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鯨骨惑星群集 ~始まりの少女は52Hzの詩を運ぶ~  作者: 雪車町地蔵
第八章 第二次円卓〝鯨〟会議は、兵器の使用を許可するか

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第三話 振幅炉の直列励起と、イッカクへの結論

 振幅炉は、文字通り無限の振幅から尽きないエネルギーを汲み出す動力炉です。

 鯨の主機であるこの炉心には、しかし、わたしたちも知らない理屈と技術が使われています。

 クリードの語った共振現象もそのひとつでした。


 このリアクターは、常に一定の振動を発しています。

 わたしの場合は52Hz(ヘルツ)の歌として認知されていますが……その振動がほかの振幅炉と重なったとき、指数関数的に振動数が上昇するというのです。

 つまり。


「際限なく出力が上昇し、最後には自壊(じかい)する。その際に、強い重力源が生まれるのじゃ。これは振幅炉を(たば)ねれば束ねるほど、直列励起すればするほど強くなる。おそらくイッカクの言っているのはこれじゃろうて」


 クリードは、事もなげに言い放ちます。

 さらに重ねて。


「発電所にも、振幅炉に近い技術が使われておったのじゃろ? であれば、意図的に干渉して破壊する(すべ)もあったろう。それがイッカクの仕業ではないと、否定する材料はあるかのう?」


 彼女の言葉は、どうにも正論で。

 検討するに足る説得力を持っていました。


「儂の立場から言えるのは、生命の再生はともかく、ドリームハイドレートの生成に必要な重力源と同等のものを――海をかき混ぜる力を、イッカクは用意できるという事じゃ。乳海攪拌(にゅうかいかくはん)は、可能じゃよ」


 冷静な断言。

 提示される無数の情報。

 その確度。


 考えました。

 たくさん考えました。

 どうするのが最善か、まずだれよりも管理者であるわたしが考えました。

 そうして。


「……イッカクは、イッカクの造物主によって、偽りの情報を与えられている可能性があります」

「エーヴィス――いいえ、なんでもない」


 (いさ)めるように口を開きかけ、しかしカフはわたしの思考を読んでそのまま黙っていてくれます。

 本当によい同僚を持ったものです。

 主義主張が真っ向からぶつかり合う中で、戦うのなら自分こそが。

 そう言ってくれたのは、カフでしたから。

 わたしは首肯を返し、言い切ります。


「生命再生の可能性は、ゼロではないでしょう。この惑星に命が咲き誇ることを、あるいは第一人類も望むかも知れません。しかし、だからといって大陸再建計画への干渉を。そして大海嘯計画を認めるわけにはいかないのです。ゆえに、ここで(けつ)をとります」


 イッカクを。

 角持つ鯨を。

 鯨の仲間を。


「大陸再建計画を推し進めるために、排除すべきだと思うものは、合図をしてください」


 苦渋の決断にたいして、仲間たちは。

 彼女たちは、しばらくの沈黙の末。

 まず、キートが、泡を吐き出しました。


 それは、丸い輪っか――バブルリングとなって、水面へと向かって浮上していきます。

 丸、肯定の合図。

 他の鯨たちがそれに続き、最後にクリードも、バブルリングを放ちました。


「――全会一致。これをもって、わたしたち〝鯨〟は、イッカクを明確な敵性存在として認証し、排除するために行動します。……よろしいですね?」


 応と、みなが答えました。

 誰も望んでではなく。

 けれど、たしかな責任を負って。

 肯定したのです。


「……わかりました。では早速、対イッカク用兵器を実装しましょう。クリード、否はありませんね?」

「ここまでくれば反論する気もないわい。よかろう、もの自体は完成しておる」

「では」

「しかし、じゃ。換装にはしばしの時間が必要じゃ。それを――」


 彼女は、遠くを睨みつけながら言いました。


「やつは待ってくれるかな?」


 刹那、ヴァール・アインヘリヤルが警報を発します。


「急接近する巨大物体あり! 振幅炉の波形を照合……これは、イッカクだよ!」

「……なるほど。やられましたわね。こちらが彼への対策を立てたように、あちらもわたくしたちを一カ所に集めるための情報漏洩だった、というわけですわ」


 ジンユーが一本取られたという様子で笑い。

 全員が、一気にその場からの離脱を開始しました。


 そう、こうして。

 わたしたちとイッカクの。

 最後の戦いの火蓋が、切って落とされたのです。


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