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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第九章 角持つ鯨は乳海攪拌の夢を見たか

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第一話 戦闘開始

 急速に接近するスクリュー音を探知。

 定石(じょうせき)通りの開幕魚雷です。


 これを避けるため散開する寸前、わたしは全員に向かって通信を行いました。


「予定どおり、三つの〝戦術〟をすべて使います……!」


 返ってくるのは満場一致、了承の合図。


 時を同じくして、時限式だったらしい魚雷が爆発。

 一瞬のノイズが走りますが、わたしたちは意にも介しません。


 イッカクは、どうやら明確にわたしをターゲティングしているらしく、一直線に突っ込んできます。

 しかし、その頭上から巨体が降下。


 ジンユー。

 彼女に海流をかき乱され、イッカクは方向転換を余儀なくされます。

 これを予知していたキートが、横合いから速力最大で現れイッカクへと追突。

 体格の差で、角持つ鯨を吹き飛ばします。


『――なにをした、エーヴィス! なにをした鯨ども! 貴様ら――通信と行動の(・・・・・・)起こりまでが(・・・・・・)速すぎるぞ(・・・・・)!』


 完全な連携。

 迅速な即時対応。


「イッカクのAIは学習能力に劣るのですか? まさか、わたしたちがなにもしないまま、のんきに狩られるのを待っているとでも高をくくっていたと?」


 無論、そのように悠長な思考を鯨は持ちません。

 はじめてイッカクと遭遇したときから、すべての準備は進めてきたのです。


 三つの〝戦術〟。

 そのひとつ、並列分散リンク。


 ヴァール・アインヘリヤルだけが用いた、互いの量子頭脳を結ぶ技術を、わたしたちは全員に導入しました。

 電波中継基地が近くにある前提ですが、これで誤差0.4セコンド以内での反応が可能となっています。

 つまり通信を傍受(ぼうじゅ)されたときには、既に行動は終わっているのです。


『ならば、火力で()すまで!!』


 イッカクが、大量の魚雷を射出。

 音声認識による、自動追尾式魚雷と推察。


 無論、これへの対策も出来ています。

 第二の〝戦術〟!


「みなさん!」

肯定(ヤー)

「ヨーソローなの」


 魚雷の軌道を演算。

 このままでは直撃を(まぬが)れないと判断したわたしの指示を受けて、ヴァールとバレェンを筆頭に、仲間たちは一斉に〝泡〟を放出しました。


『な――魚雷が、行き場を失う、だとっ?』


 バブルウォールシステム。

 海水中に大量の発泡剤を発生させることで、完全な吸音を成し遂げる機構です。

 これにより、音波誘導式の魚雷は、脅威ではなくなりました。


 だから――当然〝彼〟が来ます。


『エーヴィス……!!』

『イッカク……こっちですよ!』


 リアクターを全開にして迫るイッカク。

 わたしも、応じるように振幅炉を開放。


 炉心の振動(鳴き声)を放ちながら、わたしたちはジグザグの軌道を描いて海中を駆け抜けます。

 時にぶつかり、ときに攻撃をすり抜け。

 回転とともに大きく沈み込んで、減速。

 前方を突き抜けていく、絶対破壊の金属銛(HEATパイル)


 紙一重。

 本当に紙一重でイッカクの攻撃を(かわ)しながら、わたしは海面へと向かって逃げ続けます。


『だが……! 速力と機動性は、我が勝る……!』

「その、よう、ですねっ」


 銛を躱しそこね、右側の装甲がガリガリと削り取られます。

 いや、直撃すればカフであっても重傷を間逃れない一撃です。

 わたしなど、よほど当たり所がよくないと、海の藻屑となってしまうでしょう。

 ……イッカクは、手加減をしてくれるでしょうか?


『っ!』


 牽制(けんせい)として放たれる魚雷。

 攪乱(かくらん)するためにバブルウォールを形成すれば、当然噴出口を展開する関係で水の抵抗が増加、こちらの速力は低下します。

 その隙を突いて、イッカクが肉薄。

 バレルロールを描いて回避に(つと)めますが、二撃目が迫り――


「――――」


 これ以上の損壊は、躯体の瓦解(がかい)へ繋がると懸念。

 そんな警告で電子頭脳が真っ赤に染まりますが、すべてをバックタスクへと追いやり、わたしは演算を続けます。


『エーヴィス! 管理者! なぜ我を理解しない! 我が造物主の、崇高な理念を……!!』


 執拗な追跡者(ストーカー)と化したイッカクの絶叫。

 今度は打って変わって、海底へと向かってもつれ合いながら急降下していく中で放たれた言葉へ。

 わたしは、答えを返します。


「それはですね、イッカク」


 わたしが。

 わたしという鯨が。


「みなに幸福を運んで欲しいという願いによって、(つく)られたからですよ……!」


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