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出会い

 バイトでは先輩な私のちょっとした手抜き、だったのかな?


「じゃ、のえる、接客の練習を兼ねて、行ってきてくれる?」


 今、思えば、この一言は、とても、とーーっても軽率だった。


 左耳に銀のフープピアスをして髪を茶色に染めた、チャラメのイケメン、常連さんである火野春馬とのえるの出会いを演出してしまったのだから。


「い、いらっしゃいませ、ご、ごしゅりん、さま」


 言うなり、のえるは盛大にコップの水を春馬の膝にぶちまけた。ちょっ! 段差なんてないし、何に(つまず)いたの? 


「も、申し訳ございません」


 キッチンからタオルを奪うように取って、裾の乱れも気にせず飛び込む、私。


「だ、大丈夫。今日は蒸し暑いし、ただの水だし、全然、平気だから」


「ごめんなさい」


「いいって、いいって、アレ? 君、どこかで見たことあるような……」


「あっ、もしかして、いつも、江ノ島の駅ですれ違ってます?」


「あーー、こちら、春馬さん、上野芸大の一年生、こっちは、のえる、江ノ島女学園の二年生。実は、さぁ〜 三人とも同小(おなしょう)なのよ」


 そうなのだ、春馬は私と同じ小学校に通っていた。転校してきたのえるは知らないだろうが、この男、有名な絵の展覧会に入選したとかで、ちょっとした人気者になっていた。


 随分と雰囲気が変わってしまい、初めて店に来た時は気付かなかったが、向こうが私を覚えていたのだ。


 まぁ、そりゃそうでしょ。こう見えて、私、勉強はできる、メチャメチャできるのだ。


 絵の展覧会ごときの騒ぎではない。四年生ながら、中学入試模擬テストで県内ベストテンに入ったヤツの顔、覚えていて当然でしょ?


「頭のいい女は嫁に行けない」


 などと言う、今時、ラティメリアのような前頭葉を抱えた父のゴリ押しで、中学は女子校である江ノ島女学園に無理やり入れられた。


 でも、生きている化石への反発を糧にして、偏差値県内一、毎年、本郷大学に多数の卒業生を送り込んでいる新田高校を受験、上位合格して奨学金まで獲得した私を止められる家族は一人としていなかった。


 のえるの可愛い制服姿を毎日見ることができなくなったのは画竜点睛を欠くが、こうやってバイトに誘い、初夏の日差しに照らされ出勤、一日着込んだ制服が放つ汗とラクトンが入り混じった、甘く饐えた匂いを嗅げるだけで大満足だ。


「え、上野芸大、すごい! 私、趣味で、イラスト描いてるんです」


「へーー、いいじゃん、いいじゃん、今度、作品、見せてよ?」


「恥ずかしいですど、是非! アドバイス貰えると嬉しいです」


 って、どうした? のえる、何、コレ? 同小と分かった親しみからだろうか、彼女が積極的に男性と話すなんて、初めて見た。


 あ! そうか、絵か!


 私の最悪、最大のコンプレックスは「勉強()()できないこと」だ。数学も国語も理科もなんだってできる。テストでは満点も取れる、でも、ただそれだけ。


 一体、自分は何をしたいのか? 何をなすべきなのか? が分からない。一流大学に行って、一流企業に勤め、定年になって、無意な死を迎える。このままでは、そんな、う●こ臭漂う人間製糞機人生を送ることになってしまう。


 その点、のえる。学校の成績は中程度、イラストが好きといっても、ちょっと上手い程度で素人の域を出ていない。でも、ゲームやアニメキャラ、VTuberの造形について、熱く語るのえるは輝いて見える。だからこそ、私はのえるが好き、そして、彼女がとても眩しい。


「他のお客さんのご迷惑になるから、このお話しは、また後でね。ほら、のえる、注文、注文」


「し、失礼しました。ご主人さま、ご注文は?」


「フィッシュ&チップス風サンドとアイスティーを」


「かしこまりました」


 というような、やり取りがあって一日が過ぎた。


 夜、のえるとの定例チャット。


「ねぇ、春馬さんとはLIMEアドレス交換したの?」


 ああーー、言わずもがな、我ながら醜穢(しゅうわい)な問いかけだと知りつつも……。


「うん、今度の日曜、会うことになったよ」


「そう、よかったね……」


 パッと見、中学生にしか見えない、のえるだけれど、彼女はもう十七歳。恋のひとつやふたつ経験していても不思議ではない。だけど、彼女は私との恋話(こいばな)を避けているように思う。


 もしかしたら、私の想いを敏感に察知しているのかもしれない。


 ダメだ、もうこれ以上、春馬のことは聞けない。


「じゃあね、おやすみ」


「うん、また明日」


 ベッドの枕に顔を埋めた。微妙に香る自分臭への嫌悪感。


「大失態だ。彼女をバイトに誘わなければよかった」


 苦い後悔が私の心を蝕んでいく。


 恋の悩みを打ち明ける相手もいない私は、今流行りのテキスト生成AI・TalkGPTを相手にしてみた。


 フン! やっぱ、あんたも、ただお勉強ができるだけ。私と同んなじクズね……。アレ? ちょっと待って。


 TalkGPTは「教えられない」と言った。「知らない」とは言わなかった。


「そうか!!」


 ”TalkGPT”&”チート”、”生成AI”&”ハッキング”……、私は考えられる限りのキーワードでネット検索を繰り返した。


 もう二時間も同じ作業をやっている。


「アホらしい、もう、止めよう」


 そう思った時、検索結果の下の方にある、一文が気になった。


《TalkGPTお役立ちツール(完全無料)、お金はいただきませんが、ご利用は計画的に》


 なんじゃ、こりゃ? サラ金かい!

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