第8話 まずは偽装交際。
夏休み中は定期的にベルを訪ねては、一緒に課題をしたり、中庭でアニエスと遊んだり、本を読んだりして過ごした。
周りの人たちは、昔から変わらずそうであったかのように…あまり気にも留めていないようだ。あんなことがあった後だから、私がおばさまに頼まれているんだろう、って思っているみたいだ。
後期の授業が始まった。
朝、ついでだからとベルが馬車で迎えに来てくれる。もちろん、シリルも乗って来るから…アンジェリクも乗り込んできた。
ベルはちゃんとシャツのボタンを一番上までしめて、ネクタイもきちんとしている。髪も短く切りそろえて…ほんの少し曲がったタイを直してあげる。
私たちを見て…アンが大きく目を見開いて…シリルと目配せしあっている。うふふっ。
まあ…全体的に言っても…昔の二人に戻った感じ?
居心地がよくて、息が楽だ。
私は相変わらず、ガリ勉メガネブス、ではあるけれど。
朝、一緒に登校して、お昼も一緒。私が作ってくるお昼ご飯を食べる。もちろん、今まで通り、マルゴも一緒だ。
放課後は図書館に寄るのも、居残りして予習するのも一緒。
お昼休みにベルの様子を見に来ていた1年生の女の子も、一人、また一人と減っていって、10月になるころには誰も来なくなった。
ベルの噂は出ては消えて…
「そうね、今のところみんなは、ベルはあんなことがあったからおとなしくしているんだろう、って見方が主流かしら?で、あなたが親に頼まれて監視役についている、って思っている。」
と、マルゴが教えてくれた。
「あの女の子は、退学して領地に戻ったらしいわ。婚約は解消。刺した男は廃嫡。まあ…人生いろいろよね。」
思い込み、とはいえ…ベルのことが本当に好きだったんだろうなあ…その子。
なんか、私の都合で付き合わせているベルにも、心配そうに教室をのぞき込んでいた女の子たちにも…ごめん、だわね。
「帰ろう、リディ。」
日直で教員室まで日誌を届けに行っていたベルが戻ってきて、声を掛けられる。
「うん。じゃあね、マルゴ。また明日!」
*****
平和に何事もなく、一年が過ぎようとしていた。
行き帰り、同じ馬車を使うことも、ベルが品行方正になったのを喜ぶエリザベトおばさまが許してくれていたし。
ベルはすっかり真面目になった。実は根は真面目で、だらしなくしていた方のベルが偽物なのだと私は思っているが、おばさま的には、幼馴染の私が付いていることでしかたなく真面目になったのだと信じている節がある。
社交界にデビューする年になったが、そこは慎重にファーストダンスは父と踊った。
ベルは彼の母上と。
2曲目にはベルが誘ってくれたので、一緒に踊った。
夏休み前に、ベルは王城の事務官登用試験を受けた。難なく、合格。
ベルは…あんなに遊び回っているときでも、成績は落とさなかったことを考えると、やはり根は真面目なのね。
そうね…ベルのお父様も国の要職に就いていらっしゃるし、ベルとしても離婚後の生活を考えたら、慰謝料プラスしっかりした職業、ってのは大事な気がするし。再婚するとき大事よネ。さすがだわ。
3年生の夏休み直前になって…やはりお互いに縁談が来た。まあ、当然だわ。
放課後、二人で教室に残って、今後の対策を話し合う。
「私…お見合い話が来たわ。」
「そうか。実は俺も。」
「そろそろ実行する?」
「そうだな。話が進む前に、手を打とう。お前は、その…本当にいいのか?」
「もちろん。知らない人と結婚する度胸はないの。あなたこそ、大丈夫?同じ伯爵位だけど、うちは格下よ?」
「ああ。」




