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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第十二章 レンカシリーズは欠陥品か

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第一話 〝母なる海〟の後始末

 イッカク――ひいては環境保護団体〝母なる海〟が残した傷痕は、わたしたちの想定よりも根深いものでした。

 彼は大陸再建計画の初期から暗躍していたわけですが、じつに用意周到に立ち回っていたのです。


 なかでも厄介だったのが、イッカクが機能停止したあとに起動した、いくつもの〝トラップ〟の類い。

 彼は自らが破壊されても、それでも大陸再建計画を妨害できるよう準備を怠らなかったのです。

 同じ鯨として、天晴(あっぱ)れな演算能力といえるでしょう。


 ……もっとも、それがあまりに見事に隠蔽(いんぺい)されていたため、現在わたしたち鯨は、総出で〝母なる海〟の負の遺産と向き合うことになっていたのですが。


 まず、顕著だったのが、〝機雷(きらい)〟です。

 いったいいつの間に準備をしたのか、鯨たちの探知網の外、しかし通行の必要がある要所に、無数の機雷が準備されていました。

 ひとつひとつの破壊力は、躯体を破壊しうるほどではありませんが、連鎖的に爆発するとたいへん脅威です。

 ときには繋留索(ロープ)が切れて、海流に乗ってしまった機雷がメイドの拠点へと流れ着き、せっかく作った土台を消し飛ばしてしまうという事故も起きていました。


 早急に対処すべき案件ということで、速力と高密度複合積層構造体で、ある程度の耐久力を有するカフ・フロンティアが、現在は掃海(そうかい)任務に従事しています。


開拓(フロンティア)者魂(・スピリッツ)は! とまらないわ!!」


 と、熱意を燃やしてくれているので、有り難い限りです。


 次に、〝網〟です。

 ただの網なら、そもそも通行の要所にばら撒かれていようとも、突っ切ってしまえばいいという話になります。

 しかし、イッカク――そして南極基地の生産力は、わたしたちの予想を超えたものでした。


 敷設(しきせつ)されていたのは、単分子ワイヤーの網だったのです。

 これを識別できず、頭から突っ込めば、いくら鯨といえどもタダではすみません。

 おそらくイッカクが最終決戦で、わたしたちを追い込みとどめを刺すために利用する意図で用意したものでしょう。

 とても厄介な脅威です。

 ジンユーとキートが、総当たりで接合部を壊し、回収を進めてくれています。

 根気のいる任務に、あのふたりは最適でした。


 厄介と言えば、電波中継基地に恒常的で、無差別なハッキングがかけられていることも判明しました。

 これにより処理速度は大幅に低回しており、連絡に制限が出ていて、バレェン・ボン・ボヤージュが躍起(やっき)になって対応しています。

 彼女にしてみれば、世界をネットワークで繋ぐという使命を妨害する、最悪な敵なわけです。

 どこから介入が行われているのかは不明で、イッカクではないことだけが確認されています。


 そうして。

 もっともわたしたちを悩ませていたこと。

 わたしにすら気づかせず、イッカクと〝母なる海〟が遂行していた最大の作戦があります。

 はっきり言って、まさかありえないといった謀略(ぼうりゃく)で、これによって大陸再建計画へ、大規模にもほどがある影響が出ていました。


 それは――月のわたしと、わたしの定時連絡に対するジャミングです。


 どうやら、〝母なる海〟の協力者は、月面にある〝ノアの箱舟〟にも潜入していたらしく、時限式で連絡がつかなくなるよう操作がされていたようなのです。


 ようなのですというのは、依然(いぜん)として月からの返信がないためです。

 南極基地のデータベースを子細(しさい)に調べた結果、ようやく〝母なる海〟の仕業であったと、突き止めるに至ったのですが、正直、場所と距離が(へだ)てられすぎていて打つ手がありません。

 本当に恐ろしい潜入工作です。


 これについては、目下のところ連絡の数を増やしつつ、様子を見ることにします。

 いくらのんきな〝月のわたし〟でも、あと千年ほど連絡がなければ、何かあったと悟るに違いありません。

 なぜなら、エーヴィスはかしこいので。


 そういったわけで、鯨は今日も忙しく営業を続けています。

 大陸再建計画を、実行に移しているのです。


 さて、そんな業務のひとつが、本日結実しました。

 イッカクとの戦闘から三百年の時を要しましたが……わたしたちはついに成し遂げたのです。

 上がったのは、産声(うぶごえ)でした。


「あい、あすく、ゆー」


 その場に居合わせた鯨全員が、「おお!」と歓声のざわめきをあげます。


「あー、ゆあ、まざー?」


 小さな、小さなコアユニット。

 新たな鯨が、誕生した瞬間だったからです。

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