5-〈14〉
一方、キングも到着し、大勢の人間部隊を殴り飛ばしながら前進していた。
「フン!オラ!邪魔だ!!どきな!!」
強く逞しく、喧嘩慣れしたキングには、人間部隊など敵では無いし、殺すようなミスも無かった。
アーラシュはビルの上から狙撃しているが、カリオストロやゴーレム達の援護に回った。
キングには、助けはいらなそうだ。
「タフな奴だよ、ワイアット。乱闘騒ぎをものともせずに、前進するとはな。」
キングは人間部隊を乗り越えて進んだ先に、オペラ歌手ばりに歌っている、シルクハットにタキシードの紳士、悪神群アエーシュマを発見した。
「あいつは……?」
アールマティが告げた。
(悪神群、悪魔アエーシュマです。怒りと欲望の権能を持ちます。この、歌声には……彼の力が宿っている。人間部隊を高揚させ、統率しているのは、おそらくはアエーシュマでしょう。)
「了解だ天使様。俺がアイツをぶっ倒すぜ。おい!そこの野郎!!歌うのを辞めて構えな!今から、てめぇをボコボコにすっからよ。」
アエーシュマは振り向いて、オペラを辞め、一礼してから、ステッキを構えた。
「なんとなんと!わたしの統率やジャヒーの脅威を越えて、このわたしまで辿り着くとは!敵ながら敬意を表するッ!!さぁ、君から始めなさい!その力を見せてくれたまえ!!」
キングが構え、アールマティが告げた。
(わたくしが貴方の防御を。貴方は攻撃を。よろしいですね?)
「おう、了解した!!行くぜ、自慢の拳を喰らいやがれ!!」
キングの喧嘩慣れした拳が繰り出され、アエーシュマはステッキで防いだが、八連コンボの最中に、キングの怪力からステッキは壊れた。
「どうする?獲物が無くても、喧嘩出来るか?」
アエーシュマはステッキを捨てて、歓喜した。
「素晴らしい……あぁ、地獄がわたしを相応しい相手に導いてくださった!君の名をなんと?」
「キングでいいぜ。名乗りに意味はねぇしな。」
「キング君。わたしは初めて本気を出せる、君にならば!」
アエーシュマは構えた。
何らかの、格闘技の構えだ。
「何だ……?」
気迫を感じる。キングの本能が、敵の手強さを告げていた。
「わたしの本領は武術でね。これぞ東洋の神秘、バリツであるッ!!」
キングは微笑した。
「なるほどな。だから俺が相応しいと。そっちも格闘家なら、本気で行くぜ。」
「来なさい。我らの戦いにおいて、手加減などは侮辱とみなすッ!!全力には全力で応じようッ!!」
「あぁ!喰らいな!俺の必殺の!!八連コンボだーーーッ!!」
アエーシュマのバリツ対キングの八連コンボだ!!
しかし、アエーシュマの腕が繰り出す滑らかな受け流しで、八連コンボは威力が激減してしまう。その上、防がれては急所に当てる事が出来ない。
「ただモンじゃねぇな?」
「柔よく剛を制す。バリツは柔、君のコンボは剛の技だ。絶対的相性で、柔は有利なのだよ、キング君。そしてッ!!」
アエーシュマは俊敏にキングを掴み、巴投げを放った。
キングは投げ飛ばされ、石畳に尻もちをつく。
「わたしの射程範囲に入れば!わたしのバリツはいつでも君を投げ飛ばすだろうッ!!」
キングは考えた。
どうなってんだ?
剛は受け流され、射程範囲に入れば投げられる。
どう戦う?
ふと、キングは痛みが無い事に気づいた。
(大丈夫ですか、ワイアット?)
(痛くねぇ。こいつは、天使様の力なのか?)
(わたくしが貴方の着地地点とダメージ部位を予測スキャンし、一時的に貴方を硬くしたのです。ですがそれも、常に間に合うかは分からない。アエーシュマはわたくしの予測を越えて、遥かに速いのですから。)
キングはふと、わかった。
アエーシュマの攻略法が。
しかし、成功させるには、キングはボロボロになってでも、アエーシュマを消耗させなければならない。
(ありがとうよ、天使様。俺は勝つぜ。その為に、ちょっと無茶をすっからよ。天使様は力を温存して待っててくれ。)
(ですが!わたくしの守り無しに、あの投げ技を受けては……!!)
(信じてくれ、天使様。俺はタフなんだぜ?)
アエーシュマは尋ねた。
「これからだと言うのに。まさか、戦意を喪失してしまったのかね?」
キングは立ち上がった。
「考えてたんだよ。対抗策をな……へへっ、アンタは強ぇーからよ。俺もアンタみてぇな男と戦えて、嬉しいぜ。」
「素晴らしい。対戦相手への礼儀作法はバリツでも習うものだ。対抗策は、見つかったかね?」
キングはアエーシュマに立ち向かって行く。
「まぁな。まずはアンタに弱ってもらう、消耗戦だ!どちらが最後まで立っているか、耐久性を試そうぜ!!」
キングの打撃は柔らかに受け流されて、再びアエーシュマはキングを掴むと、背負い投げをキメた。
キングはノーガードの身体を石畳に打ちつけ、激痛が走る。
だが、立ち上がる。
「まだまだァ!!」
挑む、投げ技、激痛。
馬鹿の一つ覚えのように、キングは繰り返す。
その先にしか勝機は無い。
(ワイアット……!なんて、酷い怪我を……!)
「まだ俺ァ死んじゃいねぇぞ……まだ、まだだ……!!」
何度でも立ち上がり、何度でも挑みにかかる。
「さすがに、これは無策では無いかね?君には切り札のアールマティがいるだろう。何故こんな真似を繰り返す?君の消耗は激しいが、わたしを消耗させるにはどれだけの労力が必要か、わかっているのか?わたしは悪神群、これまでの暗示による殺人が悪の投票となり、わたし自体もパワーアップしているのだよ。アールマティを使い、本気を出したまえ。でなければ、わたしは君を殺してしまうだろう。この戦いを誉れに思い、君を認めているからこそ、続行の意思があるのだぞ。簡単に死なれては、失望せざるを得ない。」
キングは暗示にかかった人が落としていたナイフを拾い、スニーカーを脱いで、自分の踵のある石畳にナイフを突き刺した。
「!?」
「俺はこのナイフの向こうへは、一歩たりともひかねえぜ。徐々にだが、受け身を覚えてきた。しくじったら、このナイフが俺の踵に刺さるだけだ。意地でもひかねえし、何がなんでも受け身をとるぜ。アンタだって人間の身体に入ってんだ。ならば、戦る。とことんまで、戦ってやるぜ。」
「そこまでの覚悟!ならばわたしも応えよう。君がこの先わたしに殺されてしまっても、もう失望することは無い。わたしは君というタフな男を忘れずに、君の戦死に敬意を表するッ!!」
キングとアエーシュマは、どこかで解りあっていた。
死闘でしかわからぬ、絆。
キングは、強がりで笑って、しかし怯む事無く、立ち向かって行った。
「まだ!死んじゃあ、いねぇんだよぉッ!!」
一方、ジャヒーVSオーエンは。
オーエンは全く歯が立たず、パワーアップしたジャヒーの鞭の餌食になり、肉を割かれては、血塗れのまま、再生し、立ち向かう。
「アンタってドMなの?戦いとしちゃ、全く手応えは無いけれど、プレイとしては悪くないわね。」
ジャヒーの挑発には乗らず、オーエンは真剣に勝ち筋を探した。
そして、どんなに無限の激痛がループしても。
立ち向かうことを、辞めない。
「僕がアンタに立ち向かうことには、意義がある。」
「あら。意義なんてあった訳?あたしに傷一つつけられない、ミカエルのお嬢ちゃん以下の癖に?意義って何なの?教えて貰いたいものね。このただのプレイに、何が?」
オーエンは真摯な眼差しで告げた。
「アンタが僕と対戦している限り、市民には犠牲が広がらない。それが意義であり、僕の原動力だ。」
凛々しく、颯爽とした善の心。
ジャヒーはそれを不快に感じ、激しくオーエンを鞭打って痛めつけた。
「冗談じゃない!アンタとは、プレイにも値しないわ!!善意の自己犠牲ですって!?あぁ、愚かでなんておぞましいのかしら!!殺してやるわ。骨まで消滅させれば、如何に善神でも再生出来るかしら?」
ジャヒーは鞭でオーエンを縛りつけ、地獄の雷撃を流し込んだ。
「ああああああああぁぁぁ!!」
激痛に、オーエンは叫ぶ。
身体が焼けただれる。
痛々しく、惨い光景だ。
それでも、鞭が離れて倒れても。
オーエンは立ち上がり、挑むのだ。
一歩、一歩が、重たくとも。
身体を引きずりながら。
痛みが、どんなに苦しくとも。
この肩には、皆んなの命がかかっていたから。
取りまいて見ていた市民達が、息を飲んだ。
「まだ、戦ってる」
「あんなになってまで、戦っている……」
「あの夜に、俺を助けてくれた人だ」
「わたしもあの人に助けられたわ……」
1人の女性が、彼の名を叫んだ。
「マーズマンよ!わたしを助けてくれた、アフラ・マーズマンだわ!!」
「皆を助けるために、あんなに延々と切り裂かれ、血塗れになって、焼けただれながら……それでも、戦っている……!!」
1人の青年が、叫んだ。
「頑張れーッ!!マーズマン!!頑張れーッ!!」
青年は、大衆を先導した。
「皆、何をボヤボヤしている!マーズマンは、俺達を守る為に、あんなにズタボロになって、倒れても、何度でも、立ち上がっているんだぞッ!!」
大衆の心に、火がついた。
「そうだ」
「俺達を守っているんだ、あの人は」
それぞれが、オーエンを応援し、叫んだ。
「頑張れーッ!!」
「負けるな、マーズマン!!アンタは生きるべき人だよ!!」
「「「マーズマン!!マーズマン!!マーズマン!!」」」
オーエンは、遠のく意識の中で、市民達の声援を聴いた。
身体を引きずり、這いずっても、立ち上がる。
「……負けない。背負う命はたくさんあって、正直、重圧で潰れてしまいそうだけど……僕が守れる人達は、この手が届く限り……命を燃やして、僕は、守ってみせるんだ!!」
その時。
市民の命を背負う、その決意が、オーエンに眠る善神の力の一部を、解放させた。
オーエンは、聖なる火に包まれた。
自身は焼けることは無く、邪悪を祓う光の炎。
「その力は……!!……来るなッ!!近寄るんじゃあないッ!!!」
聖なる火を恐れたジャヒーは、オーエンを激しく鞭打ったが、鞭は聖なる火によって焼き払われてしまった。
拝火教、ゾロアスター教における聖なる火は、最高神アフラ=マズダの象徴であり、なんびとたりとも穢すことは出来ない。
オーエンは、聖なる火をまとって最後の力で走って行き、ジャヒーに一撃喰らわせた。
ジャヒーは燃え盛る聖なる火に焼かれて、苦しみもがいて、悲鳴を上げた。
「ああああああああぁぁぁ!!熱い!!痛いぃぃぃい!!!」
市民は歓声を上げた。
「やったぁ、マーズマン!!」
「すごいぞ!!逆転だ!!」
「「「マーズマン!マーズマン!マーズマン!」」」
オーエンは、倒れ込み、そこで意識を失った。
「マーズマンが……」
オーエンは、限界を超えていた。
ジャヒーは、聖なる火が消え去って、命拾いし、死の危険の反動から、笑い出した。
「嘘。あたし、生きてる?アッハッハッハッハッ!なんて幸運よ!でも……」
ジャヒーは自身の顔を触った。
「美しいあたしの顔を焼いたわね……アンタには、トドメを刺さなくっちゃあならないわ……」
オーエンは白昼夢にいるみたいに、眠っていたが声は聴こえていた。
(動かなくっちゃあ……市民が、殺されてしまう前に……)
しかし、動くことは出来なかった。
指先ひとつ動かない。
身動ぎすら叶わない。
誰かが、オーエンの肩に触れた。
その手を、オーエンはよく知っていた。
「よく持ち堪えたな。休めよ、オーエン。」
オーエンには、その声が誰なのか、はっきりと理解出来た。
市民が騒いだ。
「マーズマンが、倒れた……」
「大丈夫なの……?生きているの?」
「誰かが、マーズマンを助けてる。」
「貴方は誰!?マーズマンの、味方なの!?」
オーエンを庇いでた軽量アーマーの青年は、やんちゃそうに、ニッと笑った。
「俺は悪の頭領、アーリマン!マーズマンの、ダチ公だ!!」
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