第11話 偽装婚約者。
あれよあれよという間に、書類が提出され、私とベルは正式な婚約者になった。偽装だけど。
アンジェリクがうちの跡取りになり、シリルが婚約者になった。
ぎこちなかったベルとおばさまの関係も、時間がたつにつれて元通りに、いや、多分、元より物が言いやすくなった感じ?遠慮が無くなった、とでもいうのかしら?
「ベル、指輪は渡したの?は?まだなの?」
「ベル、秋の舞踏会用にリディアのドレスは頼んであるの?時間が無いわよ?あんた、女遊びしてた割には気が利かないのね?」
…おばさま?
私は行儀見習いも兼ねて、夏休み中にラウリー伯爵家に越してきた。
慌ただしい夏だった。
ベルのお隣の部屋に入ったが、おばさまが真顔で言う。
「ベル、わかっているとは思うけど、結婚前にリディアに手を出したら許さないわよ?」
「は?わかってるし、そんなこと。」
「へえ~」
おばさま…変なこと言われると、変に意識してしまうけど、私たちそう言うんじゃないんです。ごめんなさい。と、心の中で謝る。
「リディアちゃんも一通り勉強していたから問題ないとは思うけど…夏休み中に、うちの領地にも行って見ましょうね。」
みんなでラウリー伯爵家の領地を見にいって、アニエスと一日中遊んだ。皆と寝る、というので、ベルと川の字になって眠った。
馬に乗ったり、町を見にいったり…二人きり、ということがなかったのが良かったかな。いつもアニエスが一緒にいたから。
明日は帰るという、前の晩…
アニエスが眠ってしまったので、そっとベランダに出た。なんだか寝付けなかった。
昼間は森が見えるベランダからは今は満天の星が見える。
町場では見れない景色だ。
天の川ははっきりと天を分けていて、さそり座の赤い星が良く見える。
「眠れないのか?」
「あ、うん。見て、凄い星空ね、ベル。あのサソリの赤い星がきれいだわ。」
「ああ。周りに明かりが無いからな。」
いつの間にかベルもベランダに出てきて、持ってきてくれたショールが私の肩にかかる。並んで星空を見上げる。
楽しい、と思うと少し切なくなる。これは偽りだしね。
「ねえ、あなたがラウリー伯爵家を継ぐのだったら、お相手は選びたい放題に戻ったわけじゃない?早いうち…」
「なに?」
「早いうち…結婚とかする前に、婚約破棄してくれても構わないわよ?」
「ん?なんで?」
「なんでって…」
「だって僕たちは結婚する約束をしたでしょう?きっとうまくいくよ。」
「……」
「さあ、体が冷えるよ。部屋に帰ろう。」
そっと肩を抱かれる。いつものことだけど。
そうか…ここで騒ぎ立てたら、偽装だということがばれるからかしら?




