王太子殿下主催のお茶会で被虐待児とされて、憐れみと慈悲を掛けられました。
わたしの家は、所謂……子供のうち一人だけを贔屓する家だ。
金髪碧眼でキラキラとした愛らしい容姿をして生まれた妹だけが、大層可愛がられている。そして、妹に比べると地味な色合いのわたしは、あまり構われない……というか、妹がわたしの物を欲しがったときにだけ、両親の目がわたしへ向く。
「妹が欲しがっているのだから、与えるのが姉の役割だろう」
そんな理不尽な言葉で、わたしが親族や友人達から頂いた大切な物を妹に奪われる。お気に入りのぬいぐるみ。お友達とお揃いのアクセサリー。可愛らしいレターセット。鍵付きの、まだなにも書かれていない日記帳。おばあ様の贈ってくださったドレス。おやつに出されたお菓子。美しいガラスペン。
どれも、頂いて……見付からないように隠していた物まで、部屋を漁られて奪われた。
「お姉様ったら、こんないい物をあたしに隠すなんてヒドいわ!」
他人の部屋に無許可で入り、勝手に漁り、あまつさえ物を奪って行く。まるで泥棒の所業だ。やめるように注意しても、「お姉様がいじめるの!」と、妹は両親に訴える。
妹に甘い両親は、わたしの方を叱る。
「ちょっと借りただけじゃないか。それを、可愛い妹を泥棒扱いしてまで大騒ぎするだなんて、そんな性格の悪い娘に育てた覚えはない」
なんて、馬鹿馬鹿しいことを真顔で言ってのけた。
それからわたしは、頭の悪い両親に期待することをやめた。妹に物を持って行かれることを止めるのもやめた。
ただ、他人に迷惑を掛けることだけは、なんとしても阻止しようと親族一同に妹と両親の言動に注意を促すようにした。
それが功を奏したのか、うちは社交の場に呼ばれることが少なくなった。お祖父様かおばあ様の通達だろうか? 両親は偶に呼ばれることはあるようだが、わたしと妹が同行することは一切なくなった。
妹は、お茶会などに呼ばれずに不満そうだが、他人に迷惑を掛けるよりはよっぽどマシだ。
そうやって、数年が経った頃。
王太子殿下主催のお茶会が開かれると大々的に発表された。
社交の場に呼ばれないから、我が家とは無関係だと思っていたのに――――
お茶会当日。
なにを勘違いしたのか、「うちの娘が王太子殿下に見染められるまたとない機会だ!」とか脳みそお花畑の両親が抜かして、王太子殿下主催のお茶会に参加する運びとなった。
マジやめろや! と思って、両親を必死に説得したけど……
「お前は、妹が王太子妃になることを誉と思わないのか! 可愛い妹の幸せを願えないだなんて、なんて酷い姉だ。お前みたいなのが娘で恥ずかしい」
などと、理不尽なことを言われたので……もう、どうにでもなれと匙を投げた。全く、恥はどちらだか?
わたしは、サイズの合っていない母のお下がりの地味なドレスを着せられ、「妹が王太子殿下に見染められるよう、サポートするんだぞ」と言い含められて。妹は、かなり豪華で……まさにピンクのフリフリと称するのが相応しい幼女が着ていると可愛らしいと言われるようなドレスで着飾られて。王宮へと向かった。妹が、王太子殿下に見染められることなど絶対に無いことを確信しながら。
会場の庭園へ案内されると、既に到着していた親族に一瞬ぎょっとした顔で見られ、次いで憐れみの視線をひしひしと感じた。
どうにか、迷惑を掛けずにお茶会が終了してほしいと願いながらひやひやと微笑みを浮かべてやり過ごしていると、王太子殿下がやって来たようで、会場がざわ付き始めた。
「え~? 王子様どこぉ? お姫様達しかいないじゃない」
きょろきょろと辺りを見回しながら言った妹の言葉が、いやに響いた気がして……実際に周囲からぎょっとしたような顔が向けられて、頭が痛くなる。
現在の我が国に、王子殿下はいない。
正確には、数週間前まで第一王子様はいたらしい。
その第一王子様は、王太子殿下ではあったけど。けれど、急病に罹って……執務もこなせない程にお身体を病まれたそうで、王位継承権を返上。どこか静かな土地で療養するとお達しがあった。噂では、子供ができない身体になってしまったとかで、それが直接の原因だと囁かれているらしい。
そして、現在の王太子殿下は……第一王子様の元婚約者だった、王弟殿下のご息女であらせられる公爵令嬢様が、現王家へ養子入りして王太子殿下となられているのです。
現王家には、第一王子様の他は王女殿下がお二人いらっしゃいますが、選ばれたのは王弟殿下のご息女です。王女殿下方は、控えめな性格をしているので国政には向かないとのご判断だとか。
つまり、次期国王は元公爵令嬢が女王陛下となられる予定。現国王陛下が、国内外に王太子は姪を据えると宣言しているので、余程恐ろしいこと(暗殺など)が起こらない限りは覆らないでしょう。
故に、現王太子殿下が王太子妃候補として女性を婚約者に選ぶことは……万が一にも、妹が選ばれるような番狂わせの可能性すら無いということです。
貴族令嬢の中から選ばれるとしたら、せいぜい王太子殿下付きの女官や侍女と言ったところでしょう。まあ、それでも抜擢されれば大出世ではありますが。
これ、普通に……今回の王太子殿下主催のお茶会に参加する貴族は、頭に入れていて然るべきなんだけどなぁ。しかも、現王太子殿下のご実家の公爵家はうちの家門の派閥トップの家だし。
妹が王太子妃になるチャンスだとか言い出したときには、両親と妹の頭がお花畑過ぎてドびっくりしたわー……
訂正しようにも、この三人はわたしのことを舐め切っているので言うことを聞かないし。
なんて、走馬灯のような考えが頭を過ぎっているのは、麗しい豪奢なドレスをまとった美しい女性……王太子殿下がこちらへ向かって歩いて来るからです。
「ふふっ、第一王子は少し前に病気になってしまったの。なので、代わりにわたくしが王太子になったのだけど。知らなかったかしら?」
クスクスと、玲瓏な声が笑みを含んで掛けられました。
「確か……」
と、言葉を切った王太子殿下の視線がわたしに注がれました。
「……っ」
「あなた、顔色が悪くってよ。倒れられては困るわ。少し休みなさい。連れて行きなさい」
返事をする間も無く、お仕着せ姿の女性に両側から挟まれて別室へ連行された。
そして――――
「失礼致します」
問答無用で母のお古のサイズの合っていないドレスを引っ剝がされて、流れるようにコルセットを緩められました。え? なにこれ? 王宮怖い……と、ガクブルしていたら、侍女さん達が説明をしてくれました。
なんでも、王宮に上がるのだからと気合を入れてコルセットをギッチギチに絞め上げ(締めるというより、まさに絞めるという表現なのだとか)、具合を悪くして倒れる女性がそれなりにいるとのこと。
過去にあった最悪の事故は、ウエストが細ければ細い程美しいという価値観で、アバラが折れるまでコルセットを絞め上げることもあった時代のこと。とある貴族婦人が倒れた拍子に、折れたアバラが自身の内臓を傷付け、その場で血を吐いて……という恐ろしいことがあったそうなので、具合の悪そうな女性(特に初登城の若い貴族令嬢)は死ぬ前に連行してコルセットを緩めることが不文律になっているそうです。
ちなみに、ギッチギチにコルセットを絞め上げてやっと押し込んでいたサイズの合わないドレスを着ている方もいるそうなので、そういう方用に豊富なサイズの予備のドレスが用意されているそうです。
ドレスは、下位貴族は返却不要。伯爵家以上はお礼として、後日別のドレスを寄付するという形が取られているのだとか。
初めて知りました。が、アレです。
侍女さん達に軽食とお菓子と飲み物を与えられて、最低限これだけは絶対に口にしてくださいとのノルマ分を食べ終わる(さすが王宮、お菓子が大変美味でした)と、有無を言わせず王宮ストックの予備ドレスにお着替えさせられました。
侍女さん達曰く、わたしは色味が地味なだけでそれなりに見れる見目をしているのに、古臭い上に明らかにサイズの合っていないドレスと、貴族令嬢のクセに適当な手入れで残念な肌と髪をしているのでパッとしない見た目になっているそうです。
ローティーンでまだこんなに若いのに! と、ぶちぶち文句とも嘆きとも付かない言葉を呟かれながら、コルセットを締め直して予備ドレスを着付けされ、応急の肌手入れをされ、最後に美しく! メイクを施されてしまいました。
鏡には、「え? これが、わたし?」状態でぽかんとしている、普段より美人度が五割増しになったわたしが間抜けな顔で映っています。
侍女さん達は、やり切ったわ! と、満足げな表情で微笑んでいます。
「さあ、お顔の色も宜しくなりましたけれど。お嬢様はどうされますか? これから、王太子殿下のお茶会に参加し直しますか? それとも、このままお帰りになりますか? お帰りになられるのでしたら、お屋敷まで城から馬車を出しますが」
ぽや~っと自分に見惚れていた頭が、サッと冷える。
そうだったっ!! されるがまま流されて、アホでお花畑な家族共のことを忘れてたっ!?
「……お茶会に、戻りマス……」
「お顔の色がまた……ご気分が優れないのでしたら、無理はされなくても宜しいのですよ?」
「イエ、アホ家族共が粗相をやらかしたらと思うと、非常に胃と頭が痛むので、なるべく早く会場に戻りたいと思います」
「まあ……そういうご事情なら、仕方ありませんわね。ご健闘を祈りますわ」
「皆様、ご親切にして頂き、大変ありがとうございました」
と、お礼を言ってお茶会の会場に戻ったのだが――――
わたしは、お花畑共の粗相が気になるあまり、失念していた。
会場へ戻るなり、
「ああっ!? お姉様ズルい! あたしに黙って、そんな素敵な新しいドレスに着替えに行ってたなんてヒドい! そのドレスちょうだい!」
大声を上げた妹がずんずんと大股でわたしに向かって来た。
そうだった……王太子殿下のご厚意で、体調を気遣って頂いたばかりか、新品? と言っても差し支えないドレスにお色直しまでさせて頂いたんだった。
新しい、ドレスだ。しかも、今のわたしはいつもよりも美女度が五割り増し。ズルいズルいと鳴き喚いて、わたしの物を奪って行く妹が反応しないはずがなかった!
「そうよ、そんな上等なドレスはあなたには勿体無い。さっきまで着ていたドレスはどうしたの? 前のドレスに着替えに行きますよ。早くなさい」
母は、妹の発言に驚いた顔をしていたと思っていたら……どうやら違ったらしい。
「そうよそうよ、早く脱いであたしにちょうだいよお姉様!」
と、妹がわたしの袖を引き始めた。周囲の人達はドン引き。会場にいる親族は顔面蒼白でこちらを見ている。ビリ! っと、袖から嫌な音がしたとき、目の前を美しいレースが通り過ぎて行くのがスローモーションで見えた。
「ぎゃんっ!? ちょっ、な、なに? 痛っ!?」
妹の額に、白い繊細なレースの施された扇子がスコン! と命中してぽとんと落ちた。
「わたくしのお茶会で、見苦しい真似をしているのは一体どういう了見なのかしら?」
先程は笑みを含んでいた玲瓏な声が、冷ややかに掛けられた。
「ひっ! も、申し訳ございません。出来の悪い娘が騒ぎを起こしまして……ほら、あなたが原因なんだから、あなたも謝罪しなさい!」
と、母が引き攣った顔でわたしの頭を強く押さえ付けた。乱暴にされ、更に袖口が破れて行く音が響く。まあ、騒ぎの原因と言えなくもないけど……この人は、こんなときでも妹を贔屓して頭を下げさせないのか、と。場違いにも感心してしまった。
「もうっ、お姉様が避けたせいであたしが痛い思いをしたじゃない! あ、でもでも、この扇子可愛いから許してあげる。誰かが要らないって放り投げたんでしょ? なら、拾ったあたしがこれ貰ってもいいよね?」
ムッとした顔で額を押さえ、芝生に転がっている扇子を拾い上げて笑顔を浮かべる妹に、またしても場が凍り付いた。
自分が主催者の王太子殿下の怒りを買っているとは、微塵も思っていない……というか、全く理解していない様子だ。愚かにも程がある。
「……なんて、憐れな」
先程まで無表情に、けれど確りと怒りが判る視線を向けていた王太子殿下の、落ち着いた声が響いた。
「お前達は、虐待を受けているようね。差し詰めお前は搾取子で、そこの足りない娘が愛玩子と言ったところかしら?」
「え?」
驚いて顔を上げると、
「この会場で一番愚かで、一番恥知らずで、一等憐れなのは、その娘ね。なにせ、愛玩されているのだから。親に人間扱いすらしてもらえず、ペットのように野放図に育てられ、人間としての躾も受けさせてもらっていない。だから、王宮のこの場、王族の前で動物並みの言動しかできない。恥を恥と思うことすらできない恥知らず」
憐れむような視線が妹へ向けられていた。
「お前達二人は、可哀想だからわたくしが保護してやるわ。我が家門の末席に連なる家の娘だもの」
憂いげに首を振る麗しい顔が告げた。
「当主は現時点を以て交代。後任は、わたくしが親族内で適任者を見繕って決めるわ。お前達夫妻は、とっとと帰宅し、荷物を纏めて出て行きなさい。別荘は取り上げないでやるから、好きな屋敷にどこへなりとも行くがいいわ」
「え? あ、あの?」
「王太子殿下っ!? い、一体なにをっ!?」
「あら? 今告げた通りだけど? 一度で理解できないとは。さすがは、キーキー煩く喚くしか能の無い子猿を育てた者達と言ったところかしら? 連れて行きなさい」
王太子殿下が呆れ顔を隠しもせずに腕を振ると、衛兵がギャンギャン喚く両親の両脇を取って強制連行して行った。
「お前達は、別室へ。さあ、つまらない余興だったわね。お茶会を再開するから、楽しんでいらして?」
パンパン! と手を打つ音で、わたしと、なにが起きているのかよく判っていないという顔の妹が侍女さん達に連れられて別室へ案内された。
「ねえ、お姉様。あたしもこれからお着替えするの? それならあたし、お姉様よりもっと可愛いドレスが着たいわ」
そんなことを言って笑う妹に、溜め息を吐きたくなったが堪える。
軽食とお菓子を出されたが、食べる気にはなれない。妹は美味しいと食べて、
「お姉様、食べないならあたしにちょうだい」
なんて言って、わたしの皿からお菓子を取って侍女さん達にアルカイックスマイルで見られている。そんな、滅茶苦茶居た堪れない時間を過ごし――――
「失礼するわ」
と、部屋に入って来たのはお茶会を途中で抜けて来た王太子殿下。
「悪かったわね。お前達の両親があまりにも無能だったから、排除させてもらったわ。わたくしが王太子になったからには、うちの家門一同で支えてもらわなくてはいけなくて。無能が当主に居座られると困るの」
にこりと、微笑みながら募る言葉に・・・納得、してしまった。
社交から遠ざけられている我が家が、なぜ王太子殿下主催のお茶会があることを知っていたのか。なぜ、すんなりと参加することができたのか。なぜ、親族が止めなかったのか。
全てが腑に落ちた。両親か妹が、なにかしらをやらかしてその責任として父が当主から排除されるのが織り込み済みだったというワケ。おそらくは、見せしめの意もあるのだろう。
「うふふっ、わたくし。賢い子は好きよ? お前、機会をあげるからもっと自分を磨きなさい。その上で、わたくしに忠誠を誓うなら、傍に置いてやってもいいわ。どこぞの豚の調教には失敗したけど、お前は賢い忠犬になりそうね。期待しているわ」
クスクスと、妖艶に笑う顔に……図らずも見惚れてしまいました。
「けど、その前に」
ピシっと、わたしの皿からお菓子を取ろうとする妹の手が扇子で叩かれた。
「痛っ! なにするのよ!」
「まずは、この子猿に人間としてのマナーを叩き込むことから先ね。お前、この娘の性格が少々変わるかもしれないけど、いいかしら?」
「どうぞ。わたくしの手には負えないと常々思っておりましたから」
「そう。ああ、それともう一つ。この娘が、愛玩動物のまま一切成長が見られず、ずっと愚かなままなら……ペットを愛でるのが好きな者に下げ渡そうと思うのだけど。いいかしら? 愛玩動物に、無体を働くことが無い者を選ぶつもりよ」
「王太子殿下のご随意に」
と、わたしは頭を下げた。
ある意味、自分の将来と妹の将来を売り渡すような真似だ。
でも、あのまま、妹だけを溺愛し……王太子殿下曰くの、愛玩するだけの両親に育てられ、搾取され続けるような、未来になんの希望も持てない人生よりは、大分いいと思う。
だって、王太子殿下はわたしを見て……わたしが、王太子殿下の言ったことを理解していると判った上で、期待をしていると仰ってくれた。わたしに、自分を磨きなさいと言ってくれた。
妹だって、あのまま両親に、両親の気が向くままに野放図に愛玩され続けていれば、貴族令嬢どころか人間としてマズい感じに育っていたであろうことは、想像に難くない。
そんな、愚かで恥知らずで、愛玩動物扱いをされている妹を人間として躾けてくれるとの申し出だ。更には将来的に、手が施しようが無い、愛玩動物のままの知性で成長しても、ペットとして可愛がってくれる飼い主の手配までしてくれるという。
なんて素晴らしい提案なのだろうか?
「未来の女王陛下へ、忠誠を」
と、わたしは王太子殿下の前に跪き、そのドレスの裾へ口付けを落とした。
「あらあら、気が早いこと。でも、いい子ね。励みなさい」
スッと顎に扇子を当てられて顔を上げさせられると、微笑みを浮かべる麗しい顔に柔らかい視線。白い手にそっと優しく頭を撫でられて――――
目を合わせて、いい子ねと優しく頭を撫でられるのはいつ以来だろうと思うのと同時に、なぜか涙が溢れて止まらなくなった。
「こら、強く擦っては駄目よ。仕方のない子ね」
王太子殿下の言う仕方のない子、は母の言う仕方のない子、どうしようもない子、という蔑みや冷たい響きではなくて……柔らかく温かい感じがした。
「こうして、優しく拭うの」
ぽんぽんと頬や目許に当てられる滑らかな絹のハンカチ。
「ぅえ……」
「お前は、泣くのが下手ね。そんな泣き方だと、後で顔が悲惨なことになるというのに……でも、やっと年相応の姿が見られたわね。お前はよく頑張っていたわ。今まで、あんな無能なクズ親を庇ってよく我慢したわね? まあ、ある意味お前の頑張りのせいで、あの無能具合が露呈するのが遅れたのだけど。今日は、気が済むまで泣きなさい」
優しく頭を撫でる手と、小さな呟きが落ちて――――
わたしはこの日、不覚にも久々に泣きながら寝落ちしてしまった。
翌日。見知らぬ部屋で、少し怠いなと目を覚まして……昨日の記憶をたどり、真っ先に思ったのは恥ずかしいっ!! という猛烈な羞恥心に襲われた。
「おはようございます、起きられたのでしたらまずは水分補給を」
わたしが起きた気配を察したのか、侍女さんが入って来て真っ先に果実水を押し付けられた。
「昨日はあの後、なにも飲まず食わずで寝てしまったので心配しておりました」
そう言われて、果実水を口に運ぶと一息で飲み干してしまった。喉が渇いていたみたいだ。
果実水のお代わりをちびちび飲んでいる(脱水気味のときに水分を一気飲みするのはあまりよくないので、二杯目はゆっくり飲んでくださいと言われた)と、部屋の外が少し騒がしい気がして……
「失礼するわよ! ああ、起きたようね。気分は悪くないかしら? 目は……少し腫れているけど、そう悲惨な顔にはなっていないから侍女達に感謝することね。体調が悪くないなら、後でお前の今後を話し合うわ。そのつもりでいなさい。妹は、手の付けられない動物のような子供を躾けるのが得意なシッターを手配したわ。お前があの妹と離れたくないと思っているなら、一緒に暮らせる部屋を手配するけど。どうするのかも、考えておきなさい。では、わたくし忙しいので失礼するわ。ごきげんよう」
バン! とドアを開いて部屋に入って来るなり、わたしの顔を覗き込み、サッと頭を一撫でしながら言いたいことを言うだけ言って、王太子殿下は颯爽と出て行かれました。
ああ、本当に王宮で……というより、王太子殿下に保護されたのだと遅れて実感した。
妹のことは、基本的に放置でいいだろう。別に、我が家の……わたし限定のギャングみたいなあの子の顔を見なくても寂しいともなんとも思わないし。気になったときに、躾の進捗具合を聞けばいい。
まずは……忙しいとの言葉通りに、忙しいはずなのにわざわざわたしのことを気に掛けてくれた未来の女王陛下に、どうしたら――――あの、お花畑の毒親共を排除してくれた上、わたしと妹にまで慈悲を掛けてくれた、この大きな恩を返せるかを考えることにしよう。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
なんか、搾取子と愛玩子のどちらが憐れなんだろうなぁ? と、ふと疑問に思ったら……
某女王様が頭の中で「そんなの、愛玩子に決まっているでしょ! 人間扱いをされずに育つ、恥を恥とも思わない人間が一等憐れに決まってるわ! 奴隷扱いされている搾取子は主人(親)がいなくても生きていけるけど、愛玩動物は飼い主(親など)がいなくなれば生きていけないもの。別の飼い主が現れれば別だけど。それに、愛玩動物を愛玩できるのは、余裕があるときだけ。余裕を無くせば、ペット扱いの子なんて簡単に切り捨てられるのよ!」( ・`д・´)
と、力強く主張されたので……
書いてる奴的には、人間として憐れなのは愛玩子。けど、つらくて苦しくて痛ましい思いをするのは、搾取子の方かな? と。(´・д・`)
ちなみに、某女王様は『わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。』の色んな意味で女王様の方です。王太子になって数週間後の話。(*ノω・*)テヘ
こっちの主人公ちゃんが若干口悪いのは、親がアレで使用人達に構われて育ったからです。
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。
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