ヒロシ・アベとの交流
3人はヒロシ・アベの行動パターンを調査する事にした。
ヒロシ・アベは普段はどうやらサラリーマンの様である。一般の社会人と同様にスーツ姿で日中は仕事をしている。彼自身は至って普通の人間である様に見受けられた。
勿論、それは表の顔であり、夜間に彼の真骨頂が見られる。生まれて物心ついた時から、木刀での素振り(一人稽古)を欠かした事はない。
理心流は、はるか200年程前に実在した、史上最強の剣客集団新選組の幹部である近藤勇や土方歳三や沖田総司ら多摩地方の使う農民剣術である。
ヒロシ・アベはとても優しい反面、少し優柔不断な所があった。だが、剣術の話になるとそれはまた別問題であると言える。ヒロシ・アベの剣術はかなり突出しており、突き技を昇華させた理心流は殺人剣術としては相当の破壊力があると言える。
殺傷の基本は突きである。日本刀は、世界最強の切れ味を誇るが、一度人間を切れば、人の脂を吸って切れ味は相当落ちる。だから、ゲームの様にズバズバと人を斬るのは不可能である。心の臓目掛けて刃を貫く事こそ、相手を苦しませずに、一思いに絶命出来る訳である。
ヒロシ・アベは元は陸軍士官学校を卒業しており、陸軍少佐で退官している。齢35歳での少佐ともあれば、スーパーエリートであり、ジャポネーゼ陸軍のネクストジェネレーションであり、ホープであった。そんな輝かしい歴史を全て追っ払ってサラリーマンをしているとは不可解である。
ロースト達には話していなかったが、ヒロシ・アベは自分は何者であるかと言う事は、何度か食事を重ねた上で、アフリカ連合艦隊指揮官のビーフンは察していた。
サムライは世界的にはよく知られているものの、当のジャポネーゼ(ジャッポ)は、実はそれほどサムライの事や武士道精神を理解していない。悲しきかなジャポネーゼ帝国の実態など、そんなものだとヒロシ・アベは語る。和食の寿司や天麩羅と言った伝統食も現代ジャポネーゼ人にとっては過去の遺産でしかない。本当に嘆かわしい事態であった。