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我が子が処刑されるのになぜ他人の子供を幸せにしなければならないの?我が家を狙う王家のハニトラ要員が娘を蔑ろにしているとのこと〜水がいらないのなら止めますね〜

作者: リーシャ

 インニアは生まれた時から転生者だった。色々なものを生み出して、自分の周りを便利にすることを最初は目標としていた。ずっと携わっていきたいとやっていく。

 夫と結婚してからも、なにかを開発したり、アイデアを出したりすることをやめなかった。それが自身のアイデンティティ。


 出産したのも自分的には驚いた。生まれた子供は目に入れても痛くないほど可愛かった。平民なので子と親の距離は近く、いつでも顔を見られる。


 アイデアの天才と謳われているインニアの子供を欲しがり婚約をと望む者達などものともせずに振り払い、恋愛結婚をさせたいと親バカまでやっていた。

 子供のためのアイデアが湯水のように湧く。


 子は可愛くて最早無敵状態。別に黒歴史じゃないです。が、王家の手回しで王族の血を引く子供と偶然を装わされて引き合わされた娘は、最悪なことに王族の子供に惚れてしまった。


 あまり関わらないようにと言い聞かせても小さな子供であるから、よく分かってない。困ったわと悩んでいるうちに思春期になった我が子。


 かわいいわ。いつ見てもやはり自分の子が一番可愛い。

 その子が深刻な顔をしてこちらへくるのが見えて、どうしたのと聞く。


「母さん……彼が、他の子を好きみたい」


 なんと!王族に連なる男の子は自分の使命を忘れて、恋に落ちているらしい。


 ああいう類のナルシストは我が子が好きじゃないので、本物の恋をしただけなので何も悪くないという、タチの悪い思考に走っていくに違いない。

 妄想や空想、なんとでも言え!


 娘が恋に落ちたやら、いちゃついているやらと客観的に見られる、冷静な愛しい子であることは自分が一番分かってるんだ。


 王家や王族など、そこらへんの野犬の餌にもならない。転生者なので、思考なぞ現代。

 郷に入って郷に従えと、これが小説ならば、読者に言われるかもしれない考えであろうとも。我が子を冷遇しようとする奴らはその現代のものやアイデアを消費しているので、郷に入るべきはあっちである。


 そんなもの、持ちつ持たれつ、バランスを取るべき。こちらにだけ、この世界の世界観を押し付けるなど一方的で、片腹痛い。

 現代アイディアを使い、王族の子の周り、盗聴、盗撮、なんでもござれのことをしまくる。今でいう探偵だ。


 探偵の7つ道具も既に製作済み。そうやって集めていくと、やはり男の子は他の女の子をそばに置き娘を蔑ろにしていた。

 乙女ゲーム風にいうのならば、彼は攻略対象その八くらい後回しにされるくらいの立ち位置。

 そんな相手を攻略しようとしている子は、どうやらまんざらでもない様子。あの子、平民の癖に親が少し凄いからって調子に乗ってるわね?


 水なんて別に多少おいしくなくても死なないよね?

 ほ────ん??

 そこまで言うのならば、その生活をやめてもらいましょうか。


 王族がその生活に耐えられると本気で思ってるのかねぇ。試しに王族が使う専用のろ過装置や、便利な生活。豊かにするものの一切を止めて見せた。

 販売、調節、交換。勿論、大切な人たちが危害を加えられないように、高みの見物席を用意して。


 経由して送られる映像を介して、王家にお宅の子供さぁ、恋人とこんなこと言ってましたよと映像付きで教えて、生活水準を爆上げしていたものを止めた理由もきっちり添付。内容には。


「あの子を幽閉して一生働かせれば、王家は永遠に、あの平民の顔色を窺う生活を送らずに栄光を持ち続けられる」


 や。


「母親には子を殺す。子には親を処刑してやると言っておけば言いなりだ」


 と思春期も裸足で逃げ出す言葉を吐いていた。それも添付して送っておいた。


 その子の親も似たようなことを言ってましたよ、と優しく教えてあげるインニアは平民の鑑だろう。手紙にはちゃんと王家が大好きな遠い遠い言い回しを使ってこねくり回し、わかりにくい文章を作成。


【自分と子供を処刑しようとする相手を、幸せにし続けられると思ってますか】


【水が少しくらい綺麗でなくてもいいらしいので、止めますね】


【調子に乗ってすみませんねえ】


【調子に乗る平民のものなんていらないですよね?】


【偉大なる王家の前に、平民の作ったものを目に晒すなんてとてもとても】


【殺されるみたいなので、殺されないところに行きますね】


 というわけで、こちらを支援してくれていた人たちに同じ映像や盗聴したデータを同じように送り「殺される予定らしいのでここにはもういられません」と涙の痕をつけていったので、既に全員知っているだろう。


 その結果二つ隣の隣国、つまり夫の実家のある国に移動した。自身の親も平民なので身軽。というわけで全員移動済み。


 娘も移動できて安心していた。幼い頃に恋した気持ちは、とっくになくなっていたらしい。


 母親にダメと言われても、彼が良いと言ったことを嫌でも覚えていたので、今更どうにか穏便に離れたいと言いにくかったらしい。が、男の子は別の女の子に行ったことで、もしかして言ってもいいんじゃないか、という気持ちで母親に相談しにきたと。


 別に婚約していたわけじゃなくて、王族が寄越したハニートラップなので、これといって共に居続ける必要はないし。

 夫の祖国ではアイデアの祖、アイデアの母と教科書に記載されていると知った時は赤面して、穴に隠れたくなった。


 そういう、教科書に載るのって死んだ後だからなんとも思わないのであって、死んでないし、バリバリ生きているインニアからしたら、街中を歩いていたら「あの人って例の」「母よ?」「母ね」と色んな人に言われてしまう。


 言われていたし、みんなから母や祖と言われていた。死んでないよ、生きてるよ。みんなの祖、みたいに聞こえる。


 恥ずかしくて外を歩けない。それでも、娘は冷遇されかけた、または青春を汚された汚名返上をするかの如く、己の母親を自慢していった。


 あちらの国ではインニアとアイデア商品やアイデアの行われた期間が早く長く、子供世代になった時にはあって当然、あって当たり前、の常識になっていた。


 なので、あのような娘を馬鹿にする子達が出始めてしまったのだ。

 現代でも、電気を使う日常生活が当たり前になった時代になると、ない世界の方を知らない人たちは、その不便さなど想像も出来ず、いざなくなるといった話になると鼻で笑う。


 なくなるわけないだろ?と。鼻で笑う人はいないのは分かっているけど、例え話、比喩である。つまりは、インニアの祖国はそのような倦怠期といった時期だったのだろう。


 この地方のように教科書にどーんと載るようなこともなかったし、子供世代は不便の内容を想像せずに娘と自分を平民という言葉を使って嘲ったのだろう。


 何を言っても今更、なにも変わらないでしょうと。ありがたさを知るのは親世代くらいだが、その親世代もインニアのしたことに慣れきって、久しい。


 不便な生活を、もうあまり思い出せないくらいの時間は経過している。子供達は親世代の苦労時代を知らぬまま生活し続けて、美味しい水だけしか飲んでいない。


 おいしくない水の基準がすごく高いと思う。少し苦味があるとか、少しカルキの味がするとか。そんなことでは済まないんだよ?


 ろ過装置がない水はドブ。ドブへようこそ、祖国のみんな。

 平民達の生活についてと気になる人がいるかもしれないけど……思い出して欲しい。


 インニアとインニアの、可愛い子供や家族が何も悪くないのに、処刑されるところだったことを!

 処刑なんて、されることなんてないと思われるかもしれないけど、そんな保証はどこにもない。


 少なくとも、言葉だけで十分命を握られて脅される予定だったのは、確実に映像で証明されている。殺されるかもしれない、はかもしれないが。


 殺す、と話す映像がある限り【かもしれない】ではなく【話している】【言った】ことはあったことなのだ。そこに、違うかもしれない事実はない。


 起こる出来事、という童話レベルなんてものではない。起こしてやる……と本人達が言ってしまっている。


 さらにいうと、言ったのはなんの権利も権力もない平民じゃない。言ったのは、王家に連なる王族。

 権力も発言権も、兵士を動かす権利も人を裁く権利、人を害しても裁かれぬ可能性が高い無罪放免。


 対してこちらは平民。どれほど頑張って生活を良くした、なんとか賞をもらえる凡人がせいぜい。

 兵士も動かせず、王族を裁ける権利もない。どちらに分が悪いか……分かるね?


 それなのに、のこのこと祖国に留まるわけがない。それに一番最下位のレベルの物だけは濾過装置の販売を続けている。


 あくまで今は。今の在庫がなくなった後は祖国の様子を見て考えれば良い。取り敢えず命の危機を感じて、逃げたので気にする必要も意味も、ない。


 というか、気にすると殺されそうになったことも思い出して胃がムカムカする。インニアだけではなく、家族も同じ目に遭うところだったのだ。許せるわけがない。


 両親も孫を殺されそうになった事実を知り激怒しているので、祖国の知り合いに絆される心配もない。そもそも、我が家がどこにいるのかも、みんな知らないのでね。




 娘は、夫の祖国で伸び伸び暮らして笑顔が増えた。好きな子はまだ居ないらしいが、仲良くなった子はたくさんいるらしい。

 それに、この国の人達はインニアのアイデアをよく知っている分、インニア宛にこういうアイデアがあるんですけど!という手紙や意見を言いにくる。


 学校の子達も。そのアイデアは良いね、となるとインニアのツテを使ってその子や、誰かの主体の契約書を作る。

 その意欲に、なにかをやってみたいという、創作の祖という肩書きを使うことにした。


 インニア賞、というものを企画してみたら、国中からアイデアがわんさか出てきた。現代でいう、参加型のエントリー大会。

 利益の独占にならないように、色々尽力した結果、のちに夫の祖国はアイデア大国と呼ばれることになる。


 インニアもその考えに動かされて新たなものを生み出したりして、良いことの連鎖。自身の祖国を見てみると、やはり水準をあげた人達はヒーヒー言っていた。

 水が少しくらい綺麗じゃなくても飲めるのだから偉くないわと言っていた女の子の家には絶対に商品を渡さないブラックリストに載せていた。


 なので、その子の連なる家の人間達にはこれでもかと責められていた。そこにも、あの映像を送ったのでなにが起こったのか知っているのだ。


『水が少しくらいろ過されてなくても飲める!?じゃあ飲め!』


 と、無理矢理飲まされて、ドブの味というかドブそのものを飲まされていた。もちろん口元は汚れていてその子は、咽び泣いていた。


『ぐえ!まじゅいいい!』


『お前は飲めると言ったのだから死ぬまで飲め』


 親族やすべての人たちに言われた。で、娘用のハニートラップの王族っ子は、もっと悲惨な目に遭っていた。



 *



 水だけではなく、生活用品が軒並み使えなくなったり、もう交換出来なくなったり。混乱で城がてんてこ舞い。


『貴様はぁ!!なにをやってるううう!!』


 と、実の親や王、それに連なるものたちに言葉でも生活でも問い詰められていた。そっちも泣いたが、許されることなぞなく。

 平民以下の生活をさせられた。水も泥。生活は親世代よりも酷い。


 髪はパサパサ。食べ物もパサパサ。水も綺麗でなく、それでも飲むしかない。

 勿論、彼の親や親族も同じ生活だ。すべての原因だから。


 王家も無傷ではなく、どれだけ相手を責めても生活が元に戻るわけもない。既にアイデアの天才は外に出て、戻ってくるというポジティブな思考は流石に持てず。


 処刑だの、脅すだの、幽閉、洗脳。そんなことをすると言った王家の血筋がうじゃうじゃいる国に舞い戻るわけがない。


 王でもそう思ったのか、ずっと肩を落として、王妃にもボスボスと扇子で叩かれ続けた。

 質の良い化粧品、長く多い髪の毛を乾かす商品、色の良い口紅。肌に良いヒアルロン酸の化粧水。頬が落ちるお菓子。耳を癒すオルゴール。赤子の喜ぶ玩具。


 うっとりするようなデザインの宝石。今後、その新作を手に入れられないことが、決定付けられている。


 王が余計なことをした。平民の娘に王家の男を近付けてしまったのは欲をかきすぎた。

 婚約してなくても、王家も公認で仲良くすることを許しており、なんとなくその後結ばれることを期待。


 そんな計画を見透かしていた平民の母親の侮蔑に満ちた手紙を読んだ時、あまりの落ち度に手から肌触りのよい良質な紙が絨毯に滑り落ちる。この紙もいずれは触れなくなる。


 そして、かの一家が夫の方の実家のある国へ、逃げるように去ったと知ったときにはすべて手遅れ。もぬけの殻。


 殺されるとなれば誰だろうと逃げる。誰でもない王家の者が言ったのだから、嘘とは思わなかったはず。

 そんな馬鹿なと笑い飛ばすことができないほど、地位が高すぎた。それに、内容がとても悪質でどうしてそんな思考になる!?ということを人目も憚らず言うことが信じられない。


 幽閉なんてせずとも、彼女はこの国の生活を良くするために、働いてくれていたというのに。

 いくらここが生まれた国であってももっと他の国で商売なんていくらでもできた。他国に行くことなんて考えてもなかっただろう。


 何度かアイデアの内容を聞くために呼んで会ったことはあるが、普通の主婦であった。どこにでもいる、娘や夫を愛する。

 気落ちした王に差し出される水は透明に見えていたが、飲んでみると。


「美味しくない」


 これでも昔と比べれば美味しいはずなのだ。



 *



 インニア賞を見事勝ち抜いた人達と、アイデアの商品化について話し合う日々。娘も問題なく生活を送っている。


「なるほど!この技術を使えば可能なんですね」


 こんなのがどうやって商品にという不安を抱く彼らの悩みを解消。話し合いが終わり家に帰ると娘が帰っていた。


「はぁ」


 今度はなにを悩んでいるのだろうか。実は魔王の息子が通っていた、とかいう展開ではなさそうだけど。


「ボールペンで間違えた部分は、塗りつぶすしか消す方法がない。見た目がよくなくて。可愛いままのノートを維持出来なくてどうしたらいいのかなぁ」


「ああ、それなら」


 テープで覆い隠すなり、ポールペンインクが消えるタイプを開発するなり、他にもある。

 娘は、パァッと顔を輝かせて抱き付いてきた。娘もママ大好きっ子である。


「そうだ。ついでにノートを可愛くするためにデコりましょうか」


「デコる」


 母親の渾身のノート装飾に、娘は涙目になる程可愛さに喜ぶ。


「かわいいっ」


 そのデコったノートが、女の子達の間、または女性達にも大流行りすることとなった。



 *



 インニアは愛する夫の帰りを待ち、今日の嬉しい報告を伝える。近所の人たちが野良猫を保護して、その猫を飼いたいとお願いすることにしていたのだ。


 アイデアを出して、働いて。そんな環境を最大限に支持して、なんでも受け止めてくれる彼が本当に好きだ。

 これが貴族や王族ならば、こうはいかなかっただろう。


 ああいう、凝り固まったタイプはなにか新しいことをしようとすると、足を引っ張っていく。

 もう二度と関わらないと思えば長年の肩こりのように邪魔だったなと不快な人たちを頭の中からおさらばした。


「猫を飼いたいの。いいかな?」


 妻の上目遣いテクニック。現代の技を披露すると、それをそのままストレートに受け取った夫は顔を赤くしてキュッと手を握り頷く。

 あまり進んで話さない人だけど、妻子を愛してくれていることは、言葉が少なくとも、伝わっている。


 小さな頃に近所の子供に「喋りすぎ!」と怒られて以来、あまり口を開けなくなってしまったらしい。大丈夫。


 その相手には、既にちょっとアレしてるから。本当に爪の先程度だから。

 彼があまり話せないと知り、手先が器用な彼様に手作りボードを手渡して、下に落ちていた、なぜか白くて落ちている石と黒板っぽいものを渡した。


 凄くびっしり描かれていて、本当は凄くおしゃべりな人なんだなと微笑ましくなり、ペンフレンドとして、恋人として、結婚して。


 その頃には、娘のために少し話してくれるようになった。おしゃべりな夫はどれほど書こうと、話そうと。誰からも、話すなと怒られないことを漸く少しだけ話しても、変な目で見られない。

 怒られず、注意されない環境にいつもホッとしていた。

 ぷち黒板は、お店経営の人たちに凄く売れた。


 そういえば、そんな使い方もあったなと盲点だったと頭を振る。インニアのイメージは言葉のやり取り、または勉強に使うことだ。それ以外の使い道はあまり知らなかった。

 夫と手を握り合い、猫のことを話すと彼も猫が好きだという。


 そろそろ、猫の玩具などの開発も始めよう。猫を貰ったら、暫くは猫と遊ぶけれど。それで、それでと語るうちに彼の瞳がとても近くて。


 思いきって口付けを突発的にしたら、まるで甘い果物みたいな顔色。男女逆転している。


「猫、何匹がいい?」


 指が最初は二本だったがそろりそろりと一本になったので、二匹貰い受けましょうと頷く。


「えー!私にも早く教えてよぉっ」


「え?」


 次の日。猫と家で過ごすことが、夢だったと娘が大はしゃぎしたので。追加で、一匹増えることとなって、三人は全力で猫を我が家に迎え入れることとなった。


 アイデア夫人とも揶揄されているインニアは、猫の道具、またはねこじゃらしを手に振り回す光景を生み出す。


「こうよ。こうっ。腕を振り回して」


 猫の遊び方を二人にレクチャーする妻。


「こう、だね!はぁあああ」


「ん」


 夫と娘も、ドッタンバッタンと部屋中走り回り、猫達を楽しませた。



 *



 インニアは今日、娘がおすすめしてくれたお店に向かっていた。そこは雑貨屋なので近くにあるのだと教えてくれ、絶対見に行ってくれと言われる。


 娘があんなに、おすすめするのならば何か目を引くものがあったのだろう。可愛い顔で嬉しそうに語るから行きたいと思わせてくれるのだろう。


(確かここだったわね)


 馬車を使い、少し歩いたところにある。馬車にあったサスペンションは座り心地がよかったので、気分がいい。

 あのサスペンションはインニア経由の発明品。


(アイデアを出してよかった。生活には必要不可欠な馬車で、痛いなんて最悪だし)


 足も軽やかになるというものだ。店へ辿り着いたインニアは外観からしてハイセンスだと頬を赤くした。


 なんというか、現代のおしゃれなお店に近い。デザイナーがかなり優秀なのだろうか。インニアの店のデザインを任せてみたくなる。

 店を持っているわけではないが、短期間のお店ならば何度かやったことがあった。


「とてもいいデザイン!」


 写真があればパシャリとやりたい。小型化がまだできてないので、持ち運べない。残念。なんとか小型化にこぎつきたい。


 周りは早く撮れるようになったことに喜んでいるけど、こちらとしてはまだまだ改良の余地があると知っているからこそ待ち遠しい。


 インニアがやりたいが、小型化などなにからどう進化すればなるのか見当もつかない。などと思いながらもお店の中に入って行くと、やはりセンスのよい雑貨が並んでいる。


 どこもかしこも考え抜かれたものだ。感動に目を開きあちこちに視線をやる。店員らしき女性がこちらへきて優しげな顔でいらっしゃいと、対応してくれる。


 こちらもどうもと答えると、なにかお探しですかと聞かれた。娘からおすすめされてここに来たの、と笑みを返す。


「じっくり見させてもらいますね」


 なにをというものでなく、取り敢えず見てみたいものばかり。嬉しそうにお礼を言ってくる彼女に、こちらまで嬉しくなる。

 ただ、見せてもらいたいだけなのだが。店員の彼女に、これはなにかしらと聞く。とても詳しい。


「これはですね、オルゴールに貝を付けました」


「なんてかわいいのっ。可愛さのほかに思い出品として完成されるわっ。こ、このアイデア、活かしてみませんか?」


 このアイデアは観光地などに適用しやすくなる。つまり、お土産だ。オルゴールを買ってもらうついでに、貝や思い出になりそうなものを客自身に付けてもらう。


 インニアはドキドキしながら、彼女に提案する。困惑している相手はこちらを見て首を傾げた。


「あのお、ですね……お客様?」


「すみません。私はこういうものです」


 懐にあるポケットからインニアは名刺を出して相手に渡す。彼女がそれを受け取り目を通すと目を溢れ落ちそうなほど大きく開けてこちらを何度も見る。

 何度も名刺とこちらを交互に見やり、笑みを保つ。みんな同じ反応をするのだ。


「い、インニア様!!?」


「インニア様……インニアでよろしいですよ。流石に様付けはどうかと思います」


「す、すみませんっ。でも、憧れの方がうちにいるなんて。夢……?」


「夢じゃないです。でも、ここに来て驚いたわ?あなたはとても感性がいいです。この建物を一目見て気に入ってしまいました」


 驚きに悲鳴をあげる店員。店員ではなく店長だった。


「あの、あのあのあのっ。さ、さっきのって本当に言ってましたか?夢?」


 だから夢ではないよと言う。笑うインニアは微笑ましさに、ついつい頬が緩む。


「あなたのアイデアがとてもいいので、ぜひプロデュースさせてほしいのです。構いませんか?」


「は、はい!こちらこそっ。お、おお、お願いします!インニア様!インニアさんっ!」


 手を差し出すと、熱く握手し返される。それに応えるように商談成立。自分のことのように嬉しいし、娘と歳が近そうな子なので、余計に応援したくなる。


 応援はやはりアイデアや発明に深く影響されると知っているので支援も惜しまない。そうして二人で盛り上がっているとお店のドアが乱暴に開けられる音が聞こえて、目を細めて後ろを向く。


「おい、相変わらずダサいもん売ってるなっ」


 どこかドラ息子感満載な、顔つき男子が現れる。舞台俳優みたいなこてこてな台詞。一体どこの悪役なんだろうと、目をうろんにする。おおがらな男という体格。


「ん?客か……やめておいた方がいいぞ?こいつはなぁ、憧れの人がいるとかいってそれらしいものを売ってるだけのコピー女なんだよ」


 憧れの女とは、多分インニアのことではなかろうか?ここのデザインを見ているとそんな感じがする。


「や、やめてください!」


「はぁ?ただの平民がおれに意見してるのか?」


 またか、と最初に思った感想その一。王族といい、この物言いといい。多分相手は貴族なのだろうか?


 前は王族を相手どったので、どうしてもグレードダウンなので小物感がする。いまいちやる気が出ないのは、仕方ない。

 それに、規模が小さくてどう対処すればよいのかちょっとわからない。でも、この子は困っているしこれから支援していこうという人なのだ。笑みを携えて相手の子を見る。


「ちょっとよろしいかしら?今私はこの子と話しているから、場を違うところへやってほしいのだけど?」


 遠回しに向こうへ行けと言う。多分効果はないなと思っている。相手の人はこちらを平民と侮っているし。


「はぁ?すまないがそちらこそ歳の割に合わない店に入るのが場違いじゃないか?」


「エルゾイさん!お客様になんてことを!す、すみません!い、いん」


 名前を呼ぼうとしたので、呼ばないように合図する。しーっとした仕草だ。インニアは変なことを言うなと、縦にも横にもなりそうな気持ちでのほほんとなる。


「あなた。ここを見てなぜ年齢を狭めたの?商売をなにもわかってないわねぇ?」


 煽ることも含めてわかっていても、ねっとりした声で彼を見る。エルゾイは顔を少し赤くして怒ったとわかる顔色を浮かべる。

 店の外には執事かなにかっぽい人がいて、保護者だろうかと予測をつける。それを計算に入れ、うっそりと笑う。


「なにをいきなり!おれを誰だか知っていてそんな物言いをするのか?平民の分際でっ」


「ぶ、ん、ざ、い……?」


 その平民のもので、日々の生活を送る相手に冷たい目を見せた。


「そ、その物言いこそ!失礼ですよ!」


 店長、ヤサヨという子が男の子に注意するが無駄骨である。


「ふふ?ふふふふっ……まあまあ。面白い」


 喧嘩を売る相手を間違え始めた男の子。ものを売る相手に対して、年齢を制限するのはナンセンス。


「な、なに笑ってんだよ。おれは子爵家次男だぞ!こんな店いつでも潰せるんだからな」


 またまた悪役のよくある台詞が。こういうのはどの世界でも、関係なくセリフが変わらないんだなぁ。これまた面白い。


 インニアは怒っているというより、やんちゃしているのねという気持ちだった。

 が、お店を潰す宣言をしてはこちらも黙ってられない。こんないい店を、潰させることなどさせない。


「無理よ」


 ヤサヨは青くなる顔を、隠せずいたので背中をさすって大丈夫よと笑いかける。


「あなたが潰す前に私が潰してみせるもの」


 低い声音で言い渡す。勿論、潰すなどしない。ただの脅しである。こちらの凄みを感じてか一歩引き下がる。


「な、なっ、な、な、なんなんだよっ」


 どもりながら答えた男の子はこちらを見て恐ろしいものを見る目をむけてくる。おっと、王族の時を彷彿とさせて怒りが思い出されてしまったようだ。


 抑えないと。相手はまだ子供なのだ。こちらは大人。よし、深呼吸深呼吸。

 平民を軽んじるセリフも相まって過剰反応してしまった自分に反省する。こんなことで生活用品などを堰き止めていては時間の無駄だ。


「私は暇じゃないの?お引き取りして?」


 お願いじゃなくて命令に近い本気の声を聞き届けて、小物の心が震えてる。


「ひっ、きょ、今日のところはみ、見逃してやるっ。ふんんん!」


 最後は鼻で笑い飛ばしたつもりだろうが、荒すぎてただの呼吸でいう吐く動作に見えた。ただの力んだ光景である。


「おととい、おいでなさって?」


 現代言語をぼそりと言う。追い払うと店長のヤサヨが息をつく。


「ごめんなさいね?喧嘩腰で。平民を馬鹿にしたみたいだからお灸を据えたかったのよ」


 謝ると首をぶんぶん振る。顔を赤くしてインニアへお礼を言う。庇ってくれてたと述べてくる彼女。


「ふふ。いいの、いいのよ!それよりも、あの子、えーっとエルゾ」


「え、エルゾイですっ。そのあの人私の幼馴染で……知り合いというか、ともだちだったというか」


 落ち込んでいくヤサヨ。その様子に、なにがあるらしいとピンとくる。そういう勘は健在なのだ。


 インニアのアイデア精神は観察に限る。さっきの男の子は幼馴染で、幼馴染なのに店を邪魔しているということになるのだが。ふうん、と顎に手をやった。


 疑問も浮かぶが、今は契約について話し合う。とにかく店には手を出させないわと相手に伝えて安心させる。

 安心させると共に、もう一度熱い握手を交わせば彼女も少しずつ調子を戻していく。

 全く、余計なことをしてくれたものであると先ほどのドラ息子風に憤りそうになる。


「よ、よろしくお願いします」


 おっと、我慢我慢。インニアは怒れる夫人ではない。どこにでもいる母親である。

 彼女と別れて家へ帰宅して、娘に話す。話すと興奮した様子で、きゃあきゃあと盛り上がる。


「なにそれ!酷い!でも、なにかありそうな予感っ」


 とのこと。なにかありそうな、のなにかの部分を解明したかったんだけどなぁ。二人で話してみて、どうしようかとなる。


「母さん、いっそのことさぁ。あの二人を今回のオルゴールを自分でデザインするプランモデルとしてやらせてみたら?」


「え?」


 娘はなにも聞いてなかったのだろうか? あの二人はどう見ても仲が悪い。共になんて火に油、水と油である。娘の考えがわからなすぎてどんどん怖くなっていく。今の子って、怖いもの知らずなのかしら?


 インニア、困惑。娘のアドバイスに従ってその二人を参加させる案を練るしかない。あの男の子をどう来させようかと悩む。


 いや、もしかしたらかなりの頻度で来るのかもしれない。少し調べてみよう。インニアはツテを使って調べる。


 調べてみると出てきたのは、二人は数年前までとても仲良かったという話。話がなにか食い違ってるようで確認をしたけど、なにがあって、なにが間違っているのか、不明。


 仲が良かったのに、仲違いしている。でも、どうみても片方はやり過ぎだ。生活をしていかなくてはならない平民に向けて店を潰すと脅すのは、やってはいけない。


 特に貴族が。インニアは貴族の名を知り、ふと記憶に引っかかったので我が家に来ていた手紙を確認。すると、インニア宛にその家の夫人からお茶のお誘いがあるのではないか。

 よく貴族のお誘いはあるが、前回の反省を生かして付かず離れずの関係を保っている。それでいい。


「まあまあ!ようこそ我が家へ!インニア夫人」


 とても嬉しそうに対応してくれるのは例の男の子の母親。子爵夫人。

 こちらは平民なのに腰が低いのは、大体の低位から中位の貴族の仕事関係で今や、繋がりは広い。


「初めてですが、お招きしていただいてよかった。少し気になっていることを確認するだけなので時間があまり取れなくて、すみません」


「いいえ、いいえ。かの夫人がうちにだなんて、我が家は他の家に自慢できますわ」


「そうですか。聞きたいことというのは。提案でもあるのですが」


 お宅の次男を、次の商品のモデルとして起用したいのだと頼む。それに飛び上がらんばかりに喜ぶ婦人の手応えに内心、勝利の女神が微笑む映像が流れる。


 そこからはもう、ロープを引っ付けたように次男が一本釣りできた。ここへやってきたときの彼の顔。娘とヤサヨに見せたかった。


 目をこれでもかと見開き、インニアが今や必要不可欠な生活用品などを発明して広げている平民だと、ここで知るのだ。


 そんな相手に暴言を吐いていたので、顔面蒼白だ。別にここではいじめるつもりはないので、今はしおしおと静かにしておく。


 あのお店のモデルをやるのよと母親に念押しされ、さらに顔が白く……ふっ。少し、胸がすく思いがするのは許してほしい。


「たくさん使ってやってくださいな。あなたも、ほら、お頼みして」


「ち、父上がなんというか」


「旦那様からは夫人の意に沿うようにと言われているのだから、許可などいりませんわよ?」


 夫人は息子のSOSに全く反応しなかった。いや?

 もしかしたらわかっているけど、知らないふりをしているかもしれない。なんなら、ヤサヨとエルゾイのことを把握しているのかも。


 そう思うと、どんどん彼女がたぬきに見えてきた。笑みを浮かべる二人の夫人。今にも倒れそうな子息。室内にはほほほほほほ、という二重奏の音が響き渡った。




「はい、こちら、エルゾイくん。ヤサヨさん拍手拍手。今日から同じチームなんだから」


 インニアは娘も加えて四人の空間で俯いている男の子を前に紹介していた。娘がいるのは、話したら来たいと言われて。


 野次馬根性が逞しいというべきか、そこは控えなさいと言うべきか。

 悩んで、インニアも続きを知りたいから展開させたので人のことを言えないわねと一人完結させた。


 ヤサヨは激しく戸惑っていた。一応手紙で教えておいたから彼がここへ交じることは知っていたのに、慣れないというか戸惑っている。が、そんなことはどうでもよくなるくらい忙しい。


「あ、あのお、エルゾイさん……は」


「エルゾイくんはお母さんからお借りしているから借りてきた猫のようにおとなしいと思うわよ。安心して」


 彼へ笑いかける。エルゾイ、びくりと肩を揺らす。子爵夫人、どれほど言い含めたのか……相当言い聞かせたらしい。

 四人は、いや、参加するのは娘を除いた三人は。テーブルに座ってオルゴールを前にする。


 オルゴールの音楽は子息に任せた。箱が開くといい音が流れてくる。ちりん、ちりんとリズムよく聞こえてくる音楽に一番反応したのはヤサヨ。


「あっ、この曲」


「……ふん」


 男の子がちょっと目を細めて横を向く。


「懐かしい」


 幼馴染なりの共通する思い出があって、その中にこの音楽があったようだ。聞き終えると、しんみりした空気が四人を包む。

 しかし、気を取り直してオルゴールにつけるものを選ぶ。貝殻から始まりリボン、ビーズ。小ぶりの小物。


 貴族だったら宝石持参でもいいかもしれないけど、防犯面とかを考えてだめかもしれない。今後の課題だ。


「始めてもらえるかしら」


 始まった細工の時間。インニアと娘もやる。二人だけだと、やりにくいだろうという配慮。


「母さん、引っ付けにくいのあるね」


「そうねえ。リボンは簡単だけど接着部分の少ないものは取れてしまうわ」


 二人で健闘していくと、ここで意外な才能を持つ男がテキパキとつけていく。


「まあ、凄いじゃない!エルゾイくん。あなた才能あるわよ?」


「そっ、いえ、そんなことアリマセン」


 なにか言いかけたけど母親の言いつけを守って、我慢していた。年頃の子に、小物関係で褒めるのはだめなのかもしれない。特に男の子に可愛いものを触らせるのは、相手に負担をかけているのかも。


「ほら、ヤサヨさんも上手いと思わない?」


「え、ええ。その才能を感じます」


「ぐ……ん」


 インニアとは違う反応で、耳を赤くする男の子の様子に娘と違いに目を合わせる。これは、となる。娘は得意げに胸を膨らませていた。ふふっと笑う。


「乾かすために時間がいるわね。数日もかからないから、出来たらまた呼ぶわ。でも、少しお茶にしましょう」


 初めての試みに二人は頷く。娘は慣れた手つきでお茶を入れる。


「ありがとうございます。手伝います」


「あははー、大丈夫大丈夫。三人で談話しててよ」


「で、でも」


「今日は私も母さん側だし。ほら、座ってて」


 娘はとてもよい笑顔で席に戻るよう催促。渋々戻るヤサヨは隣のエルゾイをちらりと見て、話しかけていく。


「オルゴール、あの音楽、昔二人が好きなものでしたね。覚えていてくださったのですね」


 穏やかに話しかける女性に、男性は怒鳴る気配もなく頷く。


「お前が、好きだったし、おれも好きだから」


「私も今も好きです」


 ニコッと笑う平民女性の彼女。それを恥ずかしそうに見る貴族男。


「はっ!?」


 その時、空からぴしゃんとアイデアのときような衝撃が頭を突き抜ける。


(ピンときた!恋?これって恋なの?邪魔な店員の店をぶんどる展開の悪徳男をボコボコにするっていう予定じゃ、なかった?あ、ああ、危なかったー!)


 また悪態をついて脅すようならば、子爵家から生活必需品が消え去るところだった。危なかった。いや、もう本当に。


 娘はサムズアップして、こちらに向かって片目を閉じる。本当は小分けにして手伝わせてということを考えていたが、これは少し計画を練り直した方がいいのかも。むむ、と眉尻を下げた。


 その後、幼馴染の二人は声をかけずともいつの間にか一緒にいた。


「あのオルゴール……」


「ああ。こちらでも……」


「売り上げ……」


 様子を見にいくとカウンター越しだがゆっくりと話をしていて、片方のつっかかるような一方的な物言いはなりをひそめていた。また復活したら、インニアの特製防犯グッズが火を吹くだけだ。

 あのオルゴールが出来上がったら二人は自然とそれを交換していた。


 こ、これだわ!

 カップルは互いのものを作って交換。プランに入れておきましょうと、娘と盛り上がった。

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― 新着の感想 ―
くどい 推敲すれば半分以下にできそう
異世界だけど 猫の惑星の住民だもん しかしこれだけの発明していて貴族に取り立てられないのは何故? 末席の男爵位にはなっていても不思議はないのに 資産も莫大だろうに
子爵令息、今後なにかあるたびに一生このネタでいじられるんだろうな、たぶん……(笑)
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