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God Buddy  作者: 燎 空綺羅
第五話 金剛八連撃
16/28

5-〈3〉

 ジリリリリリリリ

 オーエンが目覚まし時計に手を伸ばし、ベッドから落ちた。

「oh……sit」

 やっとの思いで目覚まし時計を止めると、ミカエルがオニオンスープのマグとコーヒーのマグを持って入ってきた。

「グッドモーニング〜昨晩は何の夜更かし?あたしはゴーレム製造の夜更かししてた、途中で寝たけど。」

 オーエンはオニオンスープのマグを受け取り、目を逸らした。

「おはようミカエル。僕は期末テストの予習が終わって、イスラーム世界の理解の為にコーランを解読してた。アラビア語が難解でかなり時間がかかっちゃって。ところで」

「ん。こっちはあげないわよ。コーヒーだし、貴方飲めないんでしょ?」

 ミカエルは大きなパジャマの上だけ着て、下は見えないが、思春期には刺激が強過ぎる。

「ミカエルはもっとちゃんとしたパジャマを着てよ。」

「え。なに。恥ずかしいわけ?正常な思春期男子の反応ってやつ?いいわね〜」

「からかわないでよ!」

「たはは。下に降りてきてね、ラジーの朝ごはんが待ってるわよ。」


 影の国。

 上空からは糸に吊るされた紙工作の星々が散らばり、世界のあらゆる影に繋がる亜空間。

 小型のオペラハウスを模した、舞台上。

 シルクハットにタキシード。19世紀英国紳士の身なりをしたアエーシュマが舞台に登壇し、芝居がかった嘆きの声を上げた。

「おおッ!!なんという!!なんという悲劇だろうかッ!!タローマティとドゥルジはあろうことか人間に吸収されてしまった!!悪神群がこの始末、どうする?策はあるかね、ジャヒーよ!!」

 客席にもスポットライトが差した。

 ガーターベルトにボンテージのセクシーな美女、ジャヒーだ。

「アエーシュマ、アンタ、あたしを舐めてる?幾らでも戦力は生み出せるわ。まだまだ、伏兵のパリカー達だって揃ってる。予言者によってこの街には神秘主義者が集まった……薔薇十字団にフリーメイソン。黄金の曙団。神秘に夢を馳せるもの達よ。アイツらの夢に現れて、戦いを示唆するだけでいいわ。容易く暗示にかかるでしょうよ。人間を殺せば善神が出てくる。悪神様はともかく、善神は人間を相手に殺せるかしら?」

 アエーシュマが拍手喝采した。

「おぉ!!素晴らしい策だ、ジャヒーよ!!流石は敵に回したくない女だッ!!」

「娼婦には教養が必要なのよ。男を飽きさせない無限の知識がね。そうね。最初のうちは、人殺しや盗みをさせるわ。悪の投票を稼ぎさえすれば、あたし達も強くなるし、いざ戦いの時に人間側が手練になるでしょう。」

 スポットライトが消えた。

「「全ては、地獄の到来の為に。」」

 暗転。


 昼休み、オーエンが昼食をもらいに行こうとするが、すごい人集りで並ぶことすら出来ない。

 オーエンが背伸びして様子を覗くと、意外な人物が中心になっていた。

 白いストールに白いジャケット。

 髪を後ろ流しにセットした、キングだ。

 いじめられっ子といじめっ子を、両成敗している。

「いじめたいからと彼の昼食を取り上げるとは何事です。貴方の将来が思いやられる、心無い行動ですよ!いじめられた貴方も!昼食を奪われて何故取り返さないのです!わたくしのパンチは些かやりすぎですが、貴方のような者こそ、鉄拳制裁くらいやり返しなさい!舐められっぱなしでは、いじめは繰り返し続くのですよ。」

 いじめっ子といじめられっ子は、呆然としながら、相手が学園最強のキングなだけに、頷いてばかりだ。

「悪かったよ、キング。」

「でも、誰だってパンチは痛いです。」

「貴方の優しさは、善意ある友達にこそ与えなさい!さぁ!二人の間の問題ですよ!いじめられたらパンチ!!」

 いじめられっ子は遠慮がちに構えた。

「いくよ」

 いじめっ子は頬を差し出した。

「来いよ」

 いじめられっ子がパンチした。

 その威力は凄まじく、いじめっ子が野球ボールみたいに跳び、壁にめり込む。

 アーラシュがため息を吐いた。

 アールマティの力を一部、使用したのである。

「ごめん!やり過ぎた!!」

「……いいよ。舐めてた……」

 周りの生徒達がざわめいた。

「怒らせたら怖いタイプだったんだな」

「俺、いじめに参加しなくて良かったよ」

「それにしても今日のキング、もっともだ。」

「だから今までどっちも殴ってたんだな。」

「今日は殴らなかった。言葉で収めたぞ」

「いいぞキング!」

「イメチェンもかっこいい!」

 キングは何事も無かったかのように、コリンやハリソンに振り向いた。

「さぁ。わたくし達も昼食を貰いましょう。行きますよコリン、ハリソン。」

「一日にして……キングの頭がレベルアップしちまった……一体どんな勉強法を使ったんだ?」

 困惑するコリン。

「こんなのキングじゃねえよ……神様でも降りちまったのか?治る?」

 困り眉のハリソンに、アーラシュが苦笑いで返した。

「特別な勉強法をしてな。そのうち元のワイアットには戻るから。心配しなくていいぞ。」

 キングは昼食を受け取り、皆が受け取った頃、オーエンの席の隣に現れた。

「お隣、宜しいですか?オーエン・テイラー。」

 オーエンも驚き、警戒する。

 コリンとハリソンも驚いて、物申した。

「キング、そいつのこと大嫌いじゃなかったか?」

 キングはいきなり険しい顔で怒鳴った。

「大嫌いだぜ!!」

 そして冷静になって告げた。

「ですが、嫌いと避けてばかりいられません。わたくしの取り締まる領域でドナ=ジョーが被害に遭いました。オーエンはドナ=ジョーと懇意でしたから、情報を貰い力を合わせなくては。縄張りで殺人など、許し難い行いです。」

 ハリソンが前のめりになった。

「へぇーーッ!!つまり、家では勉強、学校では犯人探しだな!?いいぜ、俺は退屈してんだ、犯人見つけてボコしてやろーぜ!!」

 オーエンが(いかめ)しい顔になる。

「悪いけど」

 アーラシュがオーエンに耳打ちした。

「善神様、キングは善神群のスプンタ・アールマティ様です。話を合わせていただけたら。」

 オーエンはまた驚いた。

 キングの中に、あの穏やかそうな白い女神がいるのか。

「……情報は、少しなら。でも僕にも話すのが辛い内容だ。無理強いしないのであれば。」

「勿論。さぁ、コリン、ハリソン、カマンガーも、座りなさい。昼食をしながら捜査を進めましょう。」

 コリンやハリソン、アーラシュは、オーエンとキングを囲むように座った。

「座り方、まるでテーブルトークRPGみたいだな。」

「それではオーエン。ドナ=ジョーと最後にいた日は?」

「日曜日だ。一緒に働……ボランティア活動をしていて、その終わりに、ドナ=ジョーがお別れしようって……オカルト的な話になるから信じ難いだろうけど。ドナ=ジョーの中に、悪霊が侵入して、僕に危害を加えてしまうからって。」

「悪霊?富豪のエルダー・マイヤーズを殺したり、街で豪雨の時対決してた奴ら?」

 コリンもハリソンも、街の住人だ。最近の騒動で悪霊が出てはカトリック教会に避難している。

「……それで、別れましたか?」

「……追いかけたけど。悪霊はドナ=ジョーと切り離せなくて、殺害された。……僕を、生かすために。こんなことは話したくなかった。僕だって辛い。」

 コリンが苦渋の顔で言った。

「けど、テイラーは既に悪霊に家族を……仕方ねぇよ、そりゃあよ。」

 アールマティはオーエンとイライジャに起きた出来事を察し、応えた。

「今までのあなた方の距離感が、ようやく理解出来ました。アシャ・ワヒシュタの意見も納得が行きます。しかし、貴方と彼は、憎しみを乗り越えたのですね……これは認めざるを得ません。」

「キング?」

「こちらの話ですよ、コリン。ならば残る悪神郡を倒したら、王国は二つ必要になります。彼にも、居場所が無ければなりませんから。世界には国境が必要になりますね。カマンガーの弓矢の腕前は凄まじいもの。カマンガーには、再び殉教して貰いましょうか。」

 オーエンは意味が解らず瞬きした。

「えっ?どうして、殉教?」

 アーラシュが告げる。

「国境作りの意味だ。俺はアーラシュ・カマンガー。オーエンは、調べたことがあるかもしれないが……」

 名前から、オーエンが理解した。

「ええと。アーラシュシェーバティール。早い矢、熟達した射者の英雄アーラシュ・カマーンギール。イラン神話だ。天使が作らせた弓矢で国境を決める一矢を放ち、その凄まじい距離はイランを守った。しかし、アーラシュは一矢を放つと散り散りに避けて滅んでしまった……貴方が?」

 アーラシュは咳払いで誤魔化し、話題を変えた。

「それにしてもこのチキン、ワイアットの体格には足りないだろうな。皆は足りてるのか?」

 コリンとハリソンは首を振った。

「足りたことないな。」

「ヘルシー思考なんだろ。でもおかわりは自由だし、売店でピザも買える。」

「なるほどな。」

「わたくしは、ワンプレートで我慢していますよ。時折プロテインバーなどでカバーしますが。おなかがすいているほうが、母殿の夕飯は美味しくなりますし。」

 オーエンがびっくりした。

「それ、キングが?」

 アールマティは頷いた。

 それは、キングの本音である。

「はい。空腹の方が、仲間が分けてくれるコーラなんかも、美味しいですよ。」

「キング……!!」

 コリンは感激した。

「……意外だけど、仲間や家族思いなんだね。」

 オーエンが微笑むと、いきなり怒りのキングになる。

「うるせぇ!!てめぇの為じゃねぇ!!仲間と家族の為だ、笑うな!!!」

 アールマティが代わった。

「大分話せるようになってきましたね。暴力も抑えた。この調子ですよ。」

 知性的なキングに対し、コリンが後ろめたそうに、告げた。

「実は、俺はキングと約束しておきながら……勉強に集中出来なかったんだ。退屈しのぎに、ゲイビの見比べ鑑賞して、Xに記事を書くなんて、馬鹿な時間を過ごしてた……このままじゃ俺だけ講習会行きだ。馬鹿野郎で悪い。」

 キングは尋ねた。

「ゲイビを見比べた?……ゲイビ男優の変わった喘ぎ声とかはあったか?」

「無い。みんな「オーイェー!!オーイェー!!」だ。」

 アールマティがキングを押し込んだ。

「コリン。なんなら、わたくしの自宅にいらしてはいかがです?家族、特に料理をする母殿には、機会を伺って、わたくしから話しておきますから。そうですね……3日以内には、必ず。カマンガーも来ていますし、いっそコリンも一緒に勉強をしましょう。」

「いいのか!?キングんちで!?」

「仲間の危機ですからね。皆で一緒に縄張りをパトロールしなくては。その為にも、勉強は乗り越えなければならない壁です。力を合わせて自由を得ましょう、コリン。」

「キング!!恩に着るよ!!」

 ハリソンは退屈げに変更ルールを数えた。

「犯人探しは学校で。放課後は自宅ごもり。殴るのは悪党だけ。俺はしばらく学校しか楽しめねぇのか。あーぁ。悪党、俺の前に来ねーかなー。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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