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第14話 プロポーズ(最終話)

「大丈夫よ、ベル。そんなに気を使わないで。」


今の今、跪いてプロポーズした俺に、リディは困ったような笑顔を向ける。


「大丈夫よ。ちゃんと契約通り、結婚するわ。あなたが昔から好きな人と結婚できるようになったら、最初の約束通りすぐに離婚にも応じるから。私のことは心配しないで。マルゴの家で侍女をやればいいし。」


「リディ?僕は小さいころから、君が好きだ。」




秋が深まった家の中庭。

小さい頃よく並んで話したガゼボにリディを散歩に誘った。



僕は…小さいころからリディが好きだった。ずっと一緒なのかと思っていた。


中等部に入ってしばらくして、親戚が集まった内内のパーティーで、母だと思っていた人が、実は後妻で、僕とは血がつながっていないことを知った。


「ベルトラン、頑張りなさい、異母弟に歴史あるラウリー伯爵家を取られないようにね。」

いかにも、僕のためを思っているような口調で、叔母様が言った。


青天の霹靂、ってこういうことを言うんだろうな。


僕は言われたことをよく理解しようとして…どこか他人事のような、不思議な感覚だった。

「婚約者もラウリー伯爵家にふさわしい女性を選ばなくちゃね。アメデ伯爵家の娘と仲がいいようだけど、まあ、あちらも跡取りだから結婚話は無いから安心ね。うちはね、公爵家あたりからでも嫁が望める家柄ですからね。」


そうなんだ。知らなかった。

僕には知らなかったことが沢山あった。僕はまだ、子供だったと思い知った。


僕はそれからというもの…母を避け…話しかけてくれるリディを避けて、無視するようになった。正直なところ、どうしたらいいのかわからなかった。


リディはほんの少し首をかしげて泣きそうな顔で笑って…僕に話しかけてこなくなった。


月に一回の母のお茶会にも、いつからかあいつは来なくなった。


誘われるままに、賑やかな女の子たちとご飯を食べたり、遊びに行ったりした。


僕の誕生日には、リディの焼いたオレンジピール入りのマドレーヌがこっそりと届いていたのを知っていたけど。



「私と結婚しない?」

リディの緑色のきれいな瞳が、まっすぐに僕を見ている。

すごくいいことを思いついた!って感じのキラキラした瞳。



どんなに無視しても、視界の端にいつもリディを見ていた。

リディに勉強を教えてもらいに来る級友の男の子たちに、どんなに腹が立ったか。あいつは全然気が付いていないみたいだったけど、婿入りに立候補しようとして釣り書きを送った男子生徒が沢山いた。



「私と結婚しない?」

チョコレートブラウンの髪は、いつもとても美味しそうに見えた。あの髪にキスしたら甘いに違いないと。

まさかリディから、そう言ってもらえるとは思ってもいなくて…僕は…泣くほど嬉しかったんだよ?



並んで座りなおして、手を絡める。

髪にキスをして、くすぐったそうにするリディの瞼にもキスを落とす。鼻先に、頬に…ふっくらとした唇に…。


「ベルトラン!あなたね!小さいころからリディアが好きだったのはわかるけど、もう少しなんだから、我慢なさい!!」


バラの剪定作業をしていたらしい母が、茂みの中からハサミを鳴らしながら大声で叫ぶ。エプロンにスカーフ姿だ。

思わず二人で吹き出して笑ってしまった。


母のことは大好きだ。

リディのことももちろん大好きだ。


僕はきっと一生、この二人の女性に頭が上がらないだろうと思う。






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― 新着の感想 ―
照れ隠しでも何でも女の子をブス呼ばわりなんて誰が許してもわたくしが許さなくってよ。 頭上がらなくて当然ですわ、一生かけて幸せになさいな。
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