第一話
〜あの階段を登れば〜 第一話
「起立…礼!」
4限目終了のチャイムと共にクラスの連中は解き放たれたかのように教室から出ていった。
「なな、今日購買で買わね?」
「え〜やだよ俺金欠だし〜」
「美園ちゃんってさ〜そのネイルどうやってやってんの〜?」
俺の名前は階堂日向自分で言うのもなんだが俺はきっと今時の言葉で言う"陰キャ"の部類に入ると思う。
「はぁ……うるさ」
騒ぐクラスメイト達に向けて俺は吐き捨てるように呟いた。
でも何故彼らに対してどうしようもなく腹が立つのか学校の成績や運動能力だって彼らと大差はないはずなのに……俺は彼らが羨ましかった。
持ってきていた母の手作り弁当を食べ終え俺はいつもの場所に向かった。
(まぁでもいいさあいつらが持っているものを俺が持ってなくてもあいつらにないものを俺は持ってる……そう学校にある自分だけの空間!)
そんな考えを持って肩の荷を軽くして俺は気分的にはスキップでもするかのように学校の2階に駆け込んだ。
(そう!俺だけの場所……)
「図書室!…………あれ?」
その図書室にはいつも通り物静かそうな奴らが哲学本だとかラノベだとかを読み漁っている空間だと思っていた。
しかし俺の見た光景は天と地ほどの逆具合だった。
「お前そこで俺のこと助けろって〜」
「おい悠乃!カバー!」
「……え……は?……え?」
きっと今の自分の姿を国語辞典の言葉にできないの部分に載せて欲しいほど俺は言葉を失った。
俺の…俺だけの楽園だと思われていたところは完全に陽キャに埋め尽くされていた。
(え?ここ図書室だよな?)
何度も扉の前の室名札を確認したがそこにはしっかりと図書室と書かれていた。
(は、はぁ?)
俺は騒ぐ陽キャ達の前をスタスタと早歩きで通り過ぎて本のタイトルも見ずにとりあえず一番最初に手に触れた本を手に取り図書室を後にした。
「くそが…なんであいつらあそこにいるんだよあそこはお前らみたいな奴らがギャーギャー騒ぐ場所じゃないっつーの!」
地団駄でも踏むかのように強めに足を踏み締めて歩いた。
(はぁ……仕方ない屋上で読むか…)
屋上へと向かう3階の階段の前に立ち俺はその階段を3回に1回ぐらいは一段飛ばしして登っていった。
(ん……?)
踊り場を通り過ぎて先ほどとは逆向きになっている階段を登り折り返すところだったが俺の軽快だった足はほんの一瞬だけ止まった。
止まった理由はただ一つ登る階段の3段目に髪はボサボサアルマジロかのように最低限自分の体を小さく丸めてチョコンと座る男子生徒がいた。
長々と立ち止まる理由もなかったので俺はスルーすることにした。
数にして15段ほどの階段を1段2段3段と登っていったが先ほどまでの軽快さはどうも薄れていた。
屋上の扉のドアノブに手をかけ捻ろうとしたその時俺は少し気がついた。
(いや、待てよこれを開けてしまったらきっとさっきのような連中がうじゃうじゃといるのでは?)
外だから奴らの声が耳に入ることは少ないといえどやはり先ほどの光景を見た後だとどうも入る気にはならなかった。
(はぁ……仕方ない)
本日何度目かもわからないほどのため息をつき俺は階段を7段ほど降りてそこに座った。
ここに座る理由は俺にとって一番落ち着く場所だと思ったからであった。目の前の大きめの明かり窓から差し込む光が心地よく今の傷心仕切った心を持つ俺にとっては最適の場所と判断したためである。
(ま、住めば都ともいうしな)
俺はまだタイトルも表紙も見ていない本に目をやった。
(新人作家賞受賞者作品?なんだこれ?こんなどこの馬の骨かもわからん奴らが書いた小説の寄せ集めの本を手に取ってしまったのか俺は?)
今日はつくづくついていないと思いながらも読む本もそれしかないので本の表紙を開いた。
(新人作家賞最優秀作品?……だめだなこういうのを先に読んでしまっては後の話が全て以下になってしまうからな…狙うなら一番端に書かれてる優秀賞作品だな)
俺はそんな優秀賞作品を探して目次の端に目をやった。
(なになに?優秀賞「星の繋ぎ目」ふっいかにもって感じの名前だな、え〜っと作者は?"山代和也"(やましろかずや)か)
俺は微塵も期待せずにその作品が掲載されているページを開いた。
「星の繋ぎ目……はっ!」
(しまった!いつもの癖が出てしまった!)
自分でもタイトルを口に出してしまう癖をどうにかしたいとはずっと思っていた。
そ〜っと先ほどの3段目に座ってる男子に目をやった。
(よかった……聞こえてないか)
俺はほっと肩を撫で下ろしてその小説を読み始めた。
数ページ読み終えて俺はあることに気づいた。
(この小説…話の構成とか表現の仕方は上手いけどセリフが薄っぺらいな……まぁこんなもんか)
期待もしていなかったためあまり気にせず読んでいるとふと視線を感じて本の上から下の階段をのぞいた。
そこには俺の瞳をじっと見つめている輝いた瞳が俺の直線上に映った。
「なに?」
わざとらしく口を大きく動かしまるで挑発でもするかのように誰が見てもイラつく顔でその男子に言い放った。
「え?!……えっと……あの…その」
絵に描いたようにあたふたと慌てるそいつから目線を切り小説を読むことを再開した。
「あ、あの!そ、そそその小説どうでしたか?」
話しかけられるとは思ってなかったのでこちらも少し動揺した。
「なんで?」
(ふぅ、ちょっと焦ったけど決してコミュ障ってわけじゃないからきちんと喋れた)
「いや…その…えっと………な、なんでもないです」
聞き返されて怖気付いてしまったのかそいつは諦めてしまった。
(……ちょっと怖く言いすぎたかな?)
少し罪悪感が心に残るものの気にせず小説を読み進めた。
「…………話の展開とかさー情景とか心情の表現はいいんだけどさなんか物語の登場人物全員言ってることに気迫が無いというかなんか薄っぺらいんだよね」
いつのまにか出ていたその声はまごうことなく俺の声だった。
(バカか俺?なんで急に?)
唐突にしかも無意識に出てしまったため俺はひどく恥ずかしくなった。
恐る恐るあの男子の方を見た。
「そ、そうですか!……聞かせてくれてありがとうございます」
その男子は目を輝かせて俺にお礼を言い放った。
素朴な疑問だった。なんで彼は見ず知らずの俺にそんなこと聞いたのかなんで彼はあんなに目を輝かせていたのか。
昼休み終了のチャイムが学校中に響き渡った。
そのチャイムを聞いたと同時にその男子は立ち上がり帰っていった。
俺は少し考えた後階段お2段駆け下り残りの5段はジャンプして飛び降りた。
「なぁ!お前名前は?」
どうしても彼のことを聞きたかった。何故かは自分でもよくわからないだけど……だけどきっと多分俺は自分にないものを得れると思ったからなのかもしれない。
「え?……え〜っと僕の名前は山代三也です」
「山代三也か……」
俺はその聞いた名前を口に出して復唱してしまっていた。
次の話もお楽しみに!