がれ、アブサロムは護衛の任務を達成。
ラジーは無事に退院を成し遂げた。
悪神群が立ち去った頃。
ツナやポテト達、ミカエル製のゴーレム六人や、カリオストロ率いるエジプト・メイソン・リーの皆と、ハリソンとコリンは、暗示にかかった人間部隊を全て気絶させて制圧し、次々と暗示を解いて回っていた。
ハリソンが釘バットをかざして叫んだ。
「完・全・しょーーーりッ!!イヤァーーーッ!!!」
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