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15.聖剣幼女プリムとヤキモチ魔王

「あ……あるじ様? お前、本当に聖剣なのか?」


 恐る恐る尋ねる俺を、駆けつけたセレナたちが興味津々といった様子で取り囲む。


「えっとねぇ……そうだよ。あるじさまが『めがみさま』にいじめられるの、ゆるせなくて、がまんできなくて、でてきたの!」


 銀髪の幼女――プリムは、ぷんすかと怒りながら小さな拳を握りしめている。


「「「「……女神様??」」」」


 俺たちの声が重なった。

 勇者を導くはずの女神が、俺をいじめる? 聞き捨てならない単語だが、この幼い見た目のせいか、どうにも緊迫感が湧かない。


「事情はよく分からぬが……アルスを助けてくれたこと、礼を言うぞ」


 凛とした声で、セレナが感謝を述べる。


「わぁー! そんなことより、お名前はなんていうのー? かわいいねー!」


 フィオはそんな空気もお構いなしに、フリルのついたエプロンを躍らせて顔を覗き込んだ。


「わたしは『プリム』っていうの! ピンクのかみのおねえちゃんのおなまえは?」


「私はフィオですよー。こっちの眼鏡の男の子は、サモンくん!」


「フィオねぇと、サモンにぃ、ね!」


「……にぃ、ですか」


 サモンが少し照れくさそうに眼鏡を直した。宰相として振る舞ってはいるが、中身はまだ少年だ。いきなりできた『妹』に戸惑っているらしい。


「それから、こっちのかっこいい騎士様はあるじ様! そしてそして、こちらにおられるのが我らが偉大なる魔王様なのです!」


 フィオの紹介を聞き、プリムは俺の足にぎゅっとしがみついたまま、上目遣いでセレナを見た。


「あるじさまと……あおいかみの、まおーさま?」


「……うむ。私が魔王だ。以後、見知りおけ」


「まおーさまなのに、ツノないの? こわくないね!」


「……ふん。強さに見た目など関係ないのだ」


 痛いところを突かれたのか、セレナが少し眉をひそめる。だが、幼子相手に本気で怒る様子はない。


「なあプリム。お前は……俺の聖剣に戻れるのか?」


 一番重要なことを聞く。剣に戻れなければ、俺は丸腰だ。


「もどれるよ? ……でも」


 プリムは俺の太ももに顔をすり寄せ、上目遣いで言った。


「カチコチの姿だとさみしいから、このままがいいかな? ……だめ?」


「うっ……」


 そんな目で見られて、駄目だと言える男がいるだろうか。いや、いない。


「……分かった。好きにしていいぞ」


「わーい! あるじさま、だーいすきっ!」


 満面の笑みで飛びついてくる元聖剣の娘。それを見て、セレナが「むぅ……」と露骨に頬を膨らませたのを、俺は見逃さなかった。


「さて、プリム。女神様とは一体どういうことですか?」


 サモンが話を戻す。プリムは「あのね」と人差し指を立てた。


「めがみさまはね、じゃしんさまとたたかってるの」


「邪神!? 魔族領内で信仰されている神だ。……戦っているだと?」


 セレナが驚きの声を上げた。


「くわしいことはわからないけど、ずっとむかしからケンカしてるの。でね……あるじさまがまおーのそばで、こっそりいのちをねらってると思ってたのに、まぞくをたすけちゃったから、もういらないんだって」


「俺が、要らない?」


「アルス様、騎士様とは名ばかりの、無収入の『ひも人間』ですもんね!! そりゃあリストラ対象ですよ。でもでもー、私はですねー、大好きですよー!! ブハァ!!」


 俺に抱きつこうとしたフィオの顔面に、セレナの拳がめり込んだ。


「めがみさまがあるじさまをきらいでも、わたしはあるじさまだいすきだから、たすけたの。めがみさまのこえがきこえないように、つながりをたちきっちゃったからだいじょうぶ」


「「「繋がり?」」」


 ――俺には分かる。聖剣と俺の間には、何かパスのようなものがあるのだ。離れていても、気配を感じる。緩い紐で繋がれているかのような感覚。


「……む。今、何か妙なことを考えなかったか? アルス」


 思考を読んだかのように、セレナが俺の顔を覗き込む。


「い、いや?」


「まあまあ。立ち話もなんですし、一度馬車に戻りましょう」


 サモンの提案で、俺たちは馬車へと戻ることになった。


 ◇  ◇  ◇


 帰りの馬車の中は、行きとは比べ物にならないほど人口密度が高まっていた。


 俺の右隣には、腕を組んで不機嫌オーラを放つセレナ。左隣には、俺の腕にへばりついて離れない銀髪幼女プリム。

 両サイドからの圧が凄い。物理的にも精神的にも。


「それで、サモン君。女神様に見捨てられたってことは、アルス様は完全に無職確定ってことじゃないですかー! やだー!」


 御者台から顔を出したフィオが、空気を読まずに叫ぶ。


「フィオ。お前、少し黙っていろ」


「でもでも! これからは魔王城で暮らすんですよね? プリムちゃんの部屋、どうします?」


 その言葉に、プリムがバッと顔を上げた。


「あるじさまといっしょがいい!」


「却下だ」


 セレナが即答した。食い気味だった。


「えー! なんでー! さっきまでずっといっしょだったのにー!」


「それは剣だった頃の話だろう! 今は人の形をしているのだから、男女同室など許さん! 不健全だ!」


「じゃあ、まおーさまのへやにするー」


「なぜそうなる!」


 頭を抱える魔王と、無邪気な元聖剣。これまでの静かで穏やかだった魔王城の生活が、音を立てて崩れていく音がした。


 見かねたフィオが、助け舟を出す。


「はいはーい! じゃあ、プリムちゃんは私の部屋に来る? 可愛いぬいぐるみもいっぱいあるよー!」


「ぬいぐるみ!?」


 プリムの黄金色の瞳が輝く。


「あとね、夜な夜な書き溜めた『アルス様観察日記』を読み聞かせてあげるね。寝顔のスケッチもあるよ」


「わーい! いくー!」


「……フィオ。お前、そんなものを書いていたのか?」


 俺の戦慄するようなツッコミは、二人の楽しそうな笑い声にかき消された。


 サモンがやれやれと肩をすくめ、眼鏡を押し上げる。


「賑やかになりますね、アルス殿。……とりあえず、今晩の夕食は人数分増やしておきましょう」


「……あぁ。頼む」


 俺は苦笑いしながら、新しい家族が増えた車内を見渡した。


 女神の脅威、王国の企み。問題は山積みだ。

 けれど、この温かくて騒がしい場所を守るためなら、もう一度戦うのも悪くない――そう思えた。


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