4-〈4〉
「アルブレヒトさん!!」
「アミナ!!」
オーエンとイライジャ、悟空が屋敷に入って行くと、アルブレヒトさんが忙しなくやって来て出迎え、一礼した。
「おかえりなさいませイライジャ様。ようこそいらっしゃいました、オーエン様。巨漢の方。少々、一悶着ございまして、掃除と調理が遅れを出しております。オーエン様も気長にお待ちください。初めての巨漢様もご同様に。」
イライジャが眉を釣り上げた。
「アルブレヒト。悪神群が、体内に入って……いるはずだ。悪魔タローマティ。いやがんだろ?」
アルブレヒトさんは、眉間に皺を寄せた。
「ですから、わたくしとその方で一悶着ございました。最終的にタローマティさんをねじ伏せてわたくしが機能しております。アミナ様も、あちらで戦いの午睡の後、お絵描きの続きを。」
「……!?」
「ねじ伏せた?」
イライジャとオーエン、悟空は、階段を上がってイライジャの部屋に入って行った。ラグの上で寝そべってお絵描きしている小さな子がいる。
「アミナ?」
アミナは振り向いた。
「イライジャ。あたちよ、安心ちて。でも勝ち取ったのは、なんか、疫病振りまく力だから……あんまり使わない方がいいわね。」
オーエンはギョッとした。
「イライジャ、こんなに小さい子いつから?それにこの子が悪魔に勝てたなら、ドナ=ジョーは……」
「アミナは村八分の地獄にいた子だぜ。それにドナ=ジョーについてたアジ・ダハーカはめちゃめちゃ強ぇし。アンリ・マユの実子だ、逆支配が及ぶような奴じゃない」
「そっか……よかった。よかった、イライジャ。君の大事な人を、君が殺す羽目にならなくて。」
「まぁな?」
「ほんと、変なところ義理堅いからさ。君って。」
悟空はアミナに屈んで、話しかけた。
「よ。お前アミナって言うのか。俺クレヨン上手いんだぜ、見てな。」
悟空は次のページに可愛らしいデフォルメの兎を描いた。プロのアニメーターぐらいに完璧だ。
「すごいわ!サインちて!」
「おし。……さて。オーエン、イライジャ。俺はもう帰るぜ。まだ正式に出会った訳じゃねぇからな。だが、また次回会ったら、交流会でもしようや。」
「ありがとう悟空。また会える日を待ってるよ。」
悟空は窓から金斗雲に乗って立ち去った。
「チョコレートケーキ、用意しといてくれよ!」
一般人を助け回って、パトカーやらマスコミにアメジストのペンデュラムで催眠術をかけて、ヘトヘトのミカエル、ラジー、ベルフェゴールが、イライジャ宅に合流した。
「まったく、冗談じゃないっての。街丸ごと、この少人数でカバーしたのよ?イライジャ、屋上のビアホール開けてよ。シェフはラジー、美味しいごはんをお願いね。」
「ぼかぁバイク乗せてもらっただけだしねぇ。みんなで仲良く会食なら、まっかせて。」
ベルフェゴールがイライジャの足元を駆け回る。
「会食では是非ともお膝に座らせてもらおう!」
アミナが挙手した。
「パンを使うなら毎日焼きたてのがたくさんあるわ。それから、アルブレヒトさんのポテトサラダが美味しいの。」
オーエンが初耳で驚いた。
「アルブレヒトさんが料理を?」
「僭越ながら、人並みにこなします。」
イライジャ、にやけて言った。
「打ち上げで屋上のビアホールか。なら、ラジーとアルブレヒトのメシの前に、雨水ふかないとな。俺とオーエンとカルト女が雨水掃除、アミナはメイドとパンを選ぶ係。」
「げぇー!!こんなにクタクタなのにあたしも清掃係?つくづく当たり強いわこいつー。」
キッチンでラジーとアルブレヒトさんが調理している。
オーエンとイライジャは、今まで離れていたのが嘘みたいに、ヘラヘラ笑って喋りながら、掃除した。
「なぁ、お前さぁ。恋ってどんな感じだった?」
「……とても甘酸っぱくて、一人でニヤケたり、かな。相手の一挙一動で、悲しくなるし、幸せになったりする。イライジャも、学校じゃドナ=ジョーが1番美人だって言ってなかった?」
「あー。俺歪んでんのかな?美的感覚はあっても、恋なんて。アーティストの方が好きだぜ?アミナが不幸なら、切ねぇかもしんないけど、幸せはわかんねぇや。」
「きっと君にも夢中になる人が現れるさ。学校……じゃないな。いずれ、出会う場が来るよ。」
「さてな?アヴリル・ラヴィーンの若い頃にタイムスリップしたら特攻するかも?いまでも好きだけどな。まぁ、学校の無い暮らしも割と楽しいぜ。アミナが来てからだけどな。そっちはどうだ」
「学校は相変わらずだよ。イライジャもドナ=ジョーもいないから、一人だけどね。まぁ、ハワード先生の歴史が楽しいし。でも、キングの定評が下がったかな。」
「俺アイツ嫌い。」
「うーん。完全な悪党じゃなくても、キングの暴力癖は治らないしなぁ……。」
会食では、キンキンに冷えたビールと、オレンジが添えられたジンジャーエールが配られた。
ミカエルはラジーのボロネーゼのペンネをおかわりし、野菜たっぷりのオムレツに食いついた。
「うまぁ!!たまご、ヤバくない!?これ最高よラジー!!」
「ミシェ、たまご大好きだからねぇー。」
アミナはラジーとアルブレヒトさんのポテトサラダ食べ比べをした。
「ラジーさんのはゆで卵とスイートコーンとツナの甘みが子ども心を掴んでくる。アルブレヒトさんのは刻み生オニオンと粒マスタードの辛みと胡椒が効いてて……美味しいっ!どっちもサンドイッチにしよっかな。」
アミナは立ち上がりすかさず用意してた焼きたてパンを厚切りにした。
アミナの食レポに触肢が動いたミカエルは挙手した。
「あたしにもパンちょーだい!そっちのポテトサラダ、両方食べたくなったわ。」
「うふふ。さぁ、ポテトの沼へいらっしゃい。」
イライジャはドライフルーツの入った固めのドイツパンにバターを塗りながらかじり、オーエンに尋ねた。
「俺もひとランク、能力が上がったが……オーエン、お前、特効薬無しにエネルギーをとってるだろ。常に全開になれる。すげぇ、どうやって?」
オーエンはツナのパスタとポテトサラダで程々に満足し、自然と同化している。
「はは。なら、イライジャのレベルアップに追いつけた?」
「言えよッ」
「大事なことは、悟り。みんなを愛する心だよ。それが秘訣かな。」
「お前らしいな。いや、久々にお前らしいのか?」
「うん。本当に、険しい道だったね。」
どんなに厳しい苦境でも、止まない雨は無い。
こんな平穏が、幾星霜ぶりかに感じる。
憎しみは人の目にフィルターをかけてしまうから。
元々存在した友に、今ようやく打ち解けた気がする。
悲しみの朝焼けも、すれ違いの夕暮れもあった。
死闘の宵も。
でも、今夜だけは。
大事な大事な、平穏の夜だから。
もし、明日また対立するとしても。
今日が消える訳じゃあ、無いんだ。
きっと、忘れないだろう。過ちも、目が覚めたあの瞬間も。
雨の後、夜空は星が煌めき、ひと時の平和を祝福するかのように、月明かりは見守っていたーーー。
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