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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第二章 鯨はどうして少女なのか
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第二話 その鯨に託された願いは、あくなき挑戦なのか?

 わたしたちは、なんとか脱出に成功しました。

 結果的にですが、コアユニット排出の際の問題点が大きく浮き彫りになった形です。

 まず、安全を担保すること。

 そして。


「躯体とのリンクは、ぎりぎりまで保っておくべきですわね……」


 意気消沈したように、ジンユーが反省を述べます。

 すっかりわたしと同じ大きさ――少女へ戻った彼女には、さきほどまでの尊大さ、自信のようなものが失われていました。


「あたりまえですわ。だって躯体は、海の底ですもの」

「いいのですよ、それで。どうせここら一帯、すべて埋め立てるのですから」

「それは、そうですけど……」

「では、こうしましょう。次の実験も、ジンユーにはここで行ってもらうと言うことで」

「まさか、エーヴィスあなた」


 彼女が、目を丸くして、言いました。


「名誉挽回の機会を、わたくしにくださるのかしら?」


 名誉挽回?

 それは少し違います。

 だって、


「あなたの使命は、まだまだ終わっていませんし、始まってもいないのです。だから、引き続きこの計画を、よろしくお願いしますね、ジンユー?」


 そう告げれば、彼女は目を丸くして、しばらく押し黙り。

 やがて、大きく頷いてくれました。


「まったくですわね、落ち込んでいた自分が情けないですわ。では、次のプランで会いましょう。きっと目にものをみせて差し上げますから、御期待のほどを。ではでは、再見(サイチェン)! 再見ですわー!」


 もうそこには、先ほどまでのしょぼくれていた少女はいません。

 いるのは偉大なる鯨、ジンユーです。


 失敗など些細なことだと、省みることなく何度でも繰り返し、最後には前に進めばいいと、彼女は全身で表現します。

 膨大なトライアンドエラーの末に最高の技術を手に入れた国の〝鯨〟は、大海原へと旅だちました。


 ふたたび成熟した、大人の鯨となるために。

 何度でも、このミッションへと挑むために。

 再会を誓って、わたしたちは別れたのです。


§§


 そうして、百と余年の月日が過ぎて。


「では、やり直しましょう、エーヴィス。今度は、メイドの実証ですわ!」


 ジンユーは、高らかに言い放ち、躯体を切り離します。

 コアユニットの排出は成功。強制排出プログラムも準備していましたが、今回は不要なようですね。

 そうして残された躯体からは。


「これが、メイド――海洋適応型労働力こと、第二人類ですか」


 形状はおおよそ第一人類に似て、しかし指の間に水掻きを持ち、海中での行動が可能な労働力。

 ポコポコと百体ほどの成体。

 造る、奉仕するという意味を持つ新たな人工霊長。


 第二人類メイドが、羽化したのでした。


 どうして鯨は少女の形なのか。

 それは、造物主たちに心があったからです。

 彼らの心とは、論理的な裏付けがない願掛けをすることだとわたしは定義します。


 鯨の幼体はいずれ成体となり、子どもを産む。


 だからわたしたちは――少女の姿をしている……ようでした。


「そういうことなのでしょう、A.R.V.I.S.β? しかし、ここに一つの大きな誤算がありました」


 わたしは、いつもの通り月面へと定時連絡を送りながら、思うのです。


「どうやら第二人類は、海中で自在に動き回れるような体付きを、していないようなのです」


 労働力として、これはどうにも致命的なので。


「まったく、課題の多い計画ですね」

「本当にですわ」


 わたしとジンユーは、顔を見合わせ。

 修正プランの議論を、始めたのでした。


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