第4話 いい人。
「ねえ、マルゴ、いい人、って何かしらね?」
お昼休みにサンドウィッチを食べながら、マルゴに聞いてみる。
「え?ついに?どういう心境の変化よ?リディア?」
お茶を飲みかけたマルゴがびっくりして咳き込んでいる。
「昨日、親に、誰かいい人いないのかって聞かれたんだけど…。」
「ああ、なるほど。」
ぼんやりと学院の中庭を眺めると、いつもの場所でベルが女の子たちとお昼を食べているのが見える。
…昨日、デートしてたのはどの子かなあ…。
まあ、どうでもいいけど。
「あなたみたいにしっかりした子は、年上の方がいいでしょう?」
「そう?」
しっかりした子?私は傍から見たらそんな風に見えるんだ。
「同級生でも次男や三男はいるけど、あなたには物足りなくない?あ、いっそ年下もありか?あの、ベルトラン君の弟君とか?中等部で一番人気らしいよネ?黒髪の可愛い子。」
「いや…それは無理。」
妹に憎まれてまで、婿にしたくはないな。
「で、で?リディアはどんな感じが理想なわけよ?」
「そうねえ…チャラくなくて、私だけを愛してくれて、金髪じゃなくて、冒険小説なんか読まない人、かなあ…」
「…ずいぶん、具体的ね?」
「こんなからりと晴れた6月に、結婚したいなあ…。」
「…あんた…本当に大丈夫?」
「……」
頬杖をついて外を眺める。いいお天気だ。
来るもの拒まず、去る者追わず、か…
追ってほしいこともあるかもしれないのにね。
「そうね…マルゴ?いい人、って何かしら?よくわからないわ。」
「そっからなわけね?」
「自分にぴったり、ふさわしい、ってことかしら?自分にとって都合がいい、ってこと?自分に何らかの利益がある、ってこと?…だいたい…そんなこと、自分勝手に判断していいことの様にも思えないけど?」
「まあ、私たちは貴族なわけだし、恋愛第一主義ってわけにはいかないかもね?家の付き合いやら、格式やら、それこそ利害関係もあるしね。」
「……」
「特に、私や貴女みたいに、跡取り娘となると、難しいわよね?」
マルゴは中等部からの友人だけど、婚約が決まってから、綺麗になった。ストレートの明るい金髪に、優しいブルーの瞳。みんな恋をすると綺麗になるのかしらね?
「……マルゴはいいなあ…。」
「は?」
「だって、今の婚約者の人、この人だ!って思ったわけでしょう?しかも、お互いに。」
「ええ…まあ…そうね。」
マルゴが少し照れながら…それでも肯定できるのが羨ましいわ。
私の結婚かあ…自分のことじゃないみたい。
小説みたいに…マルゴみたいに…会ったとたんにわかるのかしら?この人だ!って?
そしたら世の中に、失恋や片思いもなさそうよね?
私みたいにめんどくさい女には、それこそ親が選んだ人を、この人、って言ってもらった方がいいのかもな。そんな風にも思う。
それでも…自分のことじゃないみたいに思うのかしら。
ああ、空がきれいだなあ…。
結婚して…二人で生活が始まったら…それなりに過ごせるものかしら?
急に夫婦というものになって…。
それとも…私は結婚願望自体が無いのかもなあ。
はあ…。と、リディアは一つ大きなため息をついた。




