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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第二章 鯨はどうして少女なのか
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第三話 鯨の骸の再利用

 月面への定時通信とは別に、鯨同士でも会話をします。

 しかし、陸地の消失したこの惑星には、電波の中継局も、前時代に敷設されていた海中ケーブルも当然ありません。

 そのため、基本的に通信は、音波によって行われます。

 量子通話など、第一人類でも未だに実用化に至っていない夢の技術でしたから。


 さて、音波通信と言っても、種類は数多(あまた)にのぼります。

 即応可能な距離では、発声によって相互間での会話を。

 長距離では、ほぼ一歩通行になりますが、定期的に超音波を跳ばすことで連絡を行います。


 遮るもののない大洋では、音の伝達がとてもスムーズで、これがなかなかどうして悪くありません。

 方法の都合上、情報が途中で減衰することも多々ありますが、中継に入った鯨が補ってくれます。

 逆に言うと、補えないほどの減衰が起こる通信手段、超短波通信などは、ほとんど死んだ技術な訳です。

 無論、いつまでもこんな前時代的な技術、状況に甘んじているわけにはいきません。


 バレェン・ボン・ボヤージュ。


 共和国が作成を手がけた(彼女)には、その〝使命〟として『情報網の確立』が組み込まれていたのでした――



§§



「メイドに電波の中継基地を作らせたいの」


 バレェンがそんな提案を持ちかけてきたとき、わたしは調べ物をしていました。

 ジンユーがコアユニットを切り離すことに失敗した先の事件について、追加調査を行っていたのです。

 なので、バレェンがそんな音波を遠くから投げかけてきたときも、即応することをしませんでした。

 たぶん、彼女はそれを見越していたのでしょう。


「材料は、鯨の墓場からぶんどるの」


 ……想定外の言葉を、投げかけてきたのです。


「なんと言いましたか?」

「しっかり聞くの。本来は陸地に利用する鯨の躯体。そこから必要なパーツを摘出するの。そうして、メイドに組み立てさせればどうかと提案しているの」

「…………」


 どうやら、この場で即応できる話ではないようです。

 理由は、大まかにわけて二つ。

 第一に、大陸再建計画はいまだ陸地の生成段階にまで進んでおらず。

 第二に、メイドには、そのような機構も、命令も与えられてはいなかったからです。


 エーヴィスは、管理者としての責務があります。

 それはつまり、責任に伴う権限を持っている、ということでした。

 事実、わたしは鯨だけでなく、メイドにも新たな使命を与えることが可能なのです。


 これらの事由からわたしは、(じか)にバレェンと話をするべきだと判断しました。

 密接な対話の必要性を感じたからです。


 32000セコンドほど時間をかけて、わたしたちは合流。

 すでに数度のコアユニット排出を経験していたバレェンは、そのとき12メートルほどのサイズで。

 開口一番、彼女は言い放ちます。


「鯨が元素を固定し躯体を肥大化させるとき、中継基地の材料もまた躯体内で仮組みされているわけなの。これはもとより我々鯨に与えられていた機能なの」

「どうしてそれを、バレェンは知っているのですか?」


 わたしが知らないことを知っている鯨は、じつのところ多数に昇ります。

 これは、エーヴィスが間抜けだからでは断じてありません。


 制作を担当した国々が、それぞれ独自の使命を鯨に与え、秘匿(ひとく)していたからです。


 理由は……造物主たちの思考をトレースするしかありませんが、惑星環境が整ったときに起きるだろう、利権争いのためでしょう。

 貢献度が高い第一人類には、それなりの地位が用意されていると考えています。


 なので、ブラックボックスとでもいえばいいのか、造物主によって作られた不可侵領域が情報を開示するまで、わたしにとっても大陸再建計画は未知に溢れているのです。

 とはいえ、現在の知識からでも、彼女の回答は予測できました。


「マスターから、直接伺ったの」


 やはり、といったところです。

 なので問題は、どの程度メイドがこの新たなタスクを受け付けるように出来ているか、ということにつきます。

 繰り返しますが、秘匿領域(ブラックボックス)の問題で、第二人類の拡張性をエーヴィスは、完全には把握できていません。


 逆に言えば、鯨の躯体が元素の固定以外の用途を帯びているのは、わかりきっていたことでもあります。

 わたしたちが浮力剤として用いているエタノールは、どう考えても浮力剤としての用途に向いていないですし。

 このまま適当に元素を固定していても、陸地が整備されるわけでもありません。

 そんなことは、かしこいエーヴィスでなくても、とっくに皆気が付いています。


「エタノール……エア・ウォッカを例に出しますが、二酸化炭素と酸素、それから光エネルギーを用いてエタノールを作り出すように、わたしたちの躯体内部では、各種パーツが製造されていると、ここでは仮定してもよろしいですか?」

「バレェンはそれを実証できるの。とても簡単なことなの。これまで鯨の墓場に設置してきた廃棄躯体を確認すれば一発なの」


 なるほど、大変な説得力です。


「……わかりました。では試みとして、次の世代のメイド、その一部に、鯨を解体し、再利用する命令を与えましょう」

「だったら、まずはバレェンのメイドに与えるの」

「自分から、実験体を買って出るのですか?」

「それが、きっとずっと、大切なことなの」


 わたしは、16セコンドほど考え込み。

 結局、了承しました。

 ただ、このときには予想もしていなかったのです。


 新たな命令を与えられたメイドたちが――鯨狩りをはじめるなどとは。


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