〈2〉
六時半頃、オーエンとジュリーおじさん、イライジャと父親のエルダーさんは合流した。
「やぁオーエン!君の今日の逸話は聞いたぞ。眠り病に陥ったが、教師に当てられても怯まず予習通り答えた!素晴らしいな。」
「はは。でも、いま僕もイライジャも大変なんです。」
「イライジャの眠り病は解析中だ。何か……筋肉だか、脳だか。何かにエネルギーを吸い取られている。」
ジュリーおじさん、食いついた。
「やはり病気なんでしょうか?」
「下手に医師に見せない方がよろしいでしょう。息子を実験マウスにされたくはない。安心してください。当家の主治医達が、解析しますよ。」
レストランに入り、庶民の店だというのに浮かないファッションで来たエルダーさんを、ジュリーおじさんが褒めた。
「差し出がましいですが、良い意味で富豪らしからぬ方だ。こういった店での着こなしがわかっていらっしゃる。」
「苦労知らずして成功は有り得ません。わたしとて、出だしは庶民ですから、わざわざ気取るなどは愚かしい事です。わたしの息子イライジャは、あまり苦労を知りませんが。わたしの場合は、一代で築いた財閥です、子孫のゆとりもある、社会貢献こそが責務ですよ。ジュリーさんこそ、その若さで亡くなったお姉さんの子を我が子同然に育てていらっしゃる。ハイスクールの頃から自らのことより育児を優先なさった、貴方は立派な方ですよ。歳の差は関係ない、貴方はわたしより父親の先輩だ。」
ジュリーは何か報われた気持ちになり、エルダーに頭を下げながら笑った。
「こんなに褒められたことは無くて。お世辞であろうと有難くて、返す言葉が見つかりません。」
エルダーは微笑んだ。
「何も返さなくて良いのですよ。わたし個人の意見です。さぁ、お好きな食べ物を注文なさるといい。普段は、自炊でお疲れなのでしょうから。」
イライジャとオーエンは厚切りステーキ肉を齧りながら、首を傾げている。
「俺、フルコース食べながら寝てた。急遽メインディッシュをたくさん並べてもらってさ。なのにまだ食ってるよ。」
「イライジャ。僕チキンターキー1人で食べて、アップルパイも平らげて、今ステーキ食べてるとこ。」
ラジーのショーが始まった。
コメディの一人舞台である。
「三びきの子豚〜!うわぁ、火事だ〜!焼ける〜!!」
「あら、奥様、あちらのお宅のいい匂い!ボーノよ、ボーノ!!」
ドッと客席が笑った。
オーエン達も、嬉しそうに笑った。
ラジーの芸風はちょっとブラックだけど、害のない愛せるものだ。
ラジーにも、流行りに乗った時期はある。オーエンの育児の為に捨てた夢を、今もコツコツと、歩んでいるのだ。
ジュリーおじさんだって、高校も、夢のバンドマンもやめて。
オーエンは、二人の愛を一身に受けて育った。
両親がいないことは、何も怖くない。
この、平和な日常が、ある限りは。
レストランを出て、エルダーさんはラジーに抱擁した。
「貴方は天才だ。学術と同じように、頭の働きが素晴らしい。」
「社長さんの息抜きになれたなら何よりですな。」
ジュリーおじさんが頭を下げた。
「自分たちの分は払うつもりが、ご馳走になってしまって。」
「金は余っているものが払うものです。聖書にもありますよ。まぁ、お堅い話は抜きに。眠り病の解決までは、お互い息子が食費を食うでしょう。オーエン君の為に今日のお金を使ってください。」
イライジャがフラフラと、道路を歩くのに、オーエンがついて行く。
「大丈夫?イライジャ。意識、あるかい?」
イライジャは頭をバリバリと掻きむしり、切羽詰まった声で告げた。
「近づくなオーエン!!俺は、まるで……」
オーエンには、イライジャがSOSサインを出しているかに見えて、駆け寄った。
「イライジャ、落ち着いて」
イライジャはオーエンを突き飛ばした。
モーメント。
殺意だ。
SOSサインを読み違えたんだ。
来るなってSOSだ。
イライジャは、近づくなと言ったじゃないか。
車が来る。
下敷きになるんだ。
死ーーー。
イライジャは真っ青になり、親友を殺した罪の意識に苛まれた。
「あぁ、あぁ!!ちくしょう、オーエン……!!」
そのまま行き来の早い道路に飛び込んだ。
イライジャは轢き殺されて転がった。
ジュリーおじさん、ラジー、エルダーさんはそれぞれに駆けつけ、天を仰いで叫んだ。
「「NOーーーーッ!!!!」」
ジュリーおじさんとラジーはオーエンを抱き起こし、ひとしきり泣いてから、気づいた。
「俺より先に死ぬなんて!誰のための……なぁ、ラジー!?」
「生きてるよ。うん。」
「心臓動いてる!救急車、救急車早く!!」
救急車が駆けつけるや、オーエンは自分で起き上がり、手を振った。
「大丈夫です。びっくりした。きっとイライジャのイタズラだ。」
一方のイライジャも、父エルダーさんに支えられながら、歩いてきて、救急車を拒否した。
「衣服が血塗れです。診るだけでも。」
「わたしの息子を天変地異の実験マウスに?お断りだ。お引き取り願いたい。」
オーエンはイライジャの背中を叩いた。
「イライジャ、悪ふざけは程々にしなよ。本当に死んだかと」
「悪ふざけじゃない。俺、抑えきれない殺意があったんだ……オーエンがその犠牲になって……親友だ。悲しくて、自殺した。」
オーエンはイライジャが嘘をついてる顔じゃないとわかった。
「え……イライジャ……僕らは一体……?」
「寸劇は終わり?オーエン・テイラーにイライジャ・マイヤーズ。」
オーエン達が振り向くと、小さな薔薇の花のような、可憐な少女が待っていた。
生成のトレンチコート、赤いタートルネック、Aラインのフンワリした黒のスカート、黒いブーツ。
黒犬を連れて、辺りを光がチラホラ舞っている。
「お嬢さん、どちら様。うちは、子供たちが被害にあったばかりだ。落ち着いて家族で話し合いたい。」
少女は愛嬌良く笑い、挨拶した。
「あはは。安心して、問題を解決に来た者だから。保護者の、ジュリーおじさんね?初めまして。あたしはこの件の専門家、ミカエル・サンダースよ。順当に行けば、あたしと話し合うことで、オーエン達は当面の眠り病を回避出来る。不死の理由も明かされるわ。」
エルダーさんが歩み出た。
「カルト宗教はお断りだ。」
「そうは言っても、もう世界中の予言者がこの街に怪しい奴らを送り込んでるわよ。あたしから情報を得られない限り、特にイライジャは、何度も命を狙われることになるけど……」
「保護者と子供たち、全員でなら。」
「あたし側にそこまで時間がないのよね。エルダーさん?乗ってきたリムジンを貸して。後部座席で、オーエンとイライジャに話す。運転手さんは出ていてくれたら。子供たちから後で保護者に話すのは自由だわ。」
「……運転手はつけさせろ。いいか、メーガン?危険があれば、彼女ごと子供たちを避難させてくれ。」
「かしこまりました旦那様。」
ミカエルは逆方向に歩き出した。
「どこへ行く?」
「夕飯買ってくる。あなた達見つかんなくておなかぺこぺこだわ。先に行ってて。ハーイ、ホットドッグ三人前貰える?」
リムジンに入ると、黒犬がイライジャの膝に乗った。
「可愛い」
後からホットドッグ三人前を抱えたミカエルが乗り込む。
「ベルフェゴール。余計な干渉はやめて。」
「波長が合う。宗教違いでもわたしに眷属はいるのか?」
「!!オーエン、犬が!!」
ミカエルが黒犬を引き取った。
「悪魔ベルフェゴールよ。あたしが契約で使役してるの。代価は、あたしの死後のあたしの肉体を喰らうこと。黄金律に作られた、不老の身体よ、もう50年は変わってないわ。」
オーエンはイライジャを庇いながら尋ねた。
「僕達には聞きたいことがある。君は何者なのか?そして、いま、僕らに何が起きているのか。」
ミカエルはホットドッグを食べながら話した。
「もぐもぐ。いいわ。あたしはミカエル・サンダース、魔術師アレックス・サンダースが作り上げたホムンクルスで両性具有、魔術師なりに魔女の王って肩書きも持ってるわ。ちなみに、はぐはぐ。このホットドッグ3人前は全部あたしの。魔術師は契約や使役で常に魔力を燃焼してるの。今の貴方達と似た状態よ。補給は大事ってこと。」
「……要約すると?」
「あたしはミカエル、魔術師。魔力の燃焼でたくさん食べる、あなた達に近い状態。そんくらいわかってればいいわ。」
「じゃあ、俺たちはなぜ、何を燃焼して眠り病になって、俺はなぜ人を殺したくなる!?」
「……ゾロアスター教は?習った?」
「学校で。専門じゃあないけど。」
「拝火教、二神教。一万二千年もの間、人類は善の神と悪の神の戦いに巻き込まれてゆく。善行は善の神に一票、悪行は悪の神に一票。最後にふたつの神は戦って決着をつける。……って言うのが、教科書までのところよ。」
「変わったことが?」
「うーん。インドからの信仰でパワーを得て駆け引きに出たっていうか。普通に、信仰の全盛期から時を経て、神々はパワー切れを避けて、一万二千年を廃棄。短期決戦に持ち込んで、決着を現代に。予言者達は数々の被害を防ぐための専門家をコロンビアに集結させた。善の神アフラ=マズダはその名をオーエン・テイラーとして、人間に生まれた。悪の神アンリ・マユはイライジャ・マイヤーズとして。でも、今までは上手くいっていた。善の守護霊フラワシが、イライジャの父エルダーに宿っていたからよ。言っちゃえばイライジャにはある程度の倫理観が備わったってことね。」
「神々?」
「カルト宗教だ!それがお前の商売かミカエル!!」
「勘違いしないで。報酬は依頼人からもう受け取ってる。あたしを信じるなら、ちょっとだけ平和になるってだけよ。」
「イライジャ、落ち着いて……う」
オーエンは栄養不足で、発熱し、目眩を起こして倒れた。
「オーエン!!大丈夫か!!」
「あなた達の眠り病や過食症は一時的に対策出来るわ。あたしが雇われたのはその為よ。これを口に入れて、良く噛んで飲み込んでちょうだい。」
オーエンの口に砕いた鉱石、草と実を入れ、噛ませた。
オーエンは呼吸が楽になっていく。
「オーエン?」
「不思議だ……治っていく感じ。」
「しばらくは、大気中の魔力を栄養に取り込めるから、もう大丈夫よ。イライジャ、貴方も。」
イライジャは、オーエンが無事起き上がったのを見て、砕いた鉱石と、草と実を噛んだ。
「これは古代ギリシャの宝石魔術と薬草の調合。あたしの魔力を費やしてるから、毎日って訳にはいかない。学校の時にこれを使えばいいわ。」
オーエンとイライジャ、顔を合わせた。
「この感じ。全身に力が漲る。」
「ちょっと脱いでみる」
イライジャは脱げば筋骨隆々、細マッチョになっていた。
「すげぇ!」
オーエンも脱いだ。細マッチョだ。
「キングなんか目じゃない!!」
「マッチョで驚いてたら後々持たないわよ。あんた達、神なんだから。あぁ〜魔力が持たないわ〜。ちょっと運転手さん、マクドナルドに連れてってよ。イライジャの健康にも貢献したわ、そんぐらいいーでしょ?」
「ですが……イライジャ様」
イライジャ、リムジンを降りてジャンプ。ビルの高さまで飛び上がってから着地して、リムジンに戻った。
「跳びながら帰る、お礼だ、カルト女をマクドナルドに。オーエン!屋根の上を行こうぜ!!」
オーエンは、屋根の上を飛びながら、夢現だ。
「これがゾロアスターの二神の力だなんて。先生見たら腰抜かすかな。」
イライジャが笑った。
「勉強オタク!もう学校なんかなくてもやってけるんだぜ?」
「神だから大学に入っちゃダメだって法律はないよ!それに、学んでいけば、もうちょっと神様らしい人になるかもよ。」
「神様らしい人?俺は悪神だぜ?」
「……イライジャは良い奴だ。でも、定義通り行くなら、最後は僕とイライジャの決戦なんだろ。その未来を変えられる。フラワシの宿ったエルダーさんや、僕や……力を合わせればいいんだ。きっと二人でひとつのヒーローなんだよ。」
「オーエン。俺は教会の言う事マジにわかんやいよ。お前と二人でひとつってのは、そうなのかも。俺は善性だとか、持ってないからな。」
「……ダークヒーローの範囲ならいいかも。イライジャ、エルダーさんの研究室寄っていい?ヒーロースーツの考案があるんだ。」
「天才め!最高のスーツにしてくれよ!?」
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