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第12話 完璧な婚約者。

私の偽装婚約者になったベルは、その役を完璧にやってのけた。

そこまではやらなくてもいいんじゃないの?ってくらい。


教室で私に話しかけてくる男子生徒にはベルが話し相手になってくれていた。

「ちょっと教えて、リディアちゃん、今日の数学のこの方程式なんだけどね?」

「は?俺に聞けよ。いいか、この式の展開はな…」

ベルは随分と他の人に親切になった。今までなら、何の興味もなくスルーしてただろうに。いいことだと思う。男同士の付き合いも大事だわ。



秋の舞踏会では完璧なエスコート。

ベル以外の人とは踊っていない。おじさまと踊ろうとしたら、ベルがにっこり笑って私の手を取る。上品なチョコレートブラウンの上着に、緑色のタイ。どこの貴公子かと思うほどの完成度だわ。


ベルの父に呼ばれて、王城の方を紹介されるときも、さりげなく肩を抱いて、どこでも一緒だった。

「おや、ではこの可愛らしいお嬢さんが、あなたの婚約者ですか?有名ですよ、跡取り同士の大恋愛、ってね。」

「ありがとうございます。彼女があきらめないでくれたおかげで、やっと婚約できました。」

「ほおおっ。これはこれは。まさに大恋愛ですな。」


ベルが高等部で素行不良だったのも、私がなかなか婚約者を決めなかったのも、なんだか自動的に、そこにつながっていくらしい。なるほど…。


すらすらと嘘ばかり言っているベルの顔を見上げると、思ったより近くにあって動揺する。顔が熱を持つ。真顔で嘘を言うベルは、きりっとしていい男だ。と、思う。


「おやおや、お邪魔しましたね?それでは、楽しんでいってください。」

「ありがとうございます。」


二人で並んでお辞儀をする。



マルゴとその婚約者と3人で話しているときも、ベルはずいぶん遠くから走って駆け付けた。

「ひとりでふらふらしちゃダメでしょう?リディ。」

「あら、だってベルがおじさまに呼ばれたから。それにマルゴもいるし。」

「今日のリディは特別可愛いんだから、みんな見てるでしょう?隙あればリディを踊りに誘おう、って思ってるんだから。婚約指輪は?ちゃんと見えるようにしないとダメだよ。」

「うん。」


ラウリー伯爵家の侍女の皆様の手によって、私はピカピカに磨かれた。本を読まない限り、眼鏡も外せるので、眼鏡もしていない。ドレスはベルがプレゼントしてくれた綺麗なブルー。前髪も作って、こげ茶の髪は緩やかにウエーブがかけられて、流れている。ベルが選んでくれた白いお花の髪飾りが耳の上に飾られている。ロンググローブの上にベルの瞳の色のサファイアの婚約指輪。


「あんたって…実は随分と、重い男だったんだね?」

「は?」


マルゴ?


マルゴと婚約者は楽しそうに笑っている。


「へえ…まあ、それでガリ勉メガネブス発言なわけねぇ?牽制するにもほどがあるわね。」

「……」

「なんのこと?マルゴ?」

「何でもないの、リディア。いい?ベル君、リディアはしっかり者だけど、そっち方面は壊滅的だから…苦労するわよ?」

「チッ」

「そっち方面て、なに?」

「なんでもなーい。ベル君に教えてもらいなさい。そっち方面は百戦錬磨でしょうからね。」

「余計なお世話だ。」


「ねえねえ、なに?そっちって、どっちよ?」


ああ、もういい。と言いながらベルが私の手を引いて、挨拶もそこそこにマルゴたちと離れて、バルコニーに出る。


「で?で?何の話?」

「あーもう。」

「ん?」


「今日のリディは、特別可愛い、って話だよ!」

ベルがつかんだままの私の指先に口づけを落とす。

「か…完璧ね。ベル。そうよね、人がどこで見ているかわからないものね。ドキドキしちゃうわ。」


「……」

ぽかんとした顔で、ベルが私を見上げる。


「ん?」









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