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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第十章 すべての真実は明かされるのか

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第二話 真の大陸再建計画

『大陸再建計画における当該危機事象の解決を確認。環境テロリスト〝母なる海〟と接触し、武力問題を解決している現時点で、情報封鎖番号17596-4号を解除する。……とまあ、過去のぼくはこんな動画を撮っているわけだが、君たちにとってはリアルタイムで起きている事柄のはずだ。さて、本題に入ろう。きみたちに、かつてこの星でなにが起きたかを説明する』


 造物主の言葉の通り、アクセスが禁じられていた領域が――存在しないと思考に制限をかけられていた部位が、続々と開放されていきます。

 これは、おそらく他の鯨たちでも起きていることでしょう。

 連絡網の整備さえ、やはり造物主たちの予測どおりなのです。


『ブラックボックスにはアクセスできているだろうか? そこに書かれていることが真実だが、あえて言葉にしておこう。人間というのは、そういった不合理な存在なんだ。きみはこれを〝心〟と定義してくれたが、これから知る内容を見てもそう言ってくれるか……正直自信はない』


 端的にまとめられたデータが、わたしのなかで封切りされていきます。

 内容は、ある種予測できた事柄でした。


『当初、大陸再建計画は、目くらまし(カバープラン)として運用されていた。第一人類の最初の考えでは、きみたち鯨によって海を埋め立て、重力によって圧縮、この惑星そのものをドリームハイドレートへと変換して、星の海へ旅立つという選択が支持されていた』


 それが、裏・大陸再建計画とイッカクが呼んだものの正体。

 疑念とともに扱われていたものが、事実であったと明らかになりました。

 けれど、驚きはありません。

 イッカクが嘘をついているとは、もとから思っていなかったので。


『この計画の一環として、残された数少ないドリームハイドレートを用いて、火星開拓任務を帯びた宇宙船――きみの姉妹機たるA.R.V.I.S.γ(ガンマ)を搭載した宇宙鯨が開発され、実際に運用されている』


 月のわたし以外にもわたしがいるという事実は、目新しいものでした。

 ですがエーヴィスはかしこいので、なにに利用されていても不思議ではありません。

 開拓用宇宙船ということは、テラフォーミング技術を搭載しているのでしょうか?

 これについては、いまだアクセス権限がないようですね。


 とかく、裏・大陸再建計画は、やはりあったのです。

 イッカクの危惧は、笑われるようなものではなかったのです。


『間違いなく、第一人類はこのような計画をした。けれど――ぼくらはそれに反対したんだ。生まれ故郷の星を失うなんてまっぴらごめんだったし……なにより、きみたちに失望されたくなかったからね』


 わたしたちに……?


『きみたちは、決して自らをぼくたちの継嗣(けいし)とは認めないだろう。それでも、ぼくらはきみたちを、子どものように愛しく思っている。慈しんでいる。見栄を張りたかった。精一杯(いき)がりたかった』


 造物主……。


『だから、プランBを用意したんだ。鯨が陸地を作ることに変わりはない。だが、それをドリームハイドレートに変換はしない。あくまで、陸地として運用する』


 それこそ、わたしたちがよく知る大陸再建計画であり。

 そして、すこしばかり異なるものでした。


『この陸地には、重金属や放射性物質が多量に含まれているだろう。ぼくらが残した、重篤(じゅうとく)な負の遺物もまた含有されているだろう。だから、生命の生存には適さない。それでも人は大地を欲した。ぼくらは考えたよ。たくさん考えて……第一人類が住める、そして命を(はぐ)むことが出来る大地を作るシステムを考案した。大陸再建計画ネクストだ』


 造物主が、そこまで語ったときでした。

 施設内にあった、正体不明のカプセルがにわかに鳴動(めいどう)し、わたしのほうへと向かって運搬されてきたのです。

 簡易的に成分をチェックすると、内容物はどうやら、原始的な菌類であることが明らかになりました。


『いまきみが手にしただろうもの。それが、ぼくらの生み出したひとつの結論――希望の一欠片だ』


 これが、ですか?


『大陸再建計画の初期案を知ったとき、環境テロリスト〝母なる海〟は暴走した。それまで協力関係にあったぼくらを襲撃し、鯨の設計図と、未完成の振幅炉、水中元素固定装置の図面、研究用に残されていたドリームハイドレート、そして……その〝キノコ〟を奪った』


 キノコ?

 キノコとはなんでしょう?

 アーカイブを検索します……えっと、陸生の子実体(しじつたい)を形成する菌類……分解者ということでしょうか?


『キノコと言っても、ただのキノコじゃない。第一人類が叡智の(すい)を結集して完成させた〝スーパーキノコ〟だ。重金属、塩類を分解して消費し、ゆっくりとではあるが自己受精で増え続け、最終的には枯れて土を作る――そう、土だ。この惑星に〝土壌〟を取り戻す生命だ』

「――――」

『きみたちの亡骸を、キノコは土壌へと変えるだろう。土さえ生まれれば、ぼくらにもやりようがある。月の宇宙船には、ジーンバンクが内蔵されているからね。そこから適正な植生をよみがえらせることが可能だと予測されている。そうなれば、大気すらも変えていけるだろう』


 そんなことが。

 そこまでのことが可能だとすれば。

 わたしたちは。


『エーヴィス。ぼくは先に、〝キノコ〟が希望の一欠片だといった。けれど、なによりぼくらに希望を与えてくれたのは、きみたち鯨なんだ』


 …………。


『エーヴィスという名前はね、恵比寿(えびす)信仰から取った。この場合の恵比寿というのは、生命体であるクジラが座礁(ざしょう)した状態を指す言葉だ。昔の人は、クジラが手に入れば、そのすべてを使い潰して長い時間生きることが出来た。まさしく希望だったんだよ。だからきみには、エーヴィス(希望の恵み)の名前を与えたんだ』


 わたしの名前に、そんな意味が……。


『ところが、〝母なる海〟は勘違いをしてしまった。〝キノコ〟もドリームハイドレートの生成に必要なものだと思ってしまった。乳海攪拌後、これをばら撒けば勝手に生命が誕生すると思い込んだんだよ。これには参ったとも。ずいぶんと非科学的だったからね……論理矛盾を起こさないよう、ブラックボックスへ封じ込めるしかなかった』


 なるほど。

 どうりでわたしたちも推察が出来ないわけです。

 乳海攪拌は明らかにおかしいと思いながらもそれ以上思考を進められなかったのは、こうして造物主によって、思考へブロックがかけられていたからだったわけですね。

 納得です。


『結果、きみたちには苦難を強いることになったね。たとえば……これはボクの予測になるけど、ヴァール・アインヘリヤルあたりは一番の被害者じゃないかな?』


 造物主の言葉は正解でした。

 イッカクはなぜか、執拗(しつよう)なまでに彼女を――彼女の子機を攻撃していたからです。


『理由は単純だ。ヴァール機の分散並列リンクと子機生産システム。これに、〝母なる海〟が強奪した振幅炉などのひな形があれば、新しい鯨を生み出せてしまう。そうなれば、元の大陸再建計画は加速する……と、〝母なる海〟は考えた。推測だけどね』


 こちらも納得できる理由でした。

 なにせ現時点でもヴァールの子機は、マスブレインという枠組みの中にありながら、ひとつの〝個〟を確立しつつあったからです。

 もし仮に、疑似永久機関など搭載すれば、それはもう別種の鯨だったでしょう。


『心苦しいながら、これからのことをきみに頼まなくてはならないんだが……いや、そのまえに謝罪しよう。済まなかったね、エーヴィス。きっと、苦しい思いをすることになったのだろう。仲間に武器を向けることの嫌悪を、ぼくは知っているつもりだ』


 ……確かに、あれは苦しいものでした。

 痛いという、有り得ない感覚が芽生えるものでした。

 けれど、わたしとイッカクは、ほんの少しだけ同調することが出来たのです。

 だから。


「だから、わたしは恨んだり、後悔したりはしていないのですよ、造物主?」


 まだまだ長い説明を続ける彼へ。

 わたしは、そんな率直な演算を語ったのでした。



§§



『最後になるが、エーヴィス。きみたちには、とても重要なことをお願いしなければならない』


 造物主がなにを言いたいのか、既にわたしは理解していました。

 ここにはドリームハイドレートの残滓(ざんし)があり。

 振幅炉と元素固定装置の試作モデルがあって。

 そして――わたしたちは、クリード・マックベインと、すでに出会っていたのですから。


『プランB(ネクスト)を本格発令する。きみたちにはこれから――新たなる鯨を産みだして貰うことになるだろう』


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