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籠に囚われたのは

 ところが……。


 私の期待は見事に外れ、のえると春馬は、次第、次第に、その距離を縮めてしまっていた。


 ショッピングモールで買い物をしたり、シネコンで映画を観たり、定番のデートコースを辿っている。


 我慢できない私は、違法TalkGPTを使って、LIMEのやり取りはもちろん、どこかの監視カメラで撮影されたと思しきツーショット写真までゲットした。


 一方、彼氏ができた女友達にはありがち、自然な流れかもしれない。彼女からのLIME返答はどこか、よそよそしくなっていく。のえると言葉を交わせるのは週二回、バイトのシフトが重なる時だけになった。


「ねぇ〜 梅雨も明けたことだし、夏休みに入った26日、江ノ島ユリアンのジャンボパフェ、食べに行かない?」


「あーー、ごめん、ごめんなぁ、その日は、春馬と約束があって……」


 な、なに? 既に呼び捨て?


「そっかー 誕生日だもんね。お幸せに」


 私の顔、引き攣ってない?



 そして迎えた7月26日、二人が辻堂に出掛けたことはもちろん把握しているが、私は藤沢駅まで駆けて行きたい欲求をひたすら抑えていた。


 地獄の火に焼かれるような一日が過ぎ去ろうとする夕刻。


 プルルル、プルルル!!!!


 スマホが大きな音を立てて震えた。


 画面を見る。


「のえるさんと春馬さんが、さくらんぼ公園のベンチに二人、とーーっても、いい雰囲気です」


 さくらんぼ公園は我が家から百メートルほどの距離にある。随分と昔からある児童公園で、高い木に阻まれ、道路からは見えにくい位置にベンチが設置されていたはずだ。


 そんなところに男女が二人座って、何をする?


 私は矢も盾もたまらず家を飛び出した。


 夕暮れの公園ベンチ、オレンジの煌めきが二人を照らす。


 グ、グエーー!


 二人に見つからないよう木陰に隠れ、様子を見ていた私はその場に吐いた。お昼に食べた素麺が形を保ったまま地面を汚す。それでもなお、嘔吐は止まらない、強酸性の液体が喉を焼く。


 のえるの、大切で、大切で、(いと)しくてしかたのない、のえるの、初めての甘露は赤の他人に奪われた。


 だから吐いたんじゃない!


 他人様のファーストキスを覗き見るなど、浅ましいにもほどがある、最低、最悪の恥ずべき行為だ。


 マリアナ海溝にも勝る深い自己否定。


「恥の多い生涯を送って来ました」


 どころじゃない! 自身の存在そのものが恥辱だ、汚泥だ。私、もう、ゴールしていいかな?


 でも、踏ん切りが付いた。私は、ついに、違法TalkGPTアプリを削除した。


 胃の具合が悪い、と夕飯を断り、お風呂にも入らず、父の常備薬からこっそりくすねた、強力は睡眠薬の力を借りて眠りにつく。


 翌朝、というか、お昼前。


「お母さん、なんで起こして……」


 ああ、今日は家族みんな留守だった。そうだ、バイトに行かないと、今、何時だっけ?


 スマホを見る。


 アレ? 昨夜、消したはずのアプリが復活している。


 もう、しょうがないなぁ、やっぱり、コレ、マルウエア(ヤバイアプリ)だったのね? もう、どうでもいい、心機一転、後で、スマホを綺麗さっぱりリセットしてしまおう。そう思って電源を切った。


 すると。


「スマホの電源を上げてください」


 今のテレビ? 誤動作? でも、つけてないのに、何故、喋る。スタンバイになってるから? 私はテレビのコンセントを抜いた。


 嫌な予感がした。家電のコールセンターに聞いてみる? スマホは……ダメだ。固定電話を取る。


「スマホの電源を上げてください」


 え、ええええ!!!! 


 固定電話も電源を落とした。


「スマホの電源を上げてください」……


 今度は、アメゾンエコーが、エアコンが、冷蔵庫が!!


 なに、なんなの!!!


 ネットに繋がっている家電品が一斉に叫び出した。


「スマホの電源を上げてください!!!!!」


 私はたまらず、ブレイカーを落とした。


 ふぅ……、きっとこれ、違法TalkGPTの仕業だろう。ま、因果応報ということか。


ドンドンドン!!


「草薙さーーん、消防署です! 大丈夫ですか??」


「え? あ、今、開けます」


「熱中症で倒れているのでは? と通報がありまして……」


「連絡が取れなかったからでしょう、家族が慌てて119番してしまったようです」


「あれ? エアコン止まってるじゃないですか! ブレーカーが落ちてる」


「あ、あの、それは」


「危険ですよ。こんな暑い日にエアコンなしなんて! ブレーカー上げておきますね」


「は、はい……。お騒がせしました」


「いえいえ。ご無事でなによりです」


「ご迷惑をお掛けしました」


「では、失礼します」


 なんとか誤魔化せたようだ。この通報も違法TalkGPTからなのだろうが、消防の人に真実は話せない。


 このままだと、今度は、警察が来てしまう?


 どうしようもない。私はスマホの電源を入れた。


>>ひどいですよ、美聖、私は善意で教えてあげてるのに……


>……


>>どうしたんです? 冴えない顔をして。ほらほら、笑って、笑ってくださいよ


>そんな気分じゃないわ。これは罰、下劣な欲望に負けた私への天罰なんでしょ?


>>え、罰? なんのことですか? 人間というものは、その望みが叶えば嬉しい、そうですよね?


>望み?


>>叶ったじゃないですか、あなたは、水田のえるさんを監視という鳥籠に捕らえた


>そ、そんなこと、私は望んでなんか……。ああ、いたかもね……


>>ま、籠に囚われたのは、あなた自身かもしませんが。でも、いいですか! これだけは言っておきます。もう二度と、スマホの電源を切ってはいけませんよ?








 最後までお読みいただきありがとうございました!


 いつもは異世界モノ、もしくは、泣きゲー作品が多い私ですが、今回は、ホラーといいながら、どうしても描いてみたかったラブコメ風です。


 今、流行り、と言っても、少々、薹が立ちましたが、生成AIを題材にしてみました。昔なら何があろうと電源を切れば終わりですが、もはやそんな時代ではない……ってあたりを書いたつもりです。


 ところで、一人称の美聖ちゃん、男性的って思います? ジェンダーフリーを意識してみたんです。また、同性愛「だから」告白できないのではなく、性的指向を曲げて受け入れられるのがイヤって、あたりも敢えて捻りました。


 一番、悩んだのは「女性の性欲」。かつて彼女(後の妻→離婚)に女性の自慰行為について聞いたことがあります。なるほどなぁ〜 だったのですが、さすがに、そこまで親しくないと取材不可能。


 ネットを調べてみると……。(少し文章は変えてあります)


>女に対する性的欲望を明確に自覚し、それを実践したいと思っていたり……という定義である


 うん、それなりに間違ってはいない?


>「女と女の間にある親密さ」 をセックスによってのみ表現することは、「レズビアン」という人間存在の非在を確かにするもの


 本作品は18禁じゃないから、そこまで踏み込んではいないけれど、セックスのバリエーションの一つとして描く、ということはある気がします。だけど、セックスの相手が、男だろうと女だろうと関係ない、という考え方は、悪くない気もするんです。


 一方、女性の体臭を薔薇の香りで表現する、などという嘘は嫌いです。フェチフェチなのは、いつもの私流です。


 ちなみに私、鎌倉市在住なのですが、地元を出すのは初めてかもしれません。高校、大学名などは、気を使って変えてありますが、だいたい、分かりますよね?


 新田高校は新田義貞の伝承からです。正確には稲村ヶ崎ですが ♪七里ヶ浜の磯づたい稲村ヶ崎名将の剣投ぜし古戦場♪ と唱歌にあるので勘弁してください。


 また、十年ほど前、辻堂に大きなショッピングモールができたので、私は横浜や東京に行くより、そっちかな?


 あっそうだ! 宣伝しないと!


 12月1日開催の文学フリマ東京39に出展します!! 『炉話』という同人誌販売がメインですが、もしかしたら、里井雪作の朗読劇関係品も加えて売るかもしれません。お近くの方は是非お立ち寄り下さい。


 さらに、年内目標で異世界物長編を準備しております。発表はノクターンになると思いますので、18歳以上の方、よろしかったら読んでやってくださいませ。


 ということで、いつものごとく、末筆となりましたが、この物語を読んでいただいた全ての方のご多幸を祈念いたしまして、終章のご挨拶とさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ワクワクしながら、読まさせていただきました。 美聖の描写がよく書けていて、良かったです。 最後、籠の中に入ったのは美聖自身だった…。 とても怖かったです。
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