表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

海の見える街

「次は腰越、腰越、お出口は後ろ三両左側です」


「次は稲村ヶ崎、稲村ヶ崎です」




「ああ、いたいた! の・え・るちゃん、お金のために生き恥を晒す覚悟はできたのかしら?」


「生き恥って! そういう言い方やめて、ゲームのためには、メイドコスプレも厭いません、ってことなんだから」


「ま、江ノ島女子のセーラー服、胸に輝くジャンヌダルクの旗印は、車内でも目立つし、すでにコスプレしているようなもの、よね?」


()()だって、中学の時は、これ、着てたじゃない」


 水田のえる、私、草薙美聖(みさと)とは、小学校からの付き合いだ。彼女は小三の時、大阪から転校してきた。だから、時々関西弁が出る。Youあなた()()と言ってしまうのは、そのためだ。


 転校してきたばかりで、友達もいなかった彼女、最初、そう、一番に声を掛けたのは私、私だ。


 あのころは幼な過ぎてそれが何なのか? 理解できなかったけれど、彼女を見た瞬間、私は雷に撃たれた。頭上に落ちた稲妻は、恋という一億ボルトの電撃で、この身を焼いた、焼き尽くした。


 同性愛も次第に市民権を得てきた昨今、この気持ちを彼女に伝えたとして、「キモッ!」などと言われることはないだろう。そればかりか、彼女は私との友誼に免じ、友人を超えたお付き合いをしてくれるに違いない。


 もちろん、すでに高校二年生になった私にとっての「好き」は大人の好き。彼女の唇を奪いたいと思うし、童顔によく似合うセーラー服のサイドファスナーを上げて……、そんな欲望も否定することはできない。


 誰にも優しく、まるで聖母のようは彼女は、その行為すら受け入れてくれるかもしれない。


 だから! だから、イヤ、絶対、絶対、イヤなんだ!


 彼女の友情に、善意に、慈愛に付け込んで、自らの想い遂げる? いや、下劣な欲望を満たす、と言うべきだろう、そんなこと、死んでもできない。


 なぜらば……。


 私は、私は、彼女のことを全人類の中で、最高、最強に愛してやまない人だからだ。


 だったら、某アニメ・ヒロインのように「たとえ両想いになれずとも、彼女が幸せでいてくれることこそが、私にとっての一番の幸せ」なんて言うのか?


 否、断んじて否だ。自らが聖母の役割を演じることなど、無理、ぜーーったい、無理ぃぃ!


 裏と思えばまた表、私の心はメビウスの輪、どうすればいいの? 誰か、誰か、助けて!


「どうしたの、美聖、ずっと黙り込んで。和田塚過ぎたよ?」


「う、うん」


 最近の私は、ますます恋煩いが酷くなってきたきたように思う。もはや死に至る(やまい)じゃないの? ならば、いっそのこと、のえると無理心中でもしようかしら? 小動岬あたりで……。ダメ、あそこはダメ、私だけが生き残るから。


 再び、妄想に耽っていたら、江ノ電は鎌倉駅に入った。そのまま改札を出た御成通り、閉店した駄菓子屋跡地に、今春オープンした英国風メイドカフェ「ミセス・ハドソン」がある。なんでもオーナーが『シャーロック・ホームズ』好きらしく、ベーカー街221B下宿の女主人名を冠している。


 なので、制服も英国風だ。くるぶし近くまであるロング状のスタンドカラーワンピ、スカート部分はパニエでフワリと広がり、コレデモカッってくらいにフリルがあしらわれたエプロン、チョーカーではなく、リボンを結ぶ本格派のヘッドドレス、靴はエナメルのメリージェーン。


 徹底しているコスである上に、アメゾンで買ったようなペラペラ生地ではなく、裏地も付いたこのドレスは、なんと、貸与なのだ。しかも、半年以上勤めれば、そのまま貰えてしまう。


 いや、まぁ〜 だからと言って、勉強ばっかしてて、コミケなどとは縁遠い私が、これを着てどこへ行く?


「ちょっと、ちょっと、美聖、このエプロンどうやって着るの?」


「裏返して、肩紐をクロスさせて、そう、三角の真ん中に頭を入れて……」


「ああ、こう、こうかぁ〜 やっ、やだぁぁぁ!! 髪がぁ!!」


「はいはい、ブラシ、エプロンの後、結んであげるね」


「なにこれ? 歩きにくいしぃ、ちょっとぉ、美聖ぉ〜 なんや、やっぱり、メッチャ、恥ずかしいんやけど!」


「あぁーら、ドMなのえるにとって、公衆の面前に「恥ずかしい私」を晒す、恥辱は、むしろご褒美じゃないのかしら?」


「もぉ〜 やめてぇやぁ」


「ほら、ほら、あなたたち、無駄話ししてないで、お客さんよ!」


「はーーい、店長」


 時給1,500円、いいお給料貰ってるのだから、ちゃんとしないと。








夏のホラー2024参加作品、ちょっと久々の投稿となります。


里井雪を以前からお読みになっていた方には違和感があるかもですが、少し文体を変えてみました。


ある日、ある方との会話。


「ラノベって地の文、飛ばし読みされますよね?」

「そうですよねぇ〜 作者的には、苦労して表現工夫してるのに……」


そこで、最近、お仕事としてやっている朗読劇脚本を手本に、「セリフでの物語進行」を意識してみました。さらにはスピード重視、不要な情景描写を省く。


ホラーはホラーなんですが、どちらかといえば、片思いのラブストーリーかな? 気に入っていただけたのなら、21日までの四夜、20時に予約投稿しておりますので、閲読のほどよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ