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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第二章 鯨はどうして少女なのか
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第四話 電波の占有は可能なのか?

「し、死ぬかと思ったの……!」


 バレェンが泣きついてきたのは、メイドの使命を刷新(さっしん)して二世代ほどの期間――つまり第一人類基準で百年ぐらいが過ぎた頃のことでした。


「なにごとですか。というか、どうしてコアユニットの姿で?」

「メイドに身ぐるみを剥がされた、なの!」

「――は?」


 詳しく聞いてみると、こういうことでした。


 特にトラブルがなければ、わたしたち鯨のコアユニット排出は、鯨の墓場で行われます。

 同じように、メイドの出産も、鯨の墓場で行われます。

 メイドたちは墓場の鯨を解体し、地ならしをしたり、バレェンが提唱した電波中継装置を組み立てています。


 その電波中継基地の様子を、責任者のひとりとして見に行ったバレェンへ、メイドが襲いかかってきたというのです。


「そんなばかな」

「信じないとは言わせないの!」

「いえ、その見た目(コア)を見れば何かあったのは解りますが……メイドにそれほどの機動性が?」


 第二人類は、海中を歩いて回るように設計されています。

 ゆえにメイドの移動速度は、鯨と比べてどこまでも鈍重で、追いつくことなど出来ないはずなのです。


「根本的なことを忘れているなんて、エーヴィスは愚か者なの!」

「エーヴィスはかしこいですが!?」

「〝ヒレ〟をつけようと発案したのは、エーヴィスなの」

「――あ」


 なるほど。そういうことでしたか。

 メイドの作業効率の悪さを憂慮(ゆうりょ)したわたしたちは、議論の末、水中における機動性向上を図ることにしました。


 それが、クジラの胎内で生成される、水中噴進機動装置、通称〝ヒレ〟です。

 これは、メイドの足に取り付けるタイプの運動補助装置で、イカの漏斗(ろうと)を参考にしたジェット推進が取り付けられています。

 そんな便利なアイテムを、一世代前にメイドへと供給したことを、どうやら記憶領域の隅へと追いやっていたようです。


「うっかりですね」

「うっかりじゃすまないの、絶対許さないの……」

「まあまあ。つまり、現状のメイドは」

「……そう、ある程度の機動性を得た第二人類は、鯨の墓場に近づく鯨を、足りないパーツを補う材料だとみているの。これはとても危険なことなの。あいつら容赦なく装甲を引っぺがしてくるの! すごくコワい、なの!」


 力説するバレェン。体験談なのでやけにリアリティーがあります。

 事実、由々しき事態です。


 大陸再建は、鯨の墓場を中心に行います。

 なので、躯体が成熟した鯨は、必ず墓場へと行く必要があります。

 だというのに、近づけばメイドが襲ってくるとなると大変な障害です。


「抜本的に、平時は鯨の墓場へと近づかなければいいのではないでしょうか。躯体を廃棄するときなら、いくら素材を剥ぎ取られても問題はないですし」

「コアユニットまでとられたらどうするの、なの」

「……あー」


 コアユニットは、失われると取り返しの聞かない最重要機関です。

 さすがに、そこを傷つけられるような真似は困ります。


「では、こうしましょう」

「名案があるの?」

「メイドに、コアユニットを保護するよう使命を追加します。躯体とコアユニットの分離が円滑に行われるよう補助をしつつ、コアは海へと帰すように仕向けるのです」

「これはしたりなの。それなら安心なの」


 納得したように機首を振るバレェン。

 そういうことで、メイドにはコアユニットの保護を厳命しました。

 絶対に傷つけず、確保しても必ず海へと戻すようにです。


 ……しかしこれが、コアユニットを(たてまつ)る宗教に発展するとは。

 いくらわたしたちの高性能思考領域を持ってしても、優先度(じつげんせい)が低いと判断される事象だったのでした……。


§§


 さてはて。

 それから十年ほどが経過して、バレェンの計画はようやく軌道に乗りました。


「どうですか、電波中継基地のほうは?」

「ばっちりなの。鯨の墓場周辺では、限定的に通信が出来る程度になっているの。ゆくゆくは海洋全体へ中継装置を浮遊させて、あらゆる海域での通信を可能にするつもりなの」


 たいへんよき。

 どうやら万全のようですね。


「では、一度テストをしてみましょう」

「わかったの。現在、通信が可能な墓場は二カ所。エーヴィスはA地点に向かってほしいの」

「了解。では、B地点からの通信、待っています」


 280000セコンドほど後。

 わたしは、A地点に辿り着きました。

 メイドも、使命を組み替えられたことで、ほぼコアユニットであるわたしを襲ってくることはありません。


 そうこうしていると、ぴこーんと電波が入ります。


『テステス。首都は燃えているか、なの』

「音源良好。聞こえていますよ、バレェン」

『よかったの! よーし、これでようやく、通信インフラを確立するという造物主の夢が、がが、がががががががが――――――』

「なんです? よく聞こえませんが?」

『――――――』


 バレェン?

 わたしは、即座に長距離通信用の音波を打ちました。

 それからしばらく経って、バレェンから返信が届きます。

 その内容は、実に驚くべきことでした。


『電波中継基地が、何者かによって破壊されたの。思わず涙目なの』


 ……それは、つまり。


 この海にはやはり、わたしたち鯨以外の何者かがいる、という証明でした――


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