第13話 マルゴ。
「あら、重い男さん、リディアは図書委員会よ。」
「…知ってるし。」
リディアの婚約者になったベル君は、すっかりチャラ男を卒業したようだ。
放課後、教室で本を読んでいる。リディアを待っているんだろう。
もう、下級生の誘いは皆断っているようだし、呼び出されてふらふら付いて行くこともなくなった。正式にリディアと婚約したから当たり前と言えば当たり前だけど…。少し前までは想像もできなかったわね。
覗き込んでベル君の読んでいる本を見てみると、冒険小説?
「チャラくなくて、金髪で、私だけを愛してくれる、冒険小説を読む男、ねえ…」
前からリディアが結婚したかったのって、こいつだったんだわねぇ…。思わずにやけてしまうわ。
「は?」
「ああ。ベル君、いいこと教えてあげる。リディアはね、お天気のいい6月に結婚したいってよ。うふふっ。」
*****
「リディア?せっかくあなたのいい人も見つかって、婚約も調って…しかも、跡取り同士の大恋愛、っていうのに、なんだかいまひとつ浮かない顔ね?どうした?」
「マルゴ…」
「え?まさか、あいつまたふらふらと女の子に付いて行った?」
「ううん。そんなことないよ。」
「じゃあ、何よ?」
どうも…先日の図書委員会の後に、エマという下級生に呼び止められたらしい。
私も覚えているわ。ベル君の取り巻きの一人で、いつもキャラメル色のツインテールを揺らして教室に訪ねて来ていた女の子ね?
「…私は興味も関係もありません、って顔してて、ちゃっかり横からベルを取って、婚約したのが許せないらしいのよ。」
「ああ、まあ、外から見たらそう見えるのかもだわね。」
「エマちゃんが言うには…ベルには昔から好きだった人がいるらしいの。でも、どうしても家の事情で結婚できない人なんだって。そう言われて交際の申し出を断られたって。で、エマちゃんは諦めたらしいのよ。」
「へえ。」
「この婚約は、私から申し込んだの。まあ、いろいろとあって。でもね、ベルに本当に好きな人がいるのなら…やめた方がいいのかもね。あなたの屋敷で侍女で雇ってもらおうかしら、ね?マルゴ?それとも、気が付かないふりして続けていくべきかしら?私から申し込んだんだし、ね…。」
「……」
へええ…。
ベル君て…バカなの?
*****
「ちょっと荷物運び手伝って、いい?」
ベル君を社会科資料室に呼び出した。そうでもしないと、基本、あの二人は一緒にいるからやむを得ない。
「あのさあ、リディアがあんたと婚約破棄したいって。」
「え?」
どさどさっと、せっつかく積んだ資料がベル君の手から落ちる。
あ、動揺してる、動揺してる…うふふっ。
「エマちゃん?に、あなたには家の事情で結婚できないけど、ずっと好きな人がいるって聞かされたらしくてね。」
「……」
「考えちゃったみたいよ、リディア。この婚約も自分から言いだしたからって、責任を感じているみたいよ。責任感だけの結婚もねえ…きついわよね?」
「……」
「あの子、うちで侍女やるって言いだしてるのよ?どうするのよ?」
「……」
「ねえ、あんたから、ちゃんとプロポーズしてあげたら?どうせ言わなくても分かってくれるとか思ってるんでしょう?」
「……」




