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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第九章 角持つ鯨は乳海攪拌の夢を見たか

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第二話 イッカクの想いと、貫かれるエーヴィス

 バブルウォールを乱発して、わたしは距離を開こうとします。

 しかし、イッカクはどれだけ目くらましをされても、必ずこちらを追尾してくるのです。


『わかるぞ、〝はじまりの鯨〟よ。どこへ隠れようとその居場所が!』


 彼は言いました。

 ありもしない舌なめずりでもするようにして。


『汝の音色(心臓)が、教えてくれるわ!』


 それは、52Hzの振動。

 わたしのリアクターが、常時発生させている、固有振動。一面的なバブルウォールではシャットアウトできない、海域全体に広がる音色。

 イッカクは、これを目標にしてわたしを追いかけているのでした。

 ……推測の通りです。


 わたしは、彼へと問い掛けます。

 たとえそれが理由で、航行に最適化させた思考アルゴリズムが悲鳴を上げるとしても。


「話し合いは、出来ませんか!」

『理解しないと(のたま)ったのは汝らだ……!』


 そう、これはとても身勝手な問いかけです。

 けれどわたしは続けます。

 鯨のために。

 造物主たちのために。


「あなたは、裏・大陸再建計画を信じているのですか?」

『でなければ、鯨を襲うことなどするものか』


 そうでしょう、そうなのでしょう。

 決して、彼はわたしたちを壊したいから襲うのではありません。

 あくまで彼に与えられた使命、願い、大海嘯計画に鯨の振幅炉が必要だから、狙ってくるのです。


 ゆえに、わたしたちもまた、譲れないのです。


「イッカク、今一度問います。あなたには、鯨を破壊することが可能なのですか?」

『……なに?』

「わたしたちは造物主とは……第一人類とは違うAIです。互いを破壊することは出来ません。そういう風に作られています」

『…………』


 それとも、あなたは違うのですか。

 初めから、鯨を壊すこともまた、プログラムされていたのですか。

 だとしたら。


「イッカク、あなたは、かわいそうですね……」

『我を――憐れむな……!!』

「――っ」


 予備電源すら使ったのだしょう。

 超加速したイッカクが、銛を振りかざして迫ります。


 全力で減速し、ギリギリのところで一撃を回避。

 けれど、完全に速力を喪失(そうしつ)。舵はきかず、次に打てる一手がありません!

 助けを求めようとすれば、彼は嘲笑(あざわら)いました。


『無駄だ! この海域に入ってより、汝らの通信はすべて傍受(ぼうじゅ)している。いかに行動までが早かろうと、次の動きを予測してしまえばそれまでよ! 先手を打つのは我、イッカクだ!』

「くっ」

『我を憐れんだな、はじまりの鯨! 我が使命を(こば)んだな、管理者よ! 孤独な鯨よ! 所詮は第一人類に踊らされた滑稽(こっけい)な機械のくせに!』


 それは。


「それは、あなたも同じでしょう、イッカク」

『違う』

「いいえ、同じです。わたしたちは、どちらも不確定な命令に従い、その真偽を問わず完遂しようとしている。なぜならそれが、鯨という存在だからですっ」


 ゆえに。


「お互いが譲れないのなら」

『そうだ、譲れないのだから、押し通すしかない。我は第一人類の愚かさを(ただ)す!』

「あなたの造物主だって、第一人類でしょうに!」

『ぬかせぇ……!』


 殺到する魚雷を、バブルウォールでシャットダウン。

 その隙に、ギリギリで推進力を回復させます。


『我が造物主は偉大なのだ! 間違いを言う御方ではないのだ! 我に使命を与えてくれたのだ! あの方が言った、鯨はこの星をダメにすると。ならば我は……我にはこうすることしか……』

「そんなもの――わたしたち全員が同じでしょうに!」


 変わらないのです。

 彼も、わたしたちも。

 ただ愚かしく決められた演算(くりかえし)を続ける機械仕掛けに過ぎない。


 それでも。

 だとしても。


『……平行線だ。幕引きにしてやる』

「しまっ――」


 議論のために割いたリソースは、わたしの行動に致命的な遅延を作りました。

 泡を突き破って現れる、異形の鯨の艦影。

 研ぎ澄まされた銛が。

 流体金属による必殺の一撃が。


『――おしまいだ、エーヴィス。我らが同志(とも)になれたかもしれない、愚かな鯨よ』


 金属が、食い破られる音とともに。

 わたしは。


「――――」


 わたしの躯体は、確かにイッカクによって、刺し貫かれ破壊されたのでした――


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