第5話 バザー。
次の休日は母と領内の教会のバザーに出かけた。
私からは暇を見てこつこつ作りだめした刺しゅう入りのハンカチや、もう読まない本など。母は数日前から焼き始めたクッキー。妹からも余り切れで作ったぬいぐるみを預かった。
始まってみると忙しかった。
持ってきたハンカチは木綿から売れた。絹のハンカチは価格設定が少しお高めだったから。それでも昼までには完売した。母の手作りクッキーも。
一番評判が良かったのは、意外なことに妹のぬいぐるみ。子供のお小遣いで買えるくらいの値段が受けた。意外とやるわね?アンジェリク。ぬいぐるみと言っても、いろんな布地のつぎはぎで、目はボタン。ウサギだったり、クマだったり…。
「カワイイ!これを一つください。」
ウサギのぬいぐるみを渡して、はいよ~と言いながらお釣りを握らせたら、アニエス?あら、シリルも?
「あら、まさか二人で来てくれたの?」
「ううん。みんないるわよ?」
アニエスに言われて見てみるとその後ろに、アンジェリクと、またその後ろにベル?
ちょうどひと段落したので、あなたも行っていらっしゃい、と母に言われて、いつものメンバーに合流する。
「ベルお兄様にね、いつも一人でお出かけするからずるいって言ったら、連れてきてくださったの!」
アニエスがぬいぐるみを抱えて、片手には棒の付いた飴を握りしめながら嬉しそうにそう言った。
「私は来る予定じゃなかったんだけどね?まあ、シリルがどうしても一緒に行こうって言うから。」
と、今日大事な予定があって…と、バザーに来れなかったアンジェリクが少しむくれてそう言った。隣でシリルが笑って見ている。
5人であちこちのお店を眺めた。
お菓子を買ったり、屋敷の皆のお土産に飴をたくさん買ったり…。
シリルと妹は、手作りのお揃いのブレスレットを買っている。あらあら…。
「なんだ?お前も欲しいのか?」
ほんわかしている二人を眺めていたら、ベルがそう声をかけてきた。
「いやあ…あんたこそ、女の子にお土産で買っていったら?お揃いで。喜ぶんじゃない?」
「…あのガラス細工に喜ぶのはお前ら姉妹ぐらいだ。付き合ってもいないってのに、私の誕生石はルビーなの、とか言ってくるようなのにあんなの贈ったら…顔が引きつるだろうな。」
あら、まあ…。それなりに苦労してんのね?
そうよね、ベルの向こうに見えるのは、歴史あるラウリー伯爵家の財産と伯爵夫人という名の座。そりゃあガラス細工以上のものを期待するわよね。
小さいアニエスに手を取られて、二人でその手作りのアクセサリー屋さんを覗く。
いろいろ悩んで、アニエスは髪ピンを一つ選んだ。赤いお花が付いている。
「アニエスは、赤が似合うもんね?」
お会計をして、アニエスのつやつやの黒髪に赤いお花のピンをさしてあげた。かわいいなあ。
青も黄色も…白いお花もあるんだね…。
みんなでお茶を飲んで、ベルがアンジェリクを屋敷まで送ってくれると言うので、ラウリー家の馬車を見送る。私はこの後、母と一緒に後片付けと集まった寄付金の集計作業もあるし。
教会の門の前で、去っていく馬車に手を振る。
アニエスちゃんも今日は上機嫌でよかった。
あの子は小さい時から、ベルにべったりだったから。うふふっ。




